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危ない話
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「やべえ。超可愛いじゃん」
テレビ画面を見て、思わず声が漏れた。
画面に映っていたのは同じアイドルグループのメンバー、宮原瑠偉。
グループの最年少で俺より3つ下の瑠偉は、男なのにめちゃくちゃ綺麗でかわいい。
そんな瑠偉が、俺たち『RESTA』がレギュラーを務めるバラエティー番組の中で、ゲームに負けて女性用の金髪のボブヘアーのウィッグをつけていた。
女性用だからサイズも男性用より小さいはずだけど、頭の小さい瑠偉にはぴったりで。
色白の肌に赤い唇、少し茶色がかった瞳の瑠偉に、金髪のウィッグはとても似合っていてめちゃくちゃかわいかった。
そのバラエティー番組はグループのメンバー全員が出るのではなく、5人いるメンバーの中から2人、順番に出ることになっていた。
今日の担当は瑠偉と、瑠偉の一つ上の榊英司の2人だった。
その英司も、ウィッグを着けた瑠偉に一瞬見惚れ、目を丸くしているのがわかった。
―――あー、何で今日、俺の担当じゃなかったんだろ。
その場にいられなかったことが悔しかった。
ぶっちゃけ、5人のメンバーの中で瑠偉は少し異質な存在。
ジェンダーレスな容姿も含め、いい意味で特別な存在だった。
「―――瑠偉、この名刺何?」
楽屋で、俺は瑠偉のバッグからヒラヒラと落ちてきた1枚の名刺を手に持った。
「―――え?あー、それ。こないだ、知り合いのパーティーに呼ばれた時にもらったんだよ」
「パーティー?」
「うん。知り合いの、そのまた知り合いの誕生日パーティー。世話になった人だから断れなくて」
そう言って瑠偉は困ったように笑った。
キラキラした世界で、特に瑠偉みたいに見た目も華やかだとパーティーなんて日常茶飯時だと思われがちだが、実はそんなことはないのだ。
仲間内の気軽な飲み会は大好きだけれど、パーティーのような形式ばったものは苦手だった。
そういう場では、たいてい個人としての宮原瑠偉ではなく、RESTAとしての宮原瑠偉を求められてしまうからだ。
そして、その場での対応次第でRESTAの評価が問われる事態にもなりかねない。
そういった気を使わなければいけないことが、俺たちは5人が5人とも苦手だった。
「へえ。で、この名刺の人ってどんな人?」
ちょっと気になったのは、瑠偉がその1枚だけを持っていたこと。
きっと他にも名刺を渡して来た人間はいただろう。
なのに、この1枚だけを持っていた。
どうして?
とある企業名と役職―――代表取締役とあったから、社長なのだろう―――と、男性の名前。
会社の名前も社長の名前も聞いたことのないものだったけれど・・・・・
「あー・・・・リーダーは知らないか。その人の会社、ファッションブランドをいくつも抱えてる会社でさ。その中の一つが俺の好きなブランドで・・・・・ちょっと興味ある話をしてたから、なんとなくとっといたんだ」
言いながら、俺から目をそらす瑠偉。
それが、俺のアンテナに引っかかった。
「―――その人と、何かあるの?」
俺の言葉に、瑠偉の肩がピクリと反応する。
楽屋には俺と瑠偉の2人だけ。
こういうとき、回りくどい言い方はしない方がいい。
「瑠偉」
俺は、瑠偉の腕を掴んだ。
「な―――なに?」
瑠偉は俺と目を合わせようとしない。
「何しようとしてる?」
「な―――何も・・・・・」
「隠し事するの?」
「―――んなこと・・・・・」
じっと、瑠偉の目を見つめる。
瑠偉はしばらく俯き、視線をさまよわせていたけれど。
俺が視線をそらさないことに観念したのか、溜息をついた。
「―――CMに出て欲しいって、言われたんだ」
「CM?」
本来、タレントに直接する話ではないけれど、そういったパーティーではそんなこともあるだろう。
好きなブランドなのだから、瑠偉にしてみればうれしい話のはずだが。
その顔は、なぜか浮かなかった。
「すげえ、いい条件で・・・・いい条件過ぎるって思ったんだ。でも、できるならやりたいし―――そう思ってその人の話真剣に聞いてたら・・・・」
「―――なんて言われたの?」
「CMに出たいなら・・・・・一つだけ、希望を聞いて欲しいって」
「希望?」
「うん・・・・・。その希望を聞いてくれるなら、5年間のCM契約をしてくれるって・・・・・もちろんこっちにいい条件で」
「で?その希望って、何?」
そう言われて、眉を寄せる瑠偉。
絶対おかしいじゃんか。
そんなおいしい話なら、もっと嬉しそうな顔するはずなのに。
なんだか、とても嫌な予感がした。
「―――瑠偉?」
「―――今度、2人で会って欲しいって」
「は?」
「その時に―――詳しい話をするって言われたんだ」
「それって・・・・・」
いくら俺が鈍感でも、わかる。
この世界、ストレートのやつらばかりじゃない。
大物になればなるほど、その世界にハマるものも多いって話だ。
男性アイドルがそういったやつらに狙われるのも珍しい話じゃないらしい。
瑠偉は、きれいだ。
特にそんな趣味はなくたって、瑠偉に見惚れないやつはいないだろうって思うくらいきれいだ。
瑠偉には、そんな自覚はないけれど・・・・・
「瑠偉!そんなの、絶対行っちゃダメだよ!」
俺は、瑠偉の腕を掴む手に力を込めた。
「リーダー・・・・でも・・・・・」
「CMに出たいって気持ちはわかるけどさ、でも、その話が本当かどうかだってわからないし―――だいたい、そんなことで仕事手に入れて、嬉しいの?」
俺の言葉に、瑠偉は首を振った。
「そんなつもり、ないよ。でも―――その人が言ったんだ。そのCMに、俺だけじゃなくてRESTA全員を使いたいって。一つのブランドだけじゃなくって、その会社が持ってるブランド全てのCMにRESTAに出て欲しいって・・・・。これが決まれば、RESTAにとってすごいプラスになるよ」
―――そういうことか。
相手は、RESTAのこと―――瑠偉のことを調べつくしてるんだ。
瑠偉が、自分のことよりもRESTAのことを優先するって知ってる。
「―――でも、そのために瑠偉が犠牲になること、誰も望まないよ?」
「犠牲って・・・・だって、まだ話も聞いてないのに、それがどんな話なのかわかんないじゃん」
「だけど―――」
「とにかく―――話を聞いてみるだけ、聞いてくれって言われたんだ。それで・・・・・いやなら断ってくれて構わないって」
そんなの・・・・・
俺は、溜息をついた。
瑠偉だって、100%信じてるわけじゃないくせに。
それでも、少しでもRESTAの役に立つ可能性があるのなら。
瑠偉は純粋で・・・・・
そして、頑固なんだ・・・・・。
「―――で?」
「え?」
瑠偉が、目を瞬かせる。
「会う約束、したんでしょ?いつ?」
俺の言葉に、瑠偉はちょっとためらった後―――小さな声で答えた。
「――――今日」
テレビ画面を見て、思わず声が漏れた。
画面に映っていたのは同じアイドルグループのメンバー、宮原瑠偉。
グループの最年少で俺より3つ下の瑠偉は、男なのにめちゃくちゃ綺麗でかわいい。
そんな瑠偉が、俺たち『RESTA』がレギュラーを務めるバラエティー番組の中で、ゲームに負けて女性用の金髪のボブヘアーのウィッグをつけていた。
女性用だからサイズも男性用より小さいはずだけど、頭の小さい瑠偉にはぴったりで。
色白の肌に赤い唇、少し茶色がかった瞳の瑠偉に、金髪のウィッグはとても似合っていてめちゃくちゃかわいかった。
そのバラエティー番組はグループのメンバー全員が出るのではなく、5人いるメンバーの中から2人、順番に出ることになっていた。
今日の担当は瑠偉と、瑠偉の一つ上の榊英司の2人だった。
その英司も、ウィッグを着けた瑠偉に一瞬見惚れ、目を丸くしているのがわかった。
―――あー、何で今日、俺の担当じゃなかったんだろ。
その場にいられなかったことが悔しかった。
ぶっちゃけ、5人のメンバーの中で瑠偉は少し異質な存在。
ジェンダーレスな容姿も含め、いい意味で特別な存在だった。
「―――瑠偉、この名刺何?」
楽屋で、俺は瑠偉のバッグからヒラヒラと落ちてきた1枚の名刺を手に持った。
「―――え?あー、それ。こないだ、知り合いのパーティーに呼ばれた時にもらったんだよ」
「パーティー?」
「うん。知り合いの、そのまた知り合いの誕生日パーティー。世話になった人だから断れなくて」
そう言って瑠偉は困ったように笑った。
キラキラした世界で、特に瑠偉みたいに見た目も華やかだとパーティーなんて日常茶飯時だと思われがちだが、実はそんなことはないのだ。
仲間内の気軽な飲み会は大好きだけれど、パーティーのような形式ばったものは苦手だった。
そういう場では、たいてい個人としての宮原瑠偉ではなく、RESTAとしての宮原瑠偉を求められてしまうからだ。
そして、その場での対応次第でRESTAの評価が問われる事態にもなりかねない。
そういった気を使わなければいけないことが、俺たちは5人が5人とも苦手だった。
「へえ。で、この名刺の人ってどんな人?」
ちょっと気になったのは、瑠偉がその1枚だけを持っていたこと。
きっと他にも名刺を渡して来た人間はいただろう。
なのに、この1枚だけを持っていた。
どうして?
とある企業名と役職―――代表取締役とあったから、社長なのだろう―――と、男性の名前。
会社の名前も社長の名前も聞いたことのないものだったけれど・・・・・
「あー・・・・リーダーは知らないか。その人の会社、ファッションブランドをいくつも抱えてる会社でさ。その中の一つが俺の好きなブランドで・・・・・ちょっと興味ある話をしてたから、なんとなくとっといたんだ」
言いながら、俺から目をそらす瑠偉。
それが、俺のアンテナに引っかかった。
「―――その人と、何かあるの?」
俺の言葉に、瑠偉の肩がピクリと反応する。
楽屋には俺と瑠偉の2人だけ。
こういうとき、回りくどい言い方はしない方がいい。
「瑠偉」
俺は、瑠偉の腕を掴んだ。
「な―――なに?」
瑠偉は俺と目を合わせようとしない。
「何しようとしてる?」
「な―――何も・・・・・」
「隠し事するの?」
「―――んなこと・・・・・」
じっと、瑠偉の目を見つめる。
瑠偉はしばらく俯き、視線をさまよわせていたけれど。
俺が視線をそらさないことに観念したのか、溜息をついた。
「―――CMに出て欲しいって、言われたんだ」
「CM?」
本来、タレントに直接する話ではないけれど、そういったパーティーではそんなこともあるだろう。
好きなブランドなのだから、瑠偉にしてみればうれしい話のはずだが。
その顔は、なぜか浮かなかった。
「すげえ、いい条件で・・・・いい条件過ぎるって思ったんだ。でも、できるならやりたいし―――そう思ってその人の話真剣に聞いてたら・・・・」
「―――なんて言われたの?」
「CMに出たいなら・・・・・一つだけ、希望を聞いて欲しいって」
「希望?」
「うん・・・・・。その希望を聞いてくれるなら、5年間のCM契約をしてくれるって・・・・・もちろんこっちにいい条件で」
「で?その希望って、何?」
そう言われて、眉を寄せる瑠偉。
絶対おかしいじゃんか。
そんなおいしい話なら、もっと嬉しそうな顔するはずなのに。
なんだか、とても嫌な予感がした。
「―――瑠偉?」
「―――今度、2人で会って欲しいって」
「は?」
「その時に―――詳しい話をするって言われたんだ」
「それって・・・・・」
いくら俺が鈍感でも、わかる。
この世界、ストレートのやつらばかりじゃない。
大物になればなるほど、その世界にハマるものも多いって話だ。
男性アイドルがそういったやつらに狙われるのも珍しい話じゃないらしい。
瑠偉は、きれいだ。
特にそんな趣味はなくたって、瑠偉に見惚れないやつはいないだろうって思うくらいきれいだ。
瑠偉には、そんな自覚はないけれど・・・・・
「瑠偉!そんなの、絶対行っちゃダメだよ!」
俺は、瑠偉の腕を掴む手に力を込めた。
「リーダー・・・・でも・・・・・」
「CMに出たいって気持ちはわかるけどさ、でも、その話が本当かどうかだってわからないし―――だいたい、そんなことで仕事手に入れて、嬉しいの?」
俺の言葉に、瑠偉は首を振った。
「そんなつもり、ないよ。でも―――その人が言ったんだ。そのCMに、俺だけじゃなくてRESTA全員を使いたいって。一つのブランドだけじゃなくって、その会社が持ってるブランド全てのCMにRESTAに出て欲しいって・・・・。これが決まれば、RESTAにとってすごいプラスになるよ」
―――そういうことか。
相手は、RESTAのこと―――瑠偉のことを調べつくしてるんだ。
瑠偉が、自分のことよりもRESTAのことを優先するって知ってる。
「―――でも、そのために瑠偉が犠牲になること、誰も望まないよ?」
「犠牲って・・・・だって、まだ話も聞いてないのに、それがどんな話なのかわかんないじゃん」
「だけど―――」
「とにかく―――話を聞いてみるだけ、聞いてくれって言われたんだ。それで・・・・・いやなら断ってくれて構わないって」
そんなの・・・・・
俺は、溜息をついた。
瑠偉だって、100%信じてるわけじゃないくせに。
それでも、少しでもRESTAの役に立つ可能性があるのなら。
瑠偉は純粋で・・・・・
そして、頑固なんだ・・・・・。
「―――で?」
「え?」
瑠偉が、目を瞬かせる。
「会う約束、したんでしょ?いつ?」
俺の言葉に、瑠偉はちょっとためらった後―――小さな声で答えた。
「――――今日」
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