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第31話
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「おはよう、悠太」
「わっ、びっくりした。部長、急に後ろ立たないでよ」
悠太が驚いて振り返る。
会社のエレベーターを待っていた悠太の真後ろに立った俺に、悠太はその大きな目をさらに見開いた。
―――めっちゃ可愛い。
「てか、会社では名前で呼ばないって言ってたじゃん」
「誰もいないからいいじゃん」
「いたらどうすんだよ・・・・」
困ったように眉を下げる悠太。
だってせっかく名前で呼べるようになったのに。
悠太も、渉くんって言ってくれてたのにな・・・・。
エレベーターに乗り、扉を閉める。
朝のこの時間にしては珍しく、エレベーターの中は俺と悠太の2人だけだった。
「・・・水族館、楽しかったね」
悠太が、ちょっと照れたようにそう言った。
その言葉に俺はちょっと笑った。
「悠太、楽しそうだったね」
「楽しかったもん。渉くんは楽しくなかった?」
「楽しかったよ。俺は悠太と一緒ならどこでも楽しい」
俺の言葉に悠太の頬が染まる。
こういう反応、本当にかわいいんだよな。
本人に自覚ないんだろうけど。
「―――悠太」
「え?」
俺の方を向いた悠太の唇に、ちゅっとキスをする。
突然のことに悠太の目が点になる。
次の瞬間、エレベーターの扉が開いた。
「部長、おはようございます」
エレベーターを降りると、ちょうど通りかかった女性社員が俺に挨拶をする。
「おはよ―――南、降りないのか?」
俺は、まだエレベーターの中で固まっていた悠太に声を掛けた。
「え―――あ!」
慌てて悠太が降りる。
「何してんの」
「だって、部長が!」
「俺が、何?」
にやりと笑って悠太を見ると、悠太は悔しそうに真っ赤になって俺を睨みつけた。
そんな顔しても、かわいいだけだけど。
「おじさ―――部長、悠太くん、おはよう」
「おう、和樹、おはよ」
「・・・・おはよ、イチ」
和樹が、ちらりと俺を見てから悠太に視線を移す。
「悠太くん?どうかした?顔、赤いけど」
「な、なんでもない」
プイっと和樹から顔をそらせる悠太。
それじゃ、ますます怪しい。
悠太は嘘がつけない。
そういうところも・・・・かわいい。
我慢できず、思わずにやにやしていたら和樹に想いっきり睨まれた。
―――こいつは、勘が良すぎ・・・・。
「―――おじさん」
部長室へ行くと、和樹もすぐに部屋へ入ってきた。
「おう、なんだよ、もうすぐ朝礼が―――」
「すぐ済む。悠太くんに、何したの」
「・・・・別に、何も」
「そんなわけないじゃん。悠太くん、嘘つけないんだからエレベーターで2人きりだったからって悪さすんなよ」
「・・・・お前は、なんでわかるんだよ」
「悠太くん見てりゃわかる。あの子わかりやすいんだからさ、会社で変なことすんなよな。他の社員に感づかれたらいやな思いすんのは悠太くんなんだよ」
「―――そっか。そうだよな。気を付けるわ」
これは本当。
ついかわいくってちゅーしたくなるけど、会社では我慢しないと。
悠太がいじめられるようなことになったらかわいそうだ。
俺の様子に、和樹はため息をついた。
「まったく・・・・またちゅーでもしたんだろ、エロ親父」
「うっせ・・・って、お前、なんでそんな言い方なの」
「は?何が?」
「だって・・・・なんかあんまり怒ってないじゃん」
こないだはもっと怒ってた。
俺が悠太にちゅーしたって言った時―――
「怒ってるよ。てか、呆れてるんだよ」
「・・・・違うな」
「はあ?」
「お前・・・・お前も、悠太にちゅーしたろ」
その言葉に、和樹はちょっと目を見開いた。
「悠太くんのことだと、勘がいいな」
「お前!」
「怒んないでよ。おじさんに俺を怒る資格ないでしょ」
はっきりそう言われて、俺は口をつぐんだ。
それはそうだ。
その通りだけど―――
「―――むかつく!」
「自業自得でしょ。じゃあね」
そう言って和樹は部長室を出て行った。
「わっ、びっくりした。部長、急に後ろ立たないでよ」
悠太が驚いて振り返る。
会社のエレベーターを待っていた悠太の真後ろに立った俺に、悠太はその大きな目をさらに見開いた。
―――めっちゃ可愛い。
「てか、会社では名前で呼ばないって言ってたじゃん」
「誰もいないからいいじゃん」
「いたらどうすんだよ・・・・」
困ったように眉を下げる悠太。
だってせっかく名前で呼べるようになったのに。
悠太も、渉くんって言ってくれてたのにな・・・・。
エレベーターに乗り、扉を閉める。
朝のこの時間にしては珍しく、エレベーターの中は俺と悠太の2人だけだった。
「・・・水族館、楽しかったね」
悠太が、ちょっと照れたようにそう言った。
その言葉に俺はちょっと笑った。
「悠太、楽しそうだったね」
「楽しかったもん。渉くんは楽しくなかった?」
「楽しかったよ。俺は悠太と一緒ならどこでも楽しい」
俺の言葉に悠太の頬が染まる。
こういう反応、本当にかわいいんだよな。
本人に自覚ないんだろうけど。
「―――悠太」
「え?」
俺の方を向いた悠太の唇に、ちゅっとキスをする。
突然のことに悠太の目が点になる。
次の瞬間、エレベーターの扉が開いた。
「部長、おはようございます」
エレベーターを降りると、ちょうど通りかかった女性社員が俺に挨拶をする。
「おはよ―――南、降りないのか?」
俺は、まだエレベーターの中で固まっていた悠太に声を掛けた。
「え―――あ!」
慌てて悠太が降りる。
「何してんの」
「だって、部長が!」
「俺が、何?」
にやりと笑って悠太を見ると、悠太は悔しそうに真っ赤になって俺を睨みつけた。
そんな顔しても、かわいいだけだけど。
「おじさ―――部長、悠太くん、おはよう」
「おう、和樹、おはよ」
「・・・・おはよ、イチ」
和樹が、ちらりと俺を見てから悠太に視線を移す。
「悠太くん?どうかした?顔、赤いけど」
「な、なんでもない」
プイっと和樹から顔をそらせる悠太。
それじゃ、ますます怪しい。
悠太は嘘がつけない。
そういうところも・・・・かわいい。
我慢できず、思わずにやにやしていたら和樹に想いっきり睨まれた。
―――こいつは、勘が良すぎ・・・・。
「―――おじさん」
部長室へ行くと、和樹もすぐに部屋へ入ってきた。
「おう、なんだよ、もうすぐ朝礼が―――」
「すぐ済む。悠太くんに、何したの」
「・・・・別に、何も」
「そんなわけないじゃん。悠太くん、嘘つけないんだからエレベーターで2人きりだったからって悪さすんなよ」
「・・・・お前は、なんでわかるんだよ」
「悠太くん見てりゃわかる。あの子わかりやすいんだからさ、会社で変なことすんなよな。他の社員に感づかれたらいやな思いすんのは悠太くんなんだよ」
「―――そっか。そうだよな。気を付けるわ」
これは本当。
ついかわいくってちゅーしたくなるけど、会社では我慢しないと。
悠太がいじめられるようなことになったらかわいそうだ。
俺の様子に、和樹はため息をついた。
「まったく・・・・またちゅーでもしたんだろ、エロ親父」
「うっせ・・・って、お前、なんでそんな言い方なの」
「は?何が?」
「だって・・・・なんかあんまり怒ってないじゃん」
こないだはもっと怒ってた。
俺が悠太にちゅーしたって言った時―――
「怒ってるよ。てか、呆れてるんだよ」
「・・・・違うな」
「はあ?」
「お前・・・・お前も、悠太にちゅーしたろ」
その言葉に、和樹はちょっと目を見開いた。
「悠太くんのことだと、勘がいいな」
「お前!」
「怒んないでよ。おじさんに俺を怒る資格ないでしょ」
はっきりそう言われて、俺は口をつぐんだ。
それはそうだ。
その通りだけど―――
「―――むかつく!」
「自業自得でしょ。じゃあね」
そう言って和樹は部長室を出て行った。
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