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第10話

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「課長、飲んでます?何か食べ物取りましょうか?」

前の席に座っていた南がニコッと笑ってそう言った。

―――かわいい。

その笑顔に危うく見惚れそうになって、返事が一瞬遅れる。

「あ、ああ、大丈夫」

「唐揚げとか、よかったら取りますよ?」

「あ、じゃあ、頼むよ」

俺が答えると、南は頷いて小皿に唐揚げを取ってくれた。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

別に、自分で取れないわけじゃない。

だけど南が取ってくれると言うならそれに甘えても罰は当たらないだろう。

「南、俺にも取ってよ」

南の隣に座っていた渉くんが言った。

「部長、自分で取れるくせに」

南がくすくすと笑うと渉くんは口を尖らせた。

「いいじゃん」

まったく、この人は・・・・

南がかいがいしく他の社員に食べ物を取り分けてる様子を見て、羨ましかったんだろう。

店に入るや否や、南の隣の席を確保した渉くん。

そういうとこ、抜け目ないんだよなあ。

「―――っと」

南に気を取られて、箸を落としてしまった。

テーブルの下に落ちしてしまった箸を拾おうと、俺は体をかがめてテーブルの下へ―――

―――へ?

その時俺の目に飛び込んできたのは

南の手を握る、渉くんの、手―――




「課長、大丈夫ですか?」

椅子に座り直すと、南がそれに気づいて言った。

「ああ、ちょっと箸を落としちまって」

「あ、じゃあ新しいの持ってきますよ。その箸、ください」

ニコッと笑って俺に手を差し出す南。

言われるまま、俺は持っていた箸を南の手に預けた。




南がカウンターの方へ行ってしまうと、俺は渉くんをちらりと睨んだ。

渉くんがそれに気づいて俺を見る。

「何?たっちゃ―――課長」

「・・・部長、ちょっと一服しませんか?」

そう言って笑って見せると、渉くんはちょっとぎくりとしたように顔をひきつらせたのだった・・・・。




「どういうつもり?」

「何が?」

店の外に連れ出し渉くんにそう聞くと、渉くんはちょっと気まずそうにタバコに火をつけ、肩を揺らした。

「南の手、握ってたでしょ、渉くん」

「・・・・見てたん」

「見えたんだよ。全く、あんなとこで手なんか握って!他の社員に見られたらどうすんの!」

「だって、せっかく南の隣に座ったのに、あいつ店の手伝いしたり食べ物取り分けるのに立ち上がったり、全然じっとしてねえんだもん。だから、手ぇ握ったらおとなしくなるかなって」

「まったく・・・。ちょっとは時と場所を考えてよ。南だって困ってたじゃん、あんなとこで振り払うわけにもいかないから」

「・・・・困ってたかな」

「・・・・困ってたよ、絶対」

「たっちゃんの思い込みじゃないの」

「何それ」

「・・・・俺、気付いてるよ」

「・・・・は?」

「たっちゃんも好きなんだろ?南のこと」

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