Angel tears

まつも☆きらら

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第16話

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ムウが好きだ。


男だけど、今まで付き合ったどんな女性より―――まぁ、別にそんなにたくさんの女性と付き合ってきたわけじゃないけど―――愛しい。


こんなに誰かを好きになったのは初めてだった。


何度もキスをして、何度も告白して、何度も愛して―――


それでも足りないと思うのは、どうしてだろう・・・・。


ムウを抱きしめ、何度もキスをしながら、俺は言いようのない不安に襲われていた。


愛し合っている時はあんなに幸せを感じていたのに・・・・・


漠然とした不安。


ムウは―――たぶん、男に抱かれるのは初めてじゃない。


それ自体を、責める気はなかった。


俺だって相手は女だけれどエッチは初めてじゃないし。


だけど、気になるのは・・・・


『愛してる』と言葉にするたびに、ムウは嬉しそうに笑ってくれるけれど、同時にせつなげな顔をする。


枕元には、ムウの流した水晶の涙の粒。




―――『リロイ・・・・ごめんね・・・・』




ムウが眠りに落ちる前、そう呟いたのを俺は聞き逃さなかった。


―――なんで、謝る?


―――なんで、泣く?


リロイは、兄貴だって言ってた。


でもリロイの話をするとき、ムウはいつもせつなげな顔をする。


まさか。


一瞬、頭をもたげた疑惑。


でもまさか。


兄弟なのに・・・・


兄弟なのに、愛し合うとか、天使ならあり得るのだろうか・・・・・?


ムウのあどけない寝顔を見つめながら、俺はその不安を拭いたくて、ムウの体を抱きしめながら眠りについたのだった・・・・・。






微かに自分の顔に風が当たるのを感じて、俺は目を覚ました。


目の前に、白い翼。


「―――ムウ?」


俺の声に、ムウが振り返った。


「あ、ごめん、起こしちゃった?」


「いいけど・・・・どうした?」


「うん、ちょっとまた天国に行ってこようと思って。水晶持ってくるよ」


「え・・・・また行くの?」


ドクンと、心臓が音をたてた。


「水晶なら、まだいいんじゃない?そんなにお金に困ってないし・・・」


「うん、でも・・・・リロイも、心配するし。ときどきは会いに行かないと」


―――リロイ・・・・・


「―――いつ帰ってくるの?また3日くらいかかる?」


天国とこちらの世界では時間の進み方が違うと言っていた。


「そうだね。こないだも、向こうには半日もいなかったのに帰ってくるのに3日かかったから、たぶん今回もそれくらいだと思うよ。なるべく早く帰ってくるけど―――」


「絶対―――!」


俺は、思わずムウの腕を力強く掴んでいた。


ムウが、驚いて俺を見る。


「絶対・・・帰ってくるよな?」


ムウの気持ちを疑ってるわけじゃない。


ムウが、嘘をつくなんて思えない。


だけど―――


ムウは、ちょっと目を瞬かせたあと、ふっと笑った。


「あたりまえじゃん。ちゃんと帰ってくるよ」


明るく笑うムウに、ほっとする。


「―――ムウ」


「ん?」


「帰ってきたら・・・・デートしよう」


「デート・・・・?」


「うん。ムウが行ってみたいとこ、どこでもいいよ。2人で、いこ」


「ほんと!?超嬉しい!俺ね、動物園行ってみたい。あと、海も」


「うん、全部行こう、2人で」


「うん!」


ムウの嬉しそうな笑顔を見て、俺はようやく安心したのだった・・・・・。






「明来ちゃ~ん・・・・って、あれ?ムウちゃんいないの?」


俺がベランダで1人空を見上げていると、諒がアトリエに入ってきた。


「何1人でたそがれてんの?寒くない?俺コーヒー飲みたいな」


「・・・・・・はいはい」


俺は仕方なくのそのそと部屋に戻り、キッチンへと向かったのだった。






「へ~、ムウちゃんまた天国帰っちゃったんだ。じゃあ3日は戻ってこないってこと?だから明来ちゃん元気ないんだ?」


リビングで2人コーヒーを飲みながら、俺は諒をちらりと横目で見た。


「別に・・・・俺は元気だよ」


「うっそだぁ。わかりやすく落ち込んでるじゃん。でも3日の我慢だよ!元気だしなって!」


「・・・・あのさ、諒は、リロイのこと・・・知ってるよね」


「リロイ?ムウちゃんのお兄さんでしょ?会ったことはないけど」


「そりゃ俺もないよ。その時にさ、ムウが泣いたって言ってたじゃん」


「え?―――ああ、あの居酒屋さんでね、ムウちゃん酔っぱらっちゃって・・・・なんか急に、『リロイごめんね』とか言って、涙流したんだよね。あれびっくりしたなあ。喧嘩でもしたのかなって思ってさ。でも、また天国に行ったってことはもう仲直りしたんじゃないの?」


「喧嘩・・・・とかなのかなぁ」


「何?どういうこと?」


「なんかさ・・・・2人って本当に兄弟なのかなって・・・・」


「え?だってムウちゃんがリロイはお兄さんだって―――」


「そうだけど、なんか、ムウがリロイのこと話すときって、なんかこう・・・・まるで好きな人のこと話してるみたいな・・・・・だって、リロイの名前呼びながら涙流したりとか、普通兄弟でしなくない?」


俺の言葉に、諒はしばし天井を見上げ考え込んだ。


「まぁ・・・・確かにね。不自然ていえば不自然か・・・・なぁ?」


「でしょ?不自然でしょ?」


思わず身を乗り出した俺に、諒が一瞬身を引く。


「いや、けどさ、だったら明来ちゃんはどうだっていうの?」


「え・・・・俺?」


「ムウちゃんが、リロイとそういう関係?だとしてさ、明来ちゃんはそれ、気に入らないわけ?それはムウちゃんが好きだから?」


「え・・・・いや・・・・まぁ・・・・・」


「やっぱり好きなんだ!俺ね、そうだと思ってたんだよ!奈央も言ってたよ。あの人は完全にムウちゃんに堕ちてるって!」


「堕ちてるって、なんだよ」


「でね、2人で言ってたの!男同志でも応援しようねって。だってムウちゃんて可愛いしさ、ムウちゃんといる時の明来ちゃん幸せそうだしさ、お似合いだもん」


「俺・・・幸せそう?」


「うん、超楽しそうだし。もうさ、ムウちゃんにメロメロって感じだもん」


メロメロ・・・・俺、そんなにわかりやすいのか・・・・。


「でもさ、ムウちゃんだって明来ちゃんのことが好きだと思うよ?」


「え・・・・」


「もし、リロイのことが好きだったとしてもさ、今はきっと大ちゃんのことが好きになってると思うよ」


「そうかな・・・・・」


確かに、ムウは俺のことを好きだって言ってくれたけど・・・・。


「それに・・・・涙を流すってことは、悲しいことがあったってことなんじゃないの?」


諒の言葉に、俺は顔を上げた。


「もし、リロイとの恋が悲しい恋だとしたら・・・・明来ちゃんが、ムウちゃんを助けてあげればいいんじゃない?」


―――俺が・・・・助ける・・・・?


「好きなんでしょ?ムウちゃんのこと。だったらさ、ムウちゃんが悲しまないようにしてあげてよ。きっと、それをできるのって明来ちゃんだけだと思うよ?」


にっこりと、優しく笑う諒に、俺のもやもやした気持ちが徐々に晴れて行くような気がした。


「うん・・・・ありがとう、諒」




ムウが、好きだから。


俺が、ムウを守りたい。


ムウが悲しまないように。


ムウが、悲しい涙を流さないように・・・・。
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