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危険信号、再び
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「今日、A組プールの日じゃん」
ふと、そんな声が聞こえた。
「お、そうだ!見に行く?」
「授業始まるまであと何分?」
「10分ある!」
「よし、行こう!」
5時間目が始まる10分前。
昼休みが終わる前に数人の男どもが慌てて教室を出ていく。
俺も急いでその後を追った。
別にあいつらのように女子の水着姿に興味があるわけじゃない。
ただ、A組には梨夢くんがいる。
あいつら、梨夢くんの水着姿写真に撮ったりしねえだろうな。
今時、リアルタイムでネットに流せるからな。
絶対そんな事させらんねえ。
3階の端まで走り、非常階段へと出る。
その踊り場から、ちょうどプールが見下ろせるのだ。
もちろん非常階段自体出るのは禁止されているから、みんな見つからないように身をかがめこっそり見ているのだ。
「あ、西野だ。あいつ結構スタイルいいよな」
「秋山も見えるぜ。やっぱ秋山だろ」
「なあ、有原って急に背ぇ伸びたよなあ」
「なんでお前男見てんだよ」
「いやだって見てみろよ。女子より色白いしめっちゃ腰細くね?」
「確かに、スタイルいいっていうか・・・なんかあの曲線がエロいよなあ」
「有原も撮っとく?結構バズるかも―――」
「お前ら、何やってんの?」
俺が声をかけると、男どもがはじかれたように立ち上がって振りむいた。
「あ・・・有原、お、お前も見に来たのか?」
「―――何撮ってんの?」
「と、撮ってねえよ?俺らはちょっと見てただけで―――」
「ふーん?」
「お、俺らもう行くから・・・・」
「じゃ、じゃあな」
そそくさと走り去るやつらを見送って・・・・
俺はほっと息をついた。
まだスマホで撮る前だったから大丈夫だろう。
まったく油断も隙もない・・・・
そう思いながら、プールの方を振り返る。
女の子よりも白い梨夢くんの上半身が、水しぶきを浴びてキラキラ光って見えた。
梨夢くんは渋木と水をかけ合いながら、楽しそうにふざけ合っている。
―――あいつも、油断できねえな。
そう思いながらも、同じクラスだから仕方ないとあきらめて戻ろうとして―――
ふと、何かが目に入り俺はもう一度プールを見た。
体育教師が、プールサイドで生徒たちがプールではしゃいでいるのを見ていた。
今日は、夏休み前のプール最終日。
授業時間前にすでに生徒たちはプールに入って遊んでいる。
その体育教師が、上に羽織ったジャージのポケットからスマホを出していた。
ただちらちらと画面を見ているだけのようにも見えるが・・・・
そのスマホが、梨夢くんの方へ向けられているような気がした。
胸がざわざわした。
俺の、梨夢くんにだけ反応するアンテナの性能はピカ一なんだ。
―――あいつ、まさか・・・・
俺は急いでその場を後にし、3年の教室へと向かった。
「それほんとなの、周」
慎が珍しく本気で怒っているのがわかった。
ここは生徒会室。
もう午後の授業が始まっているけれど、今日中に何とかしたくてまず3年の教室に行って廉くんを連れ出した。
俺の顔を見てただ事じゃないと思ったのか、廉くんは慎も連れ出し、3人でここへ来たのだった。
もちろん先生へは廉くんがうまく言ってくれた。
こういう時は生徒会長の信頼がものを言う。
「画面までは見えなかったけど、あれは絶対梨夢くん撮ってた。あんなの、すぐに削除させないと」
俺の言葉に、廉くんが顎を撫でた。
「こういう時の周の勘はあてになる。けど・・・どうやって削除させる?正面から言ってもしらばっくれられるし逆にこっちが責められかねない。証拠はないからな」
「じゃあ、どうする?」
「俺が職員室行って、こっそりあいつのスマホ取ってくるとか」
気配を消してそっと人に忍び寄ったり、気付かれないように動くのは得意だ。
食事の時、嫌いなものをこっそり慎の皿に乗せたり、逆に好きなものを護の皿から取ったりしてもばれたことがない。
「それじゃ、ばれたときお前が悪者になるだろ?弟にそんな事させられないよ」
廉くんが苦笑して俺の頭を撫でた。
「それに、スマホだけ奪ったところであいつもロックぐらいかけてるだろ。それを解除させないと」
「そうだね」
俺もそれには頷くしかない。
さて、どうするか・・・・
「―――いい考えがあるんだけど」
「「「!!!???」」」
突然後ろから声が聞こえ、俺たちは驚いて振り向いた。
「梨夢!?」
廉くんが大声を出してから、慌てて口を押えた。
「え・・・梨夢、いつからそこに?」
慎も驚いて座っていた椅子をガタンと音を立てて立ち上がった。
「体育の授業中じゃないの?」
俺の声も上ずる。
だって、さっきは確かにプールにいたのに。
慌てる俺たちを見て、梨夢くんが肩をすくめた。
「和也が、非常階段に周がいたって言ってて」
「あ・・・あいつ、気付いてたのか」
「何か、先生のこと睨んでたって言ってて、したら西野さんが俺にこっそり耳打ちしてきて」
「西野さんて、梨夢に告白してた子だ」
慎が珍しく記憶力を発揮して梨夢くんに睨まれた。
「先生が、スマホを俺に向けてたって。動画撮ってたんじゃないかって言われて」
「やっぱり・・・」
「だから、きっと周が気付いて廉くんたちに言うんじゃないかと思ったから、お腹痛いから保健室行ってきますって言って抜けてきた。で、3人がこっそり集まるとしたらここしかないと思って」
―――梨夢くんは、時々すごく勘がよくて俺たちを出し抜くようなことをする。
「・・・で、梨夢、いい考えって?」
廉くんが、梨夢くんに椅子を出しながらそう聞いた。
「ありがと。えっとさ、あの久保田先生って、たぶん俺のこと好きなんでしょ?」
「梨夢、気付いてたの?あいつに何か言われた?」
慎の言葉に、梨夢はちょっと眉をひそめて口を尖らせた。
「そりゃ・・・体育の時間、毎回準備運動の時さりげなく横通る振りして何度も体触ったりされれば、俺でも気づくよ」
「は!?触った!?」
廉くんがガタンと音を立てて立ち上がり、声を荒げた。
声は出さなかったけれど、慎の顔も強張っている。
もちろん俺だって怒ってる。
でも、俺は自分にも腹を立ててた。
体育の時間、毎回だって?
梨夢くんがそんな目に合ってることに、俺は気付いてなかった・・・・。
「周、クラスが違うんだから周が気付かないのは当たり前だよ。同じクラスの和也だって気づかなかったんだから」
梨夢くんが、俺が膝の上の拳をぎゅっと握りしめたのを見て、優しく笑った。
わかってる。
梨夢くんは、俺に心配かけないように・・・・
「そんなこといいから、俺の考えを―――」
梨夢くんが言いかけるのを、廉くんが遮る。
「よくないだろ!梨夢、なんで今まで―――」
「それは、心配かけたくなかったから。美術の岡田先生のこともあるし―――」
「だからなおさら、そういうことがあったら言えって―――」
「廉くん、とにかくちょっと俺の話、聞いて!」
興奮して顔を赤くする廉くんの手を、梨夢くんが握って立ち上がった。
「お願い、廉くん。そのことは後でちゃんと話すから・・・今は俺の話、聞いて」
真剣な梨夢くんの目を見て―――
廉くんは大きくため息をつくと、また椅子にドカッと座った。
「・・・・わかった」
「ありがと・・・。俺も、さすがにこれ以上あいつに好き勝手されたくないから・・・・ちゃんと考えたんだ」
「好き勝手なんて、俺らが絶対させないよ」
慎が、真剣な面持ちでそう言った。
「うん。わかってる。でも、さっきみんなが話してた通り、あいつのスマホだけあってもロックが解除できないとどうにもできないと思うんだ」
梨夢くんの言葉に俺たちはうなずいた。
「だから、考えたんだ。あいつが俺のこと好きなんだったら―――」
―――ちょっと・・・いや、だいぶ嫌な予感がするんだけど・・・・・
「俺が、あいつを誘惑するっていうのはどお?」
ふと、そんな声が聞こえた。
「お、そうだ!見に行く?」
「授業始まるまであと何分?」
「10分ある!」
「よし、行こう!」
5時間目が始まる10分前。
昼休みが終わる前に数人の男どもが慌てて教室を出ていく。
俺も急いでその後を追った。
別にあいつらのように女子の水着姿に興味があるわけじゃない。
ただ、A組には梨夢くんがいる。
あいつら、梨夢くんの水着姿写真に撮ったりしねえだろうな。
今時、リアルタイムでネットに流せるからな。
絶対そんな事させらんねえ。
3階の端まで走り、非常階段へと出る。
その踊り場から、ちょうどプールが見下ろせるのだ。
もちろん非常階段自体出るのは禁止されているから、みんな見つからないように身をかがめこっそり見ているのだ。
「あ、西野だ。あいつ結構スタイルいいよな」
「秋山も見えるぜ。やっぱ秋山だろ」
「なあ、有原って急に背ぇ伸びたよなあ」
「なんでお前男見てんだよ」
「いやだって見てみろよ。女子より色白いしめっちゃ腰細くね?」
「確かに、スタイルいいっていうか・・・なんかあの曲線がエロいよなあ」
「有原も撮っとく?結構バズるかも―――」
「お前ら、何やってんの?」
俺が声をかけると、男どもがはじかれたように立ち上がって振りむいた。
「あ・・・有原、お、お前も見に来たのか?」
「―――何撮ってんの?」
「と、撮ってねえよ?俺らはちょっと見てただけで―――」
「ふーん?」
「お、俺らもう行くから・・・・」
「じゃ、じゃあな」
そそくさと走り去るやつらを見送って・・・・
俺はほっと息をついた。
まだスマホで撮る前だったから大丈夫だろう。
まったく油断も隙もない・・・・
そう思いながら、プールの方を振り返る。
女の子よりも白い梨夢くんの上半身が、水しぶきを浴びてキラキラ光って見えた。
梨夢くんは渋木と水をかけ合いながら、楽しそうにふざけ合っている。
―――あいつも、油断できねえな。
そう思いながらも、同じクラスだから仕方ないとあきらめて戻ろうとして―――
ふと、何かが目に入り俺はもう一度プールを見た。
体育教師が、プールサイドで生徒たちがプールではしゃいでいるのを見ていた。
今日は、夏休み前のプール最終日。
授業時間前にすでに生徒たちはプールに入って遊んでいる。
その体育教師が、上に羽織ったジャージのポケットからスマホを出していた。
ただちらちらと画面を見ているだけのようにも見えるが・・・・
そのスマホが、梨夢くんの方へ向けられているような気がした。
胸がざわざわした。
俺の、梨夢くんにだけ反応するアンテナの性能はピカ一なんだ。
―――あいつ、まさか・・・・
俺は急いでその場を後にし、3年の教室へと向かった。
「それほんとなの、周」
慎が珍しく本気で怒っているのがわかった。
ここは生徒会室。
もう午後の授業が始まっているけれど、今日中に何とかしたくてまず3年の教室に行って廉くんを連れ出した。
俺の顔を見てただ事じゃないと思ったのか、廉くんは慎も連れ出し、3人でここへ来たのだった。
もちろん先生へは廉くんがうまく言ってくれた。
こういう時は生徒会長の信頼がものを言う。
「画面までは見えなかったけど、あれは絶対梨夢くん撮ってた。あんなの、すぐに削除させないと」
俺の言葉に、廉くんが顎を撫でた。
「こういう時の周の勘はあてになる。けど・・・どうやって削除させる?正面から言ってもしらばっくれられるし逆にこっちが責められかねない。証拠はないからな」
「じゃあ、どうする?」
「俺が職員室行って、こっそりあいつのスマホ取ってくるとか」
気配を消してそっと人に忍び寄ったり、気付かれないように動くのは得意だ。
食事の時、嫌いなものをこっそり慎の皿に乗せたり、逆に好きなものを護の皿から取ったりしてもばれたことがない。
「それじゃ、ばれたときお前が悪者になるだろ?弟にそんな事させられないよ」
廉くんが苦笑して俺の頭を撫でた。
「それに、スマホだけ奪ったところであいつもロックぐらいかけてるだろ。それを解除させないと」
「そうだね」
俺もそれには頷くしかない。
さて、どうするか・・・・
「―――いい考えがあるんだけど」
「「「!!!???」」」
突然後ろから声が聞こえ、俺たちは驚いて振り向いた。
「梨夢!?」
廉くんが大声を出してから、慌てて口を押えた。
「え・・・梨夢、いつからそこに?」
慎も驚いて座っていた椅子をガタンと音を立てて立ち上がった。
「体育の授業中じゃないの?」
俺の声も上ずる。
だって、さっきは確かにプールにいたのに。
慌てる俺たちを見て、梨夢くんが肩をすくめた。
「和也が、非常階段に周がいたって言ってて」
「あ・・・あいつ、気付いてたのか」
「何か、先生のこと睨んでたって言ってて、したら西野さんが俺にこっそり耳打ちしてきて」
「西野さんて、梨夢に告白してた子だ」
慎が珍しく記憶力を発揮して梨夢くんに睨まれた。
「先生が、スマホを俺に向けてたって。動画撮ってたんじゃないかって言われて」
「やっぱり・・・」
「だから、きっと周が気付いて廉くんたちに言うんじゃないかと思ったから、お腹痛いから保健室行ってきますって言って抜けてきた。で、3人がこっそり集まるとしたらここしかないと思って」
―――梨夢くんは、時々すごく勘がよくて俺たちを出し抜くようなことをする。
「・・・で、梨夢、いい考えって?」
廉くんが、梨夢くんに椅子を出しながらそう聞いた。
「ありがと。えっとさ、あの久保田先生って、たぶん俺のこと好きなんでしょ?」
「梨夢、気付いてたの?あいつに何か言われた?」
慎の言葉に、梨夢はちょっと眉をひそめて口を尖らせた。
「そりゃ・・・体育の時間、毎回準備運動の時さりげなく横通る振りして何度も体触ったりされれば、俺でも気づくよ」
「は!?触った!?」
廉くんがガタンと音を立てて立ち上がり、声を荒げた。
声は出さなかったけれど、慎の顔も強張っている。
もちろん俺だって怒ってる。
でも、俺は自分にも腹を立ててた。
体育の時間、毎回だって?
梨夢くんがそんな目に合ってることに、俺は気付いてなかった・・・・。
「周、クラスが違うんだから周が気付かないのは当たり前だよ。同じクラスの和也だって気づかなかったんだから」
梨夢くんが、俺が膝の上の拳をぎゅっと握りしめたのを見て、優しく笑った。
わかってる。
梨夢くんは、俺に心配かけないように・・・・
「そんなこといいから、俺の考えを―――」
梨夢くんが言いかけるのを、廉くんが遮る。
「よくないだろ!梨夢、なんで今まで―――」
「それは、心配かけたくなかったから。美術の岡田先生のこともあるし―――」
「だからなおさら、そういうことがあったら言えって―――」
「廉くん、とにかくちょっと俺の話、聞いて!」
興奮して顔を赤くする廉くんの手を、梨夢くんが握って立ち上がった。
「お願い、廉くん。そのことは後でちゃんと話すから・・・今は俺の話、聞いて」
真剣な梨夢くんの目を見て―――
廉くんは大きくため息をつくと、また椅子にドカッと座った。
「・・・・わかった」
「ありがと・・・。俺も、さすがにこれ以上あいつに好き勝手されたくないから・・・・ちゃんと考えたんだ」
「好き勝手なんて、俺らが絶対させないよ」
慎が、真剣な面持ちでそう言った。
「うん。わかってる。でも、さっきみんなが話してた通り、あいつのスマホだけあってもロックが解除できないとどうにもできないと思うんだ」
梨夢くんの言葉に俺たちはうなずいた。
「だから、考えたんだ。あいつが俺のこと好きなんだったら―――」
―――ちょっと・・・いや、だいぶ嫌な予感がするんだけど・・・・・
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