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「り~む」
廊下から聞こえてきた声に、俺は足を止めた。
生徒会室に向かう為に上っていた階段を降り、声の聞こえてきた廊下を見た。
少し離れた所に、後ろを振り向き止まっている梨夢が見えた。
そして、梨夢に向かって走ってくる男。
―――あれは確か、渋木和也とかいうやつだな・・・。
今梨夢とクラスで一番仲がいいやつだと、周が言っていた。
「なぁ、今日部活ないだろ?遊ぼうぜ」
「テスト前だろ?勉強しないと」
梨夢の言葉に、渋木は顔をしかめた。
「お前って真面目だよなぁ。いいじゃん、いつも部活で遊べないんだし、たまには」
「ダメだって。俺、周と勉強する約束してるし」
その言葉に、渋木はむっとした。
「またかよ・・・お前らってあやしいくらい仲いいよな」
「あやしい?」
「本当の兄弟じゃないんだろ?2人きりで本当は何してんの?いやらしいこととかしてるんじゃないの?」
梨夢の顔色がサッと青ざめる。
「―――もう一回言ってみろよ」
「だから、あいつにいやらしいことされてるんじゃ―――」
「―――周をバカにすんな!!」
梨夢が、渋木に殴りかかろうと腕を振り上げた。
「―――梨夢!!」
俺は咄嗟に梨夢に駆け寄ると、その腕を掴んだ。
梨夢が驚いて俺を見る。
「廉・・・くん」
「暴力は、ダメだろう?梨夢」
俺の言葉に、梨夢は下唇を噛みしめた。
驚いて固まっていた渋木が、ほっと息を吐き出した。
「―――弟が、悪かったな」
そう言うと、渋木は気まずそうに目を逸らせた。
「殴ろうとしたのは謝る・・・けど―――弟たちを傷つけるような言動は俺が許さない」
渋木の体がビクッと震えた。
「覚えとけ」
「は・・・い・・・」
渋木は消え入りそうな声でそう言うと、ちらりと梨夢を見て、走って行ってしまったのだった・・・・。
「梨夢」
生徒会室に梨夢を連れて行き、会長用の机の引き出しから出したものを梨夢に投げた。
「わっ」
突然のことに、梨夢は慌てて手を伸ばしそれをキャッチした。
「チョコ・・・・?」
「内緒だぞ。嫌なことがあったりやる気が出ない時、チョコを一口食べると、元気が出るんだ」
「え・・・俺、貰っちゃっていいの?」
「食べな。元気、出るよ」
俺の言葉に、梨夢はそのチョコレートを一口食べた。
「―――おいしい」
「だろ?元気、出た?」
梨夢はこくりと頷いた。
「―――廉くん、ごめんね」
「なんで謝るの。梨夢は悪くないだろ?」
「―――和也を殴ろうとした」
「それは、向こうが悪いんだろ?」
「でも・・・いつもはあいつ、あんなこと言わないんだよ。優しいし面白いし・・・周のこと、嫌いなのかな」
「あー・・・それは・・・」
梨夢が、周を優先したからだよ、とは言えなかった。
「お前と、遊びたかっただけだよ。明日、お前から話しかけたら、きっと普通に戻ってるんじゃないか?」
「そう・・・・かな。もし俺が、みんなと本当の兄弟だったら・・・・・あんなこと言われないよね」
下を向いた梨夢の瞳から、涙が零れ落ちた。
「梨夢、それは―――」
「俺も、本当の兄弟ならよかったのに・・・・。そしたら、周のことだって悪く言われたりしないのに・・・」
「梨夢・・・・」
俺は梨夢の傍へ行くと、その髪を撫でた。
梨夢は小さく震えながら、俺の胸に額を寄せた。
「・・・・血なんか繋がってなくたって、俺たちは家族だろう?」
俺の言葉に、梨夢が泣き濡れた顔を上げる。
「人の言うことなんか気にするな。周だって、きっとわかってるよ。人がなにを言ってたってそんなこと関係ない。それより・・・・梨夢に、そうやって泣かれることの方が俺たちには辛いよ」
「廉くん・・・・・」
梨夢が俺の背中にその細い腕を回し、きゅっと抱きつく。
俺は梨夢を抱きしめ、背中を擦った。
梨夢の涙に、胸が痛くなる。
だけどその痛みは、梨夢が泣いているからというだけじゃない。
俺は、梨夢と本当の兄弟じゃなくて良かったと思ってるから。
梨夢に対する気持ちは、兄弟としてだけではない、もっと深い気持ち・・・・・。
この想いは、梨夢を傷つけるかもしれない。
だけど、それを否定することはできなかった。
きっと、それは他の兄弟たちも一緒だ。
「梨夢、それより、試験勉強はちゃんとできてる?」
俺は、気持ちを切り替えるように明るい声で言った。
「・・・・うん、大丈夫だよ。周と教え合いながらやってるから、覚えやすいし」
そう言って梨夢は涙を拭い、にっこりと笑った。
普段なら俺が2人の勉強を見てやるんだけど、今回は俺が生徒会の会長をやってることもあっていろいろ忙しくって見てやることができないでいた。
慎はあてにならないし、護くんもそういうのは苦手だ。
「そっか。大丈夫ならいいけど、もしわからないことがあったら聞きに来いよ」
「うん、ありがと。でも、廉くんも生徒会の仕事もあって大変でしょ?勉強も夜遅くまでやってるし・・・・ちゃんと寝れてる?」
梨夢が心配そうに俺を見つめた。
「気付いてたのか・・・・。大丈夫だよ。ちゃんと寝てるし、自分の限界はわかってるから」
「・・・・俺、夜食作って持っていくよ」
「それじゃ、梨夢の睡眠時間が減っちゃうだろ?俺のことは気にしないでいいから―――」
「だって、いつも廉くんに教えてもらってたから俺成績落ちずに済んだんだよ?俺も、廉くんのために何かしたい」
そう言って、ちょっと拗ねたように俺を見つめる梨夢が、愛しくて仕方なかった。
「じゃ・・・・本当に、簡単なものでいいからな。自分の勉強を優先しろよ?俺のせいで梨夢の成績が下がったりしたら、あいつらに何言われるかわからないんだから」
その言葉に、梨夢は明るく笑った。
花が咲いたような明るい笑顔に、俺はホッと胸をなでおろした。
梨夢にはいつも笑っていて欲しい。
たとえ俺の想いが伝えられなくても、梨夢が傍にいてくれるなら。
梨夢が笑っていてくれるなら、それだけで十分だった。
「渋木が?梨夢くんにそんなこと言ったの?」
家に帰り、梨夢が夕食の準備をしている時に俺は周を部屋に呼び今日のことを話した。
周が眉を顰め、鋭い目つきで俺を見る。
「あいつ・・・!」
「まぁ、でもそれは単なるお前への嫉妬だから、気にするな。本気でそんなこと思ってるわけじゃない。ただ、梨夢と遊びたかったんだろ。梨夢がお前のことを優先したから面白くなかったんだ」
俺の言葉に、周がふんと鼻を鳴らした。
「だろうね。いつも俺、あいつの邪魔してるから」
「あんまり、あからさまにするなよ。梨夢がお前を優先することはわかってるんだからさ」
俺がそう言って苦笑すると、周はむっと口を尖らせた。
「だって、あいつだってあからさまに俺を邪魔にしたりするから」
「梨夢が困るだろ?梨夢にとっては渋木は大事な友達なんだから。うちに帰ってくれば渋木に邪魔されることはないんだから。な?」
「・・・・家に帰って来たら来たで、兄貴たちに邪魔されるもん」
「けどお前、夜は勝手に梨夢の部屋に忍び込んでんじゃねえか」
「いいじゃん、それくらい」
「・・・・カ周」
俺は、頬を膨らませふてくされている周の顔を真剣に見つめた。
周が、そんな俺の様子にちょっと目を瞬かせる。
「な・・・・何?」
「梨夢は、俺たちの兄弟だ。血は繋がってなくても、ずっと家族だ」
「・・・・わかってるよ」
「たとえお前でも・・・・・梨夢を傷つけるようなことは、絶対にするなよ?もしおまえが梨夢を泣かせたら・・・俺はお前を許さないからな」
周の顔色が変わり、俺をじっと見返した。
大人びた、人を見透かすような瞳。
それでも、ずっと一緒に育った兄弟だ。
言葉にしなくても、相手が何を考えているのかは大体分かるつもりだった。
「・・・・わかってるよ。俺は、梨夢くんを泣かせたりしない」
そう言い放った周は、兄の俺を目の前にしても、全く怯む様子はなかった。
「・・・・なら、いい」
『廉くん、周、ごはんできたよー』
梨夢の声が、聞こえた。
「はーい」
「今行く」
俺たちはそう返事をして。
お互いちらりと視線を交わし、部屋を出たのだった・・・・・。
廊下から聞こえてきた声に、俺は足を止めた。
生徒会室に向かう為に上っていた階段を降り、声の聞こえてきた廊下を見た。
少し離れた所に、後ろを振り向き止まっている梨夢が見えた。
そして、梨夢に向かって走ってくる男。
―――あれは確か、渋木和也とかいうやつだな・・・。
今梨夢とクラスで一番仲がいいやつだと、周が言っていた。
「なぁ、今日部活ないだろ?遊ぼうぜ」
「テスト前だろ?勉強しないと」
梨夢の言葉に、渋木は顔をしかめた。
「お前って真面目だよなぁ。いいじゃん、いつも部活で遊べないんだし、たまには」
「ダメだって。俺、周と勉強する約束してるし」
その言葉に、渋木はむっとした。
「またかよ・・・お前らってあやしいくらい仲いいよな」
「あやしい?」
「本当の兄弟じゃないんだろ?2人きりで本当は何してんの?いやらしいこととかしてるんじゃないの?」
梨夢の顔色がサッと青ざめる。
「―――もう一回言ってみろよ」
「だから、あいつにいやらしいことされてるんじゃ―――」
「―――周をバカにすんな!!」
梨夢が、渋木に殴りかかろうと腕を振り上げた。
「―――梨夢!!」
俺は咄嗟に梨夢に駆け寄ると、その腕を掴んだ。
梨夢が驚いて俺を見る。
「廉・・・くん」
「暴力は、ダメだろう?梨夢」
俺の言葉に、梨夢は下唇を噛みしめた。
驚いて固まっていた渋木が、ほっと息を吐き出した。
「―――弟が、悪かったな」
そう言うと、渋木は気まずそうに目を逸らせた。
「殴ろうとしたのは謝る・・・けど―――弟たちを傷つけるような言動は俺が許さない」
渋木の体がビクッと震えた。
「覚えとけ」
「は・・・い・・・」
渋木は消え入りそうな声でそう言うと、ちらりと梨夢を見て、走って行ってしまったのだった・・・・。
「梨夢」
生徒会室に梨夢を連れて行き、会長用の机の引き出しから出したものを梨夢に投げた。
「わっ」
突然のことに、梨夢は慌てて手を伸ばしそれをキャッチした。
「チョコ・・・・?」
「内緒だぞ。嫌なことがあったりやる気が出ない時、チョコを一口食べると、元気が出るんだ」
「え・・・俺、貰っちゃっていいの?」
「食べな。元気、出るよ」
俺の言葉に、梨夢はそのチョコレートを一口食べた。
「―――おいしい」
「だろ?元気、出た?」
梨夢はこくりと頷いた。
「―――廉くん、ごめんね」
「なんで謝るの。梨夢は悪くないだろ?」
「―――和也を殴ろうとした」
「それは、向こうが悪いんだろ?」
「でも・・・いつもはあいつ、あんなこと言わないんだよ。優しいし面白いし・・・周のこと、嫌いなのかな」
「あー・・・それは・・・」
梨夢が、周を優先したからだよ、とは言えなかった。
「お前と、遊びたかっただけだよ。明日、お前から話しかけたら、きっと普通に戻ってるんじゃないか?」
「そう・・・・かな。もし俺が、みんなと本当の兄弟だったら・・・・・あんなこと言われないよね」
下を向いた梨夢の瞳から、涙が零れ落ちた。
「梨夢、それは―――」
「俺も、本当の兄弟ならよかったのに・・・・。そしたら、周のことだって悪く言われたりしないのに・・・」
「梨夢・・・・」
俺は梨夢の傍へ行くと、その髪を撫でた。
梨夢は小さく震えながら、俺の胸に額を寄せた。
「・・・・血なんか繋がってなくたって、俺たちは家族だろう?」
俺の言葉に、梨夢が泣き濡れた顔を上げる。
「人の言うことなんか気にするな。周だって、きっとわかってるよ。人がなにを言ってたってそんなこと関係ない。それより・・・・梨夢に、そうやって泣かれることの方が俺たちには辛いよ」
「廉くん・・・・・」
梨夢が俺の背中にその細い腕を回し、きゅっと抱きつく。
俺は梨夢を抱きしめ、背中を擦った。
梨夢の涙に、胸が痛くなる。
だけどその痛みは、梨夢が泣いているからというだけじゃない。
俺は、梨夢と本当の兄弟じゃなくて良かったと思ってるから。
梨夢に対する気持ちは、兄弟としてだけではない、もっと深い気持ち・・・・・。
この想いは、梨夢を傷つけるかもしれない。
だけど、それを否定することはできなかった。
きっと、それは他の兄弟たちも一緒だ。
「梨夢、それより、試験勉強はちゃんとできてる?」
俺は、気持ちを切り替えるように明るい声で言った。
「・・・・うん、大丈夫だよ。周と教え合いながらやってるから、覚えやすいし」
そう言って梨夢は涙を拭い、にっこりと笑った。
普段なら俺が2人の勉強を見てやるんだけど、今回は俺が生徒会の会長をやってることもあっていろいろ忙しくって見てやることができないでいた。
慎はあてにならないし、護くんもそういうのは苦手だ。
「そっか。大丈夫ならいいけど、もしわからないことがあったら聞きに来いよ」
「うん、ありがと。でも、廉くんも生徒会の仕事もあって大変でしょ?勉強も夜遅くまでやってるし・・・・ちゃんと寝れてる?」
梨夢が心配そうに俺を見つめた。
「気付いてたのか・・・・。大丈夫だよ。ちゃんと寝てるし、自分の限界はわかってるから」
「・・・・俺、夜食作って持っていくよ」
「それじゃ、梨夢の睡眠時間が減っちゃうだろ?俺のことは気にしないでいいから―――」
「だって、いつも廉くんに教えてもらってたから俺成績落ちずに済んだんだよ?俺も、廉くんのために何かしたい」
そう言って、ちょっと拗ねたように俺を見つめる梨夢が、愛しくて仕方なかった。
「じゃ・・・・本当に、簡単なものでいいからな。自分の勉強を優先しろよ?俺のせいで梨夢の成績が下がったりしたら、あいつらに何言われるかわからないんだから」
その言葉に、梨夢は明るく笑った。
花が咲いたような明るい笑顔に、俺はホッと胸をなでおろした。
梨夢にはいつも笑っていて欲しい。
たとえ俺の想いが伝えられなくても、梨夢が傍にいてくれるなら。
梨夢が笑っていてくれるなら、それだけで十分だった。
「渋木が?梨夢くんにそんなこと言ったの?」
家に帰り、梨夢が夕食の準備をしている時に俺は周を部屋に呼び今日のことを話した。
周が眉を顰め、鋭い目つきで俺を見る。
「あいつ・・・!」
「まぁ、でもそれは単なるお前への嫉妬だから、気にするな。本気でそんなこと思ってるわけじゃない。ただ、梨夢と遊びたかったんだろ。梨夢がお前のことを優先したから面白くなかったんだ」
俺の言葉に、周がふんと鼻を鳴らした。
「だろうね。いつも俺、あいつの邪魔してるから」
「あんまり、あからさまにするなよ。梨夢がお前を優先することはわかってるんだからさ」
俺がそう言って苦笑すると、周はむっと口を尖らせた。
「だって、あいつだってあからさまに俺を邪魔にしたりするから」
「梨夢が困るだろ?梨夢にとっては渋木は大事な友達なんだから。うちに帰ってくれば渋木に邪魔されることはないんだから。な?」
「・・・・家に帰って来たら来たで、兄貴たちに邪魔されるもん」
「けどお前、夜は勝手に梨夢の部屋に忍び込んでんじゃねえか」
「いいじゃん、それくらい」
「・・・・カ周」
俺は、頬を膨らませふてくされている周の顔を真剣に見つめた。
周が、そんな俺の様子にちょっと目を瞬かせる。
「な・・・・何?」
「梨夢は、俺たちの兄弟だ。血は繋がってなくても、ずっと家族だ」
「・・・・わかってるよ」
「たとえお前でも・・・・・梨夢を傷つけるようなことは、絶対にするなよ?もしおまえが梨夢を泣かせたら・・・俺はお前を許さないからな」
周の顔色が変わり、俺をじっと見返した。
大人びた、人を見透かすような瞳。
それでも、ずっと一緒に育った兄弟だ。
言葉にしなくても、相手が何を考えているのかは大体分かるつもりだった。
「・・・・わかってるよ。俺は、梨夢くんを泣かせたりしない」
そう言い放った周は、兄の俺を目の前にしても、全く怯む様子はなかった。
「・・・・なら、いい」
『廉くん、周、ごはんできたよー』
梨夢の声が、聞こえた。
「はーい」
「今行く」
俺たちはそう返事をして。
お互いちらりと視線を交わし、部屋を出たのだった・・・・・。
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