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アヒルと三男

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「梨夢~~~、入るよ~」

 俺は声をかけながら、風呂場の扉を開け、中に入った。

「慎くん。また?」

 湯船に浸かってアヒルのおもちゃをいじくる梨夢が俺を見上げた。

 んふふ、か~わいいなあ~~~~

「ここんとこ連ちゃんだね」

「だね!俺ってついてる!」

 家は5人兄弟なので、風呂に入るのも全員が入り終えるまでに結構な時間がかかる。

 で、自然に決まった我が家のルール。

 まず一番先に入るのは梨夢。

 どうしてかって言うと梨夢が一番風呂好きで、長風呂だから。

 で、梨夢が体や頭を洗い終わった頃、次の人間が入る。

 家は風呂だけはなぜか無駄に広いので、2人入っても全然余裕だった。

 で、2番目のやつが風呂から出たら、3番目が入る。

 3番目が出たら4番目。

 4番目が出たら5番目。

 間を開けずに入るのが原則で、でも梨夢だけはいつ出ても自由。

 といっても、大抵は全員と一緒に入り、最後のやつと一緒に出るのだ。

 そして風呂の順番を決めるのはだいたいじゃんけんなんだけど、たまにゲームで勝負したり、あみだくじなんてものを作ったりすることもある。

 梨夢はおっとりしてて、体や頭を洗うのもゆっくりなんだよね。

 だからそのくらいの余裕があるってわけ。

 今日はいつものようにじゃんけんで決める日で、俺が1番だったんだ。

 実は今日で3日連続なの!

 嬉しいなあ。

 ブラコンだなんて言われるけど、そんなの気にしない。

 だって梨夢が可愛いのは仕方ないじゃん?

 さっさと洗って湯船に飛び込むと、跳ねたお湯が梨夢の顔にかかり、梨夢がちろりと俺を睨む。

「慎くん、お湯がなくなっちゃうよ」

「ひゃはは、ごめんごめん」

「もう、廉くんに怒られちゃうよ~」

 そう言って口を尖らせる梨夢は、激かわ。

 俺は梨夢の背中にぴったりとくっつき、後ろからぎゅっと抱きしめるように腕を回す。

 こんなことしても梨夢は絶対嫌がったりしない。

 白い肌がほんのりピンク色に染まって、手に吸い付くようなしっとりした感触にちょっとドキドキするけど、そんなこと梨夢に知られるわけにはいかないから平気な振りをする。

  梨夢お気に入りのアヒルさんを指でつんつんしながら、お湯に濡れてますます小さく見える梨夢の頭に顎を乗せる。

「ねえ梨夢、バスケ、嫌い?」

 俺の言葉に、梨夢が俺を見上げる。

「―――嫌いじゃ、ないよ。でも俺、下手なんだもん」

「そんなことないって!最初はさ、難しいかもしれないけど、梨夢運動神経いいし、すぐにうまくなるって」

「そうかな・・・・・でもさ・・・・・慎くん、困らない?」

「困る?俺が?なんで?」

「だって、慎くんバスケうまいから。弟の俺が下手だと、恥ずかしくない?」

「そんなこと気にしてたの?」

 驚いて聞くと、梨夢がこくりと頷く。

 あーもう、マジ可愛い。

 年は1こしか違わないし、周とも同じ年だけど、梨夢は周よりも小さくて幼い。

 だから、余計にもっと年の離れた弟って感じがしちゃうんだよね。

 だけどこんなふうにやたら人に気ぃ使うところもあったりして、そんな梨夢がいとおしくて仕方なくなっちゃうんだ。

「そんなの、全然気にしなくていいって!バスケなんて1人でやるもんじゃないしさ、梨夢や周が超下手だって、俺は恥ずかしくなんて全然ないよ!一緒にバスケできればいいなって思ってる」

 そう言って、梨夢の体をくりんと自分の方へ向け、その顔を覗きこむ。

「ね?一緒にやろうよ」

 そう言って笑うと、梨夢もはにかむように笑って俺を見た。

「ん。じゃあ、周に相談してみるね」

「え~・・・・周と一緒じゃなきゃだめなの?」

 ちょっと不満に思ってそう聞いてみると、梨夢は恥ずかしそうに目をそらせた。

「そうじゃ、ないけどさ。周と一緒だと心強いし・・・・・俺、人見知りするから」

「俺がいるじゃん!」

「そうだけど・・・・・でもサッカーにも興味あるし。周が、入るなら俺と一緒がいいって言ってたんだ。だから、やっぱり相談してみるよ」

「・・・・・わかった。でも、最後は自分のやりたい方にしなよ?梨夢が決めたことなら、誰も怒ったりしないからね?」

 そう言って頭をなでると、梨夢は嬉しそうに笑って頷いた。

「うん、ありがと、慎くん」




「慎!お前いつまで入ってんだよ!次入れないだろ!?」

 扉の外から周の声が聞こえた。

「げ、あいつ、もう脱いで待ってるな」

 半透明な扉には、おそらく何も身につけていないだろう状態の周が仁王立ちしているのが見えていた。

「んふふ、ほんとだ。慎くん、そろそろ出ないと、周怒らせると怖いよ?」

「だね。まったくもう・・・・じゃあね、梨夢。ーーーあ、それと」

 俺は風呂から出ようとして、ふと思いついて振り返った。

「なに?」

「もし梨夢がサッカー部に入るなら、試合にはちゃんと応援に行くからね!」

 その言葉に梨夢は一瞬キョトンとして―――

 それから、満面の笑みを浮かべて言った。

「気がはえぇよ!」
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