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長男の苦悩
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「お~い、有原~」
後ろから名前を呼ばれ、俺は振り向いた。
「卒業式以来だな。明日は高校の入学式だろ?」
ニコニコとやってきたのは、中学時代の担任教師だった。
今日は梨夢と周の入学式で、海外出張中で出席できない父親の代わりに、俺が2人の入学式に参列しに来たのだ。
3年生の廉、2年生の慎と、弟4人が同じ学校にお世話になる。
「いやしかし、お前の弟たち、可愛いなぁ!男も女もそわそわしてるぞ!」
「・・・・・何で、2人別々のクラスなの?」
俺は、先生の言葉を無視してそう聞いた。
梨夢はA組、周はB組だった。
「そりゃ、しょうがないだろう」
「困るんだけど」
「いや、参観日なんかはさ、2人のクラス交互に見ればいいだろう?お前んとこは他の学年にも兄弟がいて大変だろうけど・・・・」
そういうことじゃないんだよな。
周は大丈夫。
あいつは見た目よりもずっとしっかりしてて、俺なんかよりも考え方が大人だったりするし。
心配なのは、梨夢だ。
小さくて華奢で、顔も女の子よりも女の子みたいで可愛い梨夢。
いつもニコニコしてて、人見知りもするけれど、人を疑うことを知らない純粋なその瞳に見つめられると、どんなやつでも梨夢の虜になっちゃうんだ。
でも梨夢にはそんな自覚ないから、近寄ってきたやつを疑うことなく受け入れてしまう。
そんな梨夢を、俺たちはみんな心配していた。
悪いやつに騙されたりしないか?
可愛すぎて攫われたりしないだろうか?
同じクラスのやつらだって安心できない。
可愛い梨夢にくらくらして、悪さしようとするやつがいたらどうする?
そんなやつらから学校にいる間も梨夢を守るのが、周の役目になっていた。
別に、強制したわけじゃない。
自然とそうなっていたんだ。
同い年の周は、実は梨夢が来たばかりの頃、あまり梨夢と仲良くなかった。
やっぱり年が同じだからか、梨夢がみんなにちやほやされるのが気に入らないんだろうと思っていたけど、それはちょっとちがかった。
梨夢が来たばかりの頃、梨夢はまだ母親と同じ部屋で寝ていた。
でもしばらくして母親の具合が悪くなって、梨夢は周と一緒の部屋で寝ることになった。
梨夢はとても不安そうだった。
すると、それまで自分から梨夢に寄っていくことのなかった周が、梨夢に言ったのだ。
「梨夢くん、ゲーム一緒にやろう。俺、教えてあげるから。その代わり、勉強教えて」
そう言って笑うと、梨夢もほっとしたように笑って頷いた。
それから、2人はあっという間に仲良くなった。
それで、わかったんだ。
梨夢のことが嫌いだったわけじゃない。
照れてただけなんだって。
だって、周の目はいつだって梨夢に向けられてる。
ガキのくせに、梨夢のことを愛しそうに見つめるんだ。
だから、周が梨夢の傍にいてくれれば俺も安心できるんだけど・・・・・。
過保護だって言われても仕方ない。
だって、梨夢は本当に可愛いから。
梨夢が泣いたり、悲しんだりするようなことが起きないように、俺たちはいつも心配していた。
入学式が始まり、クラスごとに新入生が入場してくる。
―――あ、梨夢だ。
自分の体のサイズより少し大きい詰襟の制服を着た梨夢が、くりくりした大きな目でちょっと不安そうに周りを見ている様子が可愛かった。
梨夢が、高校の制服で保護者席にいる俺に気付く。
俺が小さく手を振ると、梨夢はホッとしたように笑った。
―――うん、可愛い。
制服に着られている感じが、また可愛いんだよな。
なんて思いながら若干にやにやしていると、周のクラスの生徒たちが入場してきた。
周がすぐに俺に気付いてちらりとこちらを見たけれど、俺の表情を見ると、呆れたように冷ややかな視線で一瞥し、すぐに前を向いてしまった。
どこか不満げな表情。
―――ふふふ、梨夢と別々にされて悔しいんだな。
斜め前あたりの席に座る梨夢の後ろ姿を、周がじっと見ているのが後ろから見てもわかった。
梨夢が、その視線を感じてか後ろをちらりと振り返る。
その瞬間、梨夢が安心したように満面の笑みを見せた。
2人が、こそこそと何か言葉を交わし、梨夢が頷いてまた前を向く。
入学式が始まると、在校生代表として廉が演台に上がった。
俺と違って勉強のできる廉。
弟たちの勉強を見るのは廉の役目だった。
一番の心配症でもあり、心配し過ぎて周にはいつもうざがられてる。
まぁ、できるのは勉強だけで料理だの洗濯だのといった家事はほぼ梨夢がやってくれてるけど。
朝だけは、梨夢がどうしても起きられないというので頑張って廉がパンを焼くのと目玉焼きを焼くのはできるようになった。
『梨夢が食べたいって言うから』と、張り切ってやった初日は見事にパンと卵を焦がしていたけれど、今はだいぶうまくできるようになっていた。
かっこいい兄の姿を見つめる梨夢は嬉しそうだった。
そして、新入生代表は梨夢。
舞台袖で心配そうに梨夢を見つめる廉が見える。
きっと周も同じ顔をしてるんだろうな。
梨夢は緊張しいだから、俺も心配。
頑張れ、梨夢!
ドキドキしながら、梨夢を見守る。
緊張しながらも、持ってきた原稿を読み始める梨夢。
最後までちゃんと読み進め・・・・・たと思ったら、最後の最後、自分の名前を読むところで
「―――新入生代表、ありはりゃ・・・ぁ」
思わずぺろりと舌を出す梨夢。
会場内が笑いに包まれ、とたんに和やかな雰囲気になる。
―――やばいっ!これはやばいぞ、廉!
梨夢の可愛さが学校中にばれちゃったじゃんか!
そう思って廉を見ると
見事に破顔していた・・・・・。
後ろから名前を呼ばれ、俺は振り向いた。
「卒業式以来だな。明日は高校の入学式だろ?」
ニコニコとやってきたのは、中学時代の担任教師だった。
今日は梨夢と周の入学式で、海外出張中で出席できない父親の代わりに、俺が2人の入学式に参列しに来たのだ。
3年生の廉、2年生の慎と、弟4人が同じ学校にお世話になる。
「いやしかし、お前の弟たち、可愛いなぁ!男も女もそわそわしてるぞ!」
「・・・・・何で、2人別々のクラスなの?」
俺は、先生の言葉を無視してそう聞いた。
梨夢はA組、周はB組だった。
「そりゃ、しょうがないだろう」
「困るんだけど」
「いや、参観日なんかはさ、2人のクラス交互に見ればいいだろう?お前んとこは他の学年にも兄弟がいて大変だろうけど・・・・」
そういうことじゃないんだよな。
周は大丈夫。
あいつは見た目よりもずっとしっかりしてて、俺なんかよりも考え方が大人だったりするし。
心配なのは、梨夢だ。
小さくて華奢で、顔も女の子よりも女の子みたいで可愛い梨夢。
いつもニコニコしてて、人見知りもするけれど、人を疑うことを知らない純粋なその瞳に見つめられると、どんなやつでも梨夢の虜になっちゃうんだ。
でも梨夢にはそんな自覚ないから、近寄ってきたやつを疑うことなく受け入れてしまう。
そんな梨夢を、俺たちはみんな心配していた。
悪いやつに騙されたりしないか?
可愛すぎて攫われたりしないだろうか?
同じクラスのやつらだって安心できない。
可愛い梨夢にくらくらして、悪さしようとするやつがいたらどうする?
そんなやつらから学校にいる間も梨夢を守るのが、周の役目になっていた。
別に、強制したわけじゃない。
自然とそうなっていたんだ。
同い年の周は、実は梨夢が来たばかりの頃、あまり梨夢と仲良くなかった。
やっぱり年が同じだからか、梨夢がみんなにちやほやされるのが気に入らないんだろうと思っていたけど、それはちょっとちがかった。
梨夢が来たばかりの頃、梨夢はまだ母親と同じ部屋で寝ていた。
でもしばらくして母親の具合が悪くなって、梨夢は周と一緒の部屋で寝ることになった。
梨夢はとても不安そうだった。
すると、それまで自分から梨夢に寄っていくことのなかった周が、梨夢に言ったのだ。
「梨夢くん、ゲーム一緒にやろう。俺、教えてあげるから。その代わり、勉強教えて」
そう言って笑うと、梨夢もほっとしたように笑って頷いた。
それから、2人はあっという間に仲良くなった。
それで、わかったんだ。
梨夢のことが嫌いだったわけじゃない。
照れてただけなんだって。
だって、周の目はいつだって梨夢に向けられてる。
ガキのくせに、梨夢のことを愛しそうに見つめるんだ。
だから、周が梨夢の傍にいてくれれば俺も安心できるんだけど・・・・・。
過保護だって言われても仕方ない。
だって、梨夢は本当に可愛いから。
梨夢が泣いたり、悲しんだりするようなことが起きないように、俺たちはいつも心配していた。
入学式が始まり、クラスごとに新入生が入場してくる。
―――あ、梨夢だ。
自分の体のサイズより少し大きい詰襟の制服を着た梨夢が、くりくりした大きな目でちょっと不安そうに周りを見ている様子が可愛かった。
梨夢が、高校の制服で保護者席にいる俺に気付く。
俺が小さく手を振ると、梨夢はホッとしたように笑った。
―――うん、可愛い。
制服に着られている感じが、また可愛いんだよな。
なんて思いながら若干にやにやしていると、周のクラスの生徒たちが入場してきた。
周がすぐに俺に気付いてちらりとこちらを見たけれど、俺の表情を見ると、呆れたように冷ややかな視線で一瞥し、すぐに前を向いてしまった。
どこか不満げな表情。
―――ふふふ、梨夢と別々にされて悔しいんだな。
斜め前あたりの席に座る梨夢の後ろ姿を、周がじっと見ているのが後ろから見てもわかった。
梨夢が、その視線を感じてか後ろをちらりと振り返る。
その瞬間、梨夢が安心したように満面の笑みを見せた。
2人が、こそこそと何か言葉を交わし、梨夢が頷いてまた前を向く。
入学式が始まると、在校生代表として廉が演台に上がった。
俺と違って勉強のできる廉。
弟たちの勉強を見るのは廉の役目だった。
一番の心配症でもあり、心配し過ぎて周にはいつもうざがられてる。
まぁ、できるのは勉強だけで料理だの洗濯だのといった家事はほぼ梨夢がやってくれてるけど。
朝だけは、梨夢がどうしても起きられないというので頑張って廉がパンを焼くのと目玉焼きを焼くのはできるようになった。
『梨夢が食べたいって言うから』と、張り切ってやった初日は見事にパンと卵を焦がしていたけれど、今はだいぶうまくできるようになっていた。
かっこいい兄の姿を見つめる梨夢は嬉しそうだった。
そして、新入生代表は梨夢。
舞台袖で心配そうに梨夢を見つめる廉が見える。
きっと周も同じ顔をしてるんだろうな。
梨夢は緊張しいだから、俺も心配。
頑張れ、梨夢!
ドキドキしながら、梨夢を見守る。
緊張しながらも、持ってきた原稿を読み始める梨夢。
最後までちゃんと読み進め・・・・・たと思ったら、最後の最後、自分の名前を読むところで
「―――新入生代表、ありはりゃ・・・ぁ」
思わずぺろりと舌を出す梨夢。
会場内が笑いに包まれ、とたんに和やかな雰囲気になる。
―――やばいっ!これはやばいぞ、廉!
梨夢の可愛さが学校中にばれちゃったじゃんか!
そう思って廉を見ると
見事に破顔していた・・・・・。
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