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第29話

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「わたしは、誰にも話してません。皐月くんもたぶん、話してないと思いますけど・・・・」
「そうですか・・・・。他に、何か覚えていることはありませんが?皐月くんのことでも、今野のことでも構いません。あの施設に2人に会いに来た人物とかはいませんでしたか?」

サキは小首を傾げ、眉間にしわを寄せ考え込んだ。

必死に、何かを思い出そうとするように。

「・・・・あの施設には、みんな友達を呼ぶことはしません。訪ねてくるのは、親や親せきなどの身内くらいで・・・・。今野に関してはそういった身内が訪ねてくることもわたしが知ってる限りではありませんでした。時折、学校の先生や近所の駐在所のお巡りさんが注意をしにきたりすることはありましたけど。皐月くんは・・・・あ、そういえば、皐月くんのところへは担任だという先生がよく来てましたけど」

岩本さんが、その言葉に顔を上げる。

「担任・・・清水先生という方ですか?」
「確か、そんな名前でした。何度も皐月くんを訪ねて来ては、部屋でずっと話をしているようでした。皐月くんもその先生には心を許しているように見えましたけど・・・・」
「何か、気になることが?」
「なんとなく・・・・わたしだけが感じていたことかもしれないので、こんなこと言っていいのかどうかわかりませんけど・・・・頻繁に来過ぎてるような気がしたんです。それこそ、週に、2、3回は来てました。土曜日や日曜日にも。わたし・・・一度気になって皐月くんに聞いたことがあるんです。あのことを、先生に話したのかって・・・・」
「天宮くんはなんて?」
「言っていないと言っていました。ただ、今野がたまに皐月くんの学校へも来ていたりしたようで、それを心配して会いに来てくれてるんだと・・・・。でもなんだか、わたしはそれだけじゃないような気がして、心配でした。あの先生の皐月くんを見る目が、普通じゃないような気がして・・・」

俺たちは、顔を見合わせた。

「普通じゃない、というのは・・・・」
「あの、あくまでもわたしが感じただけなんです。あの先生が皐月くんを見る目には、生徒以上に皐月くんのことを思ってるような・・・そんな気持ちがあるような気がして・・・・。わたし、小さなころから大人のそういう目に、ちょっと神経質になっていたところがあって・・・・。何かを見たり聞いたりしたわけじゃないんです。ただ、見ていて、そんな風に感じただけで・・・・」

義父に虐待を受けていたという西村サキの目に、普通ではないように映っていた清水という教師。

今回のことに関係があるのだろうか・・・

「でも、皐月くんは本当にその先生を信頼してましたし、もし何かあればきっと皐月くんの態度に表れてたと思いますから、何もなかったんでしょうけど」

西村サキから聞いてわかったのは、そこまでだった。

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