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第25話
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「お待ちしてました」
そう言って俺たちを出迎えたのは、細面で色白の、凛とした美しい女性だった。
「すいません、突然おじゃまして」
岩本さんの言葉に西村サキは微かに微笑み、首を振った。
「いえ。―――どうぞ、おあがりください」
西村サキは2年前結婚し、斎藤サキという名前になり閑静な住宅街に建つひと際大きな屋敷に住んでいた。
「―――ご主人はお仕事ですか」
リビングに通されソファーに座った俺たちの前に、サキが冷たい麦茶を出してくれた。
外は暑く、喉が渇いていたのでありがたかった。
「ええ。今日は夕食を外で食べようと約束してるんです。ですから、申し訳ないんですけどその前に来ていただきました」
「ああ、いや、こちらこそすいません。―――早速ですが、天宮皐月くんのことは覚えてらっしゃいますか?」
岩本さんの言葉に、彼女は大きく頷いた。
「もちろん、覚えています。皐月くんのことは・・・今まで、忘れたことはありません」
俺は、隣に座った関と顔を見合わせた。
岩本さんが、俺の顔を見る。
俺に話を聞けということか・・・・。
「・・・・それは、どうしてですか?彼は、あの施設に半年しかいなかったんですよね?」
「ええ。そしてわたしがあの施設に入ったのはさらにその3ヶ月後・・・・。皐月くんとは、3ヶ月しか一緒にいませんでした」
「それなのに、なぜ忘れたことはないと?」
俺の言葉にサキは目を伏せ、ひざの上に置いた両手をぎゅっと握り合わせた。
「彼には・・・・恩があるんです。一生かかっても、返すことができないくらい、とても大きな恩が―――」
「それは、どういう・・・」
「その前に、教えてください。どうして警察の方が皐月くんのことを聞きに来るんでしょう?皐月くんが何か・・・」
岩本さんの方を見ると、無言で頷く。
「―――数日前に、ある事件がありました。1人の男性が、ホテルの1室で全身ずぶ濡れの状態で、手錠をはめられクーラーの風の直撃を受け放置されていた―――」
「―――!テレビのニュースで、見ました。意識は回復したけれど、事件のことは覚えていないと―――」
「そうです。その事件の被害者が・・・天宮皐月さんです」
サキが、息をのみ両手で口を抑えた。
「皐月くんが・・・!それで・・・・それで、皐月くんは大丈夫なんですか?」
「ええ。命に別条はありません。怪我もないし・・・。ただ、事件の日のことを全く覚えていないんです。わかっているのは、その日彼は『昔世話になった人』に、メールで呼び出されてそのホテルに行ったということだけなんです」
「世話になった・・・・」
「昔というのがどの程度昔のことなのかも、メールの履歴が消去されているためわかりません。それでこうして調べてるわけですが・・・・。実は、天宮さんが退院したその日に、偶然ある人物に再会したんです。あの養護施設で一緒に生活していた、今野俊樹という男です」
今野の名前を出した途端、サキの顔色が一変した。
目を大きく見開き、顔色は真っ青になり、唇は色をなくしガタガタと震えだしたのだ。
そう言って俺たちを出迎えたのは、細面で色白の、凛とした美しい女性だった。
「すいません、突然おじゃまして」
岩本さんの言葉に西村サキは微かに微笑み、首を振った。
「いえ。―――どうぞ、おあがりください」
西村サキは2年前結婚し、斎藤サキという名前になり閑静な住宅街に建つひと際大きな屋敷に住んでいた。
「―――ご主人はお仕事ですか」
リビングに通されソファーに座った俺たちの前に、サキが冷たい麦茶を出してくれた。
外は暑く、喉が渇いていたのでありがたかった。
「ええ。今日は夕食を外で食べようと約束してるんです。ですから、申し訳ないんですけどその前に来ていただきました」
「ああ、いや、こちらこそすいません。―――早速ですが、天宮皐月くんのことは覚えてらっしゃいますか?」
岩本さんの言葉に、彼女は大きく頷いた。
「もちろん、覚えています。皐月くんのことは・・・今まで、忘れたことはありません」
俺は、隣に座った関と顔を見合わせた。
岩本さんが、俺の顔を見る。
俺に話を聞けということか・・・・。
「・・・・それは、どうしてですか?彼は、あの施設に半年しかいなかったんですよね?」
「ええ。そしてわたしがあの施設に入ったのはさらにその3ヶ月後・・・・。皐月くんとは、3ヶ月しか一緒にいませんでした」
「それなのに、なぜ忘れたことはないと?」
俺の言葉にサキは目を伏せ、ひざの上に置いた両手をぎゅっと握り合わせた。
「彼には・・・・恩があるんです。一生かかっても、返すことができないくらい、とても大きな恩が―――」
「それは、どういう・・・」
「その前に、教えてください。どうして警察の方が皐月くんのことを聞きに来るんでしょう?皐月くんが何か・・・」
岩本さんの方を見ると、無言で頷く。
「―――数日前に、ある事件がありました。1人の男性が、ホテルの1室で全身ずぶ濡れの状態で、手錠をはめられクーラーの風の直撃を受け放置されていた―――」
「―――!テレビのニュースで、見ました。意識は回復したけれど、事件のことは覚えていないと―――」
「そうです。その事件の被害者が・・・天宮皐月さんです」
サキが、息をのみ両手で口を抑えた。
「皐月くんが・・・!それで・・・・それで、皐月くんは大丈夫なんですか?」
「ええ。命に別条はありません。怪我もないし・・・。ただ、事件の日のことを全く覚えていないんです。わかっているのは、その日彼は『昔世話になった人』に、メールで呼び出されてそのホテルに行ったということだけなんです」
「世話になった・・・・」
「昔というのがどの程度昔のことなのかも、メールの履歴が消去されているためわかりません。それでこうして調べてるわけですが・・・・。実は、天宮さんが退院したその日に、偶然ある人物に再会したんです。あの養護施設で一緒に生活していた、今野俊樹という男です」
今野の名前を出した途端、サキの顔色が一変した。
目を大きく見開き、顔色は真っ青になり、唇は色をなくしガタガタと震えだしたのだ。
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