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第5話

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「睡眠薬を飲まされてたらしい。それで水を掛けられて、最低温度の強い冷房の風が皐月の体に当たるように風向きも固定されてたって」

病院の個室で寝ている皐月の横に座っている俺に、浩斗くんが説明してくれていた。

「―――確実に死ぬ方法じゃない。もちろん長時間あのまま放置されていれば命の危険もあっただろうけど。とすれば―――」

「―――犯人は、皐月を殺すつもりはなかったってこと?」

「そうだね。ただの脅しって可能性もある。誰が皐月を呼びだしたのか、残念ながらメールは削除されてて復元できなかった。けど、皐月が意識を取り戻せば・・・・」

皐月は、あれから3日間眠り続けていた。
濡れた体に冷房の風を長時間受けたことで低体温症になっていたが症状は軽く、命に別状はなかった。
また、手首に手錠を掛けられ半身が吊るされたような状態だったことで手首に痣が残っていたが、それ以外には暴行の跡もなかったのだが、なぜか意識だけが戻らなかった。

俺は、今のところ捜査に参加はしていなかった。
皐月との関係は隠していたが、遠い親戚で今は一緒に住んでいるということになっていた。
過去の事件で皐月のことを知っているものもいたが、それがきっかけでお互いの素性を知ったということにしていたので問題はなかった。

ただ、皐月の関係者ということで捜査への参加はさせてもらっていなかったのだ。

でも今の俺にはそれがありがたかった。
とにかく、皐月の傍にいたかった。
皐月が目覚めたときに、俺が傍にいなきゃいけないと思ったんだ。


「また何かわかったら知らせるよ。稔くんも、ちゃんと休んでね」

浩斗くんの言葉に、俺はちょっと笑った。

「大丈夫。今、何もしてないからほぼ休んでるのと一緒だよ」

「・・・それならいいけど。じゃあね」

「うん、ありがとう」




「・・・・皐月、浩斗くん行っちゃったよ」

俺は、皐月の前髪をそっと撫でた。

「皐月の大好きな浩斗くん・・・・。本当は浩斗くんも、ずっと皐月についていたいんだろうな・・・・。でも、この役目だけは誰にも譲れないな」

青白い皐月の頬を撫で、そっとキスをする。

「ふふ・・・・キスし放題だな」

恥ずかしがり屋の皐月。

いつもだったらこんな、誰が来るかもわからないところでキスをしたら照れて怒るのに・・・・。

「皐月・・・・早く起きろよ・・・・・皐月の声が聞きてぇよ・・・・」

その大きな目を開けて。

キラキラした目で俺を見て。

その甘い声で俺の名前を呼んで。

太陽みたいな笑顔を俺に見せて。

「皐月・・・・皐月に会いてぇよ・・・・・」

白い皐月の手を握り、頬をすり寄せる。

微かに感じるその温もりに、俺は目を閉じた。

「早く、目ぇ覚ませよ・・・・」

皐月の細く長い指に口付けた時―――

その長い睫毛が、ピクリと震えた気がした。

「・・・・皐月・・・・?」

皐月の唇が、微かに開く。

「皐月・・・・皐月!!」

瞼が震え、ゆっくりと目が開く―――

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