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第4話
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「浩斗さん」
警察の人間が部屋の中を調べている間、俺は隣の開いていた部屋へと移動させられていた。
そこへ、関が入ってきた。
「関・・・・稔くんに会った?」
「うん、そこで。皐月くん・・・・大丈夫かな」
走ってきたのか、関は汗が滴るこめかみを手で拭った。
季節は夏。
少し走れば汗が噴き出てくるほど暑かったけれど、皐月のいた部屋は、まるで冷蔵庫の中のように冷え切っていた。
そこに全身ずぶ濡れの状態で放置されていた皐月の体も氷のように冷たく、呼吸は確認できたもののまるで死体のように硬直していた。
そんな皐月を前に稔くんは完全にパニック状態だった。
救急隊員が到着してもしばらくは皐月から離れることができず、俺が無理やりひきはがしたのだ。
いつも落ち着いている稔くんからはまるで想像できない状態で、俺ももちろん冷静ではなかったと思う。
皐月の恋人の樫本稔。
ある事件がきっかけで俺たちは出会い、皐月と稔くんは恋に落ちた。
小柄でいつも猫背気味な稔くんは一見穏やかで争いごとが苦手そうだけれど、実は運動神経もいいし頭もよく、有能な刑事だった。
だけど皐月が惹かれたのはそこじゃない。
稔くんの傍にいると安心できるのだと。
自分が自分でいられるんだと。
そして、自分が稔くんを幸せにしたいんだと・・・・
そう皐月は言っていた。
小さい顔に大きな目と赤い唇、白い肌、長い睫毛、ギリシャ彫刻のように整った容姿の皐月はどこにいても目を引く。
そんな皐月には、『その人が過去に見たものやその人の状況が見える』という特殊な能力があった。
「・・・・じゃあ、皐月くんは誰かに呼び出されてここに?」
俺は、関にこれまでのいきさつを話した。
「昔、世話になった人って・・・・皐月くんはそう言ってたんですね?そういう話、聞いたことないんですか?」
関の言葉に、俺は首を振った。
「わからない。もともと、千葉に住んでたっていう話は聞いたことあるけど・・・・。両親は亡くなってるって聞いた。兄弟はいないって。両親が亡くなったのは皐月が中学生の時だったって聞いてる。それで何か月か養護施設にいた後、親せきの家に引き取られたって・・・・。その頃のことはあんまり話したくないみたいで、それ以上の詳しい話は聞いたことがないんだ」
しばらくすると、受付で聞き込みをしていた刑事が関のところへやってきた。
関が刑事の話にうなずき、また俺のところへ戻ってくる。
「―――このホテルを予約した人間の住所も電話番号もでたらめでしたよ。名前も偽名の可能性が高いですね。受付の人間が見た風貌も、ニット帽にサングラス、マスクをしていて身長が170くらいだったってことくらいしか覚えてなかった。声もぼそぼそとくぐもってたと。明らかに正体を隠そうとしてますね」
「皐月の携帯は?メールが来てたはずだけど―――俺がさっき見た時には履歴が全部消されてた。それ、調べられない?」
「もちろん、やってみるよ。だけど、相手が計画的に皐月くんを襲ったとしたら、それも予測してるかもしれない。だとしたら、何らかの防御策を事前にしてる可能性が高い」
「そこからもわからないとしたら・・・・・やっぱり皐月が意識を取り戻すのを待つしかないのか・・・・・」
「そういうことだね・・・・。大丈夫だよ、皐月くんが、樫本さんを残して死ぬわけない。樫本さんには、皐月くんがいないとだめなんだから・・・・」
関が、まるで自分に言い聞かせるようにそう言った。
関の気持ちが、俺にも伝わってくる。
きっと、俺と関は同じ気持ちだから。
稔くんに皐月が必要なように、俺にも関にも、皐月は大切な存在だった。
だからこそ、信じてた。
皐月が、俺たちの前からいなくなるわけないって・・・・・・。
警察の人間が部屋の中を調べている間、俺は隣の開いていた部屋へと移動させられていた。
そこへ、関が入ってきた。
「関・・・・稔くんに会った?」
「うん、そこで。皐月くん・・・・大丈夫かな」
走ってきたのか、関は汗が滴るこめかみを手で拭った。
季節は夏。
少し走れば汗が噴き出てくるほど暑かったけれど、皐月のいた部屋は、まるで冷蔵庫の中のように冷え切っていた。
そこに全身ずぶ濡れの状態で放置されていた皐月の体も氷のように冷たく、呼吸は確認できたもののまるで死体のように硬直していた。
そんな皐月を前に稔くんは完全にパニック状態だった。
救急隊員が到着してもしばらくは皐月から離れることができず、俺が無理やりひきはがしたのだ。
いつも落ち着いている稔くんからはまるで想像できない状態で、俺ももちろん冷静ではなかったと思う。
皐月の恋人の樫本稔。
ある事件がきっかけで俺たちは出会い、皐月と稔くんは恋に落ちた。
小柄でいつも猫背気味な稔くんは一見穏やかで争いごとが苦手そうだけれど、実は運動神経もいいし頭もよく、有能な刑事だった。
だけど皐月が惹かれたのはそこじゃない。
稔くんの傍にいると安心できるのだと。
自分が自分でいられるんだと。
そして、自分が稔くんを幸せにしたいんだと・・・・
そう皐月は言っていた。
小さい顔に大きな目と赤い唇、白い肌、長い睫毛、ギリシャ彫刻のように整った容姿の皐月はどこにいても目を引く。
そんな皐月には、『その人が過去に見たものやその人の状況が見える』という特殊な能力があった。
「・・・・じゃあ、皐月くんは誰かに呼び出されてここに?」
俺は、関にこれまでのいきさつを話した。
「昔、世話になった人って・・・・皐月くんはそう言ってたんですね?そういう話、聞いたことないんですか?」
関の言葉に、俺は首を振った。
「わからない。もともと、千葉に住んでたっていう話は聞いたことあるけど・・・・。両親は亡くなってるって聞いた。兄弟はいないって。両親が亡くなったのは皐月が中学生の時だったって聞いてる。それで何か月か養護施設にいた後、親せきの家に引き取られたって・・・・。その頃のことはあんまり話したくないみたいで、それ以上の詳しい話は聞いたことがないんだ」
しばらくすると、受付で聞き込みをしていた刑事が関のところへやってきた。
関が刑事の話にうなずき、また俺のところへ戻ってくる。
「―――このホテルを予約した人間の住所も電話番号もでたらめでしたよ。名前も偽名の可能性が高いですね。受付の人間が見た風貌も、ニット帽にサングラス、マスクをしていて身長が170くらいだったってことくらいしか覚えてなかった。声もぼそぼそとくぐもってたと。明らかに正体を隠そうとしてますね」
「皐月の携帯は?メールが来てたはずだけど―――俺がさっき見た時には履歴が全部消されてた。それ、調べられない?」
「もちろん、やってみるよ。だけど、相手が計画的に皐月くんを襲ったとしたら、それも予測してるかもしれない。だとしたら、何らかの防御策を事前にしてる可能性が高い」
「そこからもわからないとしたら・・・・・やっぱり皐月が意識を取り戻すのを待つしかないのか・・・・・」
「そういうことだね・・・・。大丈夫だよ、皐月くんが、樫本さんを残して死ぬわけない。樫本さんには、皐月くんがいないとだめなんだから・・・・」
関が、まるで自分に言い聞かせるようにそう言った。
関の気持ちが、俺にも伝わってくる。
きっと、俺と関は同じ気持ちだから。
稔くんに皐月が必要なように、俺にも関にも、皐月は大切な存在だった。
だからこそ、信じてた。
皐月が、俺たちの前からいなくなるわけないって・・・・・・。
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