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第1話

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「―――皐月、遅いな」

時計を見上げると、もうすでに夜中の12時を過ぎていた。

探偵事務所で働く皐月は、その時の依頼によっては帰りが遅くなることは珍しくなかったけれど、そんなときは必ず前もってメールか電話で俺に知らせてくる。

今日は、確かにメールが来ていた。

『ちょっと遅くなる』と。

正確な時間はなかったけれど、大抵『ちょっと』という時は夜の10時を過ぎることが多かった。



皐月の携帯に何度電話しても留守電になってしまい、メールにも返事がない。

メールは読まれた形跡すらなかった。

こんなことは今までになかった。

なんとなく、胸騒ぎがした。

刑事の勘、と言ったら大袈裟だけれども・・・・

皐月の探偵事務所の所長、河合浩斗の携帯に電話してみる。

『―――え、まだ帰ってないの?皐月』

電話の向こうの浩斗くんが、ちょっと驚いた声で言う。

「うん。今日は、どんな仕事だった?」

本来なら依頼内容は社外秘なのだが、俺の場合は皐月の恋人で刑事という職業のため、こっそり大まかな内容を教えてもらえることがあった。

『いや、今日は・・・・依頼された仕事は6時には終わったからすぐに―――』

「帰ったの?」

『いや・・・・昔の知り合いと飲みに行くとかって』

「飲みに?誰と?」

浩斗くんの話し方が、少し気になった。

仕事仲間でもある浩斗くんは、俺よりも皐月といる時間が長くその分皐月のこともよく知っている。

その浩斗くんが、皐月のことで妙に歯切れが悪い。

いつもきっちりしている浩斗くんには珍しいことだった。

『・・・・俺も、気になってたんだ。今日、皐月が帰ろうとしたその時、あいつの携帯にメールが来て。それを見てあいつの顔色が急に変わったから、気になって誰からか聞いたんだ。そしたら、『昔世話になった人で、近くまで来てるから一緒にごはんでも食べようって』って。でも、それが誰なんだかはっきり言わなくて・・・・もっとちゃんと聞こうと思ったら、その時俺の携帯に電話がかかってきて。それに出てる間にあいつ、事務所を出ていっちゃったんだ』

「昔、世話になった人・・・・?でも、皐月は俺にそんなこと一言も―――」

『・・・・ちょっと、稔くん出て来れる?』

「え?」

『俺も、皐月の態度がちょっと引っかかってたんだ。今から事務所に来てくれない?皐月の携帯には、GPS機能がついてるから俺のパソコンから追跡できる』

「わかった」

胸騒ぎは、悪い予感に変わっていた。

皐月は、誰と会ってた?

どこへ行った?
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