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合格、だけど
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『愛してる』
その朱里の言葉を信じたかった。
でも、光輝くんとサクに抱かれていたことも認めた朱里。
朱里の本当の気持ちがわからなかった・・・・。
「朱里ちゃんもサクも、来てないの?」
リビングのソファーに寝転がっていた俺に、志賀ちゃんが言った。
「ん・・・・もう来ないんじゃないか」
俺の言葉に、志賀ちゃんは驚く様子もなく眉を下げると、床にぺたんと座った。
「ふみちゃん・・・・。りささんに振られた時よりも辛そうだよ」
「知ってる・・・・」
「・・・・飲みに行く?」
「・・・・そうだね」
「・・・・朱里ちゃんのこと、俺も好きだった」
志賀ちゃんの言葉に、俺はちらりと志賀ちゃんの顔を見た。
「正直、りささんのことはあんまり好きじゃなかったんだ。なんかあざといって言うか・・・・わざわざふみちゃんの好みを下調べして来てる感じでなんか計算してるっぽいのが好きになれなくて・・・。でも、朱里ちゃんは違ったんだ」
「違ったって・・・・」
「サクに聞いたんだ。朱里ちゃんは確かに前から料理とか好きだったけど、サクがお願いした時しか作ってなかったって。それに・・・朱里ちゃんはふみちゃんが朱里ちゃんを見てないときでも、ふみちゃんを見てた。すごく愛しそうな目で・・・・。本気で、ふみちゃんのこと好きなんだって、俺思ったんだ。だから、朱里ちゃんならふみちゃんのこと大切にしてくれると思った」
「でも・・・・朱里は・・・・」
「よくわかんないけどさ・・・・光輝くんやサクがなんて言っても、朱里ちゃんのことを信じてあげてほしい。そうじゃないと・・・・朱里ちゃんがかわいそうだよ」
かわいそう・・・・朱里が・・・・
この時、俺は自分のことでいっぱいいっぱいになってて、志賀ちゃんの本心に気づいてなかった。
俺のことを心配して言ってくれてるのも本当だったと思うけど、志賀ちゃんはきっと、朱里のことが・・・・
「合格おめでとう、朱里くん」
悪魔界に戻り、自分の部屋でベッドに横になったままぼんやりしていた朱里くんに声を掛ける。
その俺の声にも、朱里くんは無反応だ。
「・・・・嬉しくないの?」
「嬉しいよ。これでこおきくんも地獄に行かなくて済むもんね。でも・・・・結局俺は自分で何もできなかったけど。こおきくんがいなくちゃ、俺は何も―――」
「でも、垣田さんを誘惑したのは朱里くんだよ。朱里くんを本気で好きになったから、垣田さんは―――」
「やめてよ」
「朱里くん・・・・」
「誘惑なんて・・・・俺はしてない。俺は本当に史弥を―――」
そこまで言うと、朱里くんはくるりとうつぶせになった。
体は、小刻みに震えていた。
―――だから言ったじゃない。
―――優しい朱里くんに、人を不幸にするなんてできるわけないって・・・・
そう言いたかったけど。
俺にはそんなこと、言えない。
こんな、心が傷だらけになった朱里くんに・・・・
光輝さんには朱里くんが垣田さんを傷つけるようなこと言えないって、わかってた。
朱里くんが、本気で垣田さんのことを好きになってしまったことも・・・・
だから、光輝さんの口から垣田さんに事実を告げたんだ。
朱里くんが、光輝さんや俺とも関係を持ってるって・・・・。
俺からしてみれば、光輝さんが俺と朱里くんの関係を知っていたにもかかわらず俺を朱里くんのそばにつかせていたのも驚きだった。
疑われてはいても、それを知っていれば絶対クビにするだろうと思ってたから。
『知ってたよ。けど、お前をクビにしたら後釜にするやつを探さなきゃならねえだろ。あの朱里のそばに置くやつを簡単には決められない。だからまだ当分お前に任せるよ。言っとくが、許したわけじゃねえから』
一分の隙もない光輝さんの目に睨まれ、俺はただ黙って頷くしかなかった。
命が惜しいのもあるが、朱里くんのそばから離れるのは地獄に落とされるよりもつらいことだった。
俺は、本当はあのまま朱里くんと垣田さんが付き合ってもいいと思ってた。
垣田さんはなんだかんだ憎めないし、朱里くんのことを本気で思ってるのもわかってた。
それに志賀さんも、本当は朱里くんのことが好きなくせに垣田さんのためにその気持ちを抑えていることも知ってる。
そんな、馬鹿みたいに純粋なあの人たちなら朱里くんを任せても大丈夫なんじゃないかって思ってた。
朱里くんが幸せになるのなら・・・・
でも、あの二人のどちらか、もしくは二人を不幸にすることが今回の合格の条件だ。
このままじゃ、朱里くんにはとても無理だろうと思ってた。
だから、光輝さんが垣田さんに暴露したことは、本当ならいいことなんだ。
これで、朱里くんは晴れて一人前の悪魔と認められ、光輝さんも地獄へ落されることなく朱里くんのそばにいられるんだから・・・・。
なのに、どうしてこんなに気持ちが晴れないんだろう。
俺は悪魔だ。
人が不幸になろうが心が傷だらけになろうが、そんなことどうでもいいはずなのに・・・・・
俺は、ベッドで体を震わせる朱里くんに何もできないまま、ただそこに突っ立っていることしかできなかった・・・・。
その朱里の言葉を信じたかった。
でも、光輝くんとサクに抱かれていたことも認めた朱里。
朱里の本当の気持ちがわからなかった・・・・。
「朱里ちゃんもサクも、来てないの?」
リビングのソファーに寝転がっていた俺に、志賀ちゃんが言った。
「ん・・・・もう来ないんじゃないか」
俺の言葉に、志賀ちゃんは驚く様子もなく眉を下げると、床にぺたんと座った。
「ふみちゃん・・・・。りささんに振られた時よりも辛そうだよ」
「知ってる・・・・」
「・・・・飲みに行く?」
「・・・・そうだね」
「・・・・朱里ちゃんのこと、俺も好きだった」
志賀ちゃんの言葉に、俺はちらりと志賀ちゃんの顔を見た。
「正直、りささんのことはあんまり好きじゃなかったんだ。なんかあざといって言うか・・・・わざわざふみちゃんの好みを下調べして来てる感じでなんか計算してるっぽいのが好きになれなくて・・・。でも、朱里ちゃんは違ったんだ」
「違ったって・・・・」
「サクに聞いたんだ。朱里ちゃんは確かに前から料理とか好きだったけど、サクがお願いした時しか作ってなかったって。それに・・・朱里ちゃんはふみちゃんが朱里ちゃんを見てないときでも、ふみちゃんを見てた。すごく愛しそうな目で・・・・。本気で、ふみちゃんのこと好きなんだって、俺思ったんだ。だから、朱里ちゃんならふみちゃんのこと大切にしてくれると思った」
「でも・・・・朱里は・・・・」
「よくわかんないけどさ・・・・光輝くんやサクがなんて言っても、朱里ちゃんのことを信じてあげてほしい。そうじゃないと・・・・朱里ちゃんがかわいそうだよ」
かわいそう・・・・朱里が・・・・
この時、俺は自分のことでいっぱいいっぱいになってて、志賀ちゃんの本心に気づいてなかった。
俺のことを心配して言ってくれてるのも本当だったと思うけど、志賀ちゃんはきっと、朱里のことが・・・・
「合格おめでとう、朱里くん」
悪魔界に戻り、自分の部屋でベッドに横になったままぼんやりしていた朱里くんに声を掛ける。
その俺の声にも、朱里くんは無反応だ。
「・・・・嬉しくないの?」
「嬉しいよ。これでこおきくんも地獄に行かなくて済むもんね。でも・・・・結局俺は自分で何もできなかったけど。こおきくんがいなくちゃ、俺は何も―――」
「でも、垣田さんを誘惑したのは朱里くんだよ。朱里くんを本気で好きになったから、垣田さんは―――」
「やめてよ」
「朱里くん・・・・」
「誘惑なんて・・・・俺はしてない。俺は本当に史弥を―――」
そこまで言うと、朱里くんはくるりとうつぶせになった。
体は、小刻みに震えていた。
―――だから言ったじゃない。
―――優しい朱里くんに、人を不幸にするなんてできるわけないって・・・・
そう言いたかったけど。
俺にはそんなこと、言えない。
こんな、心が傷だらけになった朱里くんに・・・・
光輝さんには朱里くんが垣田さんを傷つけるようなこと言えないって、わかってた。
朱里くんが、本気で垣田さんのことを好きになってしまったことも・・・・
だから、光輝さんの口から垣田さんに事実を告げたんだ。
朱里くんが、光輝さんや俺とも関係を持ってるって・・・・。
俺からしてみれば、光輝さんが俺と朱里くんの関係を知っていたにもかかわらず俺を朱里くんのそばにつかせていたのも驚きだった。
疑われてはいても、それを知っていれば絶対クビにするだろうと思ってたから。
『知ってたよ。けど、お前をクビにしたら後釜にするやつを探さなきゃならねえだろ。あの朱里のそばに置くやつを簡単には決められない。だからまだ当分お前に任せるよ。言っとくが、許したわけじゃねえから』
一分の隙もない光輝さんの目に睨まれ、俺はただ黙って頷くしかなかった。
命が惜しいのもあるが、朱里くんのそばから離れるのは地獄に落とされるよりもつらいことだった。
俺は、本当はあのまま朱里くんと垣田さんが付き合ってもいいと思ってた。
垣田さんはなんだかんだ憎めないし、朱里くんのことを本気で思ってるのもわかってた。
それに志賀さんも、本当は朱里くんのことが好きなくせに垣田さんのためにその気持ちを抑えていることも知ってる。
そんな、馬鹿みたいに純粋なあの人たちなら朱里くんを任せても大丈夫なんじゃないかって思ってた。
朱里くんが幸せになるのなら・・・・
でも、あの二人のどちらか、もしくは二人を不幸にすることが今回の合格の条件だ。
このままじゃ、朱里くんにはとても無理だろうと思ってた。
だから、光輝さんが垣田さんに暴露したことは、本当ならいいことなんだ。
これで、朱里くんは晴れて一人前の悪魔と認められ、光輝さんも地獄へ落されることなく朱里くんのそばにいられるんだから・・・・。
なのに、どうしてこんなに気持ちが晴れないんだろう。
俺は悪魔だ。
人が不幸になろうが心が傷だらけになろうが、そんなことどうでもいいはずなのに・・・・・
俺は、ベッドで体を震わせる朱里くんに何もできないまま、ただそこに突っ立っていることしかできなかった・・・・。
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