上 下
9 / 21

好きになっちゃう

しおりを挟む
「あ、何これ」
「え―――あ!それ見ちゃダメ!」

休憩を終えて、仕事を再開するために部屋に戻ってきた俺になぜかくっついてきた朱里。

その朱里が俺の作業台の上に置いてあった紙を覗きこむ。
それに気付き、俺は慌ててその紙を隠すように台の上に身を乗り出した。

「・・・・もう見ちゃったよ。それ、何?もしかして・・・・俺?」

にやりと笑う朱里。
ったく・・・・
俺は溜息をついてその紙を広げた。

白い画用紙の端っこに描かれた朱里の似顔絵。
仕事の合間に朱里の顔を思い浮かべながら描いてたんだ。

「んふふ、嬉しい。俺、そんなかわいい顔してる?」
「・・・可愛いよ」
「ほんと?」

床の上にべったり胡坐をかいた俺の隣に座り、すごい至近距離から俺の顔を覗きこむ朱里。
そのきれいな顔が間近に迫って、思わずドキドキする。

「・・・・可愛いよ。すげえ可愛い。超可愛い」

ちょっとやけくそ気味にそう言ってやったら、朱里がその目を大きく見開き、頬を赤く染めた。

・・・・・可愛すぎる。

自分で聞いといて照れるとか・・・・・

わざとかよ?

「・・・・史弥、ずるい」
「は?なんで」
「俺がアシスタントやるの嫌がってたから、俺のこと嫌なのかと思ってたのに・・・・」
「はぁ?」

いや、もちろん突然アシスタントやりたいなんて言われて戸惑ったのは事実だけどさ。
嫌がってるとか・・・・・
いや、嫌がってると思ってるやつに、こんなに無防備に近づくのか?こいつは

「お前なぁ」
「ずるい」
「は?」
「好きになっちゃうじゃん」
「え・・・・・」

まっすぐに俺を見つめる目は潤んでいて。
やっぱりどこかせつなくて・・・・・

俺は、気付いたら朱里の唇にキスをしていた。

一瞬驚いて、体を震わせる朱里。
だけど、すぐに目を閉じてそのままその腕を俺の首に絡めた。
俺は朱里の腰を引き寄せさらに深く口付けた。
積極的なのかと思えば絡める舌先はどこか遠慮がちで、ともすると逃げようとするそれを強引に絡め取る。

「・・・・ッ、ん・・・・・・ッ」

艶っぽい声が漏れ、俺はさらに朱里を強く抱きよせ深く口付けた。

このまま、ひとつに・・・・・

そう思って朱里を押し倒そうとした瞬間―――

コンコン

ノックの音がして、俺たちは弾かれたようにパッと体を離した。

次の瞬間、扉が開き―――

「朱里ちゃん、今日夕飯も作ってくれるの?」

顔を覗かせたのは志賀ちゃんだった。

「あ・・・・うん、作るよ。何か食べたいものある?」
「ほんと?俺ねーから揚げ食べたいんだけど、作れる?」
「から揚げ?うん、わかった。じゃあケイと一緒に買いだし行ってくるね。他には何か食べたいものある?史弥は?」
「俺は別に・・・何でもいいよ」
「そぉ?じゃあ何か食べたいもの思いついたら教えて」

そういうと、朱里はすっと立ち上がり扉の方へ歩き出した。

「あ・・・・」

つい、声をかけようとしてしまう。
朱里が振り向き、ん?と首を傾げる。

「いや・・・・」
「・・・じゃ、またあとでね」

ふっと、心なしか艶やかな笑みを浮かべ、朱里は志賀ちゃんと一緒に部屋を出て行ったのだった・・・・。



「朱里くん、楽しそうだね」

スーパーで買い出しの最中、朱里くんは楽しそうに鼻歌なんか歌っていた。
兄弟のように育ってきた仲だ。
じゃなくても朱里くんのことなら何でもわかってるつもり。

「・・・・・垣田さんと、何かあったの」

俺の言葉に、朱里くんの鼻歌がピタリと止まる。
・・・・わかりやす過ぎる

「べっつにー」
「ふーん・・・・・?朱里くん?わかってると思うけど、ここに来た目的―――」
「もちろん、わかってるよ」

はっきりとした言葉。
俺は驚いて朱里くんの顔を覗きこんだ。

朱里くんは、にやりと不敵な笑みを浮かべた。

「朱里くん・・・・・?」
「ケイは、心配しないで。俺、こおきくんのためなら何でもできるんだよ」

ふふ、と楽しげに笑う朱里くん。

・・・それ、俺の前で言う・・・・?
そういうとこ、ほんと・・・・・

俺は朱里くんに分からないようにそっと溜息をついた。

俺に背を向けた朱里くんが、何かを思いつめたような顔をしていることに気付かずに・・・・・・
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで

橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。 婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、 不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。 --- 記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘! 次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。 --- 記憶は戻りますが、パッピーエンドです! ⚠︎固定カプです

こいつの思いは重すぎる!!

ちろこ
BL
俺が少し誰かと話すだけであいつはキレる…。 いつか監禁されそうで本当に怖いからやめてほしい。

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

処理中です...