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第35話
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「あのとき―――僕がちゃんと彼女を追いかけていればあんなことにならなかったかもしれないと、ずっと後悔していたんです」
そう言って、直人は俯いた。
探偵事務所には、俺と皐月、関、直人とSP2人、それから浩斗くんと戸田くんも合流して来ていた。
「―――親に、政界に進出するときに必ず役に立つからと彼女との縁談を勧められ、彼女と会いました。とても素直でいい子で・・・・。ただ、純粋過ぎると思った。彼女の家庭環境については事前に聞いてました。もっと玉の腰を狙うような、そんな計算高い女なら僕も政略結婚と割り切って結婚することができましたが、彼女はそうじゃなかった。―――好きな人がいると言っていました。とても優しい人だと。ただ、彼にとって自分は恋愛対象外なんだと、悲しそうに・・・・。そんな彼女に、無理やり結婚を迫ることはできなかった。僕自身、この先彼女を愛せるようになる自信はありませんでしたから」
そう言って、直人はちょっと口の端を上げて笑った。
「だけど、彼女との結婚の話をなかったことにしようとした僕を父親は激しく叱責しました。自分の政治家人生にまでも汚点をつけるつもりかと。僕は言われるがまま、再び彼女に会う約束を取り付け―――ホテルにチェックインして待つことにしたんです。だが、その時付き合っていた恋人が部屋に来て―――何とかごまかさなければと思っているところに彼女が来たんです。悪いことに、ちょうど恋人にキスをされているところで―――部屋を飛び出した彼女を追いかけようとしましたが、恋人に引き留められ、できませんでした。もう、SPに任せるしかないと諦めて―――まさか、殺されるなんて―――」
直人はそこまで話すと頭を抱え、深い溜息をついた。
俺たちは直人の話を聞き―――
皐月の話したことと全て合致したことに驚くやら感心するやら、だった。
「―――彼女を―――久美子さんを殺したのは・・・・君たちなのか・・・・?」
直人が顔を上げ、部屋の隅で居心地悪そうに立っていたSPの2人に声をかけた。
2人とも背が高く、体つきもがっしりしていて鍛えていることが一目でわかるような体格だった。
1人はメガネをかけた20代後半くらいの男で名前は高木といった。
もう1人はもう少し若く、浅黒い肌の目つきの鋭い男で名前は伊藤といった。
直人の言葉に2人は慌てたように首を振った。
「まさか!わたし達は何も!」
高木の言葉に、関がじろりと鋭い視線を投げた。
「でも、久美子さんのあとを追って行ったのは事実なんですよね?」
「―――はい。ホテルの部屋を飛び出した彼女のあとを追いかけたのは、自分です」
そう言ったのは、伊藤の方だった。
「2人で直人氏の傍を離れるわけにはいきませんので、自分が彼女のあとを追って、説得するつもりだったんです。今見たことを、誰にも言わないようにと―――」
「それで?」
関に促され、伊藤は言いづらそうに視線を泳がせた。
「―――恥ずかしながら、見失ってしまいました」
その言葉に、高木の方が顔を顰めた。
「おいっ、お前、あのときはちゃんと説得できたと―――」
「すいません・・・・・」
肩を落とし、落ち込む伊藤。
気まずい空気になったのを振り払うように声を発したのは皐月だった。
「―――どこで、見失ったんですか?」
「え―――」
伊藤が、驚いたように皐月を見る。
「久美ちゃんを見失ったのは、どのあたりですか?」
その言葉に伊藤は顎に手をやり、考えながら口を開いた。
「ええと・・・・あれは確か、宮坂3丁目にあるコンビニです。コンビニに入ったのを見てわたしも中に入ったんですが、中に彼女の姿が見えなくて―――トイレに入ったのかと思って待っていたんですが、しばらくしてトイレから出てきたのは全くの別人で―――結局、その後近くを探しても彼女を見つけることは出来なかったんです」
「―――時間は、何時頃でした?」
皐月の言葉に伊藤は再び少し考え、
「―――たぶん、8時45分くらいだったと思います。コンビニの中の時計を見ましたから、間違いありません」
「そうですね、僕のいたホテルを彼女が飛び出していったのが8時半ごろですから、距離からいってもちょうどそのくらいでしょう」
そう言って、直人も頷いた。
その言葉に皐月はゆっくり頷き―――
「やっぱり・・・・じゃあ・・・・・」
「皐月?やっぱりって・・・?」
俺の言葉に、皐月はちらりと俺を見た。
「宮坂3丁目のコンビニって聞いて、思い当たることない?」
「え・・・・・」
戸惑う俺の横で、関がはっと顔を上げた。
「山本亮太の、バイト先!」
「山本・・・・?あ、久美ちゃんの・・・・・」
そうだ、久美ちゃんの彼氏が、山本亮太・・・・・。
そう言って、直人は俯いた。
探偵事務所には、俺と皐月、関、直人とSP2人、それから浩斗くんと戸田くんも合流して来ていた。
「―――親に、政界に進出するときに必ず役に立つからと彼女との縁談を勧められ、彼女と会いました。とても素直でいい子で・・・・。ただ、純粋過ぎると思った。彼女の家庭環境については事前に聞いてました。もっと玉の腰を狙うような、そんな計算高い女なら僕も政略結婚と割り切って結婚することができましたが、彼女はそうじゃなかった。―――好きな人がいると言っていました。とても優しい人だと。ただ、彼にとって自分は恋愛対象外なんだと、悲しそうに・・・・。そんな彼女に、無理やり結婚を迫ることはできなかった。僕自身、この先彼女を愛せるようになる自信はありませんでしたから」
そう言って、直人はちょっと口の端を上げて笑った。
「だけど、彼女との結婚の話をなかったことにしようとした僕を父親は激しく叱責しました。自分の政治家人生にまでも汚点をつけるつもりかと。僕は言われるがまま、再び彼女に会う約束を取り付け―――ホテルにチェックインして待つことにしたんです。だが、その時付き合っていた恋人が部屋に来て―――何とかごまかさなければと思っているところに彼女が来たんです。悪いことに、ちょうど恋人にキスをされているところで―――部屋を飛び出した彼女を追いかけようとしましたが、恋人に引き留められ、できませんでした。もう、SPに任せるしかないと諦めて―――まさか、殺されるなんて―――」
直人はそこまで話すと頭を抱え、深い溜息をついた。
俺たちは直人の話を聞き―――
皐月の話したことと全て合致したことに驚くやら感心するやら、だった。
「―――彼女を―――久美子さんを殺したのは・・・・君たちなのか・・・・?」
直人が顔を上げ、部屋の隅で居心地悪そうに立っていたSPの2人に声をかけた。
2人とも背が高く、体つきもがっしりしていて鍛えていることが一目でわかるような体格だった。
1人はメガネをかけた20代後半くらいの男で名前は高木といった。
もう1人はもう少し若く、浅黒い肌の目つきの鋭い男で名前は伊藤といった。
直人の言葉に2人は慌てたように首を振った。
「まさか!わたし達は何も!」
高木の言葉に、関がじろりと鋭い視線を投げた。
「でも、久美子さんのあとを追って行ったのは事実なんですよね?」
「―――はい。ホテルの部屋を飛び出した彼女のあとを追いかけたのは、自分です」
そう言ったのは、伊藤の方だった。
「2人で直人氏の傍を離れるわけにはいきませんので、自分が彼女のあとを追って、説得するつもりだったんです。今見たことを、誰にも言わないようにと―――」
「それで?」
関に促され、伊藤は言いづらそうに視線を泳がせた。
「―――恥ずかしながら、見失ってしまいました」
その言葉に、高木の方が顔を顰めた。
「おいっ、お前、あのときはちゃんと説得できたと―――」
「すいません・・・・・」
肩を落とし、落ち込む伊藤。
気まずい空気になったのを振り払うように声を発したのは皐月だった。
「―――どこで、見失ったんですか?」
「え―――」
伊藤が、驚いたように皐月を見る。
「久美ちゃんを見失ったのは、どのあたりですか?」
その言葉に伊藤は顎に手をやり、考えながら口を開いた。
「ええと・・・・あれは確か、宮坂3丁目にあるコンビニです。コンビニに入ったのを見てわたしも中に入ったんですが、中に彼女の姿が見えなくて―――トイレに入ったのかと思って待っていたんですが、しばらくしてトイレから出てきたのは全くの別人で―――結局、その後近くを探しても彼女を見つけることは出来なかったんです」
「―――時間は、何時頃でした?」
皐月の言葉に伊藤は再び少し考え、
「―――たぶん、8時45分くらいだったと思います。コンビニの中の時計を見ましたから、間違いありません」
「そうですね、僕のいたホテルを彼女が飛び出していったのが8時半ごろですから、距離からいってもちょうどそのくらいでしょう」
そう言って、直人も頷いた。
その言葉に皐月はゆっくり頷き―――
「やっぱり・・・・じゃあ・・・・・」
「皐月?やっぱりって・・・?」
俺の言葉に、皐月はちらりと俺を見た。
「宮坂3丁目のコンビニって聞いて、思い当たることない?」
「え・・・・・」
戸惑う俺の横で、関がはっと顔を上げた。
「山本亮太の、バイト先!」
「山本・・・・?あ、久美ちゃんの・・・・・」
そうだ、久美ちゃんの彼氏が、山本亮太・・・・・。
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