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第32話
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「・・・・皐月、もしかして、もう向井直人に―――」
「うん、連絡したよ」
「まだ、捜査できないってわかる前から?」
ちょっとムッとする俺に、皐月はふっと笑った。
「ふふ、ごめん。でもやっぱり駄目だったでしょ?」
「そうだけど」
「今朝、ここに来てからずっと考えてたんだ。そんな短い時間で犯人は久美ちゃんを殺して、死体を運んで、冷蔵庫に入れて、痕跡を消して逃げてる。裕太くんにも、俺にも気付かれずに―――。そのSPが最初から殺すつもりだったならともかく、いくらなんでも咄嗟にそんなこと思いつかないだろうと思ってさ。だったら、犯人は他にいるんじゃないかと思ったの。そしたらいくら重松完治や向井直人の周辺を調べても何も出てこないだろうと思ったんだよ」
「そうなの?なんだよ、それじゃあ最初から重松完治なんて関係なかったんじゃ・・・・」
「まぁ、関係ないっちゃあ関係ないけどさ。でも、久美ちゃんと親子関係にあるのは事実だし。久美ちゃんのためにも・・・・はっきりさせてあげられたらいいなと思ったんだけど・・・・」
「・・・・そうだな」
結局、重松完治は久美ちゃんのことを娘として認めることはなかったけれど・・・・・
「―――今日、7時に直人とホテルのレストランで会うことになってるんだ。そこで、例のSPが現れたらすぐに合図送るよ。で、そのあとは適当に理由つけて帰るから」
「そのSPが現れなかったら―――」
「また、会う約束しないとね」
その言葉に、俺はやっぱりもやもやとした気持ちになる。
そんな俺を見て関が苦笑する。
「樫本さん、我慢強くなりましたね。昨日までは、ぶんぶん怒ってたのに」
「うるせーな」
「―――昨日までは、俺もちょっといらいらしてたから。でももう大丈夫だよね?昨日、しっかり充電したもん」
そう言って、皐月が俺の手を握った。
「・・・・・うん」
ちょっと照れながら。
それでもその手をぎゅっと握り返すと、皐月が嬉しそうに笑う。
そんな俺たちを見て、関が深い溜息をついた。
「―――前言撤回。やっぱりもうちょっと我慢を覚えてください―――」
「―――お待たせしました」
都心にあるホテルの最上階にある天井レストラン。
そのレストランの最も眺めのいい席で、向井直人は皐月を待っていた。
そこへ、バーガンディ―のスタイリッシュなスーツを着た皐月が現れた。
タイトなシルエットのスーツに身を包んだ皐月はより一層ミステリアスな雰囲気を漂わせ、その美しい姿に直人は目を奪われているようだった。
ウェイターに椅子を引かれ、優雅に席に着く皐月。
「―――素敵なお店ですね」
皐月が微笑みながらそう言うと、直人ははっと我に返ったようにぎこちなく笑った。
「気に入っていただけると―――しかし、こんなにすぐにお電話いただけるとは思いませんでしたよ」
「ご迷惑でした?」
「とんでもない!こんなに嬉しいと思ったことはありませんよ!」
「ふふ・・・・お上手ですね」
「本当ですよ!本当に・・・・あなたと一緒にお食事できるなんて、夢のようですよ」
直人の言葉に皐月は目を細め、ミステリアスな視線で直人を見つめたのだった・・・・・。
「―――なーにが夢のよう、だ!」
「樫本さん、落ち着いて」
俺と関は、そのホテルの1階のロビーでイヤホンを耳に当てコーヒーをすすっていた。
コース料理で何万も取られるようなレストランで食事もせずに2人を見張ることは無理だということで、皐月のスーツの胸ポケットに盗聴器をしのばせ、その音声をここで聞いているというわけだ。
「―――例のSPは、いないんですかね」
こういった高級レストランではSPは中に入らず店の外で待機している場合もある。
ターゲットの席が見えない場合は店の中に入って見張るようだが、今回はどうなのだろう・・・・。
しばらくは、2人で談笑しながら食事をしているようだった。
そして、ようやくコースもデザートに差し掛かろうというところで―――
俺の携帯が、メールの着信を告げた。
「―――来た!」
俺の言葉に、関も素早く立ち上がる。
『店の外にいる』
皐月からの、メッセージだった・・・・・。
「うん、連絡したよ」
「まだ、捜査できないってわかる前から?」
ちょっとムッとする俺に、皐月はふっと笑った。
「ふふ、ごめん。でもやっぱり駄目だったでしょ?」
「そうだけど」
「今朝、ここに来てからずっと考えてたんだ。そんな短い時間で犯人は久美ちゃんを殺して、死体を運んで、冷蔵庫に入れて、痕跡を消して逃げてる。裕太くんにも、俺にも気付かれずに―――。そのSPが最初から殺すつもりだったならともかく、いくらなんでも咄嗟にそんなこと思いつかないだろうと思ってさ。だったら、犯人は他にいるんじゃないかと思ったの。そしたらいくら重松完治や向井直人の周辺を調べても何も出てこないだろうと思ったんだよ」
「そうなの?なんだよ、それじゃあ最初から重松完治なんて関係なかったんじゃ・・・・」
「まぁ、関係ないっちゃあ関係ないけどさ。でも、久美ちゃんと親子関係にあるのは事実だし。久美ちゃんのためにも・・・・はっきりさせてあげられたらいいなと思ったんだけど・・・・」
「・・・・そうだな」
結局、重松完治は久美ちゃんのことを娘として認めることはなかったけれど・・・・・
「―――今日、7時に直人とホテルのレストランで会うことになってるんだ。そこで、例のSPが現れたらすぐに合図送るよ。で、そのあとは適当に理由つけて帰るから」
「そのSPが現れなかったら―――」
「また、会う約束しないとね」
その言葉に、俺はやっぱりもやもやとした気持ちになる。
そんな俺を見て関が苦笑する。
「樫本さん、我慢強くなりましたね。昨日までは、ぶんぶん怒ってたのに」
「うるせーな」
「―――昨日までは、俺もちょっといらいらしてたから。でももう大丈夫だよね?昨日、しっかり充電したもん」
そう言って、皐月が俺の手を握った。
「・・・・・うん」
ちょっと照れながら。
それでもその手をぎゅっと握り返すと、皐月が嬉しそうに笑う。
そんな俺たちを見て、関が深い溜息をついた。
「―――前言撤回。やっぱりもうちょっと我慢を覚えてください―――」
「―――お待たせしました」
都心にあるホテルの最上階にある天井レストラン。
そのレストランの最も眺めのいい席で、向井直人は皐月を待っていた。
そこへ、バーガンディ―のスタイリッシュなスーツを着た皐月が現れた。
タイトなシルエットのスーツに身を包んだ皐月はより一層ミステリアスな雰囲気を漂わせ、その美しい姿に直人は目を奪われているようだった。
ウェイターに椅子を引かれ、優雅に席に着く皐月。
「―――素敵なお店ですね」
皐月が微笑みながらそう言うと、直人ははっと我に返ったようにぎこちなく笑った。
「気に入っていただけると―――しかし、こんなにすぐにお電話いただけるとは思いませんでしたよ」
「ご迷惑でした?」
「とんでもない!こんなに嬉しいと思ったことはありませんよ!」
「ふふ・・・・お上手ですね」
「本当ですよ!本当に・・・・あなたと一緒にお食事できるなんて、夢のようですよ」
直人の言葉に皐月は目を細め、ミステリアスな視線で直人を見つめたのだった・・・・・。
「―――なーにが夢のよう、だ!」
「樫本さん、落ち着いて」
俺と関は、そのホテルの1階のロビーでイヤホンを耳に当てコーヒーをすすっていた。
コース料理で何万も取られるようなレストランで食事もせずに2人を見張ることは無理だということで、皐月のスーツの胸ポケットに盗聴器をしのばせ、その音声をここで聞いているというわけだ。
「―――例のSPは、いないんですかね」
こういった高級レストランではSPは中に入らず店の外で待機している場合もある。
ターゲットの席が見えない場合は店の中に入って見張るようだが、今回はどうなのだろう・・・・。
しばらくは、2人で談笑しながら食事をしているようだった。
そして、ようやくコースもデザートに差し掛かろうというところで―――
俺の携帯が、メールの着信を告げた。
「―――来た!」
俺の言葉に、関も素早く立ち上がる。
『店の外にいる』
皐月からの、メッセージだった・・・・・。
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