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第25話

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「久美ちゃんの、お兄さん―――なんですよね?」

俺の言葉に、岩本さんは目を見開いた。

「戸田さん・・・・どうして、それを―――」

「すいません、僕も久美ちゃんを殺した犯人を見つけたくて―――探偵の彼に頼んだんです。久美ちゃんのこと、調べて欲しいって」

俺は、隣に座っていたさっちゃんを見た。

さっちゃんは、岩本さんが来てからずっと彼のことを見ていた。

それこそ、また岩本さんが戸惑うくらい―――

「―――所長の河合が、調べてくれました」

「そう―――でしたか。それは―――すいません、いずれ言わなくてはいけないと思ってたんですが、言いだせなくて―――」

「仕方ないと思います。久美ちゃんを―――妹さんを殺した犯人を、自分で見つけたいと思われたんですよね?」

俺が言うと、岩本さんは俺をじっと見つめ―――ゆっくりと頷いた。

「―――その通りです。僕は、ずっと妹を探していました。今、警察の仕事についているのはそのためと言っても過言ではない。血は繋がっていないけれど、僕のたった1人の妹です。ようやく見つけ出したのに―――」

「―――どうして、すぐに名乗り出なかったんですか?」

さっちゃんの言葉に、岩本さんは驚いたようにさっちゃんを見た。

「2週間くらい前から、わかってましたよね?久美ちゃんが妹さんだって。あの店にも、何度もきていた。店の中には入らず、外から見ているだけでしたけど―――」

「え・・・・どうしてそれを・・・・?僕があのお店に久美を見に行ったことは、誰も知らないはず―――」

岩本さんの言葉に、さっちゃんはちょっと首を傾げた。

「僕のいる探偵事務所は、あの店のすぐ上ですから。たまたま、窓から外を見たときに気付いたんですよ。事務所にいるとき、よく窓から外を見てるんです。何度もあなたを見ていたので、覚えてたんです」

もちろん、これは嘘だ。

さっちゃんの特殊な能力のことはなるべく人に話さないようにしていた。

「どうして、すぐに名乗り出なかったんですか?すぐに名乗り出ていれば、久美ちゃんも喜んでいたかもしれない。久美ちゃん自身、お母さんを亡くして1人ぼっちだったんですから」

「そう・・・ですよね。すぐに名乗り出ていれば、もしかしたらこんなことにはならなかったかも―――」

岩本さんは、辛そうに下を向いた。

「久美は―――あの頃まだ5歳で、きっと俺のことは覚えていなかったでしょう。母親から少しは聞いていたかもしれないけれど―――いきなり俺が会いに行って、兄だと言っても信じてもらえない気がして・・・・情けない話ですが、あの子にどう切り出したらいいのか、わからなかったんです」

さっちゃんは、相変わらず岩本さんをじっと見つめていた。

まるで岩本さんの心の中にあるものを、読みとろうとするかのように―――

「―――すいません、鍵のことやあの子の実の父親のこと―――樫本たちから聞きました。もう一度、調べ直しです。それから、あなたのあの日の行動について―――目撃情報がありました」

「え!本当ですか?」

俺は驚いて身を乗り出した。

「ええ。あなたのこのマンションの前に、あなたの車が止まっているのを見た人間がいたんです。その人は、手にノートのようなものを持ったあなたが車に乗り込むのも見ていたそうです。時間は夜9時半ごろ。マンションの前は街灯の明かりでかなり明るく、顔もはっきり見えたそうなのであなたに間違いないそうです。これで、あなたのアリバイは成立しました」

優しく微笑む岩本さんに、俺は体から一気に力が抜けるのを感じていた。

「―――良かった・・・・あ、すいません、よくはないですよね。久美ちゃんを殺した犯人はまだ見つかってないのに―――」

「いや、構いません、こちらも無実の人間を捕まえてしまうところでしたから、ほっとしていますよ」

なんだか、そこだけホッとした空気が流れ、俺と岩本さんは自然と笑顔になった。

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