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第1話
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「樫本さん」
関の声に、俺は顔を上げる。
「皐月くん、元気ですか」
「・・・・・お前、1日に1回はそれ聞くね」
じろりと関を睨みつける。
絶対わざとだ。
こいつはそういうやつなんだ。
「いいじゃないですか。で、元気ですか?」
「元気だよ。ここでその名前出すの止めろよ」
俺の言葉に、関はわざとらしく肩をすくめた。
時間は夜中の1時。
なんでこんな時間までここ、警察署にいるかと言えば、厄介な殺人事件の捜査のため俺たちはほぼ1週間家にも帰らず犯人を追い、ようやく先ほど犯人逮捕にこぎつけ、今はその事件の報告書を仕上げているところだった。
刑事という仕事は好きだけれど、こういう事務的な仕事は昔から苦手だ。
関は俺の後輩で相棒だ。
要領のいいやつだがあまりやる気を感じさせるようなことがなく、そういうところが俺とは何となく馬が合い、現場で組まされることが多かった。
そんな関は、俺のある秘密をここで唯一知っている男だった。
「今度また遊びに行っていいですか?久しぶりに皐月くんの手料理食べたくなっちゃって」
「おい!」
思わず声が高くなり、まだ俺たちと同様に残っていた刑事たちが俺を見た。
俺は慌てて声を低くし―――
「お前、やめろって!」
「ふふ、大丈夫ですよ。ばれませんて」
まったく勝手なことを―――
『皐月』というのは、俺と一緒に住んでいる男で―――
俺の、恋人だった。
刑事の俺と探偵事務所で働く皐月が付き合い始めて、3ヶ月が経とうとしていた。
お互い仕事が忙しくすれ違いになることもしばしばだったため、1ヶ月前から俺は皐月と一緒に暮らし始めていた。
これで、家に帰れば皐月と2人きりの時間が過ごせると思っていたのに―――
「あ~あ、皐月くんの作ってくれるご飯が食べたいな~」
と、関がぼやき、俺の眉毛がピクリとつり上がる。
俺と皐月の同棲生活が始まってからというもの、なぜか関が俺たちの家に入り浸るようになっていた。
俺と一緒に帰り、皐月の作ったご飯を食べ、皐月の用意した風呂に入り、皐月の選んだスウェットに着替え、皐月と一緒に酒を飲み、ゲームをやり、気付けばそのままお泊まりコースだ。
俺たちと皐月が出会ったのは、ある殺人事件がきっかけだった。
最初に出会ったときは、被害者と親しかった皐月のことを犯人と疑って素っ気ない態度をとっていた関だったが、今や皐月のことが大好きで勝手にメールのやり取りなんかもしてるからムカつく。
皐月の方も関のことを割と気に入っていて、ゲームが趣味の関が新しいゲームを持って来てくれたりするのを喜んでるんだよな。
俺は皐月と2人で住むようになれば、新婚気分が味わえると思ってたのに・・・・・
俺と皐月の関係は職場では秘密にしていた。
解決済みではあるが皐月は事件の関係者だったし、それに男と付き合うことに対して理解してくれる人はまだ少ない。
特に、こういう職業では・・・・
「あ~でも今回は疲れた!今日はもう、帰ってすぐに寝たい!」
関が椅子の上でう~んと体を伸ばす。
その言葉に俺もほっとして、出来上がった報告書を提出しようと席を立ったが―――
『RRRRRRRRR・・・・・・』
関の机の上の電話がけたたましくなり、俺たちは顔を見合わせた。
―――いやな予感・・・・・
「―――はい――――はぁ」
関のがっかりした声に、それが仕事の電話だと悟る。
―――勘弁してくれよ・・・・
ぐったりと肩を落としたその時―――
「―――は?今、なんて―――」
関の顔色が変わっていた。
「―――わかりました、すぐ行きます!」
関は乱暴に受話器を置くと、立ち上がって椅子にかけてあった上着を手にした。
「おい、関―――」
「―――殺人事件です。現場は―――『カフェRAN』」
「―――!!!」
皐月が務める『河合探偵社』の事務所の下にあるカフェ。
それが『カフェRAN』だった・・・・・。
関の声に、俺は顔を上げる。
「皐月くん、元気ですか」
「・・・・・お前、1日に1回はそれ聞くね」
じろりと関を睨みつける。
絶対わざとだ。
こいつはそういうやつなんだ。
「いいじゃないですか。で、元気ですか?」
「元気だよ。ここでその名前出すの止めろよ」
俺の言葉に、関はわざとらしく肩をすくめた。
時間は夜中の1時。
なんでこんな時間までここ、警察署にいるかと言えば、厄介な殺人事件の捜査のため俺たちはほぼ1週間家にも帰らず犯人を追い、ようやく先ほど犯人逮捕にこぎつけ、今はその事件の報告書を仕上げているところだった。
刑事という仕事は好きだけれど、こういう事務的な仕事は昔から苦手だ。
関は俺の後輩で相棒だ。
要領のいいやつだがあまりやる気を感じさせるようなことがなく、そういうところが俺とは何となく馬が合い、現場で組まされることが多かった。
そんな関は、俺のある秘密をここで唯一知っている男だった。
「今度また遊びに行っていいですか?久しぶりに皐月くんの手料理食べたくなっちゃって」
「おい!」
思わず声が高くなり、まだ俺たちと同様に残っていた刑事たちが俺を見た。
俺は慌てて声を低くし―――
「お前、やめろって!」
「ふふ、大丈夫ですよ。ばれませんて」
まったく勝手なことを―――
『皐月』というのは、俺と一緒に住んでいる男で―――
俺の、恋人だった。
刑事の俺と探偵事務所で働く皐月が付き合い始めて、3ヶ月が経とうとしていた。
お互い仕事が忙しくすれ違いになることもしばしばだったため、1ヶ月前から俺は皐月と一緒に暮らし始めていた。
これで、家に帰れば皐月と2人きりの時間が過ごせると思っていたのに―――
「あ~あ、皐月くんの作ってくれるご飯が食べたいな~」
と、関がぼやき、俺の眉毛がピクリとつり上がる。
俺と皐月の同棲生活が始まってからというもの、なぜか関が俺たちの家に入り浸るようになっていた。
俺と一緒に帰り、皐月の作ったご飯を食べ、皐月の用意した風呂に入り、皐月の選んだスウェットに着替え、皐月と一緒に酒を飲み、ゲームをやり、気付けばそのままお泊まりコースだ。
俺たちと皐月が出会ったのは、ある殺人事件がきっかけだった。
最初に出会ったときは、被害者と親しかった皐月のことを犯人と疑って素っ気ない態度をとっていた関だったが、今や皐月のことが大好きで勝手にメールのやり取りなんかもしてるからムカつく。
皐月の方も関のことを割と気に入っていて、ゲームが趣味の関が新しいゲームを持って来てくれたりするのを喜んでるんだよな。
俺は皐月と2人で住むようになれば、新婚気分が味わえると思ってたのに・・・・・
俺と皐月の関係は職場では秘密にしていた。
解決済みではあるが皐月は事件の関係者だったし、それに男と付き合うことに対して理解してくれる人はまだ少ない。
特に、こういう職業では・・・・
「あ~でも今回は疲れた!今日はもう、帰ってすぐに寝たい!」
関が椅子の上でう~んと体を伸ばす。
その言葉に俺もほっとして、出来上がった報告書を提出しようと席を立ったが―――
『RRRRRRRRR・・・・・・』
関の机の上の電話がけたたましくなり、俺たちは顔を見合わせた。
―――いやな予感・・・・・
「―――はい――――はぁ」
関のがっかりした声に、それが仕事の電話だと悟る。
―――勘弁してくれよ・・・・
ぐったりと肩を落としたその時―――
「―――は?今、なんて―――」
関の顔色が変わっていた。
「―――わかりました、すぐ行きます!」
関は乱暴に受話器を置くと、立ち上がって椅子にかけてあった上着を手にした。
「おい、関―――」
「―――殺人事件です。現場は―――『カフェRAN』」
「―――!!!」
皐月が務める『河合探偵社』の事務所の下にあるカフェ。
それが『カフェRAN』だった・・・・・。
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