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第29話
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「あれ、雨降ってるんだ」
濡れた傘を閉じて玄関に入ると、裕二さんが言った。
「うん、結構強くなってきた。理央くんは?」
「まだだよ。葵さんは来てるけど」
リビングへ行くと、葵さんがまるで自分の家のようにソファーにふんぞり返りジョッキのビールを飲みながらテレビを見ていた。
「なんだ、伊織か」
「なんだって・・・あんたね」
「ねぇ、雨降ってるんだったらそろそろ理央ちゃんも帰って来るかな」
「かもしれないですね。理央くんから連絡は?」
「ないよ。でも―――」
裕二さんが何か言いかけた時、ちょうどテーブルに置いてあった裕二さんのスマホが着信を告げた。
「理央?」
葵さんが身を乗り出す。
俺はバッグの中からペットボトルを出してふたを開けた。
裕二さんはスマホを手に取ると画面を見て、
「―――違う。これ、理央ちゃんのマネージャーだ」
と言って電話に出た。
「はーい、裕二です。―――お疲れっすー。もう終わったのぉ?―――え?」
裕二さんが、部屋の壁に掛けてある時計を見上げた。
「いや・・・・理央ちゃん、まだ帰ってきてないよ?―――買い物?―――いや、こっちには何も連絡―――」
裕二さんの声が、徐々に緊張したものに変わっていくのがわかった。
葵さんはビールを飲むのを止め、俺もペットボトルに口をつけようとして、動きを止めた。
「―――裕二さん?」
「理央が、どうかしたの?」
「―――うん―――うん、わかった。帰ってきたら伝えるけど―――そう、だね・・・・じゃあ―――うん、お疲れ」
裕二さんは電話を切ると、俺と葵さんの顔を交互に見た。
「理央ちゃん・・・・6時ごろには撮影終わって、買い物に行きたいって言ってマネージャーと別れたって」
「6時?今、もう10時過ぎですよ。遅くないですか?」
俺の言葉に、裕二さんが頷いた。
「明日の撮影の集合時間が変更になったって、マネージャーが理央ちゃんの携帯に電話したんだけど、出ないんだって。コールはするのに―――」
「どっか人混みにいて、音に気付いてないとか―――」
「うん、マネージャーも、たぶんそうだろうって。だから、理央ちゃんが帰ってきたら伝えて欲しいって言われたんだ。一応メールはしたらしいけど、念のためって・・・・」
裕二さんは、心配そうに眉をひそめた。
「おかしくない?」
葵さんが唐突に言った。
「どういう意味ですか?」
「だって、6時に終わったんなら、買い物に行ったとしても1人ならそんなにかからないでしょ?服屋とかならなおさらそんなに遅くまでやってないし。それに、電話に出られなくても理央ならあとで気付いて絶対かけ直すし」
「葵さん・・・・理央くんのことになると途端に頭が働き始めますね」
「ちょ・・・ちょっと待って、俺、理央ちゃんに電話してみる」
裕二さんが慌ててスマホを操作し、耳に当てる。
「―――――だめだ、出ない・・・・・」
「どっかで、友達と会って飲みに行ったとか、ない?」
理央くんは、よくいろんな友達に飲みに誘われてる。
最近は仕事が忙しくてあまり行ってないみたいだけど―――
「でも、それなら連絡してくれるよ。理央ちゃん、マメだもん」
裕二さんはそう言って、またどこかに電話をかけた。
「―――あ、木村くん?あのさ、もしかして理央ちゃんと一緒だったりする?―――そう。誰か、理央ちゃんと会うとかって話聞いてない?―――そっか・・・・いや、なんでもないよ。ありがとね」
「誰?」
電話を切った裕二さんに、葵さんが聞く。
「モデル仲間。理央ちゃんと同期で、仲いいんだ。よく一緒に遊んだりしてたし・・・・でも、知らないって」
俺たちは、無言で顔を見合わせた。
―――いやな予感がする。
理央くんに、何かあったのかもしれないと・・・・・。
「―――響くんに、連絡してみる」
そう言って、葵さんがスマホを手にした。
すっかり酔いは醒めているようだった。
「―――もしもし、―――うん、俺―――あのさ、理央、そっちに行ってる?」
俺と裕二さんは、固唾をのんで葵さんの様子をうかがっていた。
「―――そっか・・・・うん、まだ帰ってこないんだ。仕事は、6時に終わったって。そのあと買い物に行ったらしいけど、ちょっと遅いんじゃないかって・・・・うん、仕事が終わってるのに連絡もなしに遅くなるなんて、理央らしくないと思ってさ。で、もしかしたら響くんに会いに行ったかと思ったんだけど―――そっか、じゃ、もう少し待ってみるよ」
穏やかな声とは裏腹に、葵さんの目は不安の色を増していた。
「―――響くんのとこにもいない。連絡も、ないって」
「俺、探してくる!」
裕二さんが立ち上がった。
「探すって、どこを?」
「そんなの、わかんないよ!でも、ここでじっとしてらんない!」
「落ち着きなさいよ!がむしゃらに飛び出してったってしょうがないでしょ!」
「じゃあここでじっと待ってろっていうの!?伊織、理央ちゃんが心配じゃないの!?」
「心配に決まってるでしょ!
「落ち着け!!」
葵さんの、聞いたことのないような真剣な声が響いて、俺たちはぴたりと動きを止めた。
「―――冷静になろう。遅いっていったって、まだ10時だもん。いつもだったら仕事でもっと遅くなることのが多いし、だから連絡してこないのかもしれない。俺らの知らない誰かと一緒に、ご飯食ってるのかもしれないし」
そう言いながらも、葵さんの顔は不安げだった。
「でも・・・・もし、理央ちゃんに何かあったら・・・・」
裕二さんは泣きそうな顔をしている。
俺だって、心配だ。
確かに時間的にはそう心配するほど遅い時間じゃないけど―――
でも、なぜだか言いようのない不安が俺たちの胸の中に広がっていた。
「―――やっぱり、探しに行こう、葵さん!」
「どこへ?」
「今日、撮影してた場所行って・・・理央くんの好きそうな店、探しましょう」
「裕ちゃん、今日の撮影場所、わかる?」
「うん!」
そうして、俺たちは夜の街へ理央くんを探しに飛び出した・・・・・。
葵くんから電話がかかってきたのは夜の10時過ぎだった。
『あのさ、理央、そっちに行ってる?』
「へ?いや、来てないよ」
『そっか・・・・』
明らかにがっかりした声音に、俺の胸がざわつく。
「帰ってないの?」
『うん、まだ帰ってこないんだ。仕事は、6時に終わったって。そのあと買い物に行ったらしいけど、ちょっと遅いんじゃないかって・・・・』
「買い物・・・・にしては、確かに遅いね」
『うん、仕事が終わってるのに連絡もなしに遅くなるなんて、理央らしくないと思ってさ。で、もしかしたら響くんに会いに行ったかと思ったんだけど』
「いや、こっちには来てないよ。連絡もないし・・・」
『そっか、じゃ、もう少し待ってみるよ』
そう言って、電話は切れた。
―――どうしたんだろう・・・・?
もちろん、10時だったらそれほど遅い時間じゃない。
誰かと会って食事でもしたら、そんな時間になるだろう。
だけど、理央の性格からしてそれを一緒に住んでる人間に連絡もしないということはあり得ない。
何かあったのだろうか・・・・?
念のために理央の携帯にかけてみるけれど、やはり出ない。
俺の中で、どんどん不安が大きくなってくる。
―――もし、どこかで事故に遭ってたら?
―――もし、変なやつに襲われてたら?
―――もし、何か事件に巻き込まれたら?
やばい
どうしよう
もし、理央に何かあったら・・・・・
気付けば、俺は家を飛び出していた・・・・・。
濡れた傘を閉じて玄関に入ると、裕二さんが言った。
「うん、結構強くなってきた。理央くんは?」
「まだだよ。葵さんは来てるけど」
リビングへ行くと、葵さんがまるで自分の家のようにソファーにふんぞり返りジョッキのビールを飲みながらテレビを見ていた。
「なんだ、伊織か」
「なんだって・・・あんたね」
「ねぇ、雨降ってるんだったらそろそろ理央ちゃんも帰って来るかな」
「かもしれないですね。理央くんから連絡は?」
「ないよ。でも―――」
裕二さんが何か言いかけた時、ちょうどテーブルに置いてあった裕二さんのスマホが着信を告げた。
「理央?」
葵さんが身を乗り出す。
俺はバッグの中からペットボトルを出してふたを開けた。
裕二さんはスマホを手に取ると画面を見て、
「―――違う。これ、理央ちゃんのマネージャーだ」
と言って電話に出た。
「はーい、裕二です。―――お疲れっすー。もう終わったのぉ?―――え?」
裕二さんが、部屋の壁に掛けてある時計を見上げた。
「いや・・・・理央ちゃん、まだ帰ってきてないよ?―――買い物?―――いや、こっちには何も連絡―――」
裕二さんの声が、徐々に緊張したものに変わっていくのがわかった。
葵さんはビールを飲むのを止め、俺もペットボトルに口をつけようとして、動きを止めた。
「―――裕二さん?」
「理央が、どうかしたの?」
「―――うん―――うん、わかった。帰ってきたら伝えるけど―――そう、だね・・・・じゃあ―――うん、お疲れ」
裕二さんは電話を切ると、俺と葵さんの顔を交互に見た。
「理央ちゃん・・・・6時ごろには撮影終わって、買い物に行きたいって言ってマネージャーと別れたって」
「6時?今、もう10時過ぎですよ。遅くないですか?」
俺の言葉に、裕二さんが頷いた。
「明日の撮影の集合時間が変更になったって、マネージャーが理央ちゃんの携帯に電話したんだけど、出ないんだって。コールはするのに―――」
「どっか人混みにいて、音に気付いてないとか―――」
「うん、マネージャーも、たぶんそうだろうって。だから、理央ちゃんが帰ってきたら伝えて欲しいって言われたんだ。一応メールはしたらしいけど、念のためって・・・・」
裕二さんは、心配そうに眉をひそめた。
「おかしくない?」
葵さんが唐突に言った。
「どういう意味ですか?」
「だって、6時に終わったんなら、買い物に行ったとしても1人ならそんなにかからないでしょ?服屋とかならなおさらそんなに遅くまでやってないし。それに、電話に出られなくても理央ならあとで気付いて絶対かけ直すし」
「葵さん・・・・理央くんのことになると途端に頭が働き始めますね」
「ちょ・・・ちょっと待って、俺、理央ちゃんに電話してみる」
裕二さんが慌ててスマホを操作し、耳に当てる。
「―――――だめだ、出ない・・・・・」
「どっかで、友達と会って飲みに行ったとか、ない?」
理央くんは、よくいろんな友達に飲みに誘われてる。
最近は仕事が忙しくてあまり行ってないみたいだけど―――
「でも、それなら連絡してくれるよ。理央ちゃん、マメだもん」
裕二さんはそう言って、またどこかに電話をかけた。
「―――あ、木村くん?あのさ、もしかして理央ちゃんと一緒だったりする?―――そう。誰か、理央ちゃんと会うとかって話聞いてない?―――そっか・・・・いや、なんでもないよ。ありがとね」
「誰?」
電話を切った裕二さんに、葵さんが聞く。
「モデル仲間。理央ちゃんと同期で、仲いいんだ。よく一緒に遊んだりしてたし・・・・でも、知らないって」
俺たちは、無言で顔を見合わせた。
―――いやな予感がする。
理央くんに、何かあったのかもしれないと・・・・・。
「―――響くんに、連絡してみる」
そう言って、葵さんがスマホを手にした。
すっかり酔いは醒めているようだった。
「―――もしもし、―――うん、俺―――あのさ、理央、そっちに行ってる?」
俺と裕二さんは、固唾をのんで葵さんの様子をうかがっていた。
「―――そっか・・・・うん、まだ帰ってこないんだ。仕事は、6時に終わったって。そのあと買い物に行ったらしいけど、ちょっと遅いんじゃないかって・・・・うん、仕事が終わってるのに連絡もなしに遅くなるなんて、理央らしくないと思ってさ。で、もしかしたら響くんに会いに行ったかと思ったんだけど―――そっか、じゃ、もう少し待ってみるよ」
穏やかな声とは裏腹に、葵さんの目は不安の色を増していた。
「―――響くんのとこにもいない。連絡も、ないって」
「俺、探してくる!」
裕二さんが立ち上がった。
「探すって、どこを?」
「そんなの、わかんないよ!でも、ここでじっとしてらんない!」
「落ち着きなさいよ!がむしゃらに飛び出してったってしょうがないでしょ!」
「じゃあここでじっと待ってろっていうの!?伊織、理央ちゃんが心配じゃないの!?」
「心配に決まってるでしょ!
「落ち着け!!」
葵さんの、聞いたことのないような真剣な声が響いて、俺たちはぴたりと動きを止めた。
「―――冷静になろう。遅いっていったって、まだ10時だもん。いつもだったら仕事でもっと遅くなることのが多いし、だから連絡してこないのかもしれない。俺らの知らない誰かと一緒に、ご飯食ってるのかもしれないし」
そう言いながらも、葵さんの顔は不安げだった。
「でも・・・・もし、理央ちゃんに何かあったら・・・・」
裕二さんは泣きそうな顔をしている。
俺だって、心配だ。
確かに時間的にはそう心配するほど遅い時間じゃないけど―――
でも、なぜだか言いようのない不安が俺たちの胸の中に広がっていた。
「―――やっぱり、探しに行こう、葵さん!」
「どこへ?」
「今日、撮影してた場所行って・・・理央くんの好きそうな店、探しましょう」
「裕ちゃん、今日の撮影場所、わかる?」
「うん!」
そうして、俺たちは夜の街へ理央くんを探しに飛び出した・・・・・。
葵くんから電話がかかってきたのは夜の10時過ぎだった。
『あのさ、理央、そっちに行ってる?』
「へ?いや、来てないよ」
『そっか・・・・』
明らかにがっかりした声音に、俺の胸がざわつく。
「帰ってないの?」
『うん、まだ帰ってこないんだ。仕事は、6時に終わったって。そのあと買い物に行ったらしいけど、ちょっと遅いんじゃないかって・・・・』
「買い物・・・・にしては、確かに遅いね」
『うん、仕事が終わってるのに連絡もなしに遅くなるなんて、理央らしくないと思ってさ。で、もしかしたら響くんに会いに行ったかと思ったんだけど』
「いや、こっちには来てないよ。連絡もないし・・・」
『そっか、じゃ、もう少し待ってみるよ』
そう言って、電話は切れた。
―――どうしたんだろう・・・・?
もちろん、10時だったらそれほど遅い時間じゃない。
誰かと会って食事でもしたら、そんな時間になるだろう。
だけど、理央の性格からしてそれを一緒に住んでる人間に連絡もしないということはあり得ない。
何かあったのだろうか・・・・?
念のために理央の携帯にかけてみるけれど、やはり出ない。
俺の中で、どんどん不安が大きくなってくる。
―――もし、どこかで事故に遭ってたら?
―――もし、変なやつに襲われてたら?
―――もし、何か事件に巻き込まれたら?
やばい
どうしよう
もし、理央に何かあったら・・・・・
気付けば、俺は家を飛び出していた・・・・・。
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