22 / 38
第22話
しおりを挟む
「映画、見に行きたい」
2人で朝食を食べていると、理央くんが唐突に言いだした。
「映画?何か観たいのあるの?」
「ん~、なんかさ、行き当たりばったりで、行った映画館でやってるやつ見るとか」
「え~、それだと、理央くんのファンに見つかりそうじゃない?」
「俺のファンなんて、そんなにいないけど」
「―――何言ってるんだか」
本屋やコンビニに行けば理央くんが表紙の雑誌が並び、テレビを見れば理央くんのCMが流れてる。
今や、時の人だよ。
「理央くん、最近いつもマネージャーさんの車で移動してるでしょ?だから気付かないんだよ」
「え~、俺今、車持ってない・・・・伊織は?」
「俺もないよ。ときどき親父の使わせてもらうこともあるけど、ほとんど使う用ないから」
「―――電車で、行こうよ」
「いやあ・・・・・」
絶対騒ぎになると思うよ?
ただでさえ、理央くんは目立つんだから。
でも、渋る俺を見て、理央くんが悲しそうな顔するから―――
「―――わかった。帽子とメガネ、ある?」
俺の言葉に、理央くんがパッと目を輝かせる。
「うん!ある!いっぱい!」
いっぱいはいらないけどね・・・・・。
「それでは、失礼いたします」
「ご検討、よろしくお願いいたします」
頭を下げる取引相手の会社の社員に見送られ、俺はエレベーターに乗った。
「ふ―――・・・・疲れたな」
壁に寄りかかり、溜息をつく。
もうすぐ昼の1時。
どこかで、昼食をとってから会社に戻るか・・・・・。
そんなことを考えながらエレベーターから降り、ビルを出ると駅に向かって歩き出した。
繁華街に出ると、とたんに人が多くなり、歩きにくい。
―――ここらで、飯食ってくかな・・・・
そんなことを考えた時だった。
「ねぇ、あれ、有村理央じゃない?」
どこからか聞こえてきた若い女性の声に、ぴたりと足を止める。
「え、うそ、どこ?」
すぐ後ろにいた2人組の女性が、車の通りが激しい道路の向こう側を見ていた。
向こう側の歩道を歩いていたのは―――
「あの、ニットキャップかぶってメガネかけてるの、有村理央に似てない?」
「え~、顔、よく見えないんだけど」
それは、確かに理央だった。
黒いニットキャップと、太い黒縁のメガネは理央が気に入ってよく身に着けていたものだ。
理央の隣には、小柄な、俺の知らない若い男―――。
―――誰だ・・・・?もしかして、あれが同居人・・・・・?
少しの間、俺はその場で動くことができなかった。
そして、徐々に理央の周りの人々がざわざわとし始め―――
「キャーーー!理央くん!!」
「理央!!」
一気に、近くにいた女性が理央に向かって押し寄せる。
それに気付いた理央が、一瞬体を強張らせる。
と、その時だった。
隣にいた小柄な男が、理央の手を掴むと、一気に駆けだした。
「理央くん!走って!!」
理央もそのまま駆け出し―――
2人は手をつないだまま、すごい勢いで走りだしていた。
「あ―――」
自然に、体が動いていた。
理央を、追いかけなくちゃ―――
そう思って通りを横切ろうとして―――
「パッパアーーーー!!!」
思いきりクラクションを鳴らされ、俺の目の前を車が通り過ぎていく。
それでも、なんとか車の合間を縫い通りを渡り切る。
2人が走っていった方向―――女性たちが追いかけて走っていった方向へ、俺も走りだしていた。
理央と会ってどうするのかなんて、考えてなかった。
とにかく、理央に会いたくて。
理央と話がしたくて。
その姿を追って、必死で走っていた・・・・・。
「―――はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
やはりというべきか。
見事に理央の姿は見失ってしまった。
「くっそ・・・・・」
最近、こんなに走ったことなんてなかったから・・・・
膝に手をつき、息を整えようとしていると―――
「あれ、響くん?こんなとこでなにしてるの?」
顔を上げると、不思議そうな顔で俺を見ている葵くんが立っていた・・・・・。
「―――理央が?あそこにいたの?」
近くのファミレスに入り、俺はとりあえず水を一気に飲み干すと、ようやく落ち着くことができた。
「ん・・・・周りに気付かれて、すぐにどっか行っちゃって。追いかけたんだけど、無理だった」
「誰と一緒にいた?」
「さあ、俺の知らないやつ。背は、理央より低くて―――葵くんと同じくらいかなぁ?顔は、よく見えなかった」
「背が低い・・・・ってことは・・・・・」
「―――理央と一緒に住んでるってやつ・・・?」
「え?ああ、たぶん違うよ」
「そうなんだ?理央のこと『理央くん』って呼んでたし、仲よさそうに見えたから・・・・」
「理央くん・・・・ってことは、伊織だな、やっぱり」
そう言って、葵くんはちょっと不機嫌そうに眉を顰めた。
「やっぱり知ってるんだ?何、気に入らないの?」
俺は思わず苦笑する。
「だってあいつ、俺には理央と一緒に寝るなとか言うくせに、自分は理央と2人で―――」
「ちょ―――ちょっと待って!」
俺は慌てて葵くんの言葉を止めた。
「ん?何?」
「一緒に寝るなって言われたって・・・どゆこと?葵くん、理央と一緒に住んでるわけじゃ―――」
「ん、違うよ。でも、ほぼ毎日のように泊りに行ってるから、一緒に住んでるのと変わんないね」
さらりと、へらりと、そう言ってのけた葵くんに、俺は開いた口がふさがらない。
「でも伊織なんて本当に毎日泊ってるからね。あいつは、ほんとずりい」
「はぁ!?毎日って―――ちょっと、何なの?伊織って何者?そんで、なんで葵くんはそこに毎日泊りに行ってんの?理央は―――理央は一体どういう状況にいんの!?」
思わず立ち上がり、まくし立てるようにそう言葉を並べたてた俺を、葵くんはきょとんと見上げ―――
楽しそうに、笑った。
「ふはは、響くんパニックだ、おもしれえ」
「ぜんっぜん、面白くないよっ!!」
俺が声を荒げると、葵くんは、声を上げて爆笑したのだった・・・・・。
2人で朝食を食べていると、理央くんが唐突に言いだした。
「映画?何か観たいのあるの?」
「ん~、なんかさ、行き当たりばったりで、行った映画館でやってるやつ見るとか」
「え~、それだと、理央くんのファンに見つかりそうじゃない?」
「俺のファンなんて、そんなにいないけど」
「―――何言ってるんだか」
本屋やコンビニに行けば理央くんが表紙の雑誌が並び、テレビを見れば理央くんのCMが流れてる。
今や、時の人だよ。
「理央くん、最近いつもマネージャーさんの車で移動してるでしょ?だから気付かないんだよ」
「え~、俺今、車持ってない・・・・伊織は?」
「俺もないよ。ときどき親父の使わせてもらうこともあるけど、ほとんど使う用ないから」
「―――電車で、行こうよ」
「いやあ・・・・・」
絶対騒ぎになると思うよ?
ただでさえ、理央くんは目立つんだから。
でも、渋る俺を見て、理央くんが悲しそうな顔するから―――
「―――わかった。帽子とメガネ、ある?」
俺の言葉に、理央くんがパッと目を輝かせる。
「うん!ある!いっぱい!」
いっぱいはいらないけどね・・・・・。
「それでは、失礼いたします」
「ご検討、よろしくお願いいたします」
頭を下げる取引相手の会社の社員に見送られ、俺はエレベーターに乗った。
「ふ―――・・・・疲れたな」
壁に寄りかかり、溜息をつく。
もうすぐ昼の1時。
どこかで、昼食をとってから会社に戻るか・・・・・。
そんなことを考えながらエレベーターから降り、ビルを出ると駅に向かって歩き出した。
繁華街に出ると、とたんに人が多くなり、歩きにくい。
―――ここらで、飯食ってくかな・・・・
そんなことを考えた時だった。
「ねぇ、あれ、有村理央じゃない?」
どこからか聞こえてきた若い女性の声に、ぴたりと足を止める。
「え、うそ、どこ?」
すぐ後ろにいた2人組の女性が、車の通りが激しい道路の向こう側を見ていた。
向こう側の歩道を歩いていたのは―――
「あの、ニットキャップかぶってメガネかけてるの、有村理央に似てない?」
「え~、顔、よく見えないんだけど」
それは、確かに理央だった。
黒いニットキャップと、太い黒縁のメガネは理央が気に入ってよく身に着けていたものだ。
理央の隣には、小柄な、俺の知らない若い男―――。
―――誰だ・・・・?もしかして、あれが同居人・・・・・?
少しの間、俺はその場で動くことができなかった。
そして、徐々に理央の周りの人々がざわざわとし始め―――
「キャーーー!理央くん!!」
「理央!!」
一気に、近くにいた女性が理央に向かって押し寄せる。
それに気付いた理央が、一瞬体を強張らせる。
と、その時だった。
隣にいた小柄な男が、理央の手を掴むと、一気に駆けだした。
「理央くん!走って!!」
理央もそのまま駆け出し―――
2人は手をつないだまま、すごい勢いで走りだしていた。
「あ―――」
自然に、体が動いていた。
理央を、追いかけなくちゃ―――
そう思って通りを横切ろうとして―――
「パッパアーーーー!!!」
思いきりクラクションを鳴らされ、俺の目の前を車が通り過ぎていく。
それでも、なんとか車の合間を縫い通りを渡り切る。
2人が走っていった方向―――女性たちが追いかけて走っていった方向へ、俺も走りだしていた。
理央と会ってどうするのかなんて、考えてなかった。
とにかく、理央に会いたくて。
理央と話がしたくて。
その姿を追って、必死で走っていた・・・・・。
「―――はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
やはりというべきか。
見事に理央の姿は見失ってしまった。
「くっそ・・・・・」
最近、こんなに走ったことなんてなかったから・・・・
膝に手をつき、息を整えようとしていると―――
「あれ、響くん?こんなとこでなにしてるの?」
顔を上げると、不思議そうな顔で俺を見ている葵くんが立っていた・・・・・。
「―――理央が?あそこにいたの?」
近くのファミレスに入り、俺はとりあえず水を一気に飲み干すと、ようやく落ち着くことができた。
「ん・・・・周りに気付かれて、すぐにどっか行っちゃって。追いかけたんだけど、無理だった」
「誰と一緒にいた?」
「さあ、俺の知らないやつ。背は、理央より低くて―――葵くんと同じくらいかなぁ?顔は、よく見えなかった」
「背が低い・・・・ってことは・・・・・」
「―――理央と一緒に住んでるってやつ・・・?」
「え?ああ、たぶん違うよ」
「そうなんだ?理央のこと『理央くん』って呼んでたし、仲よさそうに見えたから・・・・」
「理央くん・・・・ってことは、伊織だな、やっぱり」
そう言って、葵くんはちょっと不機嫌そうに眉を顰めた。
「やっぱり知ってるんだ?何、気に入らないの?」
俺は思わず苦笑する。
「だってあいつ、俺には理央と一緒に寝るなとか言うくせに、自分は理央と2人で―――」
「ちょ―――ちょっと待って!」
俺は慌てて葵くんの言葉を止めた。
「ん?何?」
「一緒に寝るなって言われたって・・・どゆこと?葵くん、理央と一緒に住んでるわけじゃ―――」
「ん、違うよ。でも、ほぼ毎日のように泊りに行ってるから、一緒に住んでるのと変わんないね」
さらりと、へらりと、そう言ってのけた葵くんに、俺は開いた口がふさがらない。
「でも伊織なんて本当に毎日泊ってるからね。あいつは、ほんとずりい」
「はぁ!?毎日って―――ちょっと、何なの?伊織って何者?そんで、なんで葵くんはそこに毎日泊りに行ってんの?理央は―――理央は一体どういう状況にいんの!?」
思わず立ち上がり、まくし立てるようにそう言葉を並べたてた俺を、葵くんはきょとんと見上げ―――
楽しそうに、笑った。
「ふはは、響くんパニックだ、おもしれえ」
「ぜんっぜん、面白くないよっ!!」
俺が声を荒げると、葵くんは、声を上げて爆笑したのだった・・・・・。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる