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第22話

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「映画、見に行きたい」

2人で朝食を食べていると、理央くんが唐突に言いだした。

「映画?何か観たいのあるの?」

「ん~、なんかさ、行き当たりばったりで、行った映画館でやってるやつ見るとか」

「え~、それだと、理央くんのファンに見つかりそうじゃない?」

「俺のファンなんて、そんなにいないけど」

「―――何言ってるんだか」

本屋やコンビニに行けば理央くんが表紙の雑誌が並び、テレビを見れば理央くんのCMが流れてる。

今や、時の人だよ。

「理央くん、最近いつもマネージャーさんの車で移動してるでしょ?だから気付かないんだよ」

「え~、俺今、車持ってない・・・・伊織は?」

「俺もないよ。ときどき親父の使わせてもらうこともあるけど、ほとんど使う用ないから」

「―――電車で、行こうよ」

「いやあ・・・・・」

絶対騒ぎになると思うよ?

ただでさえ、理央くんは目立つんだから。

でも、渋る俺を見て、理央くんが悲しそうな顔するから―――

「―――わかった。帽子とメガネ、ある?」

俺の言葉に、理央くんがパッと目を輝かせる。

「うん!ある!いっぱい!」

いっぱいはいらないけどね・・・・・。




「それでは、失礼いたします」

「ご検討、よろしくお願いいたします」

頭を下げる取引相手の会社の社員に見送られ、俺はエレベーターに乗った。

「ふ―――・・・・疲れたな」

壁に寄りかかり、溜息をつく。

もうすぐ昼の1時。

どこかで、昼食をとってから会社に戻るか・・・・・。

そんなことを考えながらエレベーターから降り、ビルを出ると駅に向かって歩き出した。

繁華街に出ると、とたんに人が多くなり、歩きにくい。

―――ここらで、飯食ってくかな・・・・

そんなことを考えた時だった。

「ねぇ、あれ、有村理央じゃない?」

どこからか聞こえてきた若い女性の声に、ぴたりと足を止める。

「え、うそ、どこ?」

すぐ後ろにいた2人組の女性が、車の通りが激しい道路の向こう側を見ていた。

向こう側の歩道を歩いていたのは―――

「あの、ニットキャップかぶってメガネかけてるの、有村理央に似てない?」

「え~、顔、よく見えないんだけど」

それは、確かに理央だった。

黒いニットキャップと、太い黒縁のメガネは理央が気に入ってよく身に着けていたものだ。

理央の隣には、小柄な、俺の知らない若い男―――。

―――誰だ・・・・?もしかして、あれが同居人・・・・・?

少しの間、俺はその場で動くことができなかった。

そして、徐々に理央の周りの人々がざわざわとし始め―――

「キャーーー!理央くん!!」

「理央!!」

一気に、近くにいた女性が理央に向かって押し寄せる。

それに気付いた理央が、一瞬体を強張らせる。

と、その時だった。

隣にいた小柄な男が、理央の手を掴むと、一気に駆けだした。

「理央くん!走って!!」

理央もそのまま駆け出し―――

2人は手をつないだまま、すごい勢いで走りだしていた。

「あ―――」

自然に、体が動いていた。

理央を、追いかけなくちゃ―――

そう思って通りを横切ろうとして―――

「パッパアーーーー!!!」

思いきりクラクションを鳴らされ、俺の目の前を車が通り過ぎていく。

それでも、なんとか車の合間を縫い通りを渡り切る。

2人が走っていった方向―――女性たちが追いかけて走っていった方向へ、俺も走りだしていた。

理央と会ってどうするのかなんて、考えてなかった。

とにかく、理央に会いたくて。

理央と話がしたくて。

その姿を追って、必死で走っていた・・・・・。



「―――はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

やはりというべきか。

見事に理央の姿は見失ってしまった。

「くっそ・・・・・」

最近、こんなに走ったことなんてなかったから・・・・

膝に手をつき、息を整えようとしていると―――

「あれ、響くん?こんなとこでなにしてるの?」

顔を上げると、不思議そうな顔で俺を見ている葵くんが立っていた・・・・・。



「―――理央が?あそこにいたの?」

近くのファミレスに入り、俺はとりあえず水を一気に飲み干すと、ようやく落ち着くことができた。

「ん・・・・周りに気付かれて、すぐにどっか行っちゃって。追いかけたんだけど、無理だった」

「誰と一緒にいた?」

「さあ、俺の知らないやつ。背は、理央より低くて―――葵くんと同じくらいかなぁ?顔は、よく見えなかった」

「背が低い・・・・ってことは・・・・・」

「―――理央と一緒に住んでるってやつ・・・?」

「え?ああ、たぶん違うよ」

「そうなんだ?理央のこと『理央くん』って呼んでたし、仲よさそうに見えたから・・・・」

「理央くん・・・・ってことは、伊織だな、やっぱり」

そう言って、葵くんはちょっと不機嫌そうに眉を顰めた。

「やっぱり知ってるんだ?何、気に入らないの?」

俺は思わず苦笑する。

「だってあいつ、俺には理央と一緒に寝るなとか言うくせに、自分は理央と2人で―――」

「ちょ―――ちょっと待って!」

俺は慌てて葵くんの言葉を止めた。

「ん?何?」

「一緒に寝るなって言われたって・・・どゆこと?葵くん、理央と一緒に住んでるわけじゃ―――」

「ん、違うよ。でも、ほぼ毎日のように泊りに行ってるから、一緒に住んでるのと変わんないね」

さらりと、へらりと、そう言ってのけた葵くんに、俺は開いた口がふさがらない。

「でも伊織なんて本当に毎日泊ってるからね。あいつは、ほんとずりい」

「はぁ!?毎日って―――ちょっと、何なの?伊織って何者?そんで、なんで葵くんはそこに毎日泊りに行ってんの?理央は―――理央は一体どういう状況にいんの!?」

思わず立ち上がり、まくし立てるようにそう言葉を並べたてた俺を、葵くんはきょとんと見上げ―――

楽しそうに、笑った。

「ふはは、響くんパニックだ、おもしれえ」

「ぜんっぜん、面白くないよっ!!」

俺が声を荒げると、葵くんは、声を上げて爆笑したのだった・・・・・。

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