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第19話

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「あ、いた」

俺は道の向こうでたくさんの機材と人に囲まれている理央ちゃんを見つけた。

遠巻きに見物していた人達の中にそっと紛れ、撮影の様子を見る。

「あれ、有村理央?」

「ほっそ~い!色白いね~」

「え~、テレビで見るよりかっこいいね!」

女子高生達が騒いでいるのを横目に見ながら、理央ちゃんを見つめる。

青空の下、日焼けしてしまうんじゃないかと心配だったけど―――

カットの声がかかるごとに日傘をさしかけられている理央ちゃんを見て、少しほっとする。

―――肌、弱いからね。ちゃんと守ってあげないと―――

ふと、理央ちゃんがこちらを見た。

「きゃあ、こっち見た!」

「いやぁ、目ぇ合った!」

「やばい!笑ってくれたんだけど!」

理央ちゃんが、俺に向かって軽く手を振ってくれた。

隣にいた女子高生たちはきゃあきゃあと騒いでいたけれど―――

「え・・・・ね、そこにいるの、モデルの―――」

「うそ、藤田裕二?」

「え、マジ?」

―――やば、ばれた。

サングラスとマスクしてたから、ばれないと思ったんだけどな。

俺は素早く女子高生たちから離れ、人混みに紛れながらその場を後にした―――。




『ごめん、俺が手振ったからばれちゃった?』

理央ちゃんからのメールに、俺はすぐに返信した。

『大丈夫。俺、これから仕事だからもう行くね。撮影、がんばってね』

今日の仕事場のスタジオが潤ちゃんのドラマのロケ現場から近いと知って、仕事に行く前に見に行ってみたのだ。

―――そういえば、響ちゃんが帰ってきてるんだっけ・・・・。

昨日の葵さんの話を思い出す。

今日、出社するって言ってたけど・・・・

何か、話をしてるんだろうか・・・・・。


響ちゃんが帰って来いと言ったら。

理央ちゃんに会いたいと言ったら―――

理央ちゃんは、どうするんだろう・・・・・。




「お疲れ」

スタジオを出ると、扉の前に理央ちゃんが立っていた。

「あ、あれ、理央ちゃん?どうしたの?」

俺の言葉に、理央ちゃんが窓の外を指さした。

「雨」

「え―――あ、ほんとだ」

「だから、今日は終わりだって」

「そうなんだ。それで、わざわざ来てくれたの?」

「うん。一緒に帰ろうと思って」

にっこりと笑う理央ちゃん。

―――うわぁ、何だかこういうの、超嬉しい。

同じ現場で仕事をして一緒に帰ったことは何度かあるけれど、こんなふうに理央ちゃんが俺の仕事場に来て待っててくれたのは初めてだった。


「何か食べてく?」

「んー、それでもいいけど・・・・俺、たまには何か作ろうかと思ったんだけど」

「え、理央ちゃんが?」

駐車場への道を歩きながら、俺は理央ちゃんの顔を見た。

「うん。いつも裕ちゃんに作ってもらってるから。だめ?」

その言葉に、俺はぶんぶんと首を振った。

「とんでもない!超嬉しい!」

「んふふ、よかった。じゃ、スーパーに寄って行ってもいい?」

「うん!」



そうして俺の乗ってきた車の助手席に理央ちゃんを乗せ、近所のスーパーで買い物をしてから家に帰った。

理央ちゃんが作ってくれたのはパスタとサラダとスープ、それからレストランでしか見たことがないようなおしゃれなおつまみ数点。

そして料理に合わせたワインも用意し、今までになく豪華でおしゃれな食卓になった。

「超うまそう!あいつらまだ来てないけど、先食べちゃう?」

俺の言葉に、理央ちゃんが目を瞬かせる。

「あれ、聞いてない?今日、伊織も葵も来ないよ?」

「へ・・・・・?」

「伊織は、どうしてもシフトが埋まらないとかで、明日の朝までバイトが入ってるって。葵も、今日は家族との約束があってこれないって言ってた」

―――そういえば、昨日そんな話をしてたかも・・・・・?

すっかり酒が入っていた俺に、伊織が怖い顔で『裕二さん、ぜっっったい変なことしないでくださいね!』と言っていた気がする。

「だから今日は2人だけ。ちょっと寂しいけど、その分食事を豪華にしたの」

えへへとかわいらしく笑う理央ちゃんに、嬉しさがこみ上げる。

俺のためだけに料理をしてくれたことに。

そして。

今日は理央ちゃんと2人っきり!!!

一気にテンションマックス!!

やばい。

どうしよう?

ドキドキしてきたぞ。

で、ワインを煽るように飲んだ結果―――


「り~~~おちゃ~~~ん、もっと飲もうよ~~~」

見事に、酔っぱらいの完成・・・・。

「んふふふ~~~~、裕ちゃん、飲み過ぎ~~~」

理央ちゃんもふにゃふにゃして、超可愛い。

ていうか、ほんのり目元がピンクに色づいてて、なんだか色っぽい。

「あ、ワイン、もうない」

調子に乗って3本買って来ていたワインが、全て空になってしまった。

「あ、じゃあビール飲む?昨日あおちゃんが買って来てくれたやつが確か残ってるよ」

そう言って勢いよく立ちあがり―――

「あ、裕ちゃん、危な―――」

バランスを崩して椅子の脚に足をひっかけ、そのまま派手に床に転がってしまった俺。

「いってぇ・・・・もお~~~~」

アルコールが回っていて、すぐに立ち上がれないでいると―――

「裕ちゃん、大丈夫?どっか痛い?」

自分もふらつきながら、俺の傍にしゃがみこむ理央ちゃん。

真上から俺を見下ろす理央ちゃんの大きな目が、キラキラしてて超きれいだった。

「足、痛くない?」

「ん、たぶん、だいじょぶ・・・・って、理央ちゃん?どうしたの?」

急にくすくすと笑いだした理央ちゃんに、俺は目を瞬かせた。

「ん・・・・ちょっと、昔思い出しちゃった」

「昔?」

「うん。俺が、まだ高校生の時―――今の裕ちゃんみたいに、俺が椅子に躓いてこけたことがあってね。そん時、きょおくんがすごい心配して、救急車まで呼んじゃってね、大騒ぎになったことがあったんだ。レントゲンまで撮ってさ・・・・・。結局、単なる打ち身で1週間くらいで直ったんだけど。でも怪我したのは足なのに、きょおくんが『悪くなるといけないから』って言ってご飯とかも作ってくれて。んふふ・・・・きょおくん、料理なんてしたことないから、作るのにすごい時間かかって、しかもあんまりおいしくなかったけど―――でも嬉しかったなぁ」

嬉しそうに響ちゃんの話をしながら、昔を思い出すように目を細める理央ちゃん。

俺は、無性に腹立たしくなって―――


気付いた時には理央ちゃんの肩を掴み、床に押し倒していた―――。

「―――裕ちゃん・・・・?どうし―――」

「なんで、響ちゃんなの?」

「え・・・・・」

「俺が、こんなに近くにいるのに―――!俺が、こんなに理央ちゃんのことが好きなのに―――!なんで・・・・響ちゃんなんだよ!?」


俺は、理央ちゃんの手首を力任せに床に押し付け―――


そのまま、強引に口付けた・・・・・。
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