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第15話
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「り~お、一緒に寝よ~~~」
葵さんが床に座っていた理央くんにがばっと抱きつく。
「あー!ちょっとあおちゃん!理央ちゃんにくっつかないでよ!ずるい!」
酔っ払ってテンションの上がってる裕二さんは、さっきから声がバカみたいにでかい。
「近所迷惑ですよ!」
「なんだよ~、伊織、いい子ぶってないでなんか面白いこと言えよ!」
「なんでですか!」
意味わかんないし。
理央くんはさっきからにこにこしながら葵さんにくっついて髪をなでたり、裕二さんのつまんないダジャレに笑ったりしてる。
―――楽しそうだから、いいけど・・・。
急に家を出ると言い出した理央くん。
きっと響さんと何かあったんだろうと思ったけど、詳しくは聞かなかった。
理央くんがカレーを作ってくれてる間、大体のことは裕二さんから聞いたけれど―――
裕二さんも言っていたけど、響さんの考えていることは俺にも理解できない。
理央くんは何も言わないけど、その目が寂しいと言っていた。
理央くんは嘘がつけない人だから。
その全身で『響くんが好き』と言っているのがわかって、俺は切ない・・・・・。
俺が立ち上がると、誰かにズボンのすそを引っ張られる感覚。
見ると、理央くんが俺のズボンのすそを掴んで俺を見上げていた。
「どこ行くの?」
「トイレ」
「・・・・今日、泊って行ける?何も聞いてなかったから・・・・もし用事あるなら―――」
みんなでカレーライスを食べた後、葵さんが買って来てくれたビールを飲んでいたら、いつの間にか日付が変わっていた。
「大丈夫。明日の夕方までは、休みなんだ」
「ほんと?よかった」
そう言ってほっとしたように笑う理央くん。
本当に偶然だったけど、休みでよかった。
相変わらず理央くんにべったりな葵さんと、至近距離で理央くんとおしゃべりしている裕二さんを見て―――
―――この2人と一緒なんて、危険過ぎるでしょ。
と思ったのだった・・・・・。
トイレから出てくると、リビングに理央くんの姿が見えなかった。
「―――理央くん?」
床には、すっかり出来上がった葵さんと裕二さんが転がっていた。
―――どこに行ったんだろう?
きょろきょろしている俺の目に飛び込んできたのは、20センチほどの隙間が開いたベランダへ出る窓だった。
カーテンが風に揺れている。
そのカーテンをそっとめくり、窓を開けて見ると―――
手すりに寄りかかり、夜空を見上げている理央くんがいた。
「―――理央くん」
そばに行くと、理央くんが振り返った。
「伊織・・・・今日は、ありがと」
「いえいえ。こっちこそごちそうさまでした。すごくおいしかった」
「ホント?良かった」
「―――裕二さんとはうまくやっていけそう?」
「うん。裕ちゃんなら大丈夫」
「何かあったらすぐに言ってね。飛んでくるから」
「ふはは、スーパーマンみたい」
楽しそうに笑う理央くんの横顔を見つめる。
―――本当に、そう思ってるんだけどな。
理央くんが悲しむ姿なんて、見たくないんだ・・・・・。
「―――響さんには、知らせないの?」
その名前に、理央くんの顔色が変わる。
「―――手紙を、置いてきた」
「そう・・・。ここのことは?」
理央くんは首を横に振った。
「きょおくんは優しいから―――きっと俺が1人でやっていけるか心配してくれる。きょおくんに会ったら、俺はきっと甘えちゃうから―――だから、しばらくはここにいることは言わない」
「そっか。でも―――響さん、結婚するって言ってるんでしょ?それは・・・いいの?」
「・・・・いいのって?」
「好き・・・・なんでしょ?理央くん。響さんのことが」
理央くんは、夜空の星を見上げた。
「―――好き、だよ」
うふふ、と笑う理央くんの笑顔がせつない。
「きょおくんのこと―――大好きだよ」
「だったら、結婚なんて反対したら―――」
俺の言葉に、理央くんは首を振った。
「―――きょおくんには幸せになって欲しいんだ」
「でも―――」
それじゃあ、理央くんの幸せは?
「きょおくんが幸せなら、俺も幸せだよ」
「そんな・・・・そんな、泣きそうな顔、してるのに?」
理央くんが、下唇をぐっと噛みしめる。
「―――伊織、俺ね・・・・」
「うん?」
「俺、小学生のころ、学校でいじめられててね・・・・・親には言えなくて・・・・・学校に行くふりして、きょおくんに会いに行ったことがあるんだ。きょおくんの通ってる大学に行って、きょおくん探して―――。学校が嫌いだって言って泣いたの。クラス中が俺を嫌ってるから、行きたくないって。その時、きょおくんが言ってくれたんだ。たとえ世界中の人間が俺のことを嫌っても―――俺だけは―――きょおくんだけは、俺のことが好きだよって・・・・」
夜空を見上げる理央くんの瞳から、きれいな涙が零れ落ちた。
「きょおくんのその言葉があったから―――俺、今まで生きて来れたと思ってる。どんなにいじめられても、きょおくんは俺の味方だって。両親が死んだ時も―――きょおくんがいてくれれば、俺は大丈夫って思えた。その言葉を思い出すだけで、俺は幸せだと思えるんだ。だから・・・・今度は、俺がきょおくんの幸せの手助けがしたい。きょおくんのために、何かしたいんだ・・・・・」
そう言って笑う理央くんはとてもきれいで―――
俺は、何も言えなかった。
俺の知らない理央くんと響さんの過ごしてきた時間。
そこに俺が入りこむことはできないんだって、思い知らされてるみたいだった。
「―――そろそろ、寝ようか。俺、ソファー借りていい?」
俺の言葉に、理央くんは首を傾げた。
「いいけど―――ベッドで寝れば?俺の部屋のベッド、セミダブルだし、伊織小柄だから2人いけると思うよ?」
「え・・・・・・は?」
2人いけるって・・・・・
「理央くんと一緒に寝るってこと・・・・?」
「うん。ダメ?」
「だ・・・・ダメでしょ!それは、ダメだって!」
「そう・・・・?俺、そんなに寝相悪くないと思うけど―――」
「いや、そういう問題じゃなくって!」
「ん~、じゃあ、葵と一緒に寝ようかな。伊織、裕ちゃんと寝る?」
「寝ないよ!てか、葵さんともダメだって!」
「なんで?」
きょとんとして俺を見つめる理央くん。
「なんでって・・・・・理央くん、今後、裕二さんに誘われても裕二さんと一緒に寝ちゃダメなんだよ?」
「え?そうなの?なんで?」
・・・・・・わざとじゃ、ないんだよな。
理央くんは、こういう子なんだ・・・・・。
―――やっぱり俺も、ここに住もうかな・・・・・
葵さんが床に座っていた理央くんにがばっと抱きつく。
「あー!ちょっとあおちゃん!理央ちゃんにくっつかないでよ!ずるい!」
酔っ払ってテンションの上がってる裕二さんは、さっきから声がバカみたいにでかい。
「近所迷惑ですよ!」
「なんだよ~、伊織、いい子ぶってないでなんか面白いこと言えよ!」
「なんでですか!」
意味わかんないし。
理央くんはさっきからにこにこしながら葵さんにくっついて髪をなでたり、裕二さんのつまんないダジャレに笑ったりしてる。
―――楽しそうだから、いいけど・・・。
急に家を出ると言い出した理央くん。
きっと響さんと何かあったんだろうと思ったけど、詳しくは聞かなかった。
理央くんがカレーを作ってくれてる間、大体のことは裕二さんから聞いたけれど―――
裕二さんも言っていたけど、響さんの考えていることは俺にも理解できない。
理央くんは何も言わないけど、その目が寂しいと言っていた。
理央くんは嘘がつけない人だから。
その全身で『響くんが好き』と言っているのがわかって、俺は切ない・・・・・。
俺が立ち上がると、誰かにズボンのすそを引っ張られる感覚。
見ると、理央くんが俺のズボンのすそを掴んで俺を見上げていた。
「どこ行くの?」
「トイレ」
「・・・・今日、泊って行ける?何も聞いてなかったから・・・・もし用事あるなら―――」
みんなでカレーライスを食べた後、葵さんが買って来てくれたビールを飲んでいたら、いつの間にか日付が変わっていた。
「大丈夫。明日の夕方までは、休みなんだ」
「ほんと?よかった」
そう言ってほっとしたように笑う理央くん。
本当に偶然だったけど、休みでよかった。
相変わらず理央くんにべったりな葵さんと、至近距離で理央くんとおしゃべりしている裕二さんを見て―――
―――この2人と一緒なんて、危険過ぎるでしょ。
と思ったのだった・・・・・。
トイレから出てくると、リビングに理央くんの姿が見えなかった。
「―――理央くん?」
床には、すっかり出来上がった葵さんと裕二さんが転がっていた。
―――どこに行ったんだろう?
きょろきょろしている俺の目に飛び込んできたのは、20センチほどの隙間が開いたベランダへ出る窓だった。
カーテンが風に揺れている。
そのカーテンをそっとめくり、窓を開けて見ると―――
手すりに寄りかかり、夜空を見上げている理央くんがいた。
「―――理央くん」
そばに行くと、理央くんが振り返った。
「伊織・・・・今日は、ありがと」
「いえいえ。こっちこそごちそうさまでした。すごくおいしかった」
「ホント?良かった」
「―――裕二さんとはうまくやっていけそう?」
「うん。裕ちゃんなら大丈夫」
「何かあったらすぐに言ってね。飛んでくるから」
「ふはは、スーパーマンみたい」
楽しそうに笑う理央くんの横顔を見つめる。
―――本当に、そう思ってるんだけどな。
理央くんが悲しむ姿なんて、見たくないんだ・・・・・。
「―――響さんには、知らせないの?」
その名前に、理央くんの顔色が変わる。
「―――手紙を、置いてきた」
「そう・・・。ここのことは?」
理央くんは首を横に振った。
「きょおくんは優しいから―――きっと俺が1人でやっていけるか心配してくれる。きょおくんに会ったら、俺はきっと甘えちゃうから―――だから、しばらくはここにいることは言わない」
「そっか。でも―――響さん、結婚するって言ってるんでしょ?それは・・・いいの?」
「・・・・いいのって?」
「好き・・・・なんでしょ?理央くん。響さんのことが」
理央くんは、夜空の星を見上げた。
「―――好き、だよ」
うふふ、と笑う理央くんの笑顔がせつない。
「きょおくんのこと―――大好きだよ」
「だったら、結婚なんて反対したら―――」
俺の言葉に、理央くんは首を振った。
「―――きょおくんには幸せになって欲しいんだ」
「でも―――」
それじゃあ、理央くんの幸せは?
「きょおくんが幸せなら、俺も幸せだよ」
「そんな・・・・そんな、泣きそうな顔、してるのに?」
理央くんが、下唇をぐっと噛みしめる。
「―――伊織、俺ね・・・・」
「うん?」
「俺、小学生のころ、学校でいじめられててね・・・・・親には言えなくて・・・・・学校に行くふりして、きょおくんに会いに行ったことがあるんだ。きょおくんの通ってる大学に行って、きょおくん探して―――。学校が嫌いだって言って泣いたの。クラス中が俺を嫌ってるから、行きたくないって。その時、きょおくんが言ってくれたんだ。たとえ世界中の人間が俺のことを嫌っても―――俺だけは―――きょおくんだけは、俺のことが好きだよって・・・・」
夜空を見上げる理央くんの瞳から、きれいな涙が零れ落ちた。
「きょおくんのその言葉があったから―――俺、今まで生きて来れたと思ってる。どんなにいじめられても、きょおくんは俺の味方だって。両親が死んだ時も―――きょおくんがいてくれれば、俺は大丈夫って思えた。その言葉を思い出すだけで、俺は幸せだと思えるんだ。だから・・・・今度は、俺がきょおくんの幸せの手助けがしたい。きょおくんのために、何かしたいんだ・・・・・」
そう言って笑う理央くんはとてもきれいで―――
俺は、何も言えなかった。
俺の知らない理央くんと響さんの過ごしてきた時間。
そこに俺が入りこむことはできないんだって、思い知らされてるみたいだった。
「―――そろそろ、寝ようか。俺、ソファー借りていい?」
俺の言葉に、理央くんは首を傾げた。
「いいけど―――ベッドで寝れば?俺の部屋のベッド、セミダブルだし、伊織小柄だから2人いけると思うよ?」
「え・・・・・・は?」
2人いけるって・・・・・
「理央くんと一緒に寝るってこと・・・・?」
「うん。ダメ?」
「だ・・・・ダメでしょ!それは、ダメだって!」
「そう・・・・?俺、そんなに寝相悪くないと思うけど―――」
「いや、そういう問題じゃなくって!」
「ん~、じゃあ、葵と一緒に寝ようかな。伊織、裕ちゃんと寝る?」
「寝ないよ!てか、葵さんともダメだって!」
「なんで?」
きょとんとして俺を見つめる理央くん。
「なんでって・・・・・理央くん、今後、裕二さんに誘われても裕二さんと一緒に寝ちゃダメなんだよ?」
「え?そうなの?なんで?」
・・・・・・わざとじゃ、ないんだよな。
理央くんは、こういう子なんだ・・・・・。
―――やっぱり俺も、ここに住もうかな・・・・・
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