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第7話

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『パタン』

理央の部屋の扉が開く音がした。

―――喉がかわいたのかな。

理央は、よく夜中に起きて水を飲む。

音をたてないように気をつけてるから俺も気付かないで寝ていることが多いけど、今日は違った。

なかなか眠れなくて、ベッドに横になったものの、ずっと起きていたのだ。


葵くんが、理央にべたべたと触れるのが嫌だった。

理央が葵くんに優しくするのがむかついた。

俺って心の狭い男だよな。

そう自己嫌悪に陥って、何度目かの重い溜息をついた。

葵くんが悪いわけじゃない。

そんなこと、わかってるのに・・・・・



なかなか戻る気配のない理央が気になり、俺はそっと体を起こし、部屋を出た。

そっとリビングを覗くと、理央が葵くんに毛布をかけ直してやっているところだった。

豪快に腕と足を投げ出しているのが見えるから、きっと毛布が落ちてしまっていたのだろう。


「・・・・・理央?」

葵くんが気付いたようだ。

「あ、ごめん、起こしちゃったね」

「ん―ん。ありがとね」

葵くんの言葉に、理央がにっこりと笑った。

「おやすみ」

「うん―――あ、理央」

葵くんが、行こうとした理央の手を掴んだ。

「ん?」

「今度、また釣りに行こうな」

「うん!楽しみにしてる」

「んふふ・・・・おやすみ」


理央がこっちにやってくるのが見えて、俺は咄嗟にキッチンの中に入った。

―――別に、隠れる必要なんかないんだけど・・・・・

理央が自分の部屋へ入ったのを確認し、俺はキッチンを出た。

リビングを覗くと、葵くんがちょうどソファーに起き上ったところだった。

「―――響くん、いたんだ」

「・・・ちょっと、喉かわいて」

「そっか。俺、トイレ」

そう言って立ち上がる葵くん。

リビングを出ようとして、ふと立ち止まる。

「―――今日、ごめんね。無理やり泊らせてもらっちゃって」

「いや、別に・・・・」

「でもなんか、いいもん見れた」

「え?」

葵くんが、にやりと笑った。

「俺にヤキモチ妬く、響くん。顔と声が、めちゃめちゃ怖かったよ」

くすくすと楽しそうに笑うく葵んに、俺は顔が赤くなるのを感じて手で口を覆った。

「べ―――別に、俺は―――」

「ムカついてたでしょ?俺に。意外とわかりやすいよね。理央は気付いてないけど・・・・」

「葵くん―――」

「理央に触れられる俺が、羨ましかったんじゃない?」

「葵くん!俺は―――」

「うはは―――俺ね、理央のこと大好きだけど―――でも、響くんも大事な友達だから。だから、2人に嫌われるようなことはしないよ」

そう言って、葵くんは優しい目を俺に向けた。

「でもあんまり意地張ってると、俺もちょっと意地悪したくなるかもね」

「え・・・・・」

楽しそうに笑う葵くん。

「理央を好きな気持ちは、本当だからね。響くんがぐずぐずしてると我慢できなくなっちゃうかも。理央の悲しむ姿は見たくないからね」

―――そんなの、俺だって・・・・・

「じゃ、おやすみ」

そう言って、葵くんはリビングを出て行った。




理央の悲しむ姿は、俺だって見たくない・・・・

だけど・・・・

最近の俺は、あいつを傷つけてばかりいるような気がする。

理央に対する気持ちを、自分でどう処理したらいいのかわからない。

昔と変わらず俺に笑顔を向けるあいつに、俺は素直になることができない。

もっと理央に優しくしたいのに・・・・・。



翌日、理央が部屋を出る音でまた目を覚ました。

今日は日曜日で、理央もバイトは休みのはずだけど―――


「―――あ、きょおくん、ごめん。うるさかった?」

洗面所に行くと、理央が顔を洗っているところだった。

「いや・・・・どっか行くのか?まだ8時だけど」

「うん、昨日行ったオーディションのところ―――」

「え?もう連絡来たの?」

「うん、なんか、もう1回見たいから来てくれって」

―――それは・・・ひょっとしたら、ひょっとするのか?

「そっか・・・・。うまくいくといいな」

本気で、そう思った。

今までよりも、理央がやる気になっているように感じたそのオーディションで、理央の新しい仕事が決まればいいと。

新しい可能性が見つかるといいと、そう思っていた。

俺の言葉に、理央は一瞬呆けたように口を開け―――

それから、嬉しそうに、本当に嬉しそうに輝くような笑顔を見せた。

「うん!きょおくん、ありがとう!」

「え、いや・・・・俺は・・・・」

素直な理央の笑顔に、俺は動揺した。

ドキドキして、うまくその顔が見れない。

理央の笑顔は、俺には眩し過ぎて・・・・・

そのきれいな顔に、華奢な体に、手を伸ばしたくなる。

でも―――

俺は、ぎゅっと拳を握りしめた。


その体に触れてしまったら、もう戻れなくなる気がして・・・・・


その先には何があるのか


俺は、それを考えるのが怖かった・・・・・。
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