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第2話
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「お疲れ様で~す!」
事務所に入っていくと、ちょうどエレベーターから出てきた顔見知りのスタッフと目が合う。
「おー!珍しいな、売れっ子!今日はどうした?」
「あはは、やめてよその呼び方!いや、今日は理央ちゃんも来るって言ってたからさ」
俺の言葉に、スタッフの顔色がちょっと曇った。
「ああ・・・・来てたよ、有村。今社長と話してる」
「社長と・・・・・?」
心配になって、俺は早々に話を切り上げエレベーターに乗り込んだ。
「あ、藤田さん、お疲れ様です。すごいですね~、今月の表紙、3誌も!」
「あのさ、理央ちゃんは?」
女の子のスタッフが、ちらりと社長室に視線を送った。
「ああ・・・・今、社長とお話してます。有村さん、今月も仕事があまりなくて・・・・」
「そうなの・・・・?」
「はい・・・・あ、でも、ドラマのオーディションの話があるって聞きましたよ」
「ドラマ?理央ちゃん、俳優になるの?」
「わかりませんけど・・・・でも、モデルだけでやっていくにはもう厳しいんじゃないかって。有村さん、ルックスはいいんですけど、モデルとしては背が―――」
女の子がわけしり顔でペラペラしゃべってると、社長室から理央ちゃんが出てきた。
「理央ちゃん!」
俺の声に理央ちゃんが気付いて、にっこりと笑う。
「裕ちゃん!」
理央ちゃんと会うのも久しぶりだ。
雑誌などの撮影現場でも、あまり一緒にならなくなってしまったから・・・・・。
「はい、理央ちゃん、たこ焼き」
近くの公園のベンチで待っている理央ちゃんに、事務所の近くで買ってきたたこ焼きを渡す。
「ありがと。裕ちゃん、コーラでよかった?」
理央ちゃんは持っていたペットボトルの1つを俺にくれた。
「サンキュ―。・・・・オーディションの話があるんだって?」
「うん・・・・ドラマだって。俺、芝居とかしたことないんだけど」
「大丈夫だよ、理央ちゃんなら!がんばって!」
俺の言葉に、理央ちゃんはにっこりと笑う。
「うん、ありがと。裕ちゃんに言われると、大丈夫な気がする」
ふわりと微笑む理央ちゃんは、天使みたいだった。
理央ちゃんとは5年前に知り合った。
モデルとして行った撮影現場にいた理央ちゃんは、女の子みたいに可愛かった。
モデルとしてはちょっと小柄だったけど、端正な顔立ちとスタイルの良さ、何よりもその華やかなオーラで誰よりも光り輝いていた。
そして、見た目はちょっと近づきにくい雰囲気を持っているのに、本当は人懐こくてすごくさびしがり屋な子なんだ。
それがわかってから、俺と理央ちゃんは親友になった。
他のモデルたちみたいにがつがつしたところのない、無邪気な理央ちゃんが俺は大好きだった。
俺たちの関係は、たとえ仕事で会えなくなったって変わらないよね・・・・・。
「裕ちゃんののってる雑誌、見たよ。超かっこいいね」
「そう?理央ちゃんに言われると嬉しいなあ」
「みんな言ってるよ。俺、裕ちゃんが褒められるとすげえ嬉しい」
「・・・・俺は、理央ちゃんに褒められると嬉しいよ」
そう言って理央ちゃんを見つめると、理央ちゃんは無邪気に微笑んだ。
「たこ焼き、おいしいね」
・・・・・ホント、無邪気だよね・・・・
「ん・・・・・おいしいね。このコーラも」
「うん、おいしい。―――あ、猫、裕ちゃん、猫いるよ」
袖をくいくい引っ張る理央ちゃんにつられ木の上を見ると、枝の上に三毛猫が寝ていた。
「ほんとだ」
「降りて来ないかなぁ」
立ち上がって木に近付く理央ちゃん。
「おいで~、たこ焼きあげるよ~。カツオブシもかかってるよ~」
木の下で背伸びしながら猫に話しかける理央ちゃんは超絶可愛い。
でも残念。
猫は降りて来ない。
「理央ちゃん、猫に好かれないんじゃなかったっけ」
本人は動物大好きなのに、どうしてだか好かれなくて、いつも引っ掻かれるって前に言ってた。
「―――たまには、俺になついてくれる物好きな猫がいてもいいのに・・・・・」
そう言ってしゃがみこむ理央ちゃんは寂しそうだった。
―――何かあったのかな・・・・・。
「理央ちゃん・・・・響ちゃんと何かあったの?」
俺の言葉に、理央ちゃんの体がピクリと震えた。
―――ビンゴ
理央ちゃんは本当にわかりやすい。
だから、理央ちゃんがずっと前から響ちゃんに片思いしてることも知ってる。
モデルになったばかりの頃はよく理央ちゃんの家に遊びに行っていたので、響ちゃんともよく顔を合わせていた。
爽やかなイケメンで、俺にも気さくに話しかけてくれる響ちゃんは、男から見てもかっこいいと思う。
勿論女にももててた。
結婚の約束までした彼女がいたけど、いつの間にか別れてたっけ。
その話を理央ちゃんに聞こうとすると、理央ちゃんはすごく悲しそうな顔をする。
だから、詳しいことは知らなかった。
最近は、俺も忙しくてなかなか理央ちゃんの家へ行く時間がないから、響ちゃんとも会っていない。
2人の間に、何かあったのか・・・・?
「理央ちゃん、こっち来て一緒に食べようよ」
なるべく明るく声をかけると、理央ちゃんは立ち上がり、たこ焼きを両手でしっかり持ったままてくてくと俺の方へ歩いてきた。
そしてまた俺の隣に座ると、『ん』っと、たこ焼きを俺の膝に乗せた。
「え、もういらないの?まだ半分残ってるよ?」
「もうお腹いっぱい。裕ちゃん、食べて」
そういえば、理央ちゃんて恐ろしく少食だったっけ・・・・。
俺がたこ焼きを食べている間、理央ちゃんはコーラを飲みながら木の上の猫を眺めていた。
「理央ちゃん・・・・・言いたくなかったらいいけど、響ちゃんと何があったの?」
その言葉に理央ちゃんは下を向き、きゅっと唇を噛んだ。
長い睫毛が揺れてきれいだった。
「俺・・・・1人立ち、するんだ」
「え・・・・響ちゃんの家、出るの?いつ?」
「わかんない」
「ええ?決まってないの?」
「うん」
響ちゃんに、何か言われたのかな・・・・・?
「でも・・・・理央ちゃんは、出たくないんじゃないの?あの家」
「・・・・・でも、出るの。でなきゃ、ダメなの。今すぐは無理だけど、ちゃんと仕事が決まったら・・・・」
そう言う理央ちゃんの顔は
今にも、泣きだしそうに見えた・・・・・。
事務所に入っていくと、ちょうどエレベーターから出てきた顔見知りのスタッフと目が合う。
「おー!珍しいな、売れっ子!今日はどうした?」
「あはは、やめてよその呼び方!いや、今日は理央ちゃんも来るって言ってたからさ」
俺の言葉に、スタッフの顔色がちょっと曇った。
「ああ・・・・来てたよ、有村。今社長と話してる」
「社長と・・・・・?」
心配になって、俺は早々に話を切り上げエレベーターに乗り込んだ。
「あ、藤田さん、お疲れ様です。すごいですね~、今月の表紙、3誌も!」
「あのさ、理央ちゃんは?」
女の子のスタッフが、ちらりと社長室に視線を送った。
「ああ・・・・今、社長とお話してます。有村さん、今月も仕事があまりなくて・・・・」
「そうなの・・・・?」
「はい・・・・あ、でも、ドラマのオーディションの話があるって聞きましたよ」
「ドラマ?理央ちゃん、俳優になるの?」
「わかりませんけど・・・・でも、モデルだけでやっていくにはもう厳しいんじゃないかって。有村さん、ルックスはいいんですけど、モデルとしては背が―――」
女の子がわけしり顔でペラペラしゃべってると、社長室から理央ちゃんが出てきた。
「理央ちゃん!」
俺の声に理央ちゃんが気付いて、にっこりと笑う。
「裕ちゃん!」
理央ちゃんと会うのも久しぶりだ。
雑誌などの撮影現場でも、あまり一緒にならなくなってしまったから・・・・・。
「はい、理央ちゃん、たこ焼き」
近くの公園のベンチで待っている理央ちゃんに、事務所の近くで買ってきたたこ焼きを渡す。
「ありがと。裕ちゃん、コーラでよかった?」
理央ちゃんは持っていたペットボトルの1つを俺にくれた。
「サンキュ―。・・・・オーディションの話があるんだって?」
「うん・・・・ドラマだって。俺、芝居とかしたことないんだけど」
「大丈夫だよ、理央ちゃんなら!がんばって!」
俺の言葉に、理央ちゃんはにっこりと笑う。
「うん、ありがと。裕ちゃんに言われると、大丈夫な気がする」
ふわりと微笑む理央ちゃんは、天使みたいだった。
理央ちゃんとは5年前に知り合った。
モデルとして行った撮影現場にいた理央ちゃんは、女の子みたいに可愛かった。
モデルとしてはちょっと小柄だったけど、端正な顔立ちとスタイルの良さ、何よりもその華やかなオーラで誰よりも光り輝いていた。
そして、見た目はちょっと近づきにくい雰囲気を持っているのに、本当は人懐こくてすごくさびしがり屋な子なんだ。
それがわかってから、俺と理央ちゃんは親友になった。
他のモデルたちみたいにがつがつしたところのない、無邪気な理央ちゃんが俺は大好きだった。
俺たちの関係は、たとえ仕事で会えなくなったって変わらないよね・・・・・。
「裕ちゃんののってる雑誌、見たよ。超かっこいいね」
「そう?理央ちゃんに言われると嬉しいなあ」
「みんな言ってるよ。俺、裕ちゃんが褒められるとすげえ嬉しい」
「・・・・俺は、理央ちゃんに褒められると嬉しいよ」
そう言って理央ちゃんを見つめると、理央ちゃんは無邪気に微笑んだ。
「たこ焼き、おいしいね」
・・・・・ホント、無邪気だよね・・・・
「ん・・・・・おいしいね。このコーラも」
「うん、おいしい。―――あ、猫、裕ちゃん、猫いるよ」
袖をくいくい引っ張る理央ちゃんにつられ木の上を見ると、枝の上に三毛猫が寝ていた。
「ほんとだ」
「降りて来ないかなぁ」
立ち上がって木に近付く理央ちゃん。
「おいで~、たこ焼きあげるよ~。カツオブシもかかってるよ~」
木の下で背伸びしながら猫に話しかける理央ちゃんは超絶可愛い。
でも残念。
猫は降りて来ない。
「理央ちゃん、猫に好かれないんじゃなかったっけ」
本人は動物大好きなのに、どうしてだか好かれなくて、いつも引っ掻かれるって前に言ってた。
「―――たまには、俺になついてくれる物好きな猫がいてもいいのに・・・・・」
そう言ってしゃがみこむ理央ちゃんは寂しそうだった。
―――何かあったのかな・・・・・。
「理央ちゃん・・・・響ちゃんと何かあったの?」
俺の言葉に、理央ちゃんの体がピクリと震えた。
―――ビンゴ
理央ちゃんは本当にわかりやすい。
だから、理央ちゃんがずっと前から響ちゃんに片思いしてることも知ってる。
モデルになったばかりの頃はよく理央ちゃんの家に遊びに行っていたので、響ちゃんともよく顔を合わせていた。
爽やかなイケメンで、俺にも気さくに話しかけてくれる響ちゃんは、男から見てもかっこいいと思う。
勿論女にももててた。
結婚の約束までした彼女がいたけど、いつの間にか別れてたっけ。
その話を理央ちゃんに聞こうとすると、理央ちゃんはすごく悲しそうな顔をする。
だから、詳しいことは知らなかった。
最近は、俺も忙しくてなかなか理央ちゃんの家へ行く時間がないから、響ちゃんとも会っていない。
2人の間に、何かあったのか・・・・?
「理央ちゃん、こっち来て一緒に食べようよ」
なるべく明るく声をかけると、理央ちゃんは立ち上がり、たこ焼きを両手でしっかり持ったままてくてくと俺の方へ歩いてきた。
そしてまた俺の隣に座ると、『ん』っと、たこ焼きを俺の膝に乗せた。
「え、もういらないの?まだ半分残ってるよ?」
「もうお腹いっぱい。裕ちゃん、食べて」
そういえば、理央ちゃんて恐ろしく少食だったっけ・・・・。
俺がたこ焼きを食べている間、理央ちゃんはコーラを飲みながら木の上の猫を眺めていた。
「理央ちゃん・・・・・言いたくなかったらいいけど、響ちゃんと何があったの?」
その言葉に理央ちゃんは下を向き、きゅっと唇を噛んだ。
長い睫毛が揺れてきれいだった。
「俺・・・・1人立ち、するんだ」
「え・・・・響ちゃんの家、出るの?いつ?」
「わかんない」
「ええ?決まってないの?」
「うん」
響ちゃんに、何か言われたのかな・・・・・?
「でも・・・・理央ちゃんは、出たくないんじゃないの?あの家」
「・・・・・でも、出るの。でなきゃ、ダメなの。今すぐは無理だけど、ちゃんと仕事が決まったら・・・・」
そう言う理央ちゃんの顔は
今にも、泣きだしそうに見えた・・・・・。
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