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俺の天使(最終話)
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「はっしー!本当にありがとう!それで、本当にごめん!」
その日の仕事が終わり、自宅へ帰った俺を待っていたのは能天気に頭の中でお花を咲かせてそうな龍斗さんだった。
「・・・で、うまく行ったわけ?」
「うん!あのね、雅も俺が好きだって!すげえ可愛いんだよ、雅!」
「・・・よかったですね。悪いけど俺、今日は疲れてるんでのろけはまた明日にして」
「あ、待ってよ!ね、本当にごめんて!俺、本当に反省してるんだよ!で、一緒に飲もうと思って、ビール買ってきた!」
なるほど、龍斗さんの両手にはいったいどんだけ飲むんだという量の缶ビールが入ったスーパーの袋が下げられていた。
「・・・野郎2人で飲んだってつまんないでしょ。あなたの愛しの『雅』くんと飲めば」
「だって、雅仕事だもん。ねぇ、飲もうよ、おつまみ作るからさ!」
「・・・・・」
龍斗さんは、こう見えて意外とマメだったりする。
俺の家に来るときは必ず手土産持ってくるし、家にあるもので適当におつまみを作ったりもしてくれる。
味はともかく、そういう気遣いができるという点ではとてもいい友達だと思う。
結局俺が1人暮らししているアパートの1室に上がり込んだ龍斗さんは、鼻歌なんか歌いながらおつまみを作ってくれた。
「・・・・まぁ、いい子だよね、雅くんは」
「でしょ?超いい子なんだよ」
ビールを缶のまま乾杯し、龍斗さんの作ってくれたおいしいけれど得体のしれないおつまみをつまみながら飲んでいる。
「だから、余計不思議だよね」
「え~、何が?」
「なんで龍斗さんを好きになったんだろ」
「あ、なんだよそれぇ!そりゃあさ、優しくってかっこいい龍斗くんに・・・」
「自分で言うか。だってさぁ、雅くんの傍には爽やかなイケメンのお兄さんもいるし、才能あふれる画家の田村さんなんかもいるわけじゃない。なのになんで龍斗さん?」
「う・・・・それは・・・・」
「ただのペットショップの店長だぜ?頭も悪いしさぁ、強いて言えば、明るいってとこ?」
「そう!そうだよ!はっしー、いいこと言う!」
「いいことって・・・まあ、そういうポジティブなところとかね」
龍斗さんのいいところ。
まぁ、少なくとも人に嫌われるような性格ではないとは思うけどね。
「あ、でもそれ、あるかもなぁ」
「それってどれよ」
「だからさ、俺がポジティブってやつ。雅ってさ、あんなにイケメンなのにまるっきり自分に自信がないみたいなんだよね」
「あ~・・・そうだね。あれかな。お兄さんが優秀すぎてコンプレックス感じちゃってるタイプなのかな、雅くんは」
お兄さんに対して素直な態度の雅くん。
そして、どちらかというと田村さんに対しての方がいいたいことを言っているように見える。
どちらも雅くんを溺愛していることは傍から見てもわかるのだけれど、本人にはわかっているのかどうか・・・。
「でもさぁ、なんではっしーが『雅くん』っていうの?」
「はぁ?」
「だって、ずっと桜庭さんって呼んでたじゃん!なんで俺が『雅』って呼んでるからってはっしーまで『雅くん』っていうのさ」
「そりゃあ、龍斗さんのものは俺のものだからでしょうが」
「うわ、何言っちゃってんだよ!雅はダメ!雅は俺のだからね!いくらはっしーが親友でも雅だけはあげないからね!」
ムキになって前のめりに言う龍斗さんを見て、苦笑する。
たぶん、こんなところだろうな。
自分の気持ちを体全体で表現する龍斗さん。
こんなふうに好きになられたらきっと嬉しい。
自分に自信のない雅くんだからきっと、龍斗さんの好意が本当にダイレクトに伝わって嬉しかったのかもしれない。
そして、兄の旭さんとも幼馴染で家族同然の田村さんとも違う存在。
そんな龍斗さんに、雅くんは恋をした。
幼馴染の恋が成就して嬉しい気持ちと、さみしい気持ち。
それからちょっとの胸の痛み。
柴犬に向けられた彼の笑顔が可愛いと思ったのは、龍斗さんだけじゃなかったんだけどね・・・・。
「あさひくん」
「ダメだ」
小首を傾げて舌足らずな声で俺を呼ぶ雅に、俺は話を聞く前にそれを遮る。
むっと口を尖らせる雅。
だって、こんなときはたいてい俺が喜ぶような話じゃないんだ。
そんなかわいい声出したってダメなんだってことを、わからせないと!
「・・・まだ何も言ってない」
「聞かなくたってわかる。どうせ、いい話じゃないんだろ?」
「そんなことないよ!」
「いいやあるね!」
「ないってば!とにかく聞いてよ!」
「いやだ!」
「聞いてってば!」
「いやだってば!」
「旭くんのわからずや!」
「―――何してんの?2人とも」
気付けば、いつの間にか仁くんがカウンターに座って頬杖をつきこちらを見ていた。
「仁!聞いてよ!」
「ん?どうした?」
「仁くん、甘やかさないで!」
「いや、聞くだけ聞こうよ、旭くん」
「仁優しい!大好き!」
「んふふ」
「・・・・まったくもう・・・・」
本当に、この人は雅に甘いんだから。
「で?どうした?」
「あのね、俺、龍斗くんと付き合うことになったよ!」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「今日、龍くんの家に行ったんだ。そしたら、龍くんに好きだって言われた。だから、俺も好きって―――」
「仁くん、どうしてくれるの」
「・・・すまん」
俺の言葉に、頭を抱える仁くん。
雅はきょとんとした表情で俺たちを見ている。
「ね、仁、仁も園原くんはいい人そうって言ってたじゃん。園原くん―――龍くんて、本当に超いい人なんだよ!」
「いい人・・・だから付き合うの?いい人だから好きなの?」
「え・・・」
「だったら、俺と付き合ってよ」
「・・・仁と?」
「うん。俺のことだって、好きでしょ?」
「好きだけど・・・」
「仁くん!話の論点が違う!」
「だって、俺だって雅のことが好きなのに。なんで園原くんなの」
仁くんがむっと顔を顰める。
雅は戸惑ったように俺と仁くんの顔を交互に見つめていたけれど・・・
「俺、仁のこと好きだけど・・・・でもその好きと、龍くんの好きは違う、と思う」
「・・・どう違うの?」
「仁のことは、昔からずっと好き。旭くんと同じ、ずっと変わらない好き。会えなくなっても変わらない好き。10年後も20年後も変わらないって思える好き。でも龍くんは・・・・どんどん、好きになる。初めて会った時から、会うたびに、話すたびに、好きになる。昨日よりも、今日の方がもっと好き。さっきよりも、今の方がもっと好き。こんなふうに人を好きになったのは、初めてなんだ」
ゆっくり、自分の中の気持ちを確認するみたいにそう話す雅の目はまっすぐで・・・・
どこまでも澄んだその瞳に、俺の胸は苦しくなる。
たぶん、仁くんも同じ気持ちだったと思う。
微かに寄せられた眉と、切なげに伏せられた瞳がそれを物語っていた。
「・・・・俺が・・・・俺と旭くんが反対しても・・・・園原くんと付き合うの?もう、決めたの?」
「・・・反対なの?2人は」
そう言って、雅は俺の顔を見た。
「・・・お前の気持ちは、わかったよ。本当に園原くんが好きなんだって気持ちは。でも・・・男同士が付き合うって、そんなに簡単じゃないだろ?お前が前に付き合ってた女みたいに、それを気持ち悪いっていうやつもいる。そう言われても、平気か?それでもずっと園原くんを好きでいられる自信はあるのか?」
「うん」
「・・・即答かよ。そんなに、好きになる要素があんのか?いい人だから?」
「・・・わかんない。いい人だから好きになったのかどうかは・・・・。気付いたら、すごく好きだったから。でも・・・自信はあるよ。周りになんて言われたって好きでいる自信は。でも・・・・2人が反対するなら・・・考える」
意外なその言葉に、俺は仁くんと顔を見合わせる。
「え、俺らが反対したら付き合わないの?」
「そんなもんなのか?お前の気持ちは」
「違うよ!龍くんを好きなのは本当!すごく付き合いたいよ!でも・・・・旭くんと仁に反対されても付き合うのは・・・・なんかやだ」
「やだって・・・・」
「俺、2人にはわかってもらいたいんだ。他の人になんて言われても・・・・2人には、ちゃんと認めて欲しい。ちゃんと認めてもらってから・・・付き合いたい。龍くんのことは好きだけど・・・・でもそれで、2人と喧嘩するのは・・・いやだ」
雅の瞳は、涙で潤んでいた。
「俺、わがまま?これじゃ、ダメ?龍くんと付き合えない・・・・?でも・・・・旭くんも仁も、龍くんも・・・・みんな失いたくないよ」
好きなんだよ、みんな。
それぞれ、意味は違くても・・・
雅の純粋な、それでいて頑固な気持ちが伝わってくる。
好きなものを失いたくない。
それが雅の正直な気持ちだ。
俺は大きな溜息をついた。
仁くんは完全にふてくされている。
だけど何も言わないのは、たぶん俺と同じ気持ちだからだ。
「・・・雅」
「ん・・・?」
「お前は、ずるいな」
「え・・・・」
「俺も仁くんも、お前に泣かれるのが一番弱いってわかってるだろうが」
「・・・泣いてない」
「その目は、泣いてるだろうが。まぁ・・・泣かれてもダメなもんはダメだけど」
「旭くん・・・」
「そういう目で見んな!ダメなもんはダメだけど!でも、お前が本気で好きだって言うなら・・・・付き合うのは反対しねえよ」
「ほ・・・んとに・・・・?」
「あぁ。ただし、お前のことを泣かせるようなら即刻別れさせるからな」
「旭くん、それは園原くんに言わねえと」
「そうだよ!今度、ここに連れて来ていい?龍くん1人暮らしだから、ごはんとか食べさせてあげたいんだ」
えへへと恥ずかしそうに笑う雅が可愛くて、ますます園原が憎たらしくなる。
「―――わかった。じゃあ今度連れてこい。じっくり話聞いてやる」
「旭くんこわっ」
「旭くん、龍くんのこといじめないでね」
「・・・あいつ次第だろ、それは。今後のことも全部・・・大事な、お前を任せるんだからな」
「・・・うん。ありがと、旭くん」
嬉しそうに笑う雅に、やっぱり少しの胸の痛み。
かわいい弟の、本気の恋。
100%応援はできないけど、俺と仁くんがずっと雅の味方であることは確実だ。
まずはお手並み拝見・・・
覚悟しとけよ?ってとこか。
「いや、雅ちゃん、それ怖いって!」
翌日、柴犬を見に来た雅の話に、俺はぞっとする。
「え~、なんで~?」
俺の抱き抱える柴犬の頭をぐりぐりと撫でながら、雅はニコニコとのんきに笑っている。
「だって2対1じゃん!絶対俺の方が分が悪いよ!」
「そんなことないよぉ、俺がいるじゃん」
「でもさぁ・・・・超怖いよ、あの2人」
「じゃあさ、はっしーにも来てもらおうよ」
「え・・・てか、なんではっしー呼び?」
昨日まで、『橋本くん』だったのに。
「龍くんがはっしーって言ってるから。はっしーもいいって言ってくれたもん」
「そりゃ言うでしょ、はっしーは」
「ね、はっしー、はっしーも仕事終わったらうちの店おいでよ。ごはん作って待ってるから」
品出しを終えたはっしーが戻ってくると、雅がそう言った。
「いいよ、もちろん。雅くんの作ってくれるご飯、おいしいから」
「んふふ、ありがと」
はっしーが俺には見せない優しい笑顔を雅に向ける。
・・・なんか面白くないんだけど!
「雅ちゃん、浮気はダメだよ」
「ふはは、なに浮気って」
「てか、なんであなた雅ちゃん呼びなんですか。昨日は『雅』って呼び捨てしてたのに」
「・・・お兄さんに怒られそうじゃん」
「なるほど、お兄さん対策ですか」
「え~、旭くんそんなに怖くないよぉ」
怖いよ!ものすっごく!
俺に向けられるあの冷ややかな視線は、もう背筋が凍りつくほど怖いんだから!
でも、俺も負けない!
だって、雅と一緒にいたいから。
この恋は、諦められないから。
「・・・・雅ちゃん!」
「ん?」
「・・・ずっと、好きだからね!」
気合を入れてそう宣言すると、雅の頬が赤く染まる。
そして、嬉しそうな満面の笑み。
「俺も、大好きだよ、龍くん」
店の中で、手に手を取り合う俺たちの周りだけ、春のようで。
はっしーの呆れた視線は無視。
これから迫りくる怖い2人のお目付け役のことは今は忘れて。
目の前の、かわいい俺の天使のことだけ、今は見つめてたいんだ・・・・。
その日の仕事が終わり、自宅へ帰った俺を待っていたのは能天気に頭の中でお花を咲かせてそうな龍斗さんだった。
「・・・で、うまく行ったわけ?」
「うん!あのね、雅も俺が好きだって!すげえ可愛いんだよ、雅!」
「・・・よかったですね。悪いけど俺、今日は疲れてるんでのろけはまた明日にして」
「あ、待ってよ!ね、本当にごめんて!俺、本当に反省してるんだよ!で、一緒に飲もうと思って、ビール買ってきた!」
なるほど、龍斗さんの両手にはいったいどんだけ飲むんだという量の缶ビールが入ったスーパーの袋が下げられていた。
「・・・野郎2人で飲んだってつまんないでしょ。あなたの愛しの『雅』くんと飲めば」
「だって、雅仕事だもん。ねぇ、飲もうよ、おつまみ作るからさ!」
「・・・・・」
龍斗さんは、こう見えて意外とマメだったりする。
俺の家に来るときは必ず手土産持ってくるし、家にあるもので適当におつまみを作ったりもしてくれる。
味はともかく、そういう気遣いができるという点ではとてもいい友達だと思う。
結局俺が1人暮らししているアパートの1室に上がり込んだ龍斗さんは、鼻歌なんか歌いながらおつまみを作ってくれた。
「・・・・まぁ、いい子だよね、雅くんは」
「でしょ?超いい子なんだよ」
ビールを缶のまま乾杯し、龍斗さんの作ってくれたおいしいけれど得体のしれないおつまみをつまみながら飲んでいる。
「だから、余計不思議だよね」
「え~、何が?」
「なんで龍斗さんを好きになったんだろ」
「あ、なんだよそれぇ!そりゃあさ、優しくってかっこいい龍斗くんに・・・」
「自分で言うか。だってさぁ、雅くんの傍には爽やかなイケメンのお兄さんもいるし、才能あふれる画家の田村さんなんかもいるわけじゃない。なのになんで龍斗さん?」
「う・・・・それは・・・・」
「ただのペットショップの店長だぜ?頭も悪いしさぁ、強いて言えば、明るいってとこ?」
「そう!そうだよ!はっしー、いいこと言う!」
「いいことって・・・まあ、そういうポジティブなところとかね」
龍斗さんのいいところ。
まぁ、少なくとも人に嫌われるような性格ではないとは思うけどね。
「あ、でもそれ、あるかもなぁ」
「それってどれよ」
「だからさ、俺がポジティブってやつ。雅ってさ、あんなにイケメンなのにまるっきり自分に自信がないみたいなんだよね」
「あ~・・・そうだね。あれかな。お兄さんが優秀すぎてコンプレックス感じちゃってるタイプなのかな、雅くんは」
お兄さんに対して素直な態度の雅くん。
そして、どちらかというと田村さんに対しての方がいいたいことを言っているように見える。
どちらも雅くんを溺愛していることは傍から見てもわかるのだけれど、本人にはわかっているのかどうか・・・。
「でもさぁ、なんではっしーが『雅くん』っていうの?」
「はぁ?」
「だって、ずっと桜庭さんって呼んでたじゃん!なんで俺が『雅』って呼んでるからってはっしーまで『雅くん』っていうのさ」
「そりゃあ、龍斗さんのものは俺のものだからでしょうが」
「うわ、何言っちゃってんだよ!雅はダメ!雅は俺のだからね!いくらはっしーが親友でも雅だけはあげないからね!」
ムキになって前のめりに言う龍斗さんを見て、苦笑する。
たぶん、こんなところだろうな。
自分の気持ちを体全体で表現する龍斗さん。
こんなふうに好きになられたらきっと嬉しい。
自分に自信のない雅くんだからきっと、龍斗さんの好意が本当にダイレクトに伝わって嬉しかったのかもしれない。
そして、兄の旭さんとも幼馴染で家族同然の田村さんとも違う存在。
そんな龍斗さんに、雅くんは恋をした。
幼馴染の恋が成就して嬉しい気持ちと、さみしい気持ち。
それからちょっとの胸の痛み。
柴犬に向けられた彼の笑顔が可愛いと思ったのは、龍斗さんだけじゃなかったんだけどね・・・・。
「あさひくん」
「ダメだ」
小首を傾げて舌足らずな声で俺を呼ぶ雅に、俺は話を聞く前にそれを遮る。
むっと口を尖らせる雅。
だって、こんなときはたいてい俺が喜ぶような話じゃないんだ。
そんなかわいい声出したってダメなんだってことを、わからせないと!
「・・・まだ何も言ってない」
「聞かなくたってわかる。どうせ、いい話じゃないんだろ?」
「そんなことないよ!」
「いいやあるね!」
「ないってば!とにかく聞いてよ!」
「いやだ!」
「聞いてってば!」
「いやだってば!」
「旭くんのわからずや!」
「―――何してんの?2人とも」
気付けば、いつの間にか仁くんがカウンターに座って頬杖をつきこちらを見ていた。
「仁!聞いてよ!」
「ん?どうした?」
「仁くん、甘やかさないで!」
「いや、聞くだけ聞こうよ、旭くん」
「仁優しい!大好き!」
「んふふ」
「・・・・まったくもう・・・・」
本当に、この人は雅に甘いんだから。
「で?どうした?」
「あのね、俺、龍斗くんと付き合うことになったよ!」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「今日、龍くんの家に行ったんだ。そしたら、龍くんに好きだって言われた。だから、俺も好きって―――」
「仁くん、どうしてくれるの」
「・・・すまん」
俺の言葉に、頭を抱える仁くん。
雅はきょとんとした表情で俺たちを見ている。
「ね、仁、仁も園原くんはいい人そうって言ってたじゃん。園原くん―――龍くんて、本当に超いい人なんだよ!」
「いい人・・・だから付き合うの?いい人だから好きなの?」
「え・・・」
「だったら、俺と付き合ってよ」
「・・・仁と?」
「うん。俺のことだって、好きでしょ?」
「好きだけど・・・」
「仁くん!話の論点が違う!」
「だって、俺だって雅のことが好きなのに。なんで園原くんなの」
仁くんがむっと顔を顰める。
雅は戸惑ったように俺と仁くんの顔を交互に見つめていたけれど・・・
「俺、仁のこと好きだけど・・・・でもその好きと、龍くんの好きは違う、と思う」
「・・・どう違うの?」
「仁のことは、昔からずっと好き。旭くんと同じ、ずっと変わらない好き。会えなくなっても変わらない好き。10年後も20年後も変わらないって思える好き。でも龍くんは・・・・どんどん、好きになる。初めて会った時から、会うたびに、話すたびに、好きになる。昨日よりも、今日の方がもっと好き。さっきよりも、今の方がもっと好き。こんなふうに人を好きになったのは、初めてなんだ」
ゆっくり、自分の中の気持ちを確認するみたいにそう話す雅の目はまっすぐで・・・・
どこまでも澄んだその瞳に、俺の胸は苦しくなる。
たぶん、仁くんも同じ気持ちだったと思う。
微かに寄せられた眉と、切なげに伏せられた瞳がそれを物語っていた。
「・・・・俺が・・・・俺と旭くんが反対しても・・・・園原くんと付き合うの?もう、決めたの?」
「・・・反対なの?2人は」
そう言って、雅は俺の顔を見た。
「・・・お前の気持ちは、わかったよ。本当に園原くんが好きなんだって気持ちは。でも・・・男同士が付き合うって、そんなに簡単じゃないだろ?お前が前に付き合ってた女みたいに、それを気持ち悪いっていうやつもいる。そう言われても、平気か?それでもずっと園原くんを好きでいられる自信はあるのか?」
「うん」
「・・・即答かよ。そんなに、好きになる要素があんのか?いい人だから?」
「・・・わかんない。いい人だから好きになったのかどうかは・・・・。気付いたら、すごく好きだったから。でも・・・自信はあるよ。周りになんて言われたって好きでいる自信は。でも・・・・2人が反対するなら・・・考える」
意外なその言葉に、俺は仁くんと顔を見合わせる。
「え、俺らが反対したら付き合わないの?」
「そんなもんなのか?お前の気持ちは」
「違うよ!龍くんを好きなのは本当!すごく付き合いたいよ!でも・・・・旭くんと仁に反対されても付き合うのは・・・・なんかやだ」
「やだって・・・・」
「俺、2人にはわかってもらいたいんだ。他の人になんて言われても・・・・2人には、ちゃんと認めて欲しい。ちゃんと認めてもらってから・・・付き合いたい。龍くんのことは好きだけど・・・・でもそれで、2人と喧嘩するのは・・・いやだ」
雅の瞳は、涙で潤んでいた。
「俺、わがまま?これじゃ、ダメ?龍くんと付き合えない・・・・?でも・・・・旭くんも仁も、龍くんも・・・・みんな失いたくないよ」
好きなんだよ、みんな。
それぞれ、意味は違くても・・・
雅の純粋な、それでいて頑固な気持ちが伝わってくる。
好きなものを失いたくない。
それが雅の正直な気持ちだ。
俺は大きな溜息をついた。
仁くんは完全にふてくされている。
だけど何も言わないのは、たぶん俺と同じ気持ちだからだ。
「・・・雅」
「ん・・・?」
「お前は、ずるいな」
「え・・・・」
「俺も仁くんも、お前に泣かれるのが一番弱いってわかってるだろうが」
「・・・泣いてない」
「その目は、泣いてるだろうが。まぁ・・・泣かれてもダメなもんはダメだけど」
「旭くん・・・」
「そういう目で見んな!ダメなもんはダメだけど!でも、お前が本気で好きだって言うなら・・・・付き合うのは反対しねえよ」
「ほ・・・んとに・・・・?」
「あぁ。ただし、お前のことを泣かせるようなら即刻別れさせるからな」
「旭くん、それは園原くんに言わねえと」
「そうだよ!今度、ここに連れて来ていい?龍くん1人暮らしだから、ごはんとか食べさせてあげたいんだ」
えへへと恥ずかしそうに笑う雅が可愛くて、ますます園原が憎たらしくなる。
「―――わかった。じゃあ今度連れてこい。じっくり話聞いてやる」
「旭くんこわっ」
「旭くん、龍くんのこといじめないでね」
「・・・あいつ次第だろ、それは。今後のことも全部・・・大事な、お前を任せるんだからな」
「・・・うん。ありがと、旭くん」
嬉しそうに笑う雅に、やっぱり少しの胸の痛み。
かわいい弟の、本気の恋。
100%応援はできないけど、俺と仁くんがずっと雅の味方であることは確実だ。
まずはお手並み拝見・・・
覚悟しとけよ?ってとこか。
「いや、雅ちゃん、それ怖いって!」
翌日、柴犬を見に来た雅の話に、俺はぞっとする。
「え~、なんで~?」
俺の抱き抱える柴犬の頭をぐりぐりと撫でながら、雅はニコニコとのんきに笑っている。
「だって2対1じゃん!絶対俺の方が分が悪いよ!」
「そんなことないよぉ、俺がいるじゃん」
「でもさぁ・・・・超怖いよ、あの2人」
「じゃあさ、はっしーにも来てもらおうよ」
「え・・・てか、なんではっしー呼び?」
昨日まで、『橋本くん』だったのに。
「龍くんがはっしーって言ってるから。はっしーもいいって言ってくれたもん」
「そりゃ言うでしょ、はっしーは」
「ね、はっしー、はっしーも仕事終わったらうちの店おいでよ。ごはん作って待ってるから」
品出しを終えたはっしーが戻ってくると、雅がそう言った。
「いいよ、もちろん。雅くんの作ってくれるご飯、おいしいから」
「んふふ、ありがと」
はっしーが俺には見せない優しい笑顔を雅に向ける。
・・・なんか面白くないんだけど!
「雅ちゃん、浮気はダメだよ」
「ふはは、なに浮気って」
「てか、なんであなた雅ちゃん呼びなんですか。昨日は『雅』って呼び捨てしてたのに」
「・・・お兄さんに怒られそうじゃん」
「なるほど、お兄さん対策ですか」
「え~、旭くんそんなに怖くないよぉ」
怖いよ!ものすっごく!
俺に向けられるあの冷ややかな視線は、もう背筋が凍りつくほど怖いんだから!
でも、俺も負けない!
だって、雅と一緒にいたいから。
この恋は、諦められないから。
「・・・・雅ちゃん!」
「ん?」
「・・・ずっと、好きだからね!」
気合を入れてそう宣言すると、雅の頬が赤く染まる。
そして、嬉しそうな満面の笑み。
「俺も、大好きだよ、龍くん」
店の中で、手に手を取り合う俺たちの周りだけ、春のようで。
はっしーの呆れた視線は無視。
これから迫りくる怖い2人のお目付け役のことは今は忘れて。
目の前の、かわいい俺の天使のことだけ、今は見つめてたいんだ・・・・。
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