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メクレロ!サイドストーリー
テンセイちゃん 第2話
しおりを挟む滝川珠希17歳、転生しました多分。
多分っていうのは、夢を見てるだけっていう可能性は捨て切れないってこと。夢であって欲しいという希望も、若干。
…さて。
金髪ツインテのエルフの子は私の両隣に座る2人にお説教をしているみたい。みたい、っていうのは、相変わらずこの世界の言葉はさっぱり解らないから、雰囲気で察するしかない。2人はお説教されるような自覚があるのか、大人しく聞いている。
これは2人が問題なのか、私が問題なのか…はっ!?まさか、イケメンエルフの本当の恋人はこの子で、私を浮気相手と間違えて、みたいな?
でもそうなると鬼の女の人が怒られてるのも変だし…実はこのツインテの子はイケメンの子供とか?それならまぁ、辻褄合わせは出来ないことも無さそう。イケメンはツインテの子の父親で、鬼はイケメンの愛人とか?
何やってるのよお父さん!もう、お母さんに言うからね!
そう思って見てみると、なんとなくそんな感じがしてくる不思議。でも、ツインテの子が怒り始めたのは、この子が私を見てからなのよね…。
お父さん誰この子?ふぅん知り合いの子供?よろしくね握手しましょ…ん?もしかしてこの子、お父さんの隠し子でしょ?危うく騙されそうになったけど、良く見たら…何やってるのよお父さん!そっちのあなたも!もう、お母さんに言うからね!
これならまぁ、私に罪は無いわね。いや、元々そんなの無いんだけど。てか、隠し子じゃないし。
…などと妄想するしか無い私と修羅場ってるような3人の元へ、奥で誰かに電話を掛けていた、ツインテの双子っぽいショートのエルフの子が戻ってきた。
その子が3人に向かって話し始めたんだけどそれはもう、修羅場の続きにしか思えない。
今、お母さんと話してきました。離婚だそうです。慰謝料等は弁護士を通じて話し合うそうです。場合によっては裁判も辞さない構えだそうです。隠し子を転生者だとか誤魔化そうとしても無駄です。
…やっぱりまたテンセイって言ったわね。私の転生のことだと思うんだけど…。
な、なにぃ!?母さんは許してくれなさそうなのか?無理です、お母さんも私達ももう我慢の限界なの。あの、奥様は私には?あなたにもその内こちらの用意する弁護士が行くと思いますので、その人から話を聞いて下さい。これからは堂々とお付き合い出来て良かったですね。え?うふふ良かった、これからは堂々とお付き合い出来るわ。うふふ、ね?
これはちょっとおかしい…。
待ってくれ。この子は本当に転生してきた子だ。お父さん?誤魔化そうったって無駄。お母さんはちょっと前からお父さんを疑ってて探偵を雇って調べてたの。ホテルから2人で出てきたっていう証拠もある。そ、そんな…。諦めて慰謝料払って。それで、この人と隠し子と3人で仲良く暮らせば良いわ。はは、はははそうだな、うんそうするよ。何がおかしいの?うぐっ…。
…なんとなく波長が合ってきた気がする。
お父さん、今まで育ててくれてありがとう。こんなことになるなんて思ってなかったけどね。でも、もうおしまい。もう顔も見たくない。だから、2人ともさっさと出てって?お代は私が払っておくから。お、なんか悪いね。ごちそうさま。それじゃ私達はもう行くわね、さようなら。
…あれ?なんで私が置いてかれちゃうの?お父さん?お母さん?いや、違うんだけど。
イケメンエルフと鬼の女の人が立ち上がって帰ろうとするから私も慌てて立って一緒に行こうとすると、軽く肩を叩かれた。振り向くとツインテの子が優しい笑顔で首を振った。
あなたは捨てられちゃったの。でも大丈夫。
…いやいや、大丈夫な訳ないでしょ。
良く分からないけど、助けてって思ってお店を出ようとする2人を見ると、笑顔で手を振られた。違う、そうじゃないと手を伸ばすと、ツインテの子が私の前に立って両手で止める仕草をした。そして、笑顔で頷いた。
私を見る綺麗な青い目はなんだか、私を信じてって言ってる気がした。
…これは大人しく従っておこうかな?
それからショートの子がカウンターの向こうの一つ目のおじさんに何か言うと、私の顔を見て笑顔を浮かべ、奥の席へと手で促した。個室に移動とかかな?
…おお…。
畳だ…。
促されるままに進んでいくと案の定個室で、畳の部屋だった。座卓、座布団、床の間、活け花…現実の私の家よりも和風だ。言ったら悪いけど、エルフの子達の違和感の方が凄い。
とりあえず4つある席の、部屋の入り口に一番近いところに座ると、向かいにショートの子、斜め向かいにツインテの子が座った。
…それにしても。
改めて並んでるのを見ると本当にそっくり。髪型と耳の長さが違うだけで、目の色とか顔の造りは殆ど一緒。そして、2人とも可愛い。何か2人で話してて、相変わらず何言ってるかわからないけど。
…そういえば。
エルフって長生きなのよね、確か。この子達は私より小さいから若く見えるけど、実は200歳ですとかあり得るのか。そうなると年上も良いとこ。先輩も先輩、超先輩だ。
そんな下らない事を考えていると、一つ目のおじさんがお茶を持ってきてくれた。それぞれ3人の前にお茶碗が置かれると、ショートの子が飲むように勧めてくれた。
…うん、普通のお茶だ。
私がお茶碗を置くと、ショートの子が軽く頷いて笑顔で自分の口を指差して、次に私の口を指差してから口を開いた。
「タキタニ…タキガタタスキ。」
え?いや、違います。
「タキガワ、タマキ。」
私が私の顔を指差してちゃんとした名前を名乗ると、ショートの子が首を振って、もう一度自分の顔を指差し、私を指差してから口をぱくぱくしてから声を出す。
「タキガタタスキ。」
「タキガワタマキ。」
ショートの子が困ったように笑った。
もう、なんなの?
「キガワ、マキ?」
タ、はどこ行っちゃったのよ?
「タキガワ、タマキ。タマキデス。」
頷きながら悩むショートエルフ。私も困ってる。
ツインテの子がショートの子に何か言った。するとショートの子は頷いて私の顔を見た。
「タマキ?」
私は頷いた。
ショートの子が自分の口と私の口を指差した。
「タキガタタスキ。」
なんでやねん。
「タ!キ!ガ!ワ!タ!マ!キ!」
…ああ、違うの。そんな顔しないで。
あまりの伝わらなさにイライラしちゃって、大きな声出しちゃったけど、違うの。
でも、良い加減にして欲しくて。あと、なんか馬鹿にされてるような気がしてきて…勿論違うんだろうけど。
でも何回も言ってるんだから、ちょっとは解って欲しい。欲しいんだけど、全然伝わらない。だから、違うの。2人にイライラしてるんじゃなくて、私の伝わらない言葉というか…。
でも、そんなに伝わらないかなって思う。でも、当たり前だ。だって2人も、私の言葉が解らないんだから。
そんな2人は困ったような笑顔で、その顔がホントに優しくて、一層自分が惨めな気分になる。
ああもう。ちょっと目が熱くなってきた。もう最悪。もうやだこんなところ。夢なら覚めて欲しいけど、覚める気配も無い。
大体私が何したって言うのよ?こんな、いきなりこんな、言葉の通じない知らないところに放り込まれて、どうすれば良いのか全然わからない。
迷子。
そう、迷子だ。
無力な迷子。言葉も通じないなら、泣くしか出来ないんだ。だからちっちゃい子供は泣くんだ。
ちっちゃい子供じゃなくっても泣くしか出来ないなんて、悔しい。でも、私だってもう、どうしたら良いのかわからないんだ。
だからせめて、そんな泣き顔を見られたくないから下を向いてジャージの袖口で目元を拭っていると、とんとんと座卓を叩く音が聞こえた。
「タマキ?」
そう、私はタマキ。
私がショートの子の顔を見ると、ショートの子が笑顔になって、私に手を向けて言った。
「タマキ?」
……。
名前だってわかってくれたのかな?それからショートの子はまた私に手を向けて言った。
「タマキ。」
私は頷いた。
伝わってる。
多分、伝わってる。
…けど、駄目だ涙が止まらない。
これはきっと、ちゃんと名前と認識してくれたらしいのが有り難くて。私は泣き笑いみたいな情けない顔をしながら、うんうんと頷いた。それを見て2人も笑いながらうんうん頷いた。
それからまた、ショートの子が座卓をとんとんと叩いてから自分の口に指差して、今度はツインテの子の口を指差した。そして…。
「ア。」
ショートの子が自分の口を指差しながら言ってから、ツインテの子の口を指差すと…。
「ア。」
ツインテの子が言った。
……。
そしてまた同じようにショートの子が自分の口を指差しながら。
「アー。」
こう言ってからツインテの子の口を指差すと…。
「アー。」
ツインテの子が言う。
まさか…。
「タキ。」
ショートの子。
「タキ。」
ツインテの子。
…こ、これは!これは、真似だ!さっきも、私の言葉を真似してねってことだったんだ!ショートの子は私の名前じゃない、別の言葉を言わせたかったんだ!
そしてショートの子は私の顔を見て笑いながら目で、わかった?って聞いてきたように思う。
私がジャージの袖でもう一度目を拭ってから笑顔で頷くと、ショートの子が座卓をとんとんと叩いた。
「タマキ?」
私が頷くと、ショートの子は自分の口を指差しながら言った。
「タキガタタスキ。」
そして、ショートの子の指が私の口を指差そうと動いた時に、私は待ち切れずに、叫ぶように言った。
「タキガタタスキ!」
その瞬間。
目の前が真っ暗?真っ白?どっちかわからないけど、目の前に居た2人や座卓や壁が見えなくなった。何これ怖い。
そして下から大きな、物凄く大きな本棚がいくつも浮かび上がってきた。本棚にはびっしりと本が詰まっていて、まるで図書館。
しばらくすると、ぴかぴかと点灯する本が、開いた姿で鳥みたいにばさばさと飛んできた。本なのに点灯?飛んでる?
それから本棚から1冊の本が飛び出して点灯する本の側に寄ると、点灯する本がその本に覆い被さった。
重なってどうなるのかな?と思っていると、2冊の本はもぞもぞ動いて、しばらくすると卵が出てきた。
…本の卵?
…てことは、あれはもしや本の交尾?
その卵はすぐに割れて、中から小さな本が出てきた。本のひよこだ。でも、ひよこの癖にすぐに元気に飛び、卵を産んだ本の入っていた本棚に収まった。
卵を産んだ親本はそれを見届けるとばさばさと羽ばたいて飛び立ち、くるくる回っている。そしてまた本棚から1冊の本が飛び出して、点灯する本のところへ行き、交尾?して卵を産み、孵り、飛び…。
本棚はすっかり新しい本に入れ替わり、親本達はそれを喜ぶようにくるくると飛び回っている。そして、最後の本が終わったのか、点灯する本がくるくる回る本達の中心を突き抜けるように飛び立ち去って行った。
そしてくるくる回っていた親本達は一斉に方向転換して、私の背中を優しくさすって…。
「大丈夫?」
目を開けると、右側からショートの子が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。座卓に伏せていたらしい私の背中をさすってくれている。
「はい、これ。とりあえずお茶飲んで?」
「あ、うん。ありがと。」
左側に居たツインテの子がお茶を渡してくれたのでお礼を言って受け取って飲む。うん、普通のお茶だ。
……。
うん普通のお茶だじゃない!
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