メクレロ!

ふしかのとう

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メクレロ!サイドストーリー

テンセイちゃん 第一話

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 「修行が足りないな、バレード。」

 「ル、ルタ!?ち、違うんだ!俺は勝負で負けたから仕方無く…。」

 「それこそ正に、修行が足りない、じゃないか。大体、君はアブ=ラウリのお遣いの途中じゃないのか?」

 「そ、それはそうだがこの女が俺に、オーディン料理に合う良い大根があるって言うから、そしたら俺の大根が…。」

 「邪魔をするなと言った筈だ、ユービ。」

 「ふん…アンタ達にはアンタ達の衆道があるように、アタシらにはアタシらの衆道がある。アンタこそ途中で邪魔して、それこそ無粋ってもんじゃないかい?」

 「女に衆道は無い。これは男の、男だけの覚悟そのものだ。」

 「はっ!笑わせるんじゃないよ。その覚悟とやらで我慢したってその先には何も無いじゃないか。男は女と居る方が当たり前で、幸せなんだよ。」

 「我々は我慢をしてる訳じゃない。男こそ男の気持ちが理解出来る。そしてそのことは、今現在衆道が流行っているという事実が証明している。」

 「流行ってる、ねぇ…代表の話は確かに感動的だった。でも、アンタ達のはそれを真似てるだけじゃないか。しかも、代表は別に衆道じゃない。ミコーディアさんは元気だし、知っての通り仲良しじゃないか。」

 「……。」

 「ラブラブだよな、代表夫婦。」

 「代表を真似て人間の女を娶り、嫁の死後は操を立てる形で衆道を始める。そんな、ただの流行でアタシら女達を蔑ろにするなんてのは、ちょっと間違ってるんじゃないかい?」

 「お前達の衆道は男に相手されなくなった魔族の女の僻みに過ぎん。」

 「言ってくれるじゃないか。でも、否定はしないよ。だからアタシらはトッコウで勝負して、きちんと目を覚ましてやることにしてるのさ。」

 「お、俺は目が覚めた訳じゃないからアブ=ラウリには…。」

 「君は黙ってろ。そして服を着ろ…トッコウは昔のものだと聞いている。今更そんな…。」

 「トッコウは終わってないよ。魔族が魔族らしく決める1番の方法さ。本当に正しいのはどちらか、覚悟の差を見せてやるんだ。」

 「だが…。」

 「そういえばアンタも、もう魔族だね。勝負、挑んでも良いんだよ?」

 「…俺はそんな下らない話には…。」

 「おや?逃げるのかい?まぁ、魔法の使えなくなった呪われしエルフの坊やじゃ仕方無いか。所詮アンタ達の衆道なんてそんなものなんだってことだけど。」

 「…女に手を上げるつもりは無い。」

 「へぇ?お優しいこと…でも、それならアブ=ラウリの小姓はトッコウを逃げたって噂が立つかも知れないね?そうなると、今後のアブ=ラウリの発言権がどうなるか…。」

 「…脅すのか?」

 「脅しゃしないよ。ただ、こっちは中途半端に止められてる、その落とし前くらいは付けさせて貰おうって話さ。でも、アタシだって鬼じゃない。」

 「角あるけどな。」

 「黙ってなバレード…ただ責任取って相手しろってんじゃない。トッコウの勝負を受けて欲しいのさ。」

 「………。」

 「ル、ルタ!俺でもすぐ投げ飛ばされたのにお前じゃ…。」

 「…バレードを倒せたからと言って調子に乗るんじゃないぞ?」

 「それじゃ、勝負を受けたってことで良いかい?」

 「良いだろう。女だからと言って加減はしないぞ。」

 「ル、ルタ!」

 「あら怖い。それじゃ、アンタは受けたってことで…あ、そうそう。言い忘れてたけど、アタシが勝ったらアンタにはしばらくアタシらの相手して貰うよ。手土産に呪われしエルフなんて、皆大喜びさ。」

 「なんだと!?それは羨ま…恐ろしい!」

 「………それはアブ=ラウリが決める事だ。」

 「アブ=ラウリも、トッコウなら文句は言えない筈さ。何、アンタも嫌なら勝てば良い。そしたら、アタシの身体を好きにしても良いんだよ?」

 「遠慮させて貰う…俺がもし勝ったら、今後は邪魔しないで貰おう。」

 「つれないねぇ…良いよ、アタシらは邪魔しないさ。だから…本気でやりな。アンタのことはザラ様が許したとは言え、一度思いっ切り泣かせたいと思ってたからね。」

 「どっちの意味で?」

 「どっちもさ、バレード。さ、アンタは見届けてアブ=ラウリに伝えてやんな。この坊やは女達が引き取ってちゃんと皆で可愛がるってさ。」

 「…舐められたものだな。」

 「可愛い服も着せてヤるよ。」

 「そのヤるはどっちの意味で?」

 「どっちもさ、バレー…。」

 「んぎゃあっ!」

 「誰だ?」

 「おっと、逃がしやしないよ。」

 「逃げる訳ではないがちょっと見てくる。」

 「上手いなルタ!」

 「ならアタシも行くよ。」

 「ちっ…ん?」





 ・・・・・。




 一方その頃。トライトンから魔族の街へと向かう牛車の中に2人の女が居た。

 「お兄ちゃん、大丈夫かなぁ?」

 「別にちょっとくらい食べなくても死なないわよ。」

 トニーとミコーディアである。


 「ほんと、この日は冷たいよねお姉ちゃん。」

 「そうね。でも、私はそれで良いのかなって。」

 今日はマキの誕生日である。毎年この日はタキが独りで過ごしたがっているようなので、ミコーディアは放っておくことにしている。


 「もうね、最近は私自身よくわからなくなってきちゃったから。」

 「何が?」

 「やきもちを焼いているのか、それとも焼きたいのか、ね。」

 良く晴れた空の下を進む長閑な牛車に似合わないミコーディアのどろどろしたような感情は、トニーには面白くもあり、不思議でもあった。


 「ふふっ、何それ。変なの。」

 「ふふっ、そうなのよ。最初の頃は、マキは死んだのに!って思ってたの。純粋なやきもちね。でも…。」

 「でも最近は違う、と?」

 「そうね。私とマキは1番の友達だった…と私は思ってる。」

 「マキさんにとってもそうだったと思うよ。」

 「だと良いわね。それで、私もね?勿論マキが死んで寂しくない訳じゃない。だけど、やっぱり時間が経つと忘れちゃうというか、どうしても薄れちゃうのよね。」

 「わかる。」

 「それで、なんとなく、もしかしたらタキ君は、忘れたくないから…というか、ちゃんと思い出したいからこの日だけは独りになりたいんじゃないかなって。」

 「そう…なのかな?」

 「最初は、タキ君はマキのこと思い出しちゃって、それを大事にしたいからなんだって思ってたの。でも、そうじゃないのかもって考えたら、私もってね。」

 「思い出す日ってこと?」

 「ええ。だから、やきもちを焼いて冷たくする私が居ても良いというか、居るべきなの。そうすれば私は絶対にマキを思い出す。現に、普段はあまりマキのことを話さないのに今こうして話してるでしょ?」

 「なるほど。つまりお姉ちゃんは、マキさんの為に敢えてお兄ちゃんに冷たくすると。」

 「うふふっ、そうそう。優しいでしょ?」

 「どこがよ、ふふっ。」

 どこが、と言っておきながら、マキに対する友情も、タキに対する愛情も、どちらも上手に大切にしているミコーディアは本当に優しいと思うトニーだった。


 「でもま、やきもちも無い訳じゃないのよ?」

 「そうなの?今の話だと…。」

 「マキはね?死ぬまで私と真剣勝負してたの。」

 「途中で出てったでしょ?」

 「出たのもマキの作戦だわ。結果、死んだ後もこうしてタキ君を独占する時間を、私を無視して独占する時間を得た。これはある意味、私は負けてるようなものだわ。」

 「そう…なのかな?」

 「ええ。だって、思い出したいだけなら私も一緒で良いじゃない。それなのに独りで、なんて何かあるに決まってるわ。」

 「まぁ…ね。」

 確かに、と思ったけどなんとも言い難いトニー。

 「だからね?私も、タキ君にバレないように、タキ君のマキ時間をちょっとずつ短くしてるの。」

 「そんなことしてるの?」

 仕返しが子供みたいなミコーディアに少し呆れるトニー。

 「ええ。独りにする前に少し長くキスしてみたり、独りで寝た次の日は少し早目に起こしてみたり、ね。」

 「ふぅん…あれ?でもそれじゃ今日は?朝からだよ?」

 「マキの夜はおしまい。今年からは昼間だけよ。」

 「なんで?マキさん、夜は駄目なの?」

 「夜は…するものでしょ?」

 「何を……あ。」

 思い当たったトニーは顔を赤くし、その様子を見てにやにやするミコーディア。

 「あらあらトニーちゃんたら。」

 「もう!今のはお姉ちゃんのせいでしょ!?」

 「うふふ、ごめんごめん…でも、そろそろ一気に方をつけても良いかもね。」

 「かた?」

 「そ。タキ君独りじゃなくて、皆で思い出すことにするの。それで、マキだけじゃなくてブルとか、リズやシン君のこととかも皆で話すの。そうすれば…マキは段々特別じゃなくなっていくわね、うふふ。」

 「最後のが無ければただの良い話だったのに、うふふ。」

 「という訳で、今夜一緒に行きましょ?」

 「え?どこに?」

 「タキ君のお部屋。」

 「……はぁ!?お姉ちゃん1人で行けば良いじゃん!私は別に…。」

 「うん、そうね。それならそっちも片付けられる。我ながら名案だわ。」

 「いや、行かないし。」

 「連れてくし。」

 「逃げるし。」

 「逃がさないし。」

 「絶対逃げるし。」

 「………。」

 「………。」


 ぎしっ……からり。

 ぽくぽくごろごろとのんびり進んでいた牛車が目的地に到着し、馭者が扉を開けてくれた。


 「ま、考えといて?…ありがとうございました。」

 「ありがとうございました。」

 2人は牛車を降りて、暫くぶりの地面の感触を確かめながら身体を伸ばした。


 「くぅ……っと。考える余地なんか無いよ。」

 「頑固ねぇ…ま、良いわ。美味しいオスシご馳走してあげるんだから。」

 「そういうつもりのオスシじゃないから。もう、色々間違ってるからね?」

 「まぁ良いじゃないの…っと、こんにちは。」

 ーーラッシャッセェ!御予約のトルトさんですね?こちらへどうぞ!

 ミコーディアが店の戸をからりと開けながら挨拶をすると、威勢の良い声に出迎えられた。そして中へ入ると、カウンターのところに見知った顔が座っているのが見えた。


 「あら?ルタだわ、珍しい。」

 「え?ルタさん?」

 珍しいのは、衆道の筈のルタが女性を連れていることだ。2人の間に少年も座っているようだが、いよいよ関係性が見えない。


 「えっと…ミコ?と、トニーちゃん?えっと、久しぶり?」

 何か歯切れの悪いルタドの態度は少し気になるものの、女連れが気まずいのかもと思ったミコーディアは、軽く挨拶だけして余計な詮索はしないことにした。

 「久しぶりねルタ…と、あなたは確か…。」

 「ミ、ミコーディアさん?こんにちは、ユービです。こないだはどうも…。」

 「ああ、こないだの…。」

 こないだ、とはミコーディアが義母に頼まれて出席した女魔族だけの会議の時のことで、ユービとは挨拶と少し話をしただけであったが、一応ミコーディアの記憶に残っていた。が、ルタドとの関係性は解らない。

 そして、間の少年には全く見覚えが無いようだった。そして、人間のように見えるのが更に謎である。

 ミコーディアがどう挨拶したものか迷っていると、ルタドが説明を始めた。


 「えっと、ミコ?彼は、その、どうやら新しいテンセイさんらしいんだ。だから言葉がまだ解らなくて…。」

 「テンセイさん?」

 テンセイさん。そういえば義母から、テンセイさんが帰ったという話を聞いた気がするミコーディア。

 「そうなんだ。でも、なんでオスシを?」

 「え?あ、いやまぁ、お腹が空いてたら可哀想だよなと…なぁ、ユービ?」

 「私に振らないでよ…まぁ、そゆことですハイ…。」

 ……なんだか妙ね。

 まさかルタのやつ、この子にオスシ食べさせて懐柔するつもりなんじゃ…すると、まさかユービも?でもそれだと…。


 オスシでトニーを懐柔しようとしていたミコーディアには思い当たる節があったが、どうも正解に辿り着けそうにない。こんな時は…。

 「ちなみに、そのことはお義母様には?」

 「いやまだだけど一応、知らせは頼んであるから…。」

 「ユービ、それ本当?」

 「え?ええ、それは本当ですハイ。」

 それは?

 「ふぅん…マスター?」


 ミコーディアは、カウンターの向こう側に居る、一つ目の魔族に声を掛けた。


 「はい、何でしょう?」

 「お店のデンワ、使わせて貰えるかしら?お義母様と話したいので。」

 「ええどうぞ!ザラ様への繋ぎ方は…。」

 「それは大丈夫、ありがと。お借りします。」


 ミコーディアはデンワの置いてある奥へと向かった。

 じーころじーころ…。

 ーあ、もしもしお義母様?ミコーディアです。え?釣り?そうなんですか、あははオリアったら、リリーディアも、え?ああ、今トニーと、ええ、タキ君が、そうです、それで今かぶとさんで…。


 ミコーディアがザラとデンワで話す様子を不安気に見つめるルタドとユービ、そして少年。

 一方、テンセイさんであるらしい少年を見るトニー。彼女はテンセイさんという存在を見るのが初めてだった。話では、ホールトンではない何処かの島からやってくる、不思議な知識を持つ人。

 トニーは、言葉が通じなくともとりあえず挨拶をしておくことにした。見知らぬ人に挨拶するのは、仕事柄慣れている。そして相手は男とは言え、まだ若い。

 「初めまして、テンセイさん。トニーです。」

 笑顔を作って軽く頭を傾けて手を差し出す。握手、解るかな?手を握らせれば、大抵上手くいく。駄目でも、さりげなく肌に触れてあげれば…。

 程なく、少年は会釈をしてトニーの手を取った。これで、予定通り握手は出来たのだが、その感触にトニーは小さな違和感を覚えた。予想より小さく、柔らかいのである。

 テンセイさんだから?でも、エルフでも人間でも、例えまだちゃんとした大人ではなくても男の手はもう少しゴツゴツと…。


 まさか。


 「ちょっとごめんなさい。」

 一応断ってから、トニーは前屈みになってテンセイさんの顔に自らの顔を近付けた。そして、自分の予想を裏付ける手掛かりを探した。鼻、唇、顎、頬、喉、目線…。



 やっぱり。



 トニーは呆れた。ルタドも魔族の女も、気付かなかったのか。幸い、テンセイさんは…。

 「あの、ちょっと2人とも?」

 トニーはルタドとユービに声を掛け、2人がこちらへ向くのを待ってから言った。




 「この子、女の子ですよ?」



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