メクレロ!

ふしかのとう

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メクレロ!サイドストーリー

メクレタ 第4話

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 ーー良い?だから年代が書いてあるからここの空欄は水、次は固めるが入って、体積は増えない、です…ん?こんなのに引っ掛かってんじゃないわよ、問題文を良く読めって言ってるでしょうが、法史なんかぶっちゃけ記憶よ記憶、8割は記憶だけで何とかなるから、あとの2割?センス?…。


 「ミコ、コーヒー。」

 「テラス行きなさいよ。」

 「寒いじゃないの。」


 放課後、アジは暇潰しにミコーディアの研究室を訪れていた。

 「ミコ?あんたクラス分け会議の書類、まだでしょ?」

 「もう出来てるのよ?ほら。」

 ミコーディアが1枚の紙をアジに見せる。

 「ふーん…お?パムとティミスを一緒にするの?」

 「ええ。1番争いさせてみるのも面白いかと思って。」

 「ふぅん。でも、それだと少し偏るわね。クラスの平均点にあまり差が出ると授業内容変えなきゃで面倒臭いんだけど。」

 「成績もなんだけど、恋の方もね。」

 「こい?」

 「そ。」

 「へぇ…よし、詳しく聞いてあげましょうか。」

 「こんな話を素面で?どこか行かない?」

 「良いわね。メルも今夜はチウンさんとこ泊まるって言ってたし…あんたんとこは良いの?」

 「タキ君、中央に呼ばれてるの。私はお留守番。」

 ミコーディアの言う中央とは、トライトンの中央議会のことである。時々タキは呼ばれるがその度に、魔族なら誰でも良いんだから母さんが行けば良いのにと零していた。

 「中央か、大変ねぇ。でもトニーは?」

 「あの子は今日はお見合いパーティーがどうとかで遅くなるかもって言ってたから。」

 「それならよし!早速行きましょ?」

 「少し片付けるからちょっと待ってて。」



 1時間後。

 2人は1軒の酒場の、風除けの布で囲われ、ストーブで暖めてあるテラス席に陣取って、若者達の恋話で盛り上がっていた。

 「…ふぅん、意外。スキャロ君って、言っちゃ悪いけど地味な眼鏡君でしょ?一方のパムはすんごく可愛いじゃない。男には苦労しなそうなのに。」

 「パム曰く、字がね?しゅっと綺麗で、それがなんか良かったんですって。」

 「へぇ…ま、きっかけなんかそんなもんか。んで?ミコが上手いことくっ付けてあげたのね。」

 「くっ付けた、って感覚は無いわ?好きな人が居て付き合いたいなら、やるべき事は大概決まってる。その背中を押して欲しいって子が私に助けを求めてきたから、押してあげただけよ。」

 「それもそうか…それじゃティミスは何も言えないわね。」

 「まぁ、パムばっかりずるい!私の背中も押して!って言われたら私も何も言えないけど。」

 「略奪愛ね!…でも私そんなドロドロしたクラスで教鞭取るの嫌なんだけど。」

 「まだティミスと話した訳じゃないから分からないわ?別にティミスは何とも思ってないかもしれないし…ただ、もしあの子がスキャロ君のこと好きでパムに先越されたと思ってたら、長期休み中に何かあるだろうし新学期が楽しみだなって。」

 「片っぽ居なかったりして。」

 「刺したら両方でしょうが…お?」

 甘酸っぱい話が物騒な話になり掛けたところで、ミコの元に1通のメクレタが飛んで来た。

 「あら、だんなさま?」

 「えっと…ううん、トニー。つまんないから帰る、ご飯ある?ですって。」

 「ここ呼んじゃえば?」

 「そうね。」

 ミコーディアはお店の場所と名前を書いたメクレタを飛ばした。

 「つまんない…って、良い男居なかったのかしらね?」

 「ううん。多分だけどあの子はもう、後ろに居るタキ君のことも見られるようになっちゃったんだと思う。」

 「それは仕方ないんじゃない?私は知ってるから今更何とも思わないけど、普通の感覚ではやっぱりまだちょっと怖いと言うか…あ、別に悪く言う訳じゃないのよ?学長…タキ君に助けて貰ってる人も沢山居るし、それも有名だし?」

 世間は魔族に見慣れたが、未だ恐れられていることも事実であり、ミコーディアに気を遣うアジ。そんな友人の気遣いに感謝するが、ミコーディアの言いたいことは違った。

 「あ、別に魔族どうのじゃないのよ。ほら、お金がさ?あの子は管理して運用してるだけだけど、桁外れでしょ?」

 「そっちか。それ目当てで来られたら、そりゃつまんないわね。でも、そしたらあの子はもう、王族とか貴族じゃないと…。」

 「王族や貴族も似たようなもんよ。タキ君が今日呼ばれてるのだって、その後の食事会の方がメインみたいだし。」

 「どこも世知辛いのねぇ…お?私達は私達でこっちのメインを楽しみましょ。」

 2人のテーブルには、1枚のパイが乗せられた皿が置かれた。アジは、持ってきた男の店員にもうひとり来るからと伝えると、パイを切ってミコーディアと自分に取り分けた。

 アジのお気に入りらしいそのパイは、挽肉とトマトとナスの入った香辛料の香るもので、ぶどう酒が進む逸品だった。

 「…いやぁ、堪らないわね。私これ家で作ってみようかと思ってやってみたんだけど、どうも上手くいかないのよね。美味しいには美味しいんだけど。」

 「こういうのはトニーが得意なの。あの子、仕事で色んなとこ行くでしょ?そこで食べて美味しかったものを家で再現するのが好きみたいなの。」

 「タキ君に褒めて貰いたいだけじゃないの?」

 「うふふ、そうかも。タキ君が褒めるとあの子、顔真っ赤にして、お兄ちゃんの為に作った訳じゃないしとか言うのよ?もう可愛くて可愛くて。」

 「あはは、あの子お見合いなんか行かなくても良いんじゃないの?」

 「ね?こないだもさ、タキ君がトニーのお風呂に突撃したら初めは出てって!出ていけ!とか騒いでたのにあいたっ!いたたたたっ!」

 「お姉ちゃん?お姉ちゃんったらお姉ちゃん?」

 ミコーディアの背後から、両手の拳でミコーディアのこめかみをぐりぐりするトニー。

 「やっほ、トニー。」

 「痛い!痛いってば!」

 「こんばんは、アジさん。お姉ちゃん、もう大丈夫?」

 「だいじょうぶ!言わないから!」

 「まったく、何を話してるのかと思えば…。」

 ミコーディアを締める手を止めて、ぶつぶつ言いながら席に着くトニー。

 「はいトニー。パイと…ぶどう酒で良いでしょ?乾杯、久しぶりね。」

 「ありがとうございます、乾杯…ふぅおいし。」

 「お見合いパーティーだったんでしょ?面白くなかったの?」

 「はい…なんか、兄がタキ・トルトって知られたら皆集まってきちゃって話がそっちに行っちゃって、何しに行ったんだか…。」

 「まぁ、それは仕方ないわよ…って話をさっきミコとしてたのよ。他の女の人も居たんでしょ?話題はともかく、トニーが男性陣独占したんじゃ、他の女性陣も面白くなかったかもね。」

 「さぁ?どうですかね?」

 本当は、他の女達がタキに近付きたくてトニーに話し掛けてくるのが面白くなくて帰ってきたのだった。しかし、さっきまであんな話をしていた2人にそんなことを言えばまた、兄離れ出来てないみたいに言われて揶揄われるのは明白。となれば、話題を変更するに限る。

 「それよりお姉ちゃん?昨日話してた子、どうなったの?まだ分からない?」

 「ああ、パムならお昼に来てくれて、上手くいったって。」

 「それなら良かったね。アジさんは、お姉ちゃんが背中押した恋の話知ってますか?」

 「ええ。元々その話を肴に飲もうって話だったからね。」

 「うっわ~、その子達もまさか自分達の話で先生達がお酒飲んでるとは思わないですね。」

 「あはは、ホントにそうね。優しいミコちゃん先生は何処行っちゃったのかしら?」

 「あら?男気溢れるアッちゃん先生を参考に助言してあげたのよ?」

 「あたし?」

 「がばっと行けって。」

 「…ミコ?あんた、まさか…。」

 「流石にアレはアレだから、抱き付いて頬っぺたにキスしちゃえ程度よ?」

 「とんでもないこと勧める先生も居たもんだわね…。」

 もっととんでもないことをした先生が、呆れ顔でぼやいた。

 「ちなみにお姉ちゃん、その幼馴染みちゃんの方が相談に来たらどうするの?」

 「うーん……さぁ?どうすれば良いのかしらね?」

 そう言いながらトニーの顔を見るミコーディア。それを見て、トニーは半分呆れながら答えた。

 「そのパムって子に、ずるくても良いって言っちゃったんだったら、その子にも言うべきでしょ?」

 「あっきれた。ミコあんた、生徒にずるくても良いなんて言ったの?」

 「…恋愛にずるいも何も無いでしょ?」

 アジが更に呆れて言うと、思いの外真面目な顔で返してきたミコーディアに驚いた。

 「…まぁ、そうかしらね。」

 「大体、ずるいかどうかって話なら、私だって相当ずるかった訳だからね。特に人間の2人は絶対そう思ってたと思うわ。」

 「…まぁ、そうかもね。」

 「だから、出来れば、例えずるくても正々堂々…とは違うか…本気で奪いに来てくれた方が、気の済むまでやってくれた方が、気楽と言うか、すっきりするなって。」

 「なるほど…。」

 アジは理解した。ミコーディアの話がどうやら、パムとティミスのことでは無く、トニーに向けた話なのだと。そして、そのことにトニーが気付いたのかどうか、そしてそのことにどう思うのか興味があった。ので、トニーの顔色を伺ってみたのだが…。


 「お姉ちゃん?それ、あとでお兄ちゃんの意見も聞いてみれば?」


 アジの期待するような、聞いてみたかったような言葉ではない、意外なものだった。

 「タキ君の?」

 そして、ミコーディアも不思議そうな顔をして返した。

 「そ。お姉ちゃんが気楽っていうのはお姉ちゃんの都合。お兄ちゃんがどう思うか、思ってたかなんて分からないでしょ?それに…。」

 そして、トニーはにやりと笑って続けた。

 「学長が、生徒にずるくても良いなんて言ったことを許すかどうか興味あるし?」

 「んなっ!?」

 「あら?私も興味あるわ?教育者の長であるべき私の上司は、どんな審判を下すのかしらね?」

 「…トニー?いざと言うときにあんたが巻き添えになっても知らないからね?またお風呂に突撃されて、聞いてるこっちが恥ずかしくなる初々しい恋人みたいな会話を延々と聞かされるなんて…。」

 「んなっ!?その話は…。」

 「え?トニーとタキ君がそんないちゃいちゃを?」

 「アジさんは興味持たないで!お姉ちゃんは…。」

 「なんか背中あつ…。」

 「おいお姉ちゃん。」

 「あの日あの後1人で入るお風呂の虚しさは一生忘れないわ。」

 「そんなの忘れちゃえ。」

 「でもまた今晩…。」

 「鍵はちゃんと掛けます。」

 「…それで本当に安心?」

 「…不安になってきたので、今夜は何処かに泊まります。」

 「よし!それじゃトニーはウチに来なさいよ。ね?偶には良いじゃない。」

 「アジ?」

 「良いんですか?」

 「勿論!おいでおいで!」

 「ありがとうございます!お姉ちゃんは、お兄ちゃんに可愛がって貰ってね…たっぷりと。」

 「ふん…ええ、可愛がって貰うわ?たっぷりと。」

 

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