メクレロ!

ふしかのとう

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メクレロ!サイドストーリー

メクレタ 第3話

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 ーー覚えているだろうか?貴様と我とは物心の付く以前より互いの手の温もりを確かめ合う仲であったことを。あれから幾年、我は貴様の手の温もりを知らず、貴様もまた我の手の温もりを知らぬというのは、実に不自然と言えるのでは無かろうか。


 ーー大きくなったらティミスのおよめさんになる話は、実はティミスをおよめさんにする話のつもりだったんだけど、まず僕と恋人から始めて貰えませんか?




 もう1通はどこにやっちゃったんだろう?

 しかも、だ。ターブとンジューの前で書いた3通の、真面目なヤツに限って無い。落とした?いつ?あの日書いてすぐに?いや、まさか、そんな…。

 もう既に飛んでしまった?勝手に?いやいや、そんな筈は無い。大体、もし既に飛んだなら、遅くとも昨日の時点であいつから何かしらの返答があっても良かった気がする。というか昨日は何も無かったのだから、飛んでない。

 いやでも待てよ?

 返答が無いのは、悩んでるのかも知れない。確かに俺という幼馴染みと付き合うというのは考えられないと思っていると言っているらしいのは、人伝てに聞いたことがある。

 でも、それなら悩むか?

 それならただ断れば良いのだが、いやしかしあいつは優しいから、断るにしてもなるべく俺の傷の小さなものにしてやろうと、断り方に悩んでいるのか。

 ……やっぱり、勝手に飛んだとは考え難いな。

 認めよう。俺は落とした。ただ幸いなことには、あのメクレタにはまだ俺の名前までは書いてない。仮に誰かが拾っても俺が書いたとは思わないだろう。

 ただ、仮に、だ。

 拾ってくれた人が面白半分に飛ばしたら、あいつの手に渡ることになる。あいつは、あのメクレタを見た時に俺の字だと気付くだろうか?

 …気付かないと思う。

 比較的字は綺麗な方だと思うが、物凄く上手いという訳では無い。しかも、内容が内容だから、誰だって綺麗に書くだろう。

 ……す。

 好きですのす、は危ないかもしれない。確か小さい頃にノートを見せた時に、す、が面白いというような事を言っていた。

 でも、何年も前の話だし…。

 あいつが、他の男にメクレタを渡したことが無い可能性は?

 それはあり得る。誰にでも明るく接しているが、所謂男友達みたいなのは居ない…筈…だと思う…いやそれくらい居るか。まぁこれは、俺が知らないだけだな。クラスも違うし…。

 昼、確認の為にどっちか持ってないか?と聞いたらブーには盛大に馬鹿にされた。これは仕方のないことだ。ンジューは、もうどうしようもないからまた書けば?と言ってくれたが、しかし…また書くの?

 もし今、あいつが受け取っていて悩んでいるとすれば、もう一度飛ばすのは馬鹿だ。

 受け取ってないが誰かが拾っていたら、同じものが2通存在してしまう。そちらを先に片付けなければ、良くない。とりあえず、あんな内容のものを落とした、というのは印象が悪過ぎる。

 まぁ、それくらいの恥は、あいつには別に大したことでは無いと思うが、今の俺にはもう書く為の勢いが…。


 こんこん。かさっ。


 ノックの音が聞こえて、スキャロは慌ててメクレタを隠した。

 「スキャロ、お友達。」

 ノックしたのはスキャロの母親だった。

 「今行く。」

 友達?ブーかンジューが帰り道のどこかで見つけてくれたとか?などと、都合の良いことを考えながら部屋を出て玄関に向かった。するとそこには…。


 「やっほ。」


 パムが居た。家に帰ってから来たのだろう、私服に着替えていたパムは、日頃スキャロの見慣れているパムとは印象が違って見えた。どこが違うのか解らないが、何か違う。とりあえず、いつもより可愛い気がする。


 「パム?えっと…どうしたの?」

 「んふふ~。」

 何が楽しいのか、にこにこしてるパムの様子にスキャロはいよいよ困惑した。何故この家に来たのか、そして何故少し可愛いのか。

 「なんでだと思う?」

 難問。女の子が男の家に来た理由と言ったら、君に会いたかったからだよ、とかはまぁ、男の夢とでもいうか…でもそれだとパムが俺のことを好き、みたいになってしまう。なってしまうと、相手がパムなら誰でも舞い上がってしまうだろう。

 つまり、違う。違うとすれば…?

 「いや、解らないや。どうしたの?」

 「ちょっと出られる?」

 「ああ。ちょっと待ってて?」

 そう言ってスキャロは、よく解らないまま奥に戻った。

 「母さん?ちょっと出てくる。」

 「どうぞどうぞ、ごゆっくり~。」

 ご機嫌な母親は勘違いをしているようだった。そして、あとでその勘違いで絡まれて、それを解くのに苦労するのは分かりきっていて、今から疲れた。


 お待たせ、と玄関に戻り、パムと肩を並べて表に出て、陽がもうすぐ落ちるからどうせ送ることになるパムの家の方角へと歩き始めたところでスキャロは早速切り出した。

 「で?どうしたの?」

 「えっとね、理由は2つあって、ひとつ目はこれ…スキャちんのじゃない?」

 パムが上着から取り出したのは、ピンク色の三角形の紙、メクレタ。スキャロは驚愕した。努めて顔に出さないようにしたが、果たして上手く出来たかどうか。

 「えっと…俺の?」

 「え?違うの?良く見て?」

 パムが更に顔の前に持ってきたメクレタには「好きです 付き合って下さい」と見覚えのあり過ぎる字で書かれていた。

 難問…ではないが、これはどうしよう?確かに俺のだが、受け取った相手が違う。違うなら誰に?と聞かれると、ティミスなんだけど別にそうじゃないみたいな、説明が面倒臭い。

 …誤魔化せるかな?

 「あはは、誤魔化す気?スキャちんてば顔に出過ぎ!」

 にやにやとこちらを見るパムに、誤魔化せないことを悟ったスキャロは諦めた。

 「あはは…なんで俺のだと?」

 「一昨日学校で拾ったんだけど、字を見たらすぐわかったよ?」

 「じ?」

 じ、だと?字?字でわかるのか?

 「そう、字。」

 確かに前にパムが休んだ次の日にノートを貸して…それから何度か、見せてと言われて見せたような?でも、字でわかるのか?もしかしてパムは俺のこと…いやまさか…。

 スキャロは訳が解らなかった。

 「この字、スキャちんのでしょ?」

 そう言いながらパムがにやにやしながら再度差し出してきたメクレタを受け取ろうとスキャロが手を伸ばすと、パムはさっと手を引いた。訝しんでパムの顔を見上げると、真顔だった。

 「誰に?」

 「うん?」

 「これ、誰に飛ばすつもりだったの?」

 「……誰でも良いだろ?」

 「答えて。」

 「……。」

 答えて、と言うパムの真剣さに、スキャロはどうすれば良いのか解らなかった。ティミス宛はティミス宛だが、遊び半分で上手くいったら良いよな程度のものをこの真剣な顔に答えるのは、何だか不誠実な気がして躊躇われたからだ。

 「ティミスさんでしょ?」

 「……。」

 スキャロは驚いた。そしてもう、少し怖かった。なんでパムはこんなに言い当てられるのか。相手がブーやンジューだったなら、例えパムでも普段ならきっと、俺のこと好き過ぎだろ?等と軽口を叩けるのだが、言えない。言える雰囲気ではない。

 「やっぱり、スキャちんはティミスさんのこと好きだったんだね。」

 「……。」

 いや、そうじゃないよと言いたかった。違うよと言いたかった。だがスキャロは、口の中がひどく渇いていたから言えなかった。

 そんな様子のスキャロをしばらく見ていたパムはふっと顔を崩した。

 「でもこんな大事なメクレタを落とすなんて、スキャちんも意外と抜けてるね、うふふ…もう飛ばした?」

 「…何を?」

 「いや、無くしたんだから、また書いて飛ばしたのかなって。」

 「あ、いや…。」

 「じゃあ、ティミスさんに直接?」

 「いや…。」

 「ふぅん…それじゃあさ、私にしようよ。」

 「…うん?」

 「うん?じゃないよ。私にしようよ。ね?」

 「いや、急に何を言って…。」

 「まだティミスさんに飛ばしてないなら、まだ誰とも付き合ってないんでしょ?それに、ティミスさんに飛ばしても断られちゃうかもしれないでしょ?」

 「それはそうかもしれないけど、いや、そもそもなんでふぐっ。」

 混乱しているスキャロにパムは勢い良く抱き付いた。スキャロはもう駄目だった。端々からちらちら見えていたパムの気持ちも、隠す気のないパムの気持ちも、柔らかさも、匂いも、顔を見上げてくる赤く染めた顔も、その目も、全てがスキャロの頭を駄目にした。そして可愛い唇が目に入り…。

 「私にしよ?」



 ……。


 「エルフ?」

 「そう。私達エルフの女の子は、自分からは言わないの。だけどその代わりに、好きになって貰う為に色々と、好きな男の子の好みに合わせたり、思わせぶりな態度を見せたりするのよ。好意を向けられたら、その相手を好きになるものよ?」

 「でも、相手が鈍い場合は?」

 「スキャロ君、鈍感なの?」

 「…まぁ、多分…。」

 「それなら、鈍くても分かるくらいにすれば良いだけじゃない。それこそ、抱き付いてキスしちゃえば?」

 「いやいや!いやいやいきなりそんな、無理だよ!」

 「でも、鈍いならちょっとくらい強引にやらないと伝わらないわ。それに、鈍いなら鈍いからこそ、強引にやれば勝機があるかもしれないのよ?」

 「え?なんで?」

 「鈍いっていうのは頭の回転が遅いか、想像力が足りないかになる。自分を好きとは想像出来ない訳ね。スキャロ君の場合は、私の見る限り頭の回転が悪い訳じゃ無いと思うから、想像力が足りないんだと思うの。」

 「それはなんとなく解るけど…でもそれがなんで勝機に?」

 「頭の中の仕組みとして、同時に色んなことを考えるっていうのは難しいわよね?」

 「まぁ、どれかだけになるか、どれも中途半端でぐちゃぐちゃになっちゃうか、かな?」

 「そう。頭の中っていうのは、沢山の小さな情報があって、考えるっていうのはその情報同士を、道を辿るように繋いでいく作業なの。でも、その道が混んでたら答えに辿り着けない。それが所謂、頭の中がぐちゃぐちゃってこと。パムは、スキャロ君の頭をぐちゃぐちゃにしてあげれば良いの。」

 「ぐちゃぐちゃに?」

 「そう。想像することの苦手なスキャロ君に強引に想像させるようにして、考えさせて、ぐちゃぐちゃにする。ティミスに好きだって書いたことや、そもそものそんな気持ちさえも忘れさせてしまうくらいにね。」

 「でも、そんな簡単にぐちゃぐちゃに出来るのかな?」

 「勿論それは簡単じゃないわ。だけど、恋するエルフの女の子の先輩達から伝わる言葉があるわ。」

 「それは…?」

 「恋は奇襲、よ。」

 「きしゅう?」

 「まず、見た目。普段と少し違う格好やお化粧をする。これで8割くらい決まると言って良いわ。」

 「8割…って、そんなに?」

 「ええ。見た目は相手に与える印象の大部分を占めるの。一目惚れって言葉があるけど、あれは全然間違いじゃないのよ?だからあなたの場合なら、普段と違う大人しめのお化粧してみるとかで、あれ?って思わせるのよ。」

 「なるほど…なるほど。あとは?」

 「相手が逃げ出そうとしたら、とにかく抱き付く。」

 「えぇっ!?結局それ!?」

 「更に出来そうなら頬っぺたにキスする。最悪、泣く。」

 「…それほんとに大丈夫?」

 「大丈夫…というか、これで駄目なら本当に駄目なんでしょうね。」

 「う…。」

 「でも、私はあなたなら絶対大丈夫だと思うわ?」

 「…なんでですか?」



 「とっても可愛いからよ。」




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