メクレロ!

ふしかのとう

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第七章 降臨

第17話

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 「いやぁチウンさん、本当に今日は勉強になりました。」

 メラマさんが深々と頭を下げる。

 「そうか、なら良かった。また、暇な時にでも来なさい。それに、誰かについて知りたいことが有ったら記録も売ってるからいつでも買いに来てくれ。」

 「記録って売ってるんですか?」

 「勿論だよ。記録係と言っても、お金は稼がないと生きていけないからな。」

 それもそうか。

 「ちなみに、いくら位で売ってるんですか?」

 「シンオズ。それは記録の内容にも寄るさ。例えば誰のどんなことを知りたい?」

 知りたいことか…。

 そう言われるとあんま思い付かないな。

 誰かの何かを知りたいことか…。

 「うーん、メラマさんは何かあります?」

 「うーん、そうだなぁ…アジのことを聞いてもしょうがないし…。」

 「例えばの話だから適当に思い付いたもので良いんだぞ?」

  「それなら…例えば、ルタの近況なんかを聞きたい場合には、お値段は幾らくらいなんでしょうか?」

 「それなら大体…10万ディミかな?」

 それが相場として高いのか安いのかは判断出来ないけど、10万出してまで聞きたいかと言われるとそうでもないな。

 「メラマさんは出します?」

 「うーん…難しいな。10年後とかに幼馴染みの集まりで話題になって、皆で出し合うならお願いする、かもしれない。」

 「まぁ、そんなところだろうな。他人の記録は安い物ではない。私だってそれくらい解っているさ。だが、どうしても知りたいことであれば払うだろう?足元はきちんと見させて貰うことにしているんだ。」

 商売上手と言えば商売上手。

 がめついと言えばがめつい。

 「でも、そんな値段でお客さん来るんですか?」

 「浮気調査なんかは比較的高くても払って貰える。記録販売から慰謝料の交渉まで請け負えば、かなり稼げる。これからはフリジールの人間やエルフからも依頼が来て、忙しくなるだろうな。」

 「うん?フリジールから?」

 「私やシン君は兎も角、失礼ですけど、魔族が居たってだけで大騒ぎになる国の人間やエルフがチウンさんに頼むでしょうか?」

 「フリジール王は魔族との国交を望んでいる。そして今回タキ君が魔族であることを知り、又ザラ様にもその話をしてザラ様が了承した。ザラ様が言うのだから、我々は反対することは無いな。」

 「では、近々魔族の人達がフリジールに来ることも?」

 「今はまだ魔族は恐れられているからね。それが落ち着いたらの話だ。その時は、君達も気を付けたまえよ?」

 にやりと笑うチウンさん。

 浮気の事をチウンさんに調べられたら確実にばれる訳で、そうなったら負けが確定。それが解っていれば、浮気をする気にもならないだろう。元々浮気なんかせんけど。


 しかし、だ。


 何を持って浮気とするかとなると?危険が危ないと言いますか?そういう気持ちを持って接した場合は既に浮気ではないかと言われると?男の子ですから?無い訳でも無いと言いますか?


 「チウンさんを買収しといた方が良い気もするな。」

 「メラマさんもですか?」

 「俺の場合は、この先長いからな。今は大丈夫だが、はっきり言って将来の自分に自信無い。」

 「長くなくったって、全くそういう事を考えないって訳じゃないですからね?俺も、大丈夫だとは思いますけど、自信無いっす。」

 「ふふっ、買収は高いぞ?とは言え、ちょっと遊ぶくらいのことは男なら誰でも、まぁ女だってあるんだ。それをいちいち浮気だと言う程、私も鬼じゃない。」

 ルタド先生にした仕打ちは鬼だったけどな。

 …そういえば。


 「メラマさんはルタド先生と仲良いんですよね?」

 「ん?まぁ今となっては仲良いと言って良いかわからんが、仲は良かったよ。ちょっと前までは一緒に遊んだり飲んだりしてたから。」

 「それじゃ、ルタド先生がハマッてたっていう飲み屋の女の子は知ってます?」

 「トニーちゃんかな?」

 「名前まではわからないですけど…。」

 「合ってるよ。」

 チウンさんが教えてくれた。

 「トニーちゃん、ミコにそっくりなんだけど、ルタのこと騙してお金奪って居なくなっちゃったんだよ。その子がどうかした?」

 やっぱり博士にそっくりなんだな。

 「いや、ルタさんがいつかチウンさんに頼んで仕返しして貰ったりするのかなって。」

 「ああ、なるほど。チウンさんはそういうのもやってるんですか?」

 「やらないよ。騙されたのは自業自得だろう?それでも復讐するなら自分ですれば良いし、私は関係無いから手を出すこともしない。それに…トニーに私が直接手を出すことは恐らく、ザラ様は良い気分では無いと思う。」

 「ザラさん?」


 そのトニーちゃんと何か関係あるのか?


 「あまり気持ちの良い話じゃないと思うが、聞くかね?」

 「まぁ、ここまで聞いたらちょっと気になりますし…そんなに重い話なんですか?」

 「そこまででも無いがな…メラマゾン、トニーの年齢は知ってるか?」

 「一昨年位の話ですが22歳と言ってましたから、今は24歳ですかね?」

 「今度19歳になる。」

 「えぇっ!?それじゃあの時は16、7ってことですか?」

 「そうだな。トニーがそんな歳でそんな店で働いていたのは、生活の為だな。」

 リズと同じような歳で、まぁリズも働いてるけど、そういう店で働かなきゃいけない程苦しい訳じゃない。

 「親は居ないんですか?」

 「居ない。産まれてすぐに捨てられている。トニーはそういう子供の集まるところで育ったんだ。孤児院だな。」

 リズには親は居るし、学校も行ってるけど、その子は…。

 「15歳になって院を出て、というか追い出された。院も、いつまでも置いておけないからな。」

 なんか辛い話やんけ…。

 「ザラさんはそこに何か関係が?」

 「別にザラ様は直接トニーと関係がある訳じゃない。ザラ様はトニーの小さい頃を間接的に知っているだけだ。」

 「間接的に、ですか?」

 「ああ。トニーの小さい頃、孤児院に新しく人間の男の子が来た。歳が近かったから2人はすぐに仲良くなった。そして兄妹のように育ち、いつか院を出たら2人で生活をしようなんて子供ながらに約束をしてたんだが、ある日男の子が出掛けて帰って来たらトニーの事を忘れていた。トニーは不思議に思ったが、また仲良く生活をしていた。だが、また男の子はトニーを忘れた。何度かそんなことがありながら年月が進み、男の子が先に院を出て…2人はもう会うことが無かった。その男の子の名前は、解るだろう?」

 タキか…確かにあいつも5歳だかで人間のところに置いてかれてるけど、孤児院だったのか。まぁ5歳じゃ流石に生活も出来ないし、孤児院なのも当然か。

 「タキ君…ですよね?」

 「そうだ。トニーはタキ君に捨てられたと思って荒んでしまった。ある意味では、タキ君の魔法の被害者と言っても良いかも知れん。」

 「そのことに対してザラさんは、なんとかしようとはしなかったんですか?」

 「ああ、何もしなかったな。タキ君がトニーを治した訳じゃないし、魔法で忘れたことで別れたとしても、それはその程度の付き合いということだ。」

 「でも、今回はタキ君の記憶を戻してくれたじゃないですか。」

 「ルタドビシャプリスの場合は無理矢理魔法を使わせたからな。我々の賭けもあったし。だから、ザラ様が戻したのも、タキ君が前に魔法を使った後のところからの筈だ。」

 「そうですか…まぁ私も別にどうしてもという訳じゃないですけど、なんかもやもやすると言いますか…。」

 「だから言ったろう?気持ちの良い話じゃないとな。」

 
 いやはや、普通に可哀想な話だった。だからタキの母ちゃんは、チウンさんがその子に何かするのは気分悪いってことなのか。

 タキと会わせてやりたい気もするけど、今はごろつきと詐欺やってるんだっけ?そんなの、タキは会いたくは無いだろうし、その子も会いたくは無いか。どうなるのかちょっと見てみたい気もするけど。


 …てか、タキが博士に一目惚れしたのも、元々その子を好きだったからじゃないのか?会わせる会わせないの前に、こんな話博士に絶対知られちゃ駄目だわ。


 でも、親に捨てられたのにタキにまでなんて…。

 「チウンさん。そのトニーちゃんがタキの記録を読めば、少なくともタキに捨てられたのでは無いってことはわかるんじゃないですか?」

 「シンオズ。前にも言ったが魔族のは無いんだ。」

 「あれ?でも、タキの本はありましたよね?」

 「ああ、あれは私が書いているが、本当はザラ様が書いているものだから、私には読めないんだ。」

 「いや全然解らないですよ…。」

 「ザラ様が私を使ってタキ君の記録を取っている、と言えば解るかな?」

 「それはチウンさんは読めないんですか?」

 「ああ。知らない言葉、多分天使の言葉で書かれてるんだろうな。私は書いているが読めないんだ。」


 俺達は精霊の力を使うけど、精霊にとってそれが何に使われるかは関係無いのと同じなのか。


 髪の無い精霊か…。


 「ザラさんはきっと、自分を媒介させてタキ君に魔法を使わせてるんですよね?もしかして、タキ君の記憶が無くなるのは、魔法を使った罰ということなんですかね?」

 「それは違う。タキ君の記憶が無くなるのは、無くした方が都合が良かったからだ。魔法を使った罰は、あくまでザラ様だけの話だと思う。実際に使ったことがあるのかどうか解らないから、どんな罰なのか、そもそも罰を決めているのかも分からん。」

 「ザラさんに治して貰った人の記録ならあるんじゃないんですか?」

 「それも、治した人の記録を見ても分からんからな。ザラ様に関することは御本人が言ったこと以外分からないし、言ったことも信じるしか無い。」

 「もしザラさんが嘘を吐いていたら?」

 「嘘と思わなければ私達にとっては真実さ。それに、あの人が嘘を吐くなら、そこにはきっと素敵な理由がある。そして、そう思う事こそが、我々魔族の幸せなのさ。」

 魔族にとってのタキの母ちゃんは、俺には想像も出来ない位に信頼され、尊敬され、愛されているんだ。タキの母ちゃんの、皆を幸せにするという途方も無い目的の、少なくとも魔族に対する部分だけは、タキの母ちゃんがそこに居るということだけで達成されていると言っても良いだろう。ただ居るだけで周りを幸せにする、天使とはそういうものなのかも知れない。

 だから、トニーちゃんもいつか天使の…。


 がちゃ。


 「あら?間違えたわ?」

 「え?」「え?」「え?」


 噂の天使、タキの母ちゃんだ。


 口の周りがなんかてかてかしてる。


 そして…素っ裸だ。


 そんでもって翼が…。



 「お楽しみのところごめんなさいね?」

 「あ、いえ、あれ?あの、その、ザラ様?その、お、お召し物は?とにかくこれを…。」

 慌てたチウンさんが咄嗟に上着を脱いで渡そうとしている。てかメラマさんも上着脱いでる。確かになんか、綺麗過ぎて見ちゃいけない気がするんだ。

 「良いのよ、どうせまたすぐ脱ぐし。」


 ーーうぅっ!うさっ、あぁっ、うぅっ!うさっ!うさぁっ!あんっ!うさっ…。


 オリアちゃん?うさ?


 「あの、オリアが居るんですか?」

 「ええ。」

 「オリアは一体何を…。」

 「うさぎちゃんなの。」

 「はぁ…。」

 流石のチウンさんも首を傾げている。

 うさぎ?うさ?訳わからん。

 でも声がなんかちょっとえっち。


 「そういえばあなた達、ご飯食べた?」

 「いえ、まだですが…。」

 「お赤飯食べるわね?黒デンワ借りるわね。」

 そう言って黒デンワの前で正座する、裸のタキの母ちゃん。羽は肩の後ろから生えてるんだな。本当に真っ白。


 じーころころじーころ…。


 ーーもしもし?私ザラ、お赤飯3つ、チウンのおうちに、お代は私につけて、ええ、店長さんによろしくね?ちゅっ…。

 ーーあぁんタキちゃん!うさぁ!だめっ!うぅっ!…。


 タキ?



 「それじゃ、邪魔したわね?」

 ーーうさぁ…。


 ぱたん。




 「…なんすか今の?」

 「ザラさんが裸で…。」

 「全然解らん。」

 「てか、隣の部屋なんですよね?いつの間に…。」

 「開けてみろ。」

 「え?でもなんかタキとオリアちゃんがえっちしてたような…。」

 「良いから開けてみろ。」

 「…はい。」


 がちゃ。


 あれ?


 「部屋が違う…。」

 「そうだ。さっき君達が運んだのは別の場所、ザラ様が最近買った屋敷の部屋だ。魔法で繋いだんだ。」

 「ここに来る時も、その魔法で?」

 「ああ。狸のような猫だか、猫のような狸だかがそういう転移魔法を使うらしいから、我々も使えるようにした。ザラ様は、間違えたと言ってたから、間違えて繋いだのか、どこか別のところに行きたかったのか…というか、そもそも何故ザラ様とオリアがあそこに居たのか、全く分からん。」

 「ザラさん、裸でしたね。」

 「実は私は、ザラ様の肌を自分の目で見たのはこれが初めてなんだが、女の裸を見てあんなに困ったことは無い。」

 「私も、綺麗過ぎてというか、思わず隠したくなりましたよ。」

 「俺もです…でもなんか、口の周りがてかてかしてましたね?」

 「謎だ、全てが謎過ぎる…が、とりあえずこのことは…。」

 「他言無用、ですよね?」

 「言えませんよこんなこと。」

 友達の母ちゃんの裸見た、とか何言われるかわかんねぇ。
 
 「いや、他言無用どころか、忘れよう。ザラ様は何か少し変だったし。忘れないと後が怖い。」


 ーー毎度、かぶと寿司です!ご注文のお赤飯3つ、ありがとうございました!


 忘れられる気がしねぇ。


 

 ~~ 第七章 完 ~~




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