メクレロ!

ふしかのとう

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第七章 降臨

第6話

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 「な、なんでザラ様がこちらに?」

 「なんで?タキの顔を見に来たのよ?駄目なの?」


 タキの母ちゃんは凄い。凄まじい美人で、異常な色気があって、なんてことないひとつひとつの所作が見惚れるくらいに綺麗。メラマさんもちょっと見惚れてる。

 で、チウンさんが焦ってる。

 …どっちかと言うとびびってる、だな。


 「そういえばさっきね?私に内緒で勝手にお金を稼いで負けを無かったことにしようとする不届きものが居るとか言う話を耳にしたから、潰しておいたんだけど…チウン知ってる?」

 「たたた大変申し訳ございません!」


 チウンさんの汗が凄い。髪の毛が無いから、頭に玉が出来ては流れ落ちる様は、ちょっと面白い。

 「え?チウンは知らないってことかしら?」

 「いえ!私めのことであります!」

 「あら、そうだったの?でもそれなら、負けちゃったんだから仕方ないわよ。規定は規定だもの。」

 「お言葉ですが、まだ負けが決まった訳では…。」

 「残念だけど、もう私達の勝ちで間違い無いわ。だから、私が出しといてあげるって言ってるの。」


 負けとか勝ちとか何なのかな?賭け?

 賭けだとしたら、何の賭けかはわからないけど、チウンさんは2億賭けたのか…。


 「でも、それは貸しなんですよね?」

 「余計なお世話みたいね?でも、築城は人手が幾らあっても足りないみたいだし、丁度良いわ。さて…。」

 「ま、待って下さい!」

 「あなたがシン君ね?」

 タキの母ちゃんがチウンさんを無視して俺の方を向いて聞いてきた。

 「は、はい!」

 「タキと仲良くして貰ってるみたいね。ありがとう。これからも、宜しくお願いします。」

 「いえ、こちらこそ…タキにはいつもお世話になってます。」

 さっきは本当にお世話になっちゃったんだ。俺の為にタキが魔法を使って記憶を飛ばして…。

 「あ、あの!ザラ様!」



 「チウン?うるさいわよ?今お話してるの。」



 「はっ。」

 …俺じゃないのにぞくぞくするぜ。


 「確かにそうね。さっき死に掛けてたあなたを魔法で助けたのはタキ。」

 あれ?心でも読めるんか?

 「読めないわよ?」

 …どうしましょう?タキのお母様は絶対に僕の心が読めている様な気がします。余計なことを考えないようにしないといけません。

 余計なことを考えないようにしようとすると、余計なことって何だっけ?とか考えて、エロいことじゃね?とか考えて、気付いたらエロいこと考えちゃうこと、あると思います。

 「そうなの?」

 考えちゃ駄目だ。タキのお母様は服も滅茶苦茶綺麗だけど、そういえばタキが赤ちゃんの時におっぱい吸わせて…駄目だ!さっき吸わせてたのはお母様じゃなくてオリアちゃん…ああ!駄目だっていうのに!

 「良いのよ。若い男の子はそういうものだし、私は気付かない振りをしてあげてるの。」

 振り出来てねぇ。

 「してあげてるの。」

 「お気遣い感謝します…。」

 「素直な子は好きよ?それで、私はタキが魔法を使って治したらお代を頂いてるの。例えばフリジール王の腰を治した時は1億ディミ頂いたわ。」

 腰で1億…。

 「だから、そうねぇ…シン君は幾らくらいが良いかしら?」

 「…その、俺に払い切れる額とは思えなくて…その、全然想像も付かないんです。胸を刺されて、死に掛けてたくらいだったと思うので。だから、お母さんが決めて下さい。生きてる限りは精一杯頑張ってお返ししますから。」

 「そう?それじゃあ…オズの家に行ったらご馳走して貰おうかしら?」

 「えぇっ!?そんなことで良いんですか?」

 「ええ。欲しいのは気持ちですもの。それで、その時食べたいものがあるのよ。作って貰えるかしら?」

 「それは勿論です!何が食べたいですか?」

 「キンテントットよ。」

 「キンテントット?」

 何それ?

 「あら、知らないかしら?」

 「ええ、すみません…。」

 見たことも聞いたことも、勿論食べたことも無い。

 「ほら、生米を炒めてオレンジの中身くり抜いたとこに入れてオーブンに入れるやつよ?」

 それはトマトで…ああっ!

 「思い出しました!キンテントット!…でも、あれはタキが適当に言ったやつで、美味しいかどうか分かりませんよ?」

 「それを食べたいの。適当でも、タキの考えたものなら食べてみたいわ。」

 「でも、本当に美味しいかどうか…。」

 「そこは腕の見せ所ね、頑張って頂戴?美味しく出来たら知り合いに頼んで世界中に宣伝して貰うから、そのうち世界中でキンテントットが食べられるようになるわね。」

 急に話が大きくなってきちゃった。

 「きっと、ずっと残るわね、あなたが適当に名前を付けてタキが適当に思い付いた料理が。それは、あなたが死んだ後も、タキがまた魔法で記憶を無くしたとしても、タキは食べる事が出来る。それってなんだか素敵じゃない?」

 …なんてこった。

 素敵なのはタキの母ちゃんだわ…。

 「もし美味しくなかったら、タキに口移しで全部食べさせるわ。」

 それはタキが羨ましいから絶対に美味しく作ろう。


 …あ。


 「うふふ…シン君にはリズィちゃんが居るのよ?流石にあの子の前であなたに口移しは出来ないわ?」

 「あ、いえ、その…。」

 「でも…。」

 そう言ってタキの母ちゃんが近付いてきた。

 滅茶苦茶良い匂いするぜ。

 目も耳も魅了されてるのに、鼻もやられた。

 多分もう、頭もやられてる。


 「今ならリズィちゃんは居ないわ?」

 そして俺の頬に手を伸ばして、そっと触れてきた。

 背は俺よりちょっと小さいくらいだから、軽く上目遣いになると滅茶苦茶目が大きく見える。吸い込まれそうだ…。


 「こんなおばさんで良かったら…。」

 全然おばさんじゃねぇし!美しいおばさん、ってふさふさハゲくらいあり得ん言葉だわ。


 「ちゅうする?」

 はい死んだ俺死にました。こんなに綺麗な女の人が首傾げて上目遣いでちゅうする?とか可愛過ぎ過ぎるわ!ギャップ!嗚呼!折角タキが生かしてくれたのに、色んな意味ですまん。リズも…。

 …。

 いやいや!いやいやいや!

 「や、やっぱり駄目っす!」

 後戻り出来る気が全然しねぇ!

 「あら残念、振られちゃった。うふふっ…あら?」

 ーーミコ?


 助かった…。

 タキ、色んな意味でありがとう。


 「タキが起きたのね…タキ?」

 「ミコォ?」

 「まだ眠いのかしら?おいで?」

 タキの母ちゃんが正座して太腿をぽんぽんと叩いてタキを呼ぶと、タキがそこに頭を乗せた。そしてタキがタキの母ちゃんの胸に手を伸ばし…。

 「ミコ!」

 「どうしたの?触っても良いのよ?」

 「ミコ!」

 「もう、どうしたのかしら?」

 「ミコォ!」



 「…なんでタキは不機嫌なんですかね?」

 小声でチウンさんに聞いてみる。

 「…さっきはオリアだったからかな?」

 オリアちゃん?

 …まさかサイズにご不満ってことか?

 「物足りないってことですか?」

 「私は何も言わん。そしてもうこの話は止めよう。」

 「はい…。」



 「ミコ!」

 「…チウン?タキの本を。」

 「え?」

 「もう、私がやるわ。」

 「でも、それだと違反になるんじゃ…。」

 「ならないわ。」

 「しかし…。」

 「私がならないって言ったらならないわ。早く出して?さん、にぃ…。」

 「わわ、こ、こちらに!」

 チウンさんが袖から本を出して、タキの母ちゃんに差し出した。でも、タキの本?魔族の本は無いんじゃなかったか?

 受け取ったタキの母ちゃんはそれを袖に入れる。魔族の人達の服の袖が大きいのは鞄替わりなのかな?


 「タキ?赤ちゃんみたいなあなたも可愛いけど、ちょっと余計なことを知り過ぎたみたいね?」

 「ミコ?ミんむぅ!んむぅ!」


 ちゅるちゅる…。


 「んむむぅ!んむっ!んっ…。」


 ちゅるちゅるちゅる…ちゅぱっ!


 ぴくっ…ぴくっ…。


 「ごちそうさま。」

 タキがぴくぴくしてるんですけど…。

 「チウン?後は宜しくね?」

 「は、はい。」

 「シン君?」

 「は、はい?」

 「このことはミコーディアには内緒よ?」

 「はい!」

 言える訳ねぇだろ!


 「あとは…メラマ?」

 「はい。」

 「お友達がちょっと道を外したからと言ってあなたが責任を感じるのは違うわ。」

 「はい…。」

 「でも、そうは言っても中々すっぱり忘れられるものじゃないわね。だから、あなたはあなたできちんと幸せになって、アジを幸せにして、子供が出来たらその子達も幸せにして、お友達が戻った時に幸せのお裾分けが出来る準備をしておきなさい?」

 「…はい。ありがとうございます。」

 メラマさんの感謝の言葉は、なんとなく救われた気がしたからだろう。

 タキの母ちゃんは、凄く優しいというか、愛情を持って色んなものを包んでくれる気がしてくる不思議。

 …タキは愛情表現で気絶してるけど。

 気絶するキスってどんなだよ?しなくて良かったわ。


 「それで、あの…。」

 「聞きたいことがあれば、チウンに聞くと良いわ。私はもう行かなくちゃいけないの。でも、メラマは別に聞かなくても良い筈よ?」

 「聞かなくても良い?それはどういう意味ですか?」

 「そのままよ?…あ、そうだ!大事なこと忘れてたわ。」

 急に何かを思い出したらしいタキの母ちゃんは、メラマさんに近寄って…。

 「あなたも、ミコーディアには内緒よ?」

 メラマさんの顎を撫でてから去って行った。


 今の、大事か?




 ・・・。



 「チウンさん?俺、前から思ってた事があるんですけど。」

 「なんだ?」

 「タキのお母さんって偉いんですか?」

 「偉い、か。それは君にとってフリジール王が偉い、というのと同じ意味であるなら、違うな。凄い、と言った方が的確だと思う。」

 女王とかじゃないのか。凄いの方が的確ってか、俺も最初見た時にそう思ったもんな。

 「だからチウンさんはあの人に頭が上がらないんですか?」

 「まぁ、そうだな。俺に限らず、魔族は皆ザラ様を尊敬し、畏怖し、憧れている。魔族にも決まりがある、という話はしたことがあるね?」

 「ええ。それは前に聞きました。破っても罰則は無いけど、決まりだから守るってやつですよね?」

 「そうだ。それを最初に作ったのはザラ様だ。他にも、偶には皆で集まって話し合いをしようとか、それぞれ特技を活かして仕事をしようとか、基本的な魔族の生き方を作ってくれたんだ。」

 「話し合い…さっきオリアちゃんが聞きたがってた審議とかもそうなんですか?」

 「そうだな。まぁあれは特殊なものだが。」

 「やっぱり教えて貰えないんですか?」

 「いや?今はオリアが居ないから構わないが、知りたいかい?知ったら行動に制約が生まれるが?」

 どういうことだ?

 「行動に制約ですか?」

 「ああ。知ってる事を悟られてはいけないとか、勿論内容を話してもいけない。邪魔をしてもいけない。メラマゾンも、聞いてしまったら戻れないが?」

 「私は、もうここまで聞いてしまったら、聞いてしまいたいのですが?」

 「俺も、もう聞かなかったことには出来ません。教えて下さい。」

 「わかった。では教えよう。審議とはな…。」

 …ごくり。



 「タキ君がオリアとえっちをしたかどうか、だ。」



 ………はい?

 「ちょっと私には理解が…。」

 俺にも理解出来ないわ。

 「シンオズはさっき、私がオリアの行動を読んだことを覚えているね?」

 「あの、タキと激しい感じのやつですよね?」

 「ああ。あの直後にルタドビシャプリスがタキ君の家を訪れた。彼らは中断せざるを得なかったのだが、彼らは最早えっちをしていたのではないかという議論になったんだ。」

 いや、全然解らないんですけど。

 「あの、タキ君とオリア?さんがえっちをしていたかどうかで何故議論が?」

 「ああ。それはね…。」



 「それ次第で世界が崩壊するからさ。」



 いや、いよいよ全然解らないんですけど。

 

 


 
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