メクレロ!

ふしかのとう

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第六章 ルタド

第11話

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 「だまれっ!」

 ルタさんが叫びながら腕を振った瞬間、一陣の風が吹いたかと思うと…ぼき?

 「ああっ!いったぁたたた…。」

 「オイちゃん!どうしたの!?大丈夫!?」

 オイちゃんは左腕を押さえてる。

 その顔は真っ白になっている。

 「う、腕が…あ、う…骨が折れたみたい?たたた…くぁ…。」

 「えぇっ!?な、なんで…ルタさん?」

 「…その女、ドワーフか?」

 「それが何か?」

 「…ふふっ、ふは、ふははははっ!魔族に多少効くだろうからと風の古代魔法を習っておいたが、メスのドワーフに覿面に効くとはな!これは、地の精霊様々だ!」

 …良く解らないけど、くそったれ!

 くそったれくそったれくそったれ!


 「例え泣き喚こうとも、そういうのが好きな手合いはどこにでも居る!人間と違って長生きだし、体も丈夫だ。身体も男受けが良さそうだし、こいつはきっと高く売れるぞ!ほらどうした魔族さん?治さんのか?」

 「だ、駄目だよタキちゃん!これくらい唾つけとけば治るから!」

 「治る訳無いだろ!そんな真っ青な顔して!」

 「でも、忘れちゃうよ!ミコちゃんに怒られちゃうよ!」

 「治さなかったら、それこそ怒られるだろうが!」

 「とにかく絶対だ…。」

 「ママチイテ。」

 「めって…ああっ!」





 ・・・。

 …ここは、俺の部屋?…違うか。壁一面の本棚に本がびっしり…え!?いきなり本が全部飛び出して床にばら撒かれて、おいおい俺じゃないぜ?俺じゃないけど、片付けてあげる俺ってば紳士…お?ミコの本だ、これもか。ミコの本がいっぱいある。あ、オリアだって!オイちゃんみっけ。これもか。となると、マキちゃんもブルゼットも…シンにリズィちゃんに…なんだこれ面白いな。俺のせいじゃないけど、あれ?本棚に扉なんて……。


 「…キちゃん!タキちゃん!」

 俺を呼ぶ声がする…。

 「タキちゃん!気が付いた?大丈夫?」

 「腕は?」

 「大丈夫!ありがと!それよりタキちゃんこそ大丈夫?私のこと覚えてる?」

 それは大丈夫!

 「勿論!おっぱいが大きくてちっこくて可愛くて…。」

 「見ただけじゃん!」

 「優しくて可愛くて良い子で思いやりがあって…。」

 「う…やっぱり恥ずかしい…。」

 「ひとりえっち研究第一人者のオリアちゃんでしょ?ばっちり。」

 本をきっちり戻したからかな?

 やっといて良かったわ。俺のせいじゃないけど。

 「いやいや、忘れても良いこと覚えてるのに、割と大事なの忘れてるからね!?」

 「え?耳えっちのこと?」

 「ち、が、う!」

 「おもら…。」

 「違う!ぶつよ!?」

 「俺はオリアちゃんのこと好きだよ?」

 「…ああぁっ!うわぁぁぁんっ!もうこれ以上怖くて聞けない!皆ごめんね!うわぁあああっ…。」

 どうやら俺はやらかしたらしい。

 「ごめん…。」

 「謝らないで!謝っちゃ駄目!うわぁぁぁん!」

 オリアちゃんが俺にしがみついて泣いている。

 …おっぱい…。

 「はっはーっ!傑作だ!忘れた、本当に忘れやがった!」

 「ルタドあんたてめぇ…クソ野郎だな!」

 「クソ魔族がっ…なっ!おぶっ!」

 オリアちゃんが手に持っていた薬の入れ物を投げ付けたのが顔に当たり、怯んだところに飛び掛かって殴り付けた。

 「ゆ、許さないから!死ね!殺してやる!」

 「ぐっ、お、俺を殺したらシン君は助からないぞ!?」

 「くっ…。」

 オリアちゃんの手が止まる。

 「…ふ、ふふっ!ふははっ!残念だったな!お前は女に生まれたことを絶対に後悔おぼっ!」

 クソ野郎が吹っ飛んだ。俺が殴ったから。

 「ルタド、あんたは俺が殺してやる、よっ!」

 げぶぅ。

 四つん這いのクソ野郎に駆け寄った勢いで脇腹に脛をめり込ませるつもりで思いっ切り蹴ったら、クソ野郎の口から変な音がした。腹の中の空気が押し出されたのかな?
 
 「げっ!がはっ!はぁっ!はっ!がっ…俺を殺したらシンくんっ!あっ…。」

 ごっ。

 「ぐっ!」

 ごっ。

 「まぶっ!」

 ごっ。

 「まっ!ぶっ!」

 髪の毛引っ掴んで、顎じゃなく頬を殴り付ける。

 徹底的に痛めつけてやる。

 エルフなのに、きったねぇ顔。死ね。

 

 「た、タキちゃん!?それじゃシン君が…。」

 「どのみちシンのことは殺すだろうし、オリアちゃんを売るとか言ってるし、こいつは今殺した方が良い。俺がやるよ。オリアちゃんは早く帰りな?シンにはいつか謝るよ。もう謝るしか…。」

 ごきっ。


 どさっ。


 …え?

 背筋の凍るような、凄まじい音と共にオリアちゃんが崩れるように倒れた。右脚の向きが…。

 「オ、オリアちゃん!オリアちゃん!?」

 クソ野郎を捨てて駆け寄った。

 オリアちゃんのふ、太腿が…。

 「…ぺっ!…気絶したか。大腿骨を生きたまま折られるなんて、中々体験出来ないだろうな。」

 こんのクソ野郎!さっさと首絞めときゃ良かったわ!くそったれ!覚えとけよ?絶対にぶっ殺してやるから!俺はこれだけは絶対忘れないからな!

 …多分?

 と、とにかくオリアちゃんだけはちゃんと帰さないと!

 「まぁこれからの生活を考えたら、この痛みを知っておけば…。」

 「ママチイテ。」






 ・・・。

 …ミコ!あとはこれは…ミコ、ああこれもミコ!くそったれミコばっかじゃねぇか!ああ!もう解らんけどこれだけ!これだけは!……。


 「…ああぁああタキちゃん!うわぁああんタキちゃん!なんてこと!なんてこと!」

 俺にしがみついて泣いてるおっぱいの大きい…ミコ?

 「一応確認だけど、ミコ?だよね?」

 「うぅっ、違う…。」

 「ははははっ!あはははっ!忘れた!はははっ!一気に行くんだな!あははっ!」

 この野郎、誰だか知らないけど気分悪くなる笑い方しやがって。俺が魔法使って忘れたらそんなにおかしいかよ。

 ぶん殴ってやろうかと思ったけど、こいつは既に顔がぼこぼこだ。


 「…まさかあいつはミコじゃ無いよね?」

 「うん、違うよ…ひっく、私もう駄目だ…ひっく、ミコちゃんに、皆になんて言えば良いのか…うぅっ。」

 「はははっ…おいタキ!その女のせいでお前は記憶を無くしたんだ!その女さえ居なければ、お前は記憶を飛ばすこともなく、こいつも無事に帰れたんだぞ?」

 何言ってるんだこいつ?

 俺はこの子を治したみたいだけど、この子が悪いようにはとても見えない。

 「この子のせいな訳無いでしょ。流石にそれくらいわかるわ。シンは馬鹿だからそんな冷たそうなとこでもぐうすか…死んでるの?」


 …嘘だろ?


 「いやいや、心配御無用!胸の辺りを良く見てみろ、ちゃんと呼吸をしてる。シン君は疲れが溜まってるから寝てるだけさ。」

 こんなに騒いでるのに、随分とまぁ…。

 「なら起きたら…。」

 ん?起きたら?シンはどうするんだ?

 「…まぁあんたに任せとくよ。知り合いみたいだし。俺はちょっとこの子に聞きたいことがあるから…。」

 このおっぱい大きい子は色々知ってるみたいだし。聞きたいのはおっぱいのことじゃないぞ?ほんとだぞ?

 「タキちゃん!あいつはシン君を殺そうとしてるの!」

 …え?

 「え?そんなことになってるの?」

 「うん…ぐすっ、でも私、もうどうして良いのか、もう本当に解らないよ…。」

 この子は泣きじゃくって、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだ。

 …この子にこんな顔させるあいつはクソ野郎に違いない。でも、とりあえず謝ることにしよう。顔がぼこぼこだから、シンが殴ったのかも知れん。あの馬鹿、こんな時に呑気に寝やがって…いや、寝てたら殴れないか。

 てか、シンのやつ、睡眠薬でも飲まされてるのか?

 クソ野郎のことは俺が殴ったのか?いやでもそしたらシンは何で?俺は誰を治したんだ?このおっぱいちゃんだよな?クソ野郎がこの子に何かしたのか?それとも俺が?…。

 確かに何が何だか解らん。殺そうとしてるって穏やかじゃないけど、とにかく俺が魔法で忘れちゃってる以上、手の打ちようも無い。

 こいつを殺せば…いやいや、流石に殺しちゃ駄目だろ?

 「おいあんた。あのさ、シンや俺が何か悪い事をしたんだったら謝る。ただちょっと忘れちゃってて訳が解らないから、一旦今日のところは勘弁してくれないかな?」

 「ふふふっ…あははははっ!あははは…良いだろう!シン君は助けてやろうじゃないか!あはははは!だがその前に…仕上げだ。」


 仕上げ?


 訳の解らんことを言うクソ野郎は、横たわるシンの頭の側に畳んで置いてあった布をそのまま胸の上に置き、ベルトから細長い小さなナイフを抜き取り、布の上から突き刺した。その一連の動きは酷くゆっくりに見えたが、俺の体は動かなかった。


 おいおい、冗談…冗談…。


 「いやぁぁぁぁっ!なんてこと!もういやぁっ!」

 「さぁタキ君?ぼうっとしてると、シン君はあっという間に死ぬぞ?」

 布のお陰で噴き出さないものの、血はこんこんと湧いて布を赤く染め、金属の机の上を広がって縁から流れて落ちた。



 シン。起きたらそいつぶっ殺して良いぞ?

 おっぱいの子のこと宜しく。

 「ねぇ?ミコのこと知ってるんだよね?ミコに会ったら、なんか上手いこと誤魔化しといて?」

 「無理だよ!もうやめて!お願い!」

 「駄目だよ。シンが死んじゃう。ね?頼むよ。」

 「駄目だよ!そんなお願いしたって…。」

 「急ぐからごめんね?宜しく!」

 「ああぁあタキちゃん…うああぁっ。」

 急いでシンの元に向かう。

 この馬鹿、胸刺されてるのにぐうすか寝やがって。起きたら…俺は忘れてる。すまんな。

 「ほらほら、早くしないと間に合わなく、あっ!」

 シンの胸から抜いたナイフでそのままクソ野郎の顔を刺してやろうと思ったのに、外した。

 「くそったれ…ママチイテ。」

 …クソ野郎はひっくり返ってひぃひぃ言いながら右耳押さえてるから、一応当たったんだな。魔法の言葉も聞かれなかったみたいで、良かった良かった。




 ・・・。

 …足元にあった紙束は風に舞って凧の様にふわふわしている。どの凧にも大概ミコと書いてあるから、ミコのものなんだろう。凧と違うのは、操作する糸が無い。尾も無い。てことは、凧じゃなくてミコなのかも知れない。

 ぼんやり眺めていると1枚、そしてまた1枚と、次々にどこかへ飛んでいく。帰るのかな?

 そして、最後に残った1枚。あいつがミコの親方だな。そのミコだけ薄い桃色の三角形で、尾もある。そいつは挨拶するようにくるくる回って、他のミコと同じ方向に飛んで行った。


 今はもう遠くて確認出来ないけど…。


 あいつにもきっと…。


 ミコって書いてあるんだろうな。

 




 ~~ 第六章 完 ~~

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