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第五章 四角三角
第6話
しおりを挟むさて。
そろそろシンの店も落ち着いてきたようで、窓際の席に移動させて貰った。窓から入る風は丁度気持ち良い。
「博士の飲み会の終わりが何時かは決まってないんだろ?」
「うん。でも、もうしばらく後だろうし、手紙も飛んでくるから、それまでのんびり待つよ。」
「ふぅん。手紙飛ばすのって便利だよな。」
「そうだな。俺も魔法紙が…飛ばす魔法紙か。飛ばせる魔法紙あったら売れるな。」
「売れるけど、お前が博士に飛ばすしか使えないじゃん。」
「お前が俺に渡すだろ?俺がそれをミコに飛ばすだろ?ミコがお前の渡したい相手に渡すと。」
「直接渡しに行くわ。」
「いや、前にカンジがロクラーンのエルフのお医者さんに頼んでミコに送ってくれた。その時なるほどと思ったんだが、俺とミコが離れた場所に居れば、直接渡しに行くより早い。」
「博士と離れて暮らすと。」
「無理。1通1億ディミ貰っても無理だわ。」
「5通も出せば、俺の生きてる間くらい遊んで暮らせるぞ?」
「その5通のお客が来るまでにお前が何世代終わっているのか予想も出来ないな。孫の孫でも無理そうだ。」
「大体、今俺達が思い付くものなんて大概既に有る訳だからな。そして、無いということは、必要無いということだ。」
「でもお前さっき、手紙って便利だなって言ってたじゃないの。」
「まぁそうなんだけど…もしそれが使えたら便利だなって話よ。難しいだろ?お前が火の精霊に命令するのと同じくらい難しいだろうよ。」
「なるほどな。火の方で風と同じようなことは出来ないの?風の精霊は案外融通が利くというか、下らないことでもやってくれるんだよな。」
「融通?例えば?」
「ミコのスカート捲ったり…ミコのスカート捲ったり?」
「博士のスカート捲るだけじゃねぇか。お前、仮にも神の足元におわす精霊になんつうことさせてんのよ?」
「いやでも、精霊の方も、そういうのはやってくれるのに、ロウソクの火は消してくれないんだぞ?スケベ精霊だわ。」
「聞いたことないわ。何?最近そんな遊び開発したの?」
「いや、向こうに居た時に最初にやった魔法がそれだわ。」
「博士がまだ嘘の人妻だった頃だな。お前、人妻のスカート捲るとか、滅茶苦茶だな。」
「俺にもちょっと事情があったんだ。博士の研究を成功させたいって、心から思ってたからな。」
「善意が悪意と手を組むと悪意側に寄るんだな。勉強になります。」
「結果、善意が勝つんだぞ?実験は成功したし、博士は俺が幸せにする。」
「世の中が良くならない理由を垣間見た気がするぜ。」
からん。
ーいらっしゃいませ!あれ?ミコさん?…。
「ん?ミコ?」
「博士?手紙来てないよな?」
「うん。どうしたんだろ?…あれ?アッちゃんも?」
アッちゃんと更にもう1人、男のエルフも居る。
どうしたんだろう?
「なんかあったみたいだな。こっち来たし、俺は席外すわ。」
「すまん。」
「いや、丁度良い休憩だったから。また来てくれ…いらっしゃいませ博士。お連れの方も、ごゆっくりどうぞ。」
そう言ってシンが店員さんに戻った。
「ミコ?お疲れ様。どうしっ!」
ミコが抱きついてきた。仕方ないのう。
「なんかあった?」
「ごめんなさい。タキ君が魔族って、魔法のことも言っちゃった。本当にごめん。私…。」
「良いよ。大丈夫。」
「初めまして、君がタキ君だね?アジはさっき挨拶したみたいだけど、アジの夫のメラマです。ちょっと色々あってね…。」
「メル?ここだと…。」
「ああ。場所を変えようか。」
「話し難いことなんですか?」
「そう…だと思う。あまり聞かれない方が良いかな?」
「それなら、ちょっと聞いてきます。ミコ?俺なら大丈夫だから、ちょっと待ってて。ね?」
「うん…。」
「シン?奥の方の席空いてる?空いてたら…。」
「用意しといたぞ。」
「やだ格好良い。ありがと。お礼はまた改めて。」
「良いから良いから。」
「では、奥の席使って良いみたいなんで行きましょう。」
「でもお店の方にも…。」
「この店の人は皆俺のこと知ってるんで大丈夫かと。それに、ルタさんのことも。」
「…なるほど。それじゃ、ありがたく使わせて貰おうか…っしょと。ここは何度か来たことがあるけど、美味いよね。」
「そうですね…それで?どうしたんです?」
「ミコ?俺が話すんで良い?自分から話す?」
「メル、私が話すわ。ミコはもうちょっと落ち着かないと駄目だし、私はずっと隣だったから。」
「お前も冷静か解らんから俺から話そうかと思ってたのに…。」
「その時は止めてくれれば良いわよ…で。早速確認だけど、タキ君は魔族なのね?そして、記憶を代償に人を治す魔法を使える。合ってる?」
「はい。まぁ魔族って知ったのは最近ですけど。」
「ふぅん。で、ミコを騙してるの?」
「おい!アジ!お前…。」
「騙してません。」
「でしょうね。はい、私はタキ君の味方!メル、あなたは?」
「俺は最初から信じてたっつうの。」
「あの…どういうことですか?」
俺がミコを騙してるって何さ。
「途中までは久々にミコに会えたって皆で盛り上がってたんだけどね。タキ君の話になって、ミコがタキ君は今仕事はしてないって言ったらルタがね?20歳で仕事もしてないで、しかもすぐ死ぬ人間なんか止めとけよって。あいつ、未だにミコのこと好きなんだろうけど、良い加減あいつは死んでも無理って気付けっつうの。」
「おいアジ…ま、とにかく。それ聞いたミコが怒ってさ。タキ君は魔法使って死に掛けてる人でも治してたんだから、医者のあんたと変わらないわってさ。ただそんな魔法、俺達も聞いたこと無い。それでルタも、そんな魔法聞いたことが無いって…。」
「メル?実際はもっと酷かったからね?私ぶん殴ろうかと思ったんだから。」
「…まぁ、そんな訳でさ。ミコが、記憶を犠牲にしてまで人を治した人を悪く言うなんて!ってさ。そしたら人間にそんなの使えるかってなって、タキ君は本当は魔族なんだってミコが言っちゃってね。今度は、ミコは魔族に騙されてるだけだとか色々、ルタが悪く言うもんだから、ミコがぶん殴って出たの。それで、俺達が追い掛けてきたって訳。」
「ま、一応確認も兼ねて?タキ君が魔族なのか、魔族なら本当にミコを騙してるのかどうか。結果として答えは、ルタはクソ野郎ね。ミコの恋人が人間でもドワーフでも魔族でも関係無いじゃない。あんなやつもう幼馴染みでもなんでもないわ、恥ずかしい。」
「あいつはちょっとエルフ至上主義みたいなところがあるのが悪いところだ。治せって言ってるんだがな…後で俺達は戻るから、皆にはミコの言うことは正しかったって伝えておくよ。ただ、タキ君?君が魔族なこととかも本当だって知られても…?」
「構いませんよ?ミコが嘘吐き呼ばわりされるのはかなり心外なので。」
「ふぅん…ミコ?素敵な恋人ねぇ?」
「うん。えへへ。」
「メル聞いた?あのミコがふにゃふにゃよ?」
「いや驚いたな。タキ君、今度飲もうよ。アジも誘ったみたいだけど、俺達はミコの昔のこと教えるから、ミコの最近の話とか聞かせてよ。」
「ちょっと!?メラマ!?駄目よ!?」
「それじゃ俺が話すだけ?いやぁ何だか恥ずかしいですね。話しちゃうけど。」
「タキ君も駄目に決まってるでしょうが!」
「ミコったら水臭いわねぇ…結婚式はいつかやるんでしょ?村かな?」
「ええ、まぁ。」
「タキ君!?」
「いや、そういう話したじゃん。」
「それはそうだけど…。」
「うふふっ、ま、その時は呼んでね?それに、その前にまた今度ゆっくり話しましょ?それじゃ私達は戻りましょうか?」
「ああ。ミコは気にせず、また来いよ?タキ君も、これからもミコのことをよろしく。ルタにはよく言っておくから。」
「よく、じゃなくて厳しく言って頂戴。それじゃまたね?タキ君もまた。」
「…うん、またね。」
「また。ミコを送ってくれて、ありがとうございました。」
「いや、タキ君に会えて良かった。それじゃ失礼するよ。」
ーだから言ったじゃないの!俺は何も言ってないぞ?ルタの童貞野郎!アタシは昔からあいつとは仲良くなれないのよ!まぁあいつも、仕方ないんだから大目に見てやれよ?脈無いって良い加減気付けば良いのにさ!……。
「ごめんね、私…。」
「本当だよ、まったく。」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
「久々に可愛い手紙来るかと思ってたのにさ。」
「え?」
「迎えに行って、待った?ってやるつもりだったのに!」
「…もう!タキ君はもう!タキ君は!」
ぎゅう。
「庇ってくれたんだから、ミコが謝ることなんてないよ。むしろ、ありがと。」
「タキ君…ごめんね。やっぱり私、行かなければ…。」
「アッちゃんとかメラマさんとか、他にも、会えて良かったろ?」
「…うん。」
「なら、そういうことだけ、それ以外は忘れちゃえば良いじゃん。」
「…うん。忘れる。でも、忘れるなら、忘れられる良いことがあった方が忘れられるかも。」
「ミコ…。」
「タキ君…。」
「うおっほん!」
「ん…。」
「…ちゅ。あれ?マキちゃん?」
「おい。なんで気付いても止まらない?」
「ぷっ、あそこまでいって、くくっ、止まるとかあははマキちゃん、あはは。」
「あははそれもそうかごめんごめんってなるか!深刻そうに奥の席入って深刻な話してるっぽくて、2人が帰ったから私の話聞こうと思ったらこれですよ!ミコはしばらくタッ君とキス禁止ね。」
「なんでよ!?って私の話?タキ君まだ話してないの?」
「うん。ほら、あの時間はまだお店混んでる時間でしょ?」
「そっか。ま、私が居た方が話も早そうだし、丁度良かったかもね。」
「でもマキちゃんはお断りだって…。」
「断ってないし!さっ、なんでオリアが2番になったかも含めて、ちゃんと話して頂戴。」
「それ次第でマキちゃんは断るの?」
「断らないわよ?」
「じゃあ話さなくても良いじゃん。」
「…ミコ?なんかタッ君がずっと意地悪なんだけど?」
「え?私は知らないけど…そうなの?」
「別に?」
そういうつもりは無いけど、なんか弄りたくなっちゃうというか、からかいたくなっちゃうというか。
「…ふぅん、なるほど。ミコ?ちょっとタッ君借りても良い?」
「うん?まぁ良いけど、キスしたりとかは駄目よ?」
「大丈夫大丈夫。」
「…なんなの?」
また殴られるんだろうか?
「大丈夫大丈夫。」
するとマキちゃんはゆっくり近付いて来て…。
「捕まえたっ!」
「むぐっ!」
捕まった!マキちゃんのおっぱいが顔に!
「ま、マキ!?」
「ミコのせいなんだから黙って見てて?」
「私の?」
動くとおっぱいが柔らかい。動かないとおっぱいが柔らかい。大きな声では言えないが、気分は最高だ。
「ほら、甘えん坊タッ君?ミコが居なくて寂しかったでちゅねぇ?」
「え?」
え?
「寂しいからって私に甘えて意地悪しちゃうなんて可愛いとこあるじゃない。甘えたかったら素直にそう言えば良かったのに。」
いやいやまさかそんな、ねぇ?俺もう20ちゃいよ?ミコとちょっと離れたくらいで、ねぇ?
しかも、シンには普通にしてた訳で…。
「えええ?タキ君、それホント?」
「ひがいまふ。」
「あん、喋らないで?」
喋ると柔らかい。
「はぁ~、やだやだ。格好良いと思ってた男の子のこんな可愛いとこ知っちゃったら、3番でも何でも良いから近くに居ないと可哀想だわね。」
「マ、マキ?わ、私もちょっと抱っこしたいんだけど…。」
「駄目駄目。私に意地悪してきたのはミコのせいなんだから!あんたはそんだけ懐かれてるって噛み締めてなさいよ。それで?なんでオリアが2番なの?」
俺は何も言えない。動けない。喋ったら、動いたら、マキちゃんのおっぱいがふよふよ柔らかいからだ。だから、離れたくても離れられないんだ。
「その、こないだオリアがお仕置き受けたでしょ?それであんなことになって、もうお嫁に行けないってなってね。それで、あんな風になるって解ってて縛ったんでしょ!って…。」
「私達、あんなになるとは思わなかったものね。まぁ止めなかった私達が悪いんだけどさ。」
「それで、私が同じことされて耐えられなかったらオリアが1番に結婚するって言い出しちゃって…。」
「ええっ!?あんたまさか、耐えられたっていうの!?」
「そんなの無理に決まってるじゃない。だから、やる前から諦めて、でもせめて私は2番にしてってお願いしたんだけど、タキ君が1番はミコじゃないと駄目だって言ってくれてね。」
「っかぁ~!この!この!」
マキちゃんがぎゅっ、ぎゅっとすると凄い。もう動けない。
「ただ、その時タキ君が、その代わりにオリアは絶対2番にするし、他にも何でもするからって言ったから…。」
「タ、タッ君が何でも…ごくり。ちなみにオリアは何を?」
「週に1回、うちに来てお仕置き受けることに…。」
「え~っ!良いなぁ良いなぁ!」
くねくねすると良くないよ!
俺はもう動かない。
「マキも…そうする?」
「…良いの?」
「うん、オリアだけじゃもう、マキが不公平でしょ?」
「ミコ…本当に、ミコ…アリガト!」
「うん。私、本当はマキと前のタキ君の話、どうにかしたかったから。こんな形でもマキと共有出来るなら良いなって。だから…。」
「ミコぉ!」
「わ、ちょっと!」
マキちゃんは片手でミコを抱き寄せたらしい。お陰で俺の後頭部も柔らか…なんだと!?ミコもちゃんと柔らかい!マキちゃんに比べるとそりゃささやかだが、しっかりと!しっかりと!
「ミコ、本当にミコは良い子ね。大好き。」
「うん。私もマキのこと大好きだよ。」
女の子2人の、柔らかい友情に俺まで感動する。
柔らかいってなんだよ。温かい、だ。
それにしても。
俺が自分で気付かずに良い匂いのマキちゃんに甘えてたとか、恥ずかし過ぎる。大好きなミコのこと好き過ぎだろ。そして、甘える対象として柔らかいマキちゃんを選んだってこと。それってつまり、俺はマキちゃんのことも柔らかくて好きって思ってるってことだよな?
…今更だけど、押し除けるつもりで思いっ切り触れば良かったか?いや、駄目だ!そしたら今みたい体勢にはならんだろ?
…いやはや、気分は最高だ。
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