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第五章 四角三角
第5話
しおりを挟む「忘れ物無い?大丈夫?ハンカチ持った?」
「うん。持ってる。」
「飛ばす紙とかペンも持った?」
「…あのねぇ?私はもう43歳なの。子供じゃないんだから。」
「うん。でも…あれ?」
「ん?どうしたの?何処か変なとこある?」
「いや、ちょっと見せて?」
「袖?糸でも…。」
「捲れろ!」
「あっ!」
「…よしよし、ちゃんと履いてるみたいだ。」
チェックしたらチェックでした。
「…もう!すっかり忘れてたわよ!まったく、恥ずかしいから止めてよね。」
もうこれくらいじゃあんまり怒られないんじゃないかチェックも出来た。
「行ってきますのちゅうは?」
「一緒に出るでしょ?するけど…んっ。」
「…ちゅ。お店の前でもするの?」
「それもそうね…それじゃもういっかいん…。」
「…ちゅ。なんでもういっかい?」
「さっきのは家出る前の。今のは、後で行ってきますの分。あと…ちゅ。これは、ちょっと離れちゃうから。」
「出掛けられなくなっちゃうじゃん。」
「そうなったらそうなったで。」
「だめ。行くって決めたんでしょ?」
「まぁそうだけど…それじゃこれで最後にするね。ん…。」
今からミコはエルフの幼馴染みの集まりに行く。それで俺がそのお店まで送ることになっている。送ったら俺はオズの家で待っていて、ミコが終わったら手紙が飛ばしてくれるので、また迎えに行く手筈だ。で、出発前からいちゃいちゃしてる、と。
…オズの家にはあんまり行きたくないんだけど。
オイちゃんが2番目になることが決まった。その時点で既にマキちゃんに説明するのが面倒なのに、更にオイちゃんは週一回のお仕置きを獲得した。
こんな経緯で。
「ん…ちゅ、ちゅ、ちゅ、ねぇ?わたしもう、あ…。」
「あ、私のことはお気になさらず、続けて続けて?」
「いえ、あの、これは、えっと…違うから!」
「しばらくえっちしないって言った本人が、5分持たないとか?」
「これはその、タキ君が!」
「ミコちゃんはちょろい。」
「んな!?そんなことっ!」
「まぁ?私としては?子作りに励んで貰った方が良いし?ミコちゃんから良いこと聞けたし?ミコちゃんがちょろくて良かったなって。」
「くっ…その、良いことっていうのは何よ?」
「えっちはえっち。お仕置きはお仕置き。」
「あ!」
「えっちはしばらくしないって言ったミコちゃんがそう言ってお仕置きして貰えるなら、元々えっちをしない私だってお仕置きされても良い筈よね?」
「そ、それは…。」
「それともやっぱり、お仕置きはえっちってことで、ミコちゃんもしばらくお仕置き無しにする?」
「……この家でなら。」
「やったー!ミコちゃん大好き!」
「ああああ私はなんて駄目なの…。」
結果として、オイちゃんは、昨日の分があるし来週からよろしく!と元気に帰って行った。
昨日の分の使い途についてはさておき、マキちゃんだ。こんなことが知られたら、私も!とか言うに決まってる。面倒だ。先送りにしたい。だけど、言っておいた方が良いというか、言わなきゃいけない。
…だけど面倒臭い。
そんな気持ちで居たらいつまでも言えないし、いつかはばれるし、ミコが幼馴染の集まりに行く日に緑のいるか亭の途中にあるオズの家で待ってれば迎えに行くのも楽だよね、という他の理由を無理矢理こじ付けたのである。
…まぁ、諦めるしか無いけど。
・・・。
「…ねぇ?後でマキにオリアのこと話すと思うんだけど、多分、私もって言うよね?」
「そうだね。」
「断るの?」
「諦めるしか無いかと。」
「そっか。」
「不公平だし?」
「そうね、仲間外れになっちゃうし。」
「安心した?」
「…なんで?」
「なんとなく。」
「…こんな言い方すると上からみたいでちょっと嫌だけど、私ね、マキのこと、やっぱりなんとかしてあげたいって思ってたの。でもやっぱり、独り占めもしたいから、どうしたら良いのか判らなかった。」
相槌代わりに、繋いだ手をにぎにぎ。
「だけど、オリアが2番目ってなって、ちょっとホッとしたというか、理由が出来たんだよね。オリアが良いならマキもしょうがないって言う理由が。」
にぎにぎ。
「それにオリアのことも、もしかしたらそう思ってたのかも。心の何処かでオリアのことも、良かったって思ってるのかも。」
「2人でエルフの村に逃げちゃえば良かったのにね。」
「…ホントだ。オリアから逃げようと思えば出来たのに、考えもしなかった。タキ君がそう言わなかったのは、私の気持ちが解ってたってこと?」
「半々くらいかな?ミコはそう思ってるんだろうし、俺もそう思ってたし。」
「そっか…うふふっ、私、タキ君はてっきりオリアのおっぱいに興味があるだけなんだと思ってた。」
「そういった事情も否定はしませんが。」
「えっち。浮気だ。」
「人前でキスを求めるとは、ミコは大胆だなぁ。」
「ち、違うから!…まぁ帰ったら。」
「うん…まぁ、言っておくけど。」
「うん?」
「俺が好きで愛しててずっと一緒に居るのはミコだからね。」
「……ちょっとそこの路地に用が出来たみたい。」
・・・。
「あーっ!ミコ!」
「アッちゃん!」
緑のいるか亭に到着すると入り口の前に立っていたエルフの女性が駆け寄ってきて、ミコも反応した。
「久しぶり!本当に久しぶりね!今日来るって聞いて、超楽しみにしてたんだ!でも、まさか恋人同伴で来るとはね!初めまして、私ミコの隣に住んでたアジです。アッちゃんって呼ばれてるからアッちゃんで良いよ。」
「あ、僕はタキです。アッちゃん初めまして。」
「こないだうちのお母さんから、ミコに恋人が出来たみたいって聞いてたけど、多分あなたのことね。よろしく!」
「こちらこそよろしくお願いします。それじゃミコ。また後でね。」
「うん。終わったら飛ばすから。」
「あれ?タキ君帰っちゃうの?色々聞いてみたいし、話してみたいんだけど?」
「ええ。今日は幼馴染みの集まりだから、僕は遠慮しておきます。また今度、機会があれば、その時はよろしくお願いしますね。今日はミコのこと、よろしくお願いします。」
「ちょっとタキ君?また私を子供みたいに…。」
「はいは~い任されました!タキ君は今度、絶対だよ?今日はミコだけで我慢するけど。」
「あんたねぇ、久しぶりだと思って…。」
「ミコ?それじゃ、後でね。」
「あ、うん。後で。ありがとね。」
「うん。」
ーちょっとミコ?あんな可愛い子捕まえて!アジ?あんたこそ結婚したんじゃないの?私んとこはメラマだから面白くないじゃない?あんたそんなこと言ってちっちゃい頃からメルメル言ってたじゃないの、ちょっそれは…。
やっぱり来て良かったじゃないか。あとは、ルタさんと何も無けりゃ良いけど。
ま、心配してもしょうがないし、俺は俺でやるべきことをやりますか。
・・・。
からん。
「いらっしゃいませ!タキさん?」
「こんばんは。今日は1人なんだけど、大丈夫?」
「はい、こちらへどうぞ!でも、どうしたんですか?ミコさんは?」
「ミコは今日は飲み会。俺はお迎えまで待たせて貰おうと思って。手紙飛ばしてくれるから窓の近くがあれば良いと思ってたんだけど…。」
混んでる。
「ごめんなさい、今混んでて…窓は開いてるから、とりあえずこっちで良い?」
「うん。あ、食事はお任せで。お酒は…そっちもお任せで。」
「はい!でもタキさん、それお家じゃ駄目だからね?お任せは1番面倒臭いんだから。」
「だからお店で頼むんでしょ?」
「試される時だ!お任せ下さい!では少々お待ちを、うふふっ。」
「あと、追加でマキちゃんよろしく。」
「え?マキさん?」
「うん。今は忙しいだろうから、手が空いたら。」
「ふぅん。まぁ伝えとくね。」
「タッ君が私を注文したと聞いて!ついに私を愛人として迎える気になったのね?」
リズィちゃんが伝える前にマキちゃんが現れた。
「うん。」
「まぁそう言うと思って…はぁ!?」
「あ、駄目なら良いや。お騒がせしました。」
「待て!駄目なんて言ってない!話を聞こう!」
「話すことなどない。」
「待て!話を聞け!」
「何かな?」
「…どういうこと?」
「話はそれだけか?」
「タッ君が責める方向に転向しても私受け入れる。」
「料理はリズィちゃんに頼んだから大丈夫。」
「待てっつうの!脱げっていうなら脱ぐし、好きにして良いんだよ?」
「……。」
「…こないだパンツを下ろしたのはごめんなさい。でも私どうしても見たくって…。」
「実は、オイちゃんが2番目になりまして。」
「よしタッ君歯を食いしばれ。」
「マキちゃんもどうかなって。」
「よしタッ君…え?」
「やっぱりお断りだよね変なこと言いました忘れ…。」
「待ってったら!もう!タッ君は話を端折る悪い癖がある!ちゃんと最初から話してよ!」
「いや今は忙しいでしょ?」
「こんなに気になる話を気になるところで!?でも忙しいのは事実!ちゃっちゃと仕事してくるから、待ってて。私の仕事してる姿見て欲情しても良いんだゾ?」
そう言ってマキちゃんは仕事に戻る。
…そういう目で見るとマキちゃんは、今更だけど美人でスタイルが良くって、笑うと可愛いし、あの可愛い給仕服着てるとエロいし、ちゃきちゃき働いてる姿は格好良いし、いやはや物凄く良い女だよな。もてそう、ってか実際もてる。俺みたいなので人生を棒に…今気付いたけど、マキちゃん1人だけ人生が短い。
…ということは?
俺とミコがのんびりしてると、マキちゃんは本当に人生を無駄にしてしまうのか…いや失敗した。誘う前にちゃんとその辺り説明するんだったわ。
ミコならなんて言うだろうか?それに、オイちゃんもだ。もしかしたら、あの2人は、いやでも…。
「お待たせしました。来てたんだな。お前が来てるって言うから俺が持ってきてやったぞ。喜べ。」
シンが料理とぶどう酒の瓶を持ってきてくれた。
…シンに相談するか。
「お前が持ってきてくれて大変喜ばしい。後でちょっと相談したいことがあるんだけど。」
「今でも良いよ。」
「混んでるじゃん。」
「混んでるけど、姉ちゃんとリズが居れば回るし、常連さん多いからそっちの方が喜ばれるんだ。俺はお呼びでないの。ほれ、グラスもある。」
「飲む気満々だったとは。」
「フォークも2本、料理も2人でつまめる。完璧だ。」
「準備良すぎ。そしたら今から聞いて貰うか。」
「おう…よし、とりあえず乾杯。」
「乾杯…で、相談なんだけど。」
「端折ってどうぞ。」
「マキさんを僕に下さい。」
「…ああっ!お前!口開け忘れて溢したじゃねぇか!」
「そんな訳でどうしようかと。」
「いやいやお前、え?いや、全然あげるし、返品さえしなきゃ良いけど、お前どうしちゃったの?博士は?別れちゃったの?」
「別れる訳ないでしょ。死んでも別れないわ。」
「…ふむ。てことは、2番の話か。」
「そう。まぁ、オイちゃんが2番に決まりまして。」
「オリアちゃん?」
「うん。まぁちょっと、お前が裸で帰った日に色々あって。」
「ああ、後でマント返すわ。助かった。」
「礼なら全裸マントの変態を連れ帰ったマキちゃんに言え。」
「そう聞くとすげぇな姉ちゃん。で?てことは姉ちゃんも迎えようって?」
「うん、まぁ。やっぱり3番とかはお前も気分良くないよな?」
「全然。姉ちゃんも尻尾振って行くだろ。まぁお前が大変なだけで。」
「大変…てことも無いだろ?ミコ中心で、俺とミコが結婚して子供が生まれて初めて、2番3番が出てくるんだから。」
「でも姉ちゃんは人間だぞ?」
「それ。そこなんだよ。マキちゃんだけ人間だろ?例えば俺とミコが、付き合って100周年記念で結婚するってなったら、マキちゃんは死んでるだろ?生きてても120歳超えのおばあちゃんよ。」
「そうだな。でも、そうなったらそれはそれでしょうがないだろ?姉ちゃんが自分で選んだことだし。でも、お前も博士も、それを気にするんだろ?だから大変てことだ。」
「良い読みです。流石シン先生。」
「あんまり褒めるでない。ま、気にするなら、お前と博士で話し合って、結婚とか子供とか抜きにして、姉ちゃんとやっちまえば良いじゃん。2番3番が居るなら、どうせいずれ博士以外ともやっちまうんだし。」
「まぁそうなんだけどさ。」
「考えてもみろよ?お前の親父さんの話。お前が姉ちゃんに手を出さないで姉ちゃんが死んだら、それこそお前と博士は後悔すると思うぜ?」
「…そうか。いや、確かにシンの言う通りだな。あとはマキちゃん次第だけど、場合によっちゃマキさんを僕に下さい。」
「おう。まぁなんというか、お前の記憶が無くなってても、良い形で落ち着きそうで俺もほっとしてるわ。」
「お前には面倒掛けてばっかりだわ。」
「いやいや、面倒とは思わんよ。面白いから。当事者は知らんけど…そういえば、もうひとりの当事者待ってるんだろ?」
「手紙が飛んでくるから、そしたら緑のいるか亭まで迎えに行くんだ。」
「ふぅん。そしたら帰りにもまた寄れよ。博士連れて来る頃にゃ店も落ち着いてるだろうし、姉ちゃんも交えて話せば良いよ。俺が働いてりゃ良いからさ。」
「お前、ちょっと良いやつ過ぎるな。全裸で外歩くやつとは思えん。」
「お前が脱がせたんだろうが。」
…父さんの話とマキちゃん。
性別だったり、種族だったり、想いの向きにも色んな組み合わせがあって、それぞれ残す側と残る側とで立場毎の見え方考え方がある。だけど、何かあって後悔するのは絶対に残る側だ。だから、俺はなんとしてもマキちゃんを…。
嗚呼!なんで俺は何人もの女の子と関係するような女たらしになっちまったんだろう。とりあえず、今後は人間の女の子なんて…嗚呼!ブルゼットがいた!母さんがブルゼットのところに行って変なことを吹き込んでませんように!これからも吹き込みませんように!
…デビイは大丈夫。
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