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第五章 四角三角
第4話
しおりを挟む「私、思い出したの。」
昨晩のあの後、オイちゃんはゴミ箱に顔を突っ込んだまま寝ちゃって、それでも俺達はなんとかオイちゃんの顔を拭いて水を飲ませて、ミコの部屋まで運んで寝かせた。ミコは、夜中に寝たまま吐いたりすると危ないからと、オイちゃんと一緒に寝ることにし、俺は色々、それはもう色々片付けてから寝た。
そして、朝起きてから朝食のスープを飲み終わるまで終始無言だったオイちゃんが何かを思い出したらしい。
…まぁ、昨日のことだよな。
「昨日のこと?オリアはちょっと、飲み過ぎたのよ。」
「ううん。そういえば私は、モーグの後を追う筈だったの。」
おーう。
「何馬鹿なこと言ってるのよ。そんなの、駄目だからね?」
「覚えてるの。昨日のこと全部…。」
「全部?」
「ええ全部、もうはっきりと。タキちゃんの前で、えっちに興味があることも、タキちゃんのを実はじっくり見てたってことも、えっちに興味があることも、朝昼晩問わずひとりでしてるってことも、タキちゃんのことホントに気になってきちゃったことも、えっちに興味があることも、お仕置きが足の指からずっとキスされていって太腿の付け根まで来たところで止められるんじゃないかってドキドキしてたってことも、何もかも私の言ったこと全部…。」
間違えてないけど、追加がある。どんだけえっちに興味あるのよ。あと、なんだよそのお仕置き、えっち過ぎるだろ。ていうか…。
「オリア?ちょっと気になる文言があったんだけど?」
「え?私の考えてたお仕置き?」
「いえ、そっちは後で良いわ。」
後で聞くんか。
「そうじゃなくて、タキ君のこと気になるって…。」
「うん。昨日言っちゃった通り。」
「昨日オリアはそんなこと言ってなかったけど…。」
「……。」
「……。」
「……ええっ!?それじゃ私今…。」
「ホントなの?」
「…だって、やっぱり似てるんだもん。それに、子供作るとか、そんな風に思ったらなんか、気になってきちゃって…。」
「そう…そっか。」
「でも、まだ!まだそこまでじゃないからね?」
「そんなの…そんなの今だけ!今のうちだけよ!そんなの、相手のことがどんどん良く見えちゃって、すぐ駄目になっちゃうんだから!」
「ミコちゃん…。」
「…ああもう!タキ君が!周りの女の子を落としまくるから!ああもう!ホントにどうしたら良いのかしら?監禁…いえ、この際もうどこか遠くの山奥に2人で住むとか…。」
「やっぱり私は死んだ方が…。」
「それは駄目!」
「…ミコちゃんは駄目って言うけど、ミコちゃんの邪魔になるじゃん!タキちゃんにあんなことされてあんな姿見せて、挙げ句恥ずかしいこといっぱい言っちゃって!私もうお嫁になんか行けないし!」
「あんたはもう2番目って話になったでしょ!」
「え?私、2番目で良いの?」
「え?」
…それは忘れてたのか。
「…えっと、私2番目なの?」
「…ち、違います。」
やらかしたミコが誤魔化した!
「……。」
「……。」
「やっぱり私はもう死ぬしか…。」
「だあああっ!もう!そうよ!オリアは2番目!私の次に奥さんになれば良いわよ!」
「ホントに?」
「…ホントよ。」
「やったぁ!これでザラにお返しも…あ、タキちゃんもそれで良いの?」
「今更駄目って言えないでしょ。」
忘れてるみたいだけど、昨日約束しちゃったし。
…死ぬって言うし。オイちゃん、実はやばい子だったのかな…。
「やった!やった!2番目だ!はっきり聞いたからね?今更無しなんて駄目だよミコちゃん?」
「ええ、もう認めるわ。オリアが2番…ただし!順番は絶対に守ってよ!?」
「勿論!ミコちゃんが優先で、1番なのは当然だよ!」
「ああ…私ってば、なんてこと…。」
「あ、そうだ!」
「タキちゃんは何でもしてくれるんだよね?」
…あれ?
「オイちゃんは2番の話とか忘れてるんじゃないの?」
「え?そんなこと言ってないけど?」
「んん?覚えてるの?」
「全部覚えてるよ?それは、さっきも言ったと思うけど?」
「でも、2番の話覚えてないみたいだったじゃん?」
「演技だよ。上手かったでしょ?」
「演技?なんでそんなこと…。」
「それは、2人の口からちゃんと言って貰って、その話がお酒の上での話ってことにされないようにする為だよ。現に…。」
オイちゃんがちらりとミコを見る。
「忘れた振りをしたら、無かったことにしようとした人が居るしね。」
「ご、ごめん。つい…。」
「良いのよミコちゃん。私も騙してたんだし。それに、タキちゃんに何でも言うこと聞いて貰えるんだから!」
「オ、オリア?その、えっちするとか、そういうのは流石に駄目だからね?」
「それくらい解ってるよ。さっきも言ったけど、ミコちゃんが1番で、優先だもの。」
「ほ…それなら良いけど。」
「それじゃ、オイちゃんは一体何を俺にさせるつもり?」
「と、とりあえず、週に1回私の家に来て貰って、その、私の考えたお仕置きして貰おうかなって…。」
「却下です。」
「ミコちゃん早いよ!?それになんでよ!?」
「オリアの考えるお仕置きが凄過ぎるからです。」
「そ、そんなこと無いし!それに、本当に、その、えっちする訳じゃないんだから良いでしょ!?」
「私はちょっと小耳に挟んだだけですが…。」
弱い耳に挟んだらしいミコ。
「オリアの考えるお仕置きはどうやら凄過ぎるみたいなので、繋がるえっ…行為に繋がるからです。オリアは否定出来ますか?イエスオアノウ。」
「…いえす。」
「なるほど。では、そのお仕置きをされても我慢出来ると?」
「…出来ます。」
「解りました。それでは…。」
「良いの!?」
「ええ。ただし、私が実験してからです。」
「実験?」
「ええ。私がそのお仕置きを受けてみて、これなら良いと判断した場合は良いでしょう。」
「ミコちゃんがやりたいだけじゃん!それに絶対駄目だし!あ、いや、えっと…。」
「やっぱりどさくさに紛れてそのままえっちに持ち込もうと思ってるんじゃない!駄目だから!そういうのは全部駄目!コップを洗って貰うとか、カーテン張り替えるとかそういうのだけよ!」
「そんなの自分でやるし!…それなら、ミコちゃんがもし私の立場で、タキちゃんに何でも言うこと聞いて貰えるってなったらどうするの?」
「え?…そ、そんなこと言えない。」
「言えないようなことさせるんじゃん!それじゃ私も、言えないようなことします!」
「駄目よそんなの!」
「…そもそもなんでミコちゃんが駄目って言うのよ?最終的には、タキちゃんの判断でしょ?」
「そ、そうだけど…。」
「そうだわ!例え2番であったとしても、タキちゃんが2番の方が良いって言ったら、それはタキちゃんの気持ちだから、しょうがないのよね?」
「それはっ!それは…そうだけど…。」
「例えば、私が偶々裸にエプロンだけだった時に、タキちゃんが勝手に料理の前に私を食べたとしても問題無いわよね?」
偶々裸にエプロンの方が問題だぞ?
「駄目よそんなの!裸にエプロンだけなんて、もうそれは繋がる行為に繋がる、つまり既に行為だわ!」
「あれも駄目これも駄目!タキちゃんは何でもって言ったのに!」
「オリアのは全部えっち過ぎるのよ!そのままえっちするって気持ちがだだ漏れじゃない!」
「したいんだからしょうがないじゃん!」
「んなっ!?とうとう本性を現したわね?私が優先とか言っておきながら…はっ!?まさか昨日から!?」
「やっと気付いたかな?私はね、あの程度のお酒じゃ、樽で飲んでも酔わないの。」
「ええっ!?じゃあ本当のオイちゃんは、あんな風にえっちしたいって連呼しながらひとりえっちする子だったってこと!?」
「ち、違うよ!あれはわざと!わざとだから!普段はそんなこと言わないよ!それにし、しないし。」
さっきも叫んでたけど。
早くからしてるのも知ってるし。
「え?それじゃ、あのお仕置きの時もわざと…?」
「…あのお仕置きは凄かったわ。だから私は、お仕置きをいつも受けているミコちゃんを羨ましく思った。そして、お風呂を借りてる時にずっと考えていたの。どうすれば良いのか…それで、まずはちゃんと2番になることを思い付いたの。」
「それじゃ、私がお仕置きを勧めたからってことなの…。」
「そうなるかもね。とにかく、結果としてちゃんと2番になった。これは、ただ単に私の将来が約束されたってだけじゃないの。そのまま上手いことお仕置きされれば、そのまま上手いこと赤ちゃんも出来てザラにお返しも出来る、本当に我ながら上手い作戦…だった。」
「だった?」
「まさかミコちゃんがお仕置きに反対するなんて…。」
当たり前だろ。俺だって…俺だって反対だよ、うん。反対だ。反対の反対だ。いや、反対の反対の反対だ。
「だから私は、これからは正々堂々と、1番の座を狙うことにするわ。」
「そんな…。」
別に狙われてても、ミコは気にしなくても良いのに。
「オイちゃん?それは駄目だよ。」
「タキちゃん?」
「1番はミコ。それは絶対に覆らない。」
「タキ君…。」
「そんなの解らないじゃん!それにもしかしたら、私が無理矢理タキちゃんを襲うかも…。」
「オイちゃんはそんなことしない。」
「…なんで言い切れるの?」
「オイちゃんはね…責められるのが好きなだけだからだよ。」
「え?」
オイちゃんは驚いた顔をしている。
そりゃそうだ。俺も誰かに、君は責められるのが好き、って面と向かって言うことは、この先一生死ぬまで無い気がする。
「オイちゃんが強引に行く子だったら、父さんに何もしなかったなんてことは無かった筈だよ。何もしなかったのは、オイちゃんが、責められるのが好きだからさ。」
「……。」
「それに、そんなの解らないなんてことも無い。俺はミコが好きだからね。」
「それでも!タキちゃんが私を好きになるかも知れないじゃん!」
「俺は好きだよ、オイちゃんのこと。」
「え?」
「優しいし、可愛いし、器用だし、おっぱい大きいし。」
「…それなら…。」
「ただ、ミコの方が100倍好きなんだ。」
「…それなら、やっぱり私は無理矢理タキちゃんを…。」
「オイちゃんにはそんなこと出来ないよ。オイちゃんはやっぱり、良い子だから。友達悲しませて無理矢理なんて出来っこない。俺は知ってるから。何故なら…オイちゃんが好きだから。いや、大好きだ。」
「タキちゃん…。」
…なんで俺はミコ以外にもこんな口説き文句がぽんぽん出てくるんだろう?言ってる内容に嘘は無いけど、やり過ぎな気も…父さんか。父さんが口説き魔だったらしいからな。
いや、でも待てよ?魔法学校時代の社会的心理学が俺の脳に刷り込まれてるのかもしれない。あの異常な授業数が、俺を口説き魔にしてしまったんだ。
つまり、学長のせいか…。
そういや、幼馴染みの授業もあったよな。あの時はまさか俺に幼馴染みが居るとは思わなかったけど、教科書はある筈だから今度読んでみよう。
「そんな訳で、オイちゃんを1番にすることは出来ない。だけど、いつか必ず、約束通りの時が来る。その時は俺は大好きなオイちゃんを全力で抱きし…。」
「タキちゃん!私も好き!抱いでうぐっ!ちょっ!何するのミコちゃん!?」
でうぐっ。
こっちに飛び付きそうになったオイちゃんを、ミコが後ろからお腹に手を回して止めた。胸だと手が回らないからな。
「何するのじゃないわよ!タキ君も!何オリア口説いてんのよ!」
「いやオイちゃんが1番狙うって言うから説得してただけで…。」
「後半は完全に口説いてた!オリアが本当に落ちちゃったじゃない!あそこまで言う必要無かったでしょ!?」
「それは口が勝手に…。」
「タキ君のそれはね、もう病気!口説き病なの!」
病気とは失敬な!真面目に授業受けてた証だ!
「私はタキちゃんの言う通り2番だけど、いつでも裸で待ってるからね。」
「ほらオイちゃんも納得してくれてるし。」
「オリアも病気よ!」
「うん。私のは恋の病かな?」
「ああタキ君の病気のせいで…。」
「元はと言えばミコちゃんのせいでしょ?さっ、早く結婚して子作り頑張ってね?ま、結婚してなくても子供出来ちゃったら、その次は私だもんね。だから2人は早くえっちして?私は身体磨いて待ってるから。」
「…しない。」
「えっ?」
「私達はしばらくえっちしない。」
「ええっ!?いやいや、そうは言っても俺達そろそろ…。」
「しないったらしない!」
「ずっと?」
「しばらくって言った筈。」
「しばらくっていつまで?」
「少なくとも、今日明日じゃないわよ。」
「それじゃ…。」
「明後日も無し!いつもみたいに丸め込もうっていうつもりでしょ?その手には乗らないんだから!いつまでもちょろいなんて思ってたら大間違いなんだからね!」
「…ふぅん。それじゃ、お仕置きも無しだ?」
「え?いや、まぁ?お仕置きくらいなら良いんじゃないかな?」
「お仕置きはえっちに繋がるんでしょ?」
「そ、そんな訳無いじゃない。えっちはえっち、お仕置きはお仕置きよ?」
「オイちゃんが言ってたお仕置き試そうかと思ってたからね。そうなるとちょっと流石に駄目だと思うし。」
「え!?それは、そんなの、やってみないと解らないんじゃない?うん、そうね。やってみないと。一度試してみましょ?」
「お仕置きだからしないけどね、しばらくは。」
「え?いや、ちょっ、ん?しばらくって?」
「少なくとも、今日明日じゃないかな?」
「それじゃ明後日ね!お仕置きは明後日。うん、それで決定ってことにしましょ?」
「明後日だと流石にしばらくって感じしないでしょ?」
「いいえ全然。タケの芽だったら、食べられなくなってしまうのよ?むしろ遅過ぎるくらい。」
「そういえば、キスもえっちに繋がるんだっけ?」
「え?…いやいや、ちょっ!?ええっ!?」
「キスもしないってことで。」
「待って!違う!ちょっと、ちゃんと話し合いましょ?」
「ということは、おはちゅうも?」
「いやいや!いやいや何を言い出すのかと思えば!それは絶対に違うからね?あれは1日の始まりの挨拶なんだから!そうよ!キスは挨拶!挨拶は大事!」
「そっか。そういえば今日はまだ挨拶してないよね?」
「うん。だから、ね?おはようのちゅうして?ん…。」
…。
「ミコちゃんはちょろい。」
その通り。
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