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第四章 父と母
第6話
しおりを挟む「なんで?」
「え?」
なんで?と言われましても。
「お金は、お母様から貰ってるんでしょ?それだって元々はタキ君が治したお礼、って話だから別に気にしなくても良いと思うけど?」
「そうなんだけど、自分でも稼ぎたいって思ってさ。」
「ふぅん?でもそれなら薬じゃなくても良いんじゃない?他にも仕事はあるわ。」
「でもほら、俺の薬が欲しいって人もいるかもしれないし。」
「…王様?」
「…まぁ、そうだけど。よくわかったね?」
「王様に、薬欲しいって言われたって言ってたじゃない。タキ君が他に誰かと喋ったって言ったらルタくらいだし、ルタはお医者さんだからね…ていうか、考えてみたら私達、ずっと一緒にいるのね。」
「え?俺はこれからも一緒で良いけど。」
「…私も一緒で良いけど。」
とりあえず抱き締めちゃう。
「…それで、王様に薬なんだけど、駄目かな?」
「うーん…まぁ、食べたご飯忘れる程度っていうのが本当なら良いと思うけど…。」
「試しにちょっとだけやってみるのはどうかな?それであんまり俺が忘れちゃうようだったら諦めるから。」
「それなら…良いけど、どうやるの?」
「手帳に、脂を固めてってあったからとりあえずお肉屋さんで脂の塊を買おうかと。それで、ミコの魔法紙と同じ要領で、どんな薬か思い浮かべて、呪文唱えるとかなのかなって。」
「ふぅん。王様は何の薬が欲しいの?」
「え?」
「王様の薬よ。何の薬が欲しいって言ってるの?」
言っても良いのかな?ミコは俺の魔法の協力者ってことにすれば良いか。
「誰にも言っちゃ駄目だよ?」
「うん。大丈夫。誰にも言わないわ。」
「バキーンと長持ちする薬。」
「バキーンと長持ち?何それ?」
「夜の戦いに使うやつだって。」
「夜の…バキーン…えぇっ!?」
「そう、今ミコが想像した通りのやつだよ。」
「し、してません。」
「そうなの?それじゃあ詳しく教えてあげ…。」
「だ、大丈夫。うん。王様が何の薬が欲しいのかはちょっと解らないけど、ほ、ほら早く、やるならやりましょ?」
「それは残念。それじゃとりあえず脂を買いに行こうかな?高いもんでもないし。」
「ちょっと待って?脂で良いの?」
「え?でも、手帳だと脂でって…。」
「それは手荒れの薬でしょ?王様の薬は塗るんじゃないんじゃない?」
そういえばそうだな。
「え?なんで?」
「なんで…って、あっ、いや、まぁ、その、なんとなく?そうなんじゃないかって、いえそうねやっぱり塗るのかしらね?」
「どこに?」
「どどどこに?どこにって、えぇ!?塗るって、いやいや、どこってそんなの…はっ!?まさか私に言わせようとしてない!?」
「確かにミコの言った通り、塗るのは違うか。となると飲むのかな?」
「ちょっと!?」
「ほら、ミコはバキーンで長持ちが解らない設定でしょ?」
「設定って言わないでくれる!?もう!」
「でも真面目な話、水とかで良いのかな?」
「…魔法紙は聖水で書くけど…そういえばタキ君は魔族だけど、聖水は大丈夫なのかしら?」
ん?
「…あの、ひとつ聞きたいんですけど、もしかしてミコは、というか普通の人は聖水、というか魔法紙は温かくない?」
シンは温かくないって言ってたよな。
「えっ?あったかいの?」
「うわ出た!俺、試験の紙が温かかったから、魔法紙ってそういうもんだと思ってたわ。なんか皆、話が合わないなと思ってたんだわ。」
「えぇ!?」
「シンに、試験の紙あったかいねって言ったら、そんなことあったかい?とか言われたよ。」
「下らない…。」
「ミコだって、最初の魔法紙書いてくれた時に俺が、書きたてほやほやだ、みたいなこと言ったら流してたからね?」
「いやいや、まさかホントに温かく感じてるとは思わないわよ!」
「…なんだよ、それじゃもっと早くにミコに、人間じゃないから付き合って!って言えてたじゃんかよ…。」
「ふふっ、まぁ良いじゃない。今はこうして、ちゃんと恋人になれてるんだし。」
「まぁそうだけど…あっ!?てことは!?」
「てことは?」
「俺は教会入れなかったりするのかな?」
「まぁそうかも。」
「いやいや!ミコはなんで冷静なの!?結婚が!結婚式が!出来ないんじゃないの!?」
「エルフ式じゃ駄目なの?人間とエルフの場合でも、村でやる人達も珍しくもないわ。」
「いやまぁ、ミコがそれで良いなら良いけど。なんとなく、教会でやるもんだとばかり思ってたから。」
「私は最初から村でやるもんだって思ってたわ。」
「最初?」
「え?あ、いや、まぁ、た、タキ君と付き合ってから?」
「…本当は?」
「いや、まぁ、もうちょっと前かな?」
「……ふぅん。」
「……べ、別に良いでしょ?気になる男の子が出来たらそういうこと考えるのは、と、当然じゃない!歳も歳だし!悪い!?」
ミコが逆ギレした。
「あはは、それじゃ俺達はエルフ式だね。でも、エルフ式ってどんな感じなの?」
「もう、顔があっつい…エルフ式は人間みたいに派手じゃないわ。近所の人達に手伝って貰って料理をいっぱい用意して、村中皆で歌ったり踊ったりしてお祝いするの。ちょっとしたお祭りみたいにね。それで次の日は手伝ってくれた人達にお礼で食事に招待するのよ。だから、2日やるの。」
「ふぅん…ちなみにミコはいつ頃やりたい?」
「別に慌ててもしょうがないから…って、今思ったけど、私達、完全に結婚を前提に話してるわね。」
「え?違うの?俺はするもんだと…。」
「いや、まぁ、私もそう思ってるけど、自然だなって。もうちょっと、自分でも気負ったりするものだと思ってたんだけど、当たり前みたいに話してたから。」
「俺の愛ですな。」
「…私の愛ですけど。」
・・・・・。
「これはなんなの?」
「見ての通り何の変哲もない、ただの水です。」
「嘘こけ。」
昨日あれから、いちゃいちゃちゅっちゅが始まって、もう駄目だ我慢ならん!というところで、ミコに手紙が飛んできた。
それはカンジの名前で俺宛、デビイが無事に着いた、エルフの医者の先生に頼んで飛ばして貰った、手紙もありがとう、博士のことはおめでとう、結婚式には呼べよ、魔族でも気にしないからこれからも宜しく等々カンジらしい、優しい言葉だらけのものだった。
それを読んで何となく我に帰った俺達は、さて続きをという雰囲気でも無かったので、お互いに綺麗なケーキは無事、と。
次の日、薬作りを再開し、何日か分の食事メニューを書き出し、とりあえず小瓶の水に「ママチイテ」と話し掛ける変な人になり、それを聞いたミコが可愛い可愛いとはしゃぎ、デビイと食べた朝食のメニューの一部が言えない程度で済んだことにホッとしたのである。
その後、さてちゃんと出来てるかどうか確認をせねばならぬとなったのだが、万が一上手くいっていた場合、こんな形でケーキを食べるのもアレなのでシンにお願いしてみようと思った次第である。
「来たと思ったらこれでも飲めって、ただの水な訳無いだろうが。」
「話せば長くなるが。」
「簡潔にどうぞ。」
「これを飲めばリズィちゃんに勝てる。かもしれない。」
「…なんだと?」
「例の俺の魔法で、薬を作ってみたのね。バキーンと長持ちの。でも、上手くいったか解らなくてさ。それで、俺達は、まだじゃん?お前は、もうじゃん?しかも、リズィちゃんに負けてるみたいじゃん?よし、シンだ!」
「よしシンだ!じゃねぇ。大丈夫なのか解らんだろ?俺が変になったらどうするんだよ?」
「あまり変わらんじゃないの。一杯奢ってやるよ。まぁ、上手くいってなかったらただの水だ。問題無いだろう。」
「いやいやタキ君?それで俺が今晩勝負を挑んだとする。上手くいってたら、まぁ問題無い。だが、上手くいかなかったら俺は挑んだくせに負けるんだぞ?」
「あまり変わらんじゃないの。」
「なんてこと言うんだ!確かに!まぁそれなら、少しの可能性に賭ける価値はありそうだな。もし俺が勝てたら奢ってやるよ。そのかわり…。」
「ああ、偶に渡すことを約束しよう。」
「うむ、頼むぞ。いや、ちょっと楽しみになってきたわ。」
「俺もお前の勝利を祈っておく。」
「それで?魔法使ってどうだった?」
「前日の朝食を少し忘れた程度だったわ。」
「ふぅん。そんなもので済んで良かったな。まぁやり過ぎると良くないんだろうけど。」
「うん。だから、ちょっとだけしかやらないんだ。ミコにも心配掛けちゃうし。」
「今、博士は?」
「生々しくなる話になるからな。家でご飯作ってくれてるよ。」
「新婚みたいだな。でも、なんでこんな薬にしたの?」
「詳しくは言えんが、ちょっと、欲しいって人がいてね。」
「まぁこんな話は他の人に詳しく言う話でもないからな。なんとなく想像は付くけど、お元気で何より。」
「そうだな。お国の為とも言える…それじゃ帰るから、また明日の昼にでもご飯食べに来るから、勝敗の結果教えてくれよ。勝ったらマル、負けたらバツで良いや。」
「2人で来るのか。いやお前、隠す意味無くない?博士だって解るだろうが。」
「それもそうだな。俺一人で来るわ。ほいじゃ、いくら?」
「お茶だけだから良いよ。俺も丁度休憩だし。」
「それならご馳走様になっておくわ。今度食いに来るってことで。まぁその前に明日の昼、今日と同じくらいが良い?」
「そだね。今くらいなら多分大丈夫。」
「了解。それでは、ご健闘を。」
「おう。博士に宜しく。」
・・・・・。
「人払いを。」
ーーはっ!……。
俺は今、王様に薬を渡しに城に来ている。試しにということで小瓶1本、気に入って貰えそうなら買って貰えるか聞いてみようかと思っている。
シンに渡した薬は上手く出来ていたのだ。
…なのにやつは負けた。薬はもう要らない、天国のような地獄が長引くだけだと、哀しい目で言っていた。挙句、2桁達成が薬によるものだとばれて、これからは真面目に狙おうと宣告されたらしい。
リズィちゃん…。
「さてトルト君。今日はどうした?何か困りごとでもあったか?なるべく手短に頼むよ。」
「はい。それが、例のものを…。」
「なんじゃと!?魔法を思い出したのか!?」
「いえ、詳しくは話せませんが、再び使えるようになりました。ただ、今日はお試しということで、これだけお持ちしました。効果はちゃんとあるようです。」
「え!?こんなに!?」
「え?」
「これだけあれば、しばらく持つ筈じゃ。」
え?そうなの?
「効果は前と違うかもしれませんが…。」
「ふむ、確かに。では少し試してみるか。」
王様はそう言って、小指の先に付けてペロリ。
「ふぉぉぉぉっ!この感じは!これじゃ!いや、むしろ前より効くかもしれん…おぉっ!?」
「ど、どうなさいました!?」
「…我が王子が早速、戦の準備を始めた。」
効き目は抜群だな!
てか、シンは丸々1本飲んで負けたのか。
リズィちゃん…。
「王子様がわんぱくで何よりです。気に入って頂けましたか?」
「気に入ったとも!前よりも効くのが早いからアレを待たさずに済むというのは非常にありがたい!」
「それではご相談なのですが、定期的にですね…。」
「ここに100万ディミある。」
「え?」
そんなに?
「足りぬか?君の管理人にはそれくらい渡したんじゃが。しかし、今回はそれで勘弁してくれい。アレに話せばもう少しなんとかなるから。」
「いえ、逆にそんなに貰えるとは…良いんですか?」
「勿論良いとも!トルト君。若い君にはまだ解らないかも知れんが、夫婦というのはやはり会話、特に夜の会話が不可欠じゃ。例えどれだけ最悪な喧嘩をしていても、一晩過ごせば大概は乗り切れる。それは国王たるわしでも同じじゃ。だからの、君にはそんなに価値の無いものと思ってるかもしれんが、この薬はわしにとってはどんな宝よりもありがたいんじゃ。じゃから、遠慮無く受け取ってくれい。」
良い話のような、そうでもないような、よく分からないけど、お金を頂いた。
「ありがとうございます。それでは、次はいつ頃お持ちしますか?」
「しばらくはこれで大丈夫じゃ。無くなりそうになったら手紙を送る。出来上がったらまた持ってきてくれい。」
「解りました、では、これにて失礼しま…。」
「待て。」
「はい?」
「このままでは公務に支障が出る。」
王子様か。
「でも王様?その分厚いローブなら多少王子様が張り切っていてもバレないですよ?」
「でも、落ち着かないじゃろ?」
じゃろ?って言われましても…。
「公務は明日にして、王妃のところへ行く。しかしまだ陽も高い。じゃから、一緒にお願いしてくれぬか?わしが、今から如何?と言うから、君は、偶には昼からも良いものですよって言ってくれぬか?」
「いや流石にそれは…また怒られますよ?」
「大丈夫じゃろ、薬もあるし。一緒に来てくれぬか?」
「いやしかしですね…。」
「…どうしても駄目か?」
「いやそこまでではないですけど…怒られても知りませんよ?」
「うむ。先程言った通り、始まれば勝ちじゃ。」
・・・。
無論、王様はしこたま怒られた。でもお付きの女の人達はすぐ居なくなった。そして王妃様から大きな青い石の付いた指輪を頂戴した。ミコにあげよっと。お菓子も貰った。あとでミコと食べよっと。
…ん?
門の前に女の子が居る。何か紙を見てるから、誰かの家でも探してるのかな?でも俺の家の前で立ち止まってる。俺の知り合いか?
知り合いじゃないな、俺は知らないから。
俺の知りだ。おれのしり。
「あの、ウチに何かご用ですか?」
「え?あっ!タキちゃん!」
「え?」
「忘れちゃってるよね?知ってるよ!」
「あ、そうなんですか。それじゃえっと、どちら様?」
「私はね…。」
そう言って溜めに溜めて。
「なんとなんと!タキちゃんの幼馴染みだよ!」
得意げな顔で自己紹介をしてくれた。
…してくれたんだが、なんだろう?
これがミコの言っていた、最近色々あり過ぎて、だな。
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