メクレロ!

ふしかのとう

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第三章 血

第11話

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 朝まだ暗い時間に目が覚めた。

 ふむ…ミコの寝顔を見てから二度寝すると良い夢が見られるという噂がある。俺の頭の中だけで。

 いやでも、休戦という話だ。わざわざそんな可愛いだろうものを見て、休戦中に自らを劣勢に追い込むこともあるまい。

 ただ。

 もし、ミコの寝相が悪くて、布団を蹴っ飛ばし、更にお腹を出して寝ていたりしたら、大分暖かくなってきたとはいえ矢張り冷えてしまう。そんな時はそっと布団を掛け直してあげるのが優しさではなかろうか。


 カチャ…。

 誰だ!?って一人しか居ないな。
 とりあえず目を瞑る。

 「オハヨーゴザイマス…。」

 起こす気の全く感じられない小さい声で挨拶をするミコ。これは寝顔を見に来たな。てか早過ぎませんかね?

 「ふふっ。」

 寝たふりを決め込むも、見られてると思うとなんだかこそばゆい。逆を向こうか?いやしかし、動くにはまだ早い。ミコから何かしらの行動があれば、起きかけたふりをして動けるから、待とう。見てるだけは流石にすぐ飽きるだろ。


 ………。


 …俺が飽きた。ひょっとしたらミコは横で本を読んでいるだけかもしれぬ。いやでもそれなら本を捲る音が聞こえる筈だが、何も聞こえない。そろそろ唾も溜まって限界だ。飲み込んでしまったら喉の動きでばれるかもしれない。どうしよう?

 すー。

 衣擦れだ。動いた…え?近くない?まさか、寝てる俺にちゅうするんじゃなかろうか!?それはずるい!休戦中だぞ!起きて普通にしたい!

 「タキクンハミコニツキアッテッテイイタクナール、タキクンハミコニツキアッテッテイイタクナール、タキクンハ…。」



 …洗脳?


 休戦中に洗脳しようとするとは、なんて可愛い否ずるいんだ!こうなったら戦争だ!

 がばっ。

 「きゃっ!えっ!?えっ!?」

 ミコをベッドに引き摺り込んだ。

 「もう食べられないよ…。」

 「タキ君!?寝惚けてるの!?ちょっ!」

 とりあえず逃げようとするミコ。

 「それなら食べられるかも…はむ。」

 「はぁっ!だ、だめ、ちょっ、たき、やん…。」

 エロい。耳を甘噛みするだけでこんなにもエロくなってしまうのか。

 さて、前回はここからぺろりだったが、駄目だ。流石にばれてしまうだろう。やり過ぎず程々にしとくのが寝たふりの極意。

 「ふんあ?あれ?ミコ?」

 「やっと終わっタタタタキ君!?」

 「ん?どうしてミコが俺のベッドに?」

 「ち、違うの!えっと、その、朝だよって起こしに来たらタキ君が寝惚けて私を無理矢理ベッドに…。」

 嘘を吐きましたよ、この子。

 「そっか、ごめんね。」

 「もう、タキ君ったら酷いんだから…さ、解ったら離して?」

 「タキ君はミコに付き合ってって言いたくなーる。」

 「えぇっ!?ちょっ、起きてたの!?」

 「ミコさんや?誰かさんの要望で今は休戦中ですよね?それなのに、なんとまぁずる可愛い真似をして。」

 「ご、ごめんなさい!その、本当は寝顔を見に来ただけなんだけど、見てたらつい…。」

 「つい、ねぇ?」

 「あのね?その、昨日リズ先輩の、寝顔は可愛いっていう話があってね?それなら私も見たことあるって思って、でももう一度見ようと思って、見てたらホントにやっぱり可愛くて…。」

 「ミコさんや。」

 「ごごごめん、男の子に可愛いはやっぱり嫌よね?」

 「そうじゃなくて、ミコ?リズ先輩の話をミコはちょっぴり勘違いしてるよ?」

 「え?勘違い?」

 「ミコ。落ち着いて聞いて欲しい。」

 「うん?…うん。」

 「リズ先輩の話はだな…。」

 「うん。」

 「リズィちゃんがリズ先輩になった次の日の朝の話だよ。」

 「リズィちゃんがリズ先輩に?…あ。」

 「ご理解頂けたでしょうか?」

 「あぁ!だからだ!私が、私も見たことあるよ!可愛いよねって言ったら、先輩がなんか優しい顔してたの!思い返してみたらマキも苦笑いだったのかもしれない…。」

 「…さて、ミコさんや?話を戻すと、俺は今からミコさんにお仕置きをしても良いと思うんだが、如何?」

 「おしおき?」

 「うん、お仕置き。やり過ぎても、ここなら家だから着替えもあるし。」

 「着替えって…まさか!だ、駄目よ!?駄目だかんね!?ちょっ!離して!」

 「ふっふっふ。」



 「あっ。」



 ・・・・・。



 「買い忘れは無い?」

 「うん、多分大丈夫。」

 「生活って始めるとなると結構色々必要なんだね。俺さ、前の時とかは忘れちゃってるから新鮮で楽しいわ。」

 「あなたのそういう前向きなところは本当に良いと思う。普通、忘れちゃってるから楽しいなんて言わないわよ。」

 「前向きに頑張ったお陰でこうやってミコと手繋げてるんだから、普通じゃなくて結構結構。」

 「もう、ふふっ。」



 ーーあれ?ミコ?……。



 ミコを呼ぶ声に振り返ると、一人の眼鏡をかけたエルフが立っていた。


 「え?えっと…あれ?ルタド?」

 「そう、ルタだよ…久しぶりだね。でもすぐ分かったよ、変わらないから。ロクラーンに行ったって聞いてたけど、戻って来てたんだ?」

 「うん。まぁちょっと色々…。」

 「ふぅん…っと、そちらは…恋人?」

 「え?えっと…まぁ、うん。」

 「…そっか。初めまして、僕は医者をやってる、ミコの幼馴染みの、ルタドです。ルタって呼ばれてる。」

 「初めまして、僕はタキです。ミコの…恋人で良いの?」

 「わ、私に聞かないでよ!」

 「ふふっ、それじゃ…ミコの恋人です。」

 「仲が良いんだね、よろしく…そうだ、来週こっちの幼馴染み仲間で集まるんだけど、ミコは来れる?皆喜ぶと思うんだけど?」

 「え?えっと…。」

 俺の顔を伺うように見るミコ。

 「行ってくれば?最近ばたばたしてたし、しかも殆ど俺のせいでしょ?偶にはぱーっと楽しんでくれば?」

 「…それじゃ、行こうかな?」

 「よし、決まりだね。詳しくはメル…覚えてるかな?僕らの中で一番年上だった、メラマが飛ばしてくれることになってるから、来たら僕からミコに飛ばすよ。良い?」

 「わかったわ。よろしくね。」

 「うん。また会えて良かったよ。今度またゆっくり話そう。それじゃ。トルト君も、また。」

 「またね。」

 「さようなら。」



 ・・・。



 「…あのさ。」

 「ん?」

 「私がこんなこと言うのもなんなんだけど…妬かないの?」

 「ルタさんのこと?」

 「うん…その、私が結婚してるって嘘吐いてた時に妬いてたって聞いたから、男の人も居る集まりに行くのもやっぱり妬くのかなって思って。でもタキ君、あっさりしてたなって。」

 「妬いて欲しかったの?」

 「まぁ、ちょっとだけ?あんまりうるさいのも煩わしいけど、全然平気な顔してるのも、ちょっぴり寂しいなって。」

 「なんだろ?幼馴染みって聞いて、俺の知らないミコを知ってるんだ良いな羨ましいなって思ったんだよね。でも俺も、知ってるのは俺だけかな?って思うミコを見てるし、今手を繋いでるのは俺だし、別に。」

 「誰かに取られちゃう、とかは?」

 「それは…全然思わなかったな。」

 「…ふぅん。」

 「でも、ひとつだけ我儘言わせて貰うと…。」

 「うん?」

 「その日、迎えに行っても良いかな?」

 「…うん!よろしく!」

 「ふふっ、なんかさ、そうやって待ち合わせるみたいなのってやったこと無いから、その集まり、俺の方が楽しみになってきちゃったよ。」

 「ふふっ、変なの!でもそうね、そういうのやったこと無いかも。」

 「それじゃ、今度ちゃんとやろうよ。」

 「同じ家に住んでるんだけど?」

 「そこはほら、俺が先に出るからさ。そんでミコが、待った?って。」

 「何よそれ?定番のやつじゃない。私達はまだ…。」

 「あれ?でもさっきミコが俺のこと恋人って…。」

 「あれは!その、他に言いようが無くて…。」

 「友達は?」

 「友達…はちょっと違うっていうか、まぁ、好きな人って意味ならその、恋人でも間違いじゃないから…。」

 「…休戦中ですぞ?」

 「…別に良いでしょ?タキ君だって…。」

 「確かに俺も、こないだ王様に、恋人はいるのか?って聞かれて、いるって即答しちゃった。好きな人って意味なら、って思って。」

 「…休戦中ですぞ?」

 「もし今ここで王様に会ったら、ミコのことを俺の恋人だって思うだろうね。そしたら、この国の人達は文句言えなくなっちゃうね。」

 「それは…そうね、ふふっ。」

 「ふふっ、ミコも今は国民だから文句言っちゃ駄目だよ?」

 「王様が言うなら仕方ないわね、うふふっ。」



 ・・・・・。


 
 「嘘でしょそんなの。」

 「駄目だってば!」

 「でも現実的に考えたら、無理でしょ?そんな世界中全員の記録なんて。魔族って嘘が得意って聞いたことあるし。」

 シンと合流する為にオズの家に行くと、シンの他にマキちゃんとリズィちゃんも居た。何があるか分からないから止めた方が良いって言ったんだけど、全然聞かないので諦めた。

 ちなみに、聞かなかったのはリズィちゃんね。なんでだろう?リズィちゃんは俺の魔法なんて、言っちゃ悪いけど、そんなに関係無いと思うんだけど。

 で、今はこれから会いに行くチウンさんの話をしているのである。

 「マキちゃん?ひどいことになっても知らないからね?」

 「ひどいことって言ったって、殺されたり怪我したりじゃないんでしょ?お化けだって何にもしてこなきゃ可愛いもんよ。そんな怖がることでも無さそうだけど。」

 「まぁどんなことになるのかは解らないけどさ。俺は止めたからね。」

 「隣の人を好きになっちゃう、とかだったら良いわね。私タッ君の隣ぃ~。」

 「マキ?私もいるの、忘れてない?」

 「ミコ?そっくりその言葉返すけど、その手は何?」

 ミコの手を見ると俺の手を握ってる。つまり、手を繋いでる。

 これは朝、家を出る時からでして。

 …ホントは出る前も割と繋いでたりするけど。

 「あ、ごめん。つい。」

 「あんた達はつい、でいちゃつくワケ?まったく…あんた達まで手繋いでたら私だけひとりになっちゃうじゃないの。」

 シンとリズィちゃんも手を繋いでる。団体でひとりだけ手を繋ぐ相手が居ないとなると、マキちゃんも歪んで、処女だけの学校を作られたりすると困るので、名残惜しいが手を離す。

 「あ…。」

 「学長みたいになったら困るしね。」

 「あ、うん。そうだね。」

 「学長?」

 「いや、こっちの話。」

 「ふぅん。まぁ良いけど。ところでリズはなんで来たがったの?」

 「えっ?いや、まぁ、シン君から魔族の人が全員の記録を取ってるって聞いて、えへへ…。」

 「あ、おいリズ!」

 「何よリズ?いつの間に聞いたのよ?一昨日はそんな話しなかったでしょ?昨日も夜まで仕事だし…。」

 「……。」

 「……。」

 「聞くんじゃなかったわ…。」



 ・・・。



 それから、ミコとこっそり手の甲を当てたりしながら歩くこと2時間、ここから先キケン!の看板を無視して更に2時間。


 「ここが…。」


 改装工事中の門。半分は石造りだが木造に建て替えているところのようだ。なんで頑丈そうな壁壊して、板張りにしてるんだろう?

 …などと思って見てたら、工事の人に声を掛けられた。


 ーーごめんなすって!ここから先は魔族の敷地でござる。人間が何用か?……。
 
 ござる。

 「えっと、チウンさんって方に会いたくて。リリーディア・ミックさんの紹介なんですけど。」

 ーーチウン殿の?あいわかった、確認する故、しばし待たれよ……。

 そう言って工事の人は、まだ壊してない方の部屋に入る。

 「魔族ってあんななの?」

 あんな。マキちゃんがそう言いたくなるのも解る。工事の人は話し方もそうだが、見た目も独特だ。頭の上は髪の毛が無くて、後ろの髪を上向きに束ねている。そして頭には太めの紐を巻いている。その見た目は、あの人だけじゃなく、他の作業中の人もそうだった。

 「さぁ?私も見た事無いもの。でもホント、独特ね。」

 帰ってきた。

 ーーチウン殿の確認が取れた入るが良い、チウン殿はこの道を真っ直ぐ進んで三ツ目の路地を左に曲がると突き当たりに山の階段がある、それを登り切ったところに家がある、で、ござる……。

 「ありがとうございます。」

 ーー気を付けてね、チウンさん、怒ると怖いから……。


 「…マキちゃん?」

 「魔族の人も怖いって…マキ、帰った方が…。」

 「こここここまで来て帰れるかっつうの。ほら!さっさと行ってさっさと帰ろ?いざとなったらタッ君一緒に謝って?」

 「なんで俺が…。」



 ・・・。



 アホかっていう位の長い階段を登ると、さっきの作りかけの門と同じ様な雰囲気の木造の家があった。曲がったタイルみたいなのを敷き詰めた屋根は斜めで、あんな屋根に登ったらつるつる滑って落ちちゃうよな。

 ただ、山の上ということもあってとても静かだ。本当にこんなところにチウンさんは居るのだろうか?

 コンコン。

 「すみません、チウンさんはいらっしゃいますか?」

 「こっちだよ。そこから左に回っておいで。」



 …。



 凄い…。



 つるつるだ…。





 
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