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第三章 血
第10話
しおりを挟む切り株の上に2人座っている。
その2人は恋をしている。
月はそっと見下ろしている。
それなのに…。
「ミコさんや。今の流れは…。」
「ち、違うの!ま、まだ途中、途中だから!」
「そっか。話の腰折ってごめんね。」
「ま、まったくもう。つ、続けるよ?」
真っ赤な顔で仕切り直すミコ。
ホントに大丈夫なんだろうか?
「こほん…ちょっと前にその男の子が落ち込んじゃうことがあってね。それで私は心配になって会いに行ったの。そしたらその子は酷い顔でね。その顔見たら、とにかく抱き締めたくなっちゃったの。慰めてあげたいっていう気持ちは勿論あったんだけど、なんだか可愛く思えちゃって胸がきゅうんとしちゃった。珍しく甘えてくるその子の姿は忘れられないわ。」
恥ずかしい流れだ。
「…えっと、それにね?私はちょっと前からその男の子に私の気持ちを知られちゃってるんだけど、そしたらその子は、それを好機と見て抱き締めてくれるの。駄目だって言っても、構わずに。それは私にとってどんな甘いお菓子よりも甘くて幸せで、私を溺れさせようとしてくるの。私は人間を好きにならないって決めてるのに、お構いなし。ずるくて、えっちで、卑怯なの。」
罵倒する流れだ。
「でもね?リリーディアが教えてくれたの。私がその子と付き合うことをせずにその子が死んだら一生後悔するってことをね。だから、タキ・トルト君。」
「はい。」
「私、ミコーディア・ミックと、つ…。」
「つ?」
「つ、つき、月夜にお散歩して欲しいなって!」
ずこー。
そんなにか!?そんなに言えないか!?
こうなったら何が何でも言って貰いたくなる。
「ミコさんや?今俺達は何をしているね?」
「月夜に散歩です…タキ君あのね?エルフの女の子は自分から好きとか言わないの…。」
真っ赤な顔で上目遣いで見てくるミコはずるくてえっちで卑怯。えっちは違うか。
だが、俺もミコの口から聞きたい。自分から付き合ってって言うって、ミコはシンに言い放ったんじゃないのか?リリーディアさんの要望もあるから、せめて俺から言うのは避けたい。可愛く、大好き!付き合って!嬉しい!チュッ!の流れを求めて何が悪い。
「そっか、そうだよね。ミコ…好きだよ。」
「うん、私も…好きだよ…。」
はぅ、可愛い…駄目駄目!
「……。」
「……あれ?」
「え?」
「えと、伝わらなかったかな?あのね、エルフの女の子は自分からは好きとか、そういうこと、言わないの…。」
再び上目遣い。
ずるい可愛い卑怯…だが負ける訳にはいかん!
「ミコ、俺はミコのこと好きだよ。」
「うん、私もタキ君のこと好き。」
「ありがとう。」
「うん…うん?」
「どうしたの?」
「あ、いや、もうちょっと聞きたい言葉があるかなって。あのね、タキ君が好きって言ってくれるのは凄く嬉しい。でね?エルフの女の子は自分から、ね?自分から言わないの。ほら、あるでしょ?お互い好きならこうなるっていうのが。」
「あぁ!そういうこと?」
「うふふっ、そういうことです。」
「よし、それじゃ…こほん。ミコ?俺は世界で一番ミコが可愛いと思ってる。大好きだよ。」
ぎゅー。
「うん、嬉しい…。」
「うん…。」
「……。」
「……。」
「……タキ君?」
腕の中で見上げてくるミコ。
真っ赤な顔でちょっとむくれてる。
なんだこの可愛い生き物。
「私の知ってるタキ君は優しくて私を甘やかしてくれて、私の考えてることなんか全部おみとおし…はっ!?まさか!?」
「何かな?」
「私から言わせようとしてるんじゃ…。」
腕の中でジト目になるミコ。
可愛い。持って帰りたい。一緒に住んでるけど。
「うん。」
「即答した…いつも言ってくれてたでしょ?同じように今言うだけよ?」
「いつも言ってたから偶にはミコから聞きたいなって。」
「でも、その、やっぱりタキ君から聞きたいなって。」
「…キスしてくれたら言う。」
「そ、そういうのは、ちゃんと恋人になってから…だから、ね」
「どうしてもミコからは言わないと?」
「どうしてもって訳じゃないけど…。」
「なら、どうぞ。」
「……ふぅん、タキ君はどうしても言わせたいと?」
「うん。駄目かな?」
「今のは流石にずるいです却下します。」
「むぅ、強情さんめ…。」
「そっちこそ…そっか、わかったわ!」
「うん?」
ニヤリと笑うミコ。
何か企んでてもミコは可愛い。
「私がタキ君に言わせてみせる!」
「ふぅん…さてはミコめ、そういう作戦だということにすれば、ちょっとくらい恥ずかしくても堂々と甘えたりいちゃいちゃ出来る!しかもいきなり一線を越えるようなことにもならないから練習にもなるし!とか考えてるんだろうなぁ。」
「……あの、解っても声に出さないようにして貰えると…。」
「ふふっ、良いだろう!逆にこちらも遠慮無くやらせて貰う。」
「今まで遠慮があったことに驚いたわ。」
「ミコから言わせるからね。覚悟しといて。」
「そっちこそ、メロメロになっても知らないから。」
「もうなってるもん。ミコこそ、メロメロになっても知らないからね。」
「私だってなってるもん…。」
・・・。
「…で?なんでいるの?」
「さ、作戦、デスケド…。」
とりあえず帰ろうということになり、付き合ってなくても手を繋ぐ友達もいるしということで手を繋いで帰ってきてそれぞれ部屋に戻ったんだけど、まさか枕持って突撃してくるとは。
「まさかタキ君は、付き合ってない女の子が横で寝ててもなんかしようとは思わないよね?」
「まぁそうだけど…。」
「それじゃ、えと、お邪魔します…。」
そんなに顔赤くするくらいなら無理しなきゃ良いのに…とは思うけど、役得といえば役得。寝たふりしてミコが寝るのを待って寝顔でも堪能しよう。
「どうぞ…あれ?ミコさんや?随分と端っこに寝るんですねぇ?そんなんじゃ落ちちゃうよ?危ないからこっちおいで?」
すると、向こう側を向いてベッドの端に横になったミコが、指2本分位近付いた。殆ど変わってないじゃん…。
「無理はしない方が…。」
「無理じゃないもん。」
「…そっかそっか。まぁ、俺も?いきなり抱きつかれたりしたら流石に困るし?それ位なら全然耐えられるし?良かった良かった。それじゃおやすみ。」
するとむくりと起き上がり、こっちを見た。
…トマトだったら熟し過ぎてるくらい赤い。
そして、俺の真横まで来た。
「ま、まぁ?いきなり近くに行くとタキ君がびっくりしちゃうと思ってふわぁっ!」
ぎゅう。
「掛かったな。」
「いやいやいや!これはもう駄目なんじゃないの!?」
「え?嫌だった?」
「……嫌じゃないけど。」
「じゃあ良いね。おやすみ。」
…こんなんずっとやってたら頭がおかしくなってしまうな。寝るに限る。目を瞑って、声に出さずゆっくり数えるんだぞ?
「……むぅ。」
「……。」
ごそごそ。
「タキ君タキ君。」
「ん?」
目を開けると目の前にミコの顔が。
「そういえば、魔法が上手くいった時のご褒美あげてなかったね。」
「え?」
「すっかり忘れてた。ごめんね。」
ちゅっ。
おおお俺の頬っぺたがミコにチューした!
柔らかい!嘘でしょ!?柔らか過ぎる!
「いやいやいや!これはやり過ぎ!それはずるい卑怯!」
「ど、どう?もし恋人になったらちゃんとキス出来るよ?」
くぅ!なんということだ!ミコは恥ずかしがりだからどうせ大した事しないだろうと思って安心してたのに!
…でも待てよ?こんな調子でやってるといつかミコにも限界がくる筈だ。それまでミコにされるのを楽しむのも手だな。
…俺の理性が保てるかどうかだけど。
「ほら?言って?」
…思わず言ってしまいそうになる。が、よく見るとミコは真っ赤。つまり、ミコも限界に近いのだろう。
「ミコこそ言ったら?顔赤いよ?」
「…むぅ。これでも駄目か…それじゃ。」
ちゅっ。
大変だ!鼻もやられた!
「さっきリリーディアにされてたから、上書きしちゃっきゃっ!」
もう無理。
「ミコ?さっき俺、付き合ってない女の子にはなんもしないって言ったでしょ?あれ嘘。」
「え、えぇっ!?わわわっ!」
頬っぺたやら鼻やら眉間やら、とにかく口以外の顔中に口付けてやった。
「ちょっ、タキ君!やり過ぎたのは!ちょっ!」
そして髪の隙間から見えた真っ赤な耳にかぶりついた。
「はぁっんん!」
ミコがエロい声を出す。うひょー。
はむはむしてるとぷるぷる震えてる。可愛い。
…ついでにちょっと舐めちゃう。
「あっ…。」
ミコはピクッと身体を大きく震わせると大人しくなった。
…ちょっとやり過ぎたか?やり過ぎましたね?
するとミコはばっと起き上がり。
「部屋に戻る…。」
「えっと、やり過ぎちゃいました?」
「やり過ぎもやり過ぎ!なんてことしてくれんのよ!着替えあるか判らないんだからね!」
「着替え?」
「……おやすみ!」
ばたん!
着替えが必要になるようなことが起きたらしい。
・・・・・。
「ふぅん。大丈夫なの?そのチウンって人は魔族なんだろ?魔族って危ない臭いがぷんぷんするんだけど。」
「まぁ大丈夫みたいよ。リリーディアさんの話だと、魔族って別に人間と同じで悪い人ばっかりじゃないみたいだし。」
「でも悪い人もいるんだろ?そんなの、もしその悪い人になんかされたら無事じゃ済まないだろうよ。ましてや博士も行くんだろ?」
「まぁでも、行かないと分からないことがあるからな。」
「明後日にしろよ。店が休みだから。」
「休みなんてあるの?」
「ばあちゃんが医者行くんだ。それで俺達だけだと不安だから休みにするってさ。宿だけはやってるけどね。」
「おかみさん、どっか悪いの?」
「いや全然。歳だから定期検診があるだけ。むしろ病院で弱らせて欲しいくらいだ。」
ーーふぅん、シン?あんたまだロースト係がやりたいみたいだね。
「ばあちゃん!聞いてたのか!?」
ーー人の悪口言う時は背中に気を付けろってね、それはそうとタキ君、こないだはごめんねぇ、あたしあんたの記憶が無いなんて知らなくって、普通に話し掛けちゃったでしょ?ほんとにごめん、これからもシンと仲良くしてやってね、馬鹿だけど良い子なんだ馬鹿だけど、それじゃごゆっくり、あ、そうそうお詫びじゃないけどこれ、きのこのマリネ作ったから……。
「良いばあちゃんだな。」
「そうだな。ま、食おうぜ…で?」
「で?」
「博士だよ。喧嘩してんの?リズ捕まえてすぐあっち行ったじゃん。」
「喧嘩じゃないけど、負けられない戦いをしている。お、マキちゃんも加わったな。」
「姉ちゃんも終わったんだな。負けられないって、なにそれ?」
「どっちが先に付き合ってって言っちゃうかって話よ。」
「いちゃいちゃの延長か…リズ!?」
「何よ急に、リズィちゃんがどうしたの?」
「それお前、相手を降参させた方が良いとか言って攻めまくるんだろ?」
「攻めまくるってことも無いけど、メロメロにしてやろうって話。」
「同じじゃねぇか…ちょっと行ってくる。」
「何だよ?別にリズィちゃん…まさか気まずいやつか?」
「わからんが、もしそうなら俺の恥ずかしい話になりかねん。」
「早く行って、リズィちゃんに釘刺した方が良いぞ。」
「ああ、行ってくる。」
ーーちょっとシン!女の子の話に近寄らないでよ!そーだそーだシン君?駄目だよ?いやお前が心配で来たんだよ、大丈夫だよちゃんとぼかして話すから、ぼかしたって俺だろうが!博士が俺の顔全然見ないぞ!?何話したんだよ!?シン!今私達はリズ先輩に教わってるとこなんだから邪魔しないで!あっち行ってタッ君の相手してなさい!……。
…シンがぐったりして帰ってきた。
「俺段々リズの尻に敷かれてるんだけど。」
「そのやり方をリズちゃんから聞こうとはミコもなかなかだな。」
「お前も尻に敷かれろ。」
「ん?ミコは多分大丈夫だろ。お前の顔見れなくなるくらいだし。」
「解らんぞ?ベッドで化ける女もいる。」
「お前がそういうとリズィちゃんの顔見れないんだけど。」
「お前も博士も同じじゃねぇか。」
「それだと戦況に動きが出るかもしれんな。」
「お前は何で負けるかもしれないのに冷静なのよ?」
「別に負けても良いからな。元々負けてるし。」
「惚気かよ。それじゃさっさとくっついちゃえば良いじゃん。」
「そこはそれ、ミコが色々してくるのが可愛くて。」
「ホントにただの惚気じゃねぇか…。」
・・・。
2人で帰り路。普通に手を繋いでる。
「リズィちゃんの話は参考になった?」
「…全然参考にならなかった。最近の若い子は、その、凄いのね。」
ほらね。
「そっか残念。今夜はミコがどんな凄いことになるのか楽しみだったのに。」
「なりません!てか無理だから!」
「良いよ別に。俺達は俺達でしょ?」
「うん…あのさ、明日まで、その、休戦ってことにしない?」
「休戦…って、ああ、ミコが言うやつ?」
「タキ君が言うやつね。」
「なんで?」
「その、リズ先輩の話がちょっと刺激が強過ぎて…。」
頭がえっちになっちゃってるのね。
思い出したのか、顔が赤くなってる。
「良いよ。慌てなくても良いでしょ。どうせ毎日一緒にいるんだし。」
「…うん。」
「ミコ。」
「なぁに?」
「好きだよ。」
「休戦だってば…。」
軽く非難めいたことを言いながらも、ミコの握る力がちょっと強くなった。
俺達の生活はまだ始まったばかりだぜ!
…話が終わりそうな台詞だ。
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