メクレロ!

ふしかのとう

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第三章 血

第8話

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 部屋へいらっしゃい、ということで今俺とミコはミコのおばあちゃんの部屋に居る。

 「早速ですけどミコのおばあちゃんは…。」

 「リリーディア、よ。おばあちゃん、なんて止して頂戴。」

 「早速ですけどリリーディアさんは僕の魔法について心当たりがあると伺いまして…。」

 「堅い。友達と喋ってるみたいにして頂戴。」

 「…リリーディアさんは俺の魔法について解りそう?」

 「ふむ、それじゃ早速調べてみますか。それじゃタキ君、目を瞑って?」

 「はい。」

 「…ちゅ。」

 「ほわぁ!え?鼻、何を、え?」

 「リ、リ、リ…。」

 「あっははは可愛い!若い男の子ってほんと癒されるわぁ!」

 「リリーディアッ!何してんのよっ!?」

 「何、ってちょっと味見を。口じゃないから良いでしょ?」

 「私もしたことないのに!」

 「え?嘘?ホントに?」

 「付き合ってないから!」

 「え?そうだったの?私てっきり進んでるものかと。」

 「進んでません!」

 「なんで?」

 「なんでって、タキ君は人間なのよ?」

 「ん?それがどうかしたの?」

 「リリーディアはおじいちゃん死んじゃって寂しいって言ってたでしょ?おじいちゃんは人間だったからすぐに死んじゃったんでしょ?私はそんなの嫌だから。」

 「ふぅん…あのねぇミコ?確かに私は寂しいとは言ったけど、辛いとか後悔してるとか言ったかしら?」

 「それは…言ってない、と思うけど…。」

 「そ。別に辛い訳でも後悔してる訳でも無いわ。見ての通り、明るく楽しく元気に好きなことやってるわ。」

 「でも、再婚しないのはおじいちゃんだけって決めてるからじゃないの?」

 「別に再婚しないって決めてる訳じゃないわ。おじいちゃんも、俺が死んだら誰かと再婚して幸せにして貰えって言ってたし。」

 「じゃあなんで再婚しないの?寂しいならすれば良いのに。」

 「しようと思っても、おじいちゃん以上に格好良い人が居ないのよね。再婚しても、相手の人をいっつもおじいちゃんと比べて、おじいちゃんの方が格好良かったって思うのは、悪いでしょ?」

 「…でも、もしおじいちゃんが人間じゃなかったらとか…。」

 「ミコ?あなたがタキ君と付き合わないのは、タキ君が人間ですぐ死んじゃうからなの?」

 「え?うん、まぁ。死んじゃったらその後ずっと寂しいなって。」

 「それは、付き合わなかったら寂しくないの?」

 「え?」

 「好きなのに付き合わなくて、それでそのままタキ君が死んじゃったら寂しくないの?」

 「それは…。」

 「そして…あなたはタキ君と付き合わなかったことを後悔しないかしら?」

 「あ……。」

 「私はおじいちゃんと結婚しなかったら、おじいちゃんが死んでから一生後悔してたでしょうね。」

 「……。」

 「すぐ死ぬって解ってても、相手が生きてる間は思う存分、沢山甘えさせて貰った方がよっぽど幸せだと、ミコのおばあちゃんは思いました。あなたはどうかしら?」

 「……。」



 すっかり黙り込んで俯くミコ。

 それを見てニヤリと笑うリリーディアさん。

 …ニヤリ?

 「ミコ。頭冷やして考えてくるついでに、お茶っ葉買ってきてくれない?ポンさんのお店で。」

 「…うん。」


 ぱたん。

 
 「…ねぇねぇタキ君?どう?どうだった?私カッコ良かった?」

 「え?…うん、まぁ。でもどうして後押しするような事を?」

 今のが無けりゃ。

 「まさか付き合ってないとは思わなくてさ、それで私がふざけてタキ君にキスしちゃったでしょ?悪い事しちゃったなぁって。」

 「はぁ、なるほど…。」

 「ま、でも最初にタキ君のこと書いてある手紙貰った時に、ああミコは好きな人が出来たんだって解ったからね。」

 「手紙が上手く飛ばせたから?」

 「それもあるけど…あの時ミコと一緒に居たのよね?覚えてる?」

 「うん、一緒に居たし、覚えてるけど?」

 「あの時、最後の返事は飛ばさなかったでしょ?」

 「え?なんで解るの?」

 「その前の手紙で、返事がすぐ来るのはその人のことよっぽど好きなのねって書いたの。そしたら返事が夜に来てね、それにわざわざ、なかなか上手く飛ばせなくて遅れてごめんねって書いてあって、思い出しても可愛くておっかしいんだけど、それ読んだ時は可愛過ぎてお腹抱えて笑っちゃった。今まで何十年も、遅れてごめんなんて書いてなかったのに、うふふっ。」

 「そうだったんだ…その手紙だけ見せてくれなかったし、返事書いてたのに後で飛ばすって言っててどうしたのかと思ったけど、そういうことだったのか。それは可愛い。」

 「…タキ君。」

 「ん?」

 「確認だけど、あなた、ミコのこと好き?」

 「うん。」

 「一生ミコを大事にするつもりある?」

 「うん。」

 「そっか…それじゃ、ミコと付き合っちゃ駄目よ?」

 「……え?」

 どういうことだ?ミコにはあれだけ付き合うように勧めてくれてたのに、雰囲気的にも、私が間違ってた!私と付き合って!チュッ!の流れだった筈。リリーディアさんは何を考えてるんだ?

 「なんで?さっきまであんなに…。」

 「ミコはね?きっと初めての恋。でもそれは、人間のタキ君を好きになってしまったの。すぐに死ぬ人間を。」

 「でも…。」

 「あなたは良い人だと私も思うわ。だけど、あの子があなたを失ってから寂しい思いをして、その時に悪い男に引っ掛からないとも限らないわ。」

 そう、なのかな?

 「別にあの子も40越えてるし、普通そんなことは私が心配することじゃないんだけどね。だけどせめて、恋にも苦かったり辛かったりすることがあるんだってことを知っておいて欲しいの。」

 「でもそれは俺と付き合う付き合わない関係無いでしょ?俺と付き合ってても苦かったり辛かったりはあるだろうし。そんなこと無いようにするけど。」

 「それはまぁ、そうなんだけど、ほら、あなたひとりっていうのも、アレでしょ?」

 しどろもどろになってきた。

 「俺の後に誰かが居れば、俺ひとりって訳でもないでしょ?それが誰かは解らないけど、俺は反対しないよ?死んでるし。」

 「いやまぁ、そう、なんだけどね。」

 「…俺と付き合いたいってミコが思ってくれるなら、俺は喜んで受け止めます。でも、付き合っちゃ駄目なんですか?あんな風に背中を押されたのにそんなこと言われて、ミコが納得するとは思えません。悲しむでしょう。それはとても…許せません。」

 「違うの!その、付き合うなって言っても、ずっとって訳じゃないの!しばらく、ちょっとだけでも良いから、我慢出来るまで!どう?」

 「…何が目的ですか?」

 「…怒らない?」

 「もう既に割と頭に来てますけど。」

 「口調に距離を感じるのは?」

 「距離を置きたくなったからです。」

 「どうしたら戻るのかしら?」

 「納得する理由が解れば戻るかもしれません。」

 「…その、可愛いミコが好きな気持ちを可愛く隠したり誤魔化したり、悶々と悩んで可愛く失敗してる様をもうちょっと堪能したいなって…。」

 「乗ったわ。どれくらい我慢出来るかは解らないけど。」

 さっきのニヤリはそれか。

 「流石、話せるわね。まぁ我慢出来なくなったら、それはそれで良いわ。ミコを悲しませたい訳じゃないし。」

 「それは俺も一緒。でも、ミコが付き合ってって言ってきたらちょっと断れる自信無いなぁ。」

 「大丈夫よ。エルフの女の子は自分から好きって言わないものってなってるから、あなたが付き合ってって言わなければ良いだけよ。」

 「それでもミコが付き合ってって言ってきたら?」

 「それは受けた方が良いと思うわ。命の為に。」

 「命?」

 「エルフの女の子で、告白して振られた子は居ないことになってるの。理由は2つで1つはそもそも告白しないから。そして2つ目は、破戒して決死の覚悟で告白して振られたなんて知られたら恥だけど、幸いにも告白を知るものはただひとり、告白された男だけ。あとは解るわね?」

 なるほど!告白した事実を消せば良いのか!

 なんじゃそりゃあ!


 ガチャリ。

 「あら?帰ってきたかしら?じゃ宜しくね。」

 「うん。俺達皆の為に頑張る!」


 「ただいま…タキ君、リリーディアに変な事されなかった?大丈夫?」

 「ああ、うん。大丈夫。」

 変な企みはしてるけど。

 「ふふっ、ミコ?どう?悩みは解決した?」

 「…うん。解決というか、覚悟が出来た。」

 凛々しい顔も可愛い。

 「リリーディア、ありがとね。私は当たり前のことが見えてなかった。好きになっちゃったらしょうがないことを私は聞いて知っていた筈なのにね。」

 「ミコ、良い顔になったわ。良かったわね。」

 「うん…タキ君、あとで伝えたいことがあるの。良い?」

 「…わかった。楽しみにして良いやつ?」

 「…多分ね。それじゃ後でね。」

 告白だろうか?断る気は勿論無いが、リリーディアさんの予想よりも早い展開だ。腹据えた女の子は強い、って言ってたけど、殺傷能力的に強いという意味でも断れない。まぁそれは仕方ないか。

 「さて、リリーディア?元々私達は、タキ君の魔法の話を聞きに来たんだけど?」

 「そうね、その話をしましょう。それじゃタキ君、目を瞑って?」

 「駄目よ!」

 「いやでも調べないと…。」

 「そう言ってまたタキ君の鼻にキスするんじゃないの?」

 「いいえ、しないわ…鼻にはね?」

 「リリーディア…もし次ふざけたことをしたら例えリリーディアでも許さないから。おじいちゃんもきっと私に力を貸してくれるわ。」

 「じょ、冗談よ!大丈夫だから!剣は戻そ?ホントにそれ良く切れるから危ないし!」

 「あら?良く切れる方が傷の治りも綺麗だから良かったじゃない。例え頭と胴体が切れてもちゃんとくっ付くんでしょうね。」

 「本当に大丈夫だから!本当に!あんなこと、もう2度としないから!」

 「…早くやって。」

 「でも、触るわよ?」

 「…それくらいなら、まぁ。」

 「…それじゃタキ君、目を瞑って。」

 「はい。」

 目を瞑ると、額と頭の後ろを挟むように手を当てられた。すると不思議な事に、リリーディアさんの手がまるでバターが溶けるみたいに俺の頭に染み込んでくるような感覚に陥る。そしてそれが痒い所に手が届くというか、頭の中だから普段絶対に触れないような所にバター、じゃないやリリーディアさんの手が伸びていく。

 「はあぁぁぁぁ…。」

 声が出る。出ちゃう。気持ち良い。

 「ああああぁ…。」

 なんて説明したら良いんだろう?左右の耳の穴が繋がって、そこに濡らした紐を通してごしごし掃除するより気持ち良い感じ?それにしても…。

 …と思っていたら。

 突然、頭の真ん中辺りにあるしこりみたいなものにリリーディアさん手みたいなバターが触れてくすぐったかと思ったら駄目だ気持ち悪い吐きそうてか出る!

 「ミコ!そこのゴミ箱タキ君に!」

 「え?う、うん!はい!」

 「うん、どうぞ。」

 ぼぇぇぇ。

 ぼぇぇぇ。

 もいっちょぼぇぇぇ。


 「リリーディア、タキ君大丈夫なの?」

 「心配しなくても大丈夫…と言いたいところだけど、結果はあんまり良くないかな?とりあえずそのまま拭いてあげて、お茶飲ませてあげて。出来る?」

 「うん…タキ君、大丈夫?ほら、飲める?」

 「ミコの口移しなら。」

 「わかった。」

 「冗談だよ!初めてが吐いた口でなんて嫌だよ!ごめんね、自分で飲みます。」

 「別に良いのに…。」

 「そういうのはとっときたいの!…ふぅ。えっとリリーディアさん、今のは?」

 「私は水の魔法も使えるから、ちょっとね。頭の中を見てみたんだけど、しこりみたいな塊があるように感じなかった?」

 「うん。それまではリリーディアさんの手が溶けて入ってくるみたいで凄く気持ち良かったんだけど、そのしこりにバターが触れたら急に吐きそうになって。バターじゃないや、手だ。」

 「うふふっ…ま、そんな感じなのかな?とりあえず、勿体ぶってもしょうがないからはっきり言うと、これは呪いね。」

 「呪い!?」
 
 「呪いって?」

 「ミコは知ってるのかしら?」

 「本でしか知らないけど、誰かが何かをすると、その人にとって良くない事が起きるようにすること、だけどそれは魔族だけしか使えない…魔族!」

 魔族って最近聞いた…。

 「リリーディアさん!王様のところに来た管理人が魔族かもってミコが!」

 「いやいや、とりあえず落ち着いて、出来るだけ順番に詳しく話してくれる?」


 興奮しちゃってつい…。



 これは先程のリリーディアさんの手の気持ちよさが、何故か触られてもいない下半身にも影響が出てることとは全く無関係である。

 勿論、未だに立てないのは、吐いて気持ち悪くなってるからだけである。



 …リリーディアさんは絶対気付いてるよな。




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