38 / 118
第三章 血
第7話
しおりを挟む「で、タキはなんで城に呼ばれたの?」
「王様が、薬くれって。」
「王様に会ったの!?」
「うん。気さくなおじいちゃんって感じだった。」
「タキ君には驚かされることばかりね…。」
「薬って何の薬?」
「いや、口止めされてるから。」
王妃様に。まぁお綺麗で、多分普通の人よりはお若いのだろうけど、50は余裕で過ぎてるだろうから、まだがつがつしてるなんて知られたくは無いよな。
「ふぅん。それで、タキのことは何か聞いてみた?」
「うん。10年くらい前に王様の腰を治して…あ、その時、俺の管理人て人が来たみたい。」
「管理人?誰?タッ君の親とか?」
「大分前の話だから忘れちゃったのか、思い出そうとしても思い出せなくて、男か女かも解らないみたい。だけど、腰を治した俺の、無くなった5年分の記憶の代償として王様の小遣い5年分請求したそうだ。」
「王様は払ったの?」
「国庫から借りて払ったらしい。」
「ふぅん。あっさり払うんだな。」
「それじゃこの家はそのお金かしらね?」
「それは解らんね…ミコ?」
横でなんか考え込んでるミコに声を掛ける。
「…話は覚えてるのに顔も声も思い出せないって?」
「うん、そう言ってたけど…何か解るの?」
「魔族…リリーディアが昔魔族のところにそんな人が居たって聞いたことがある。」
ミコのおばあちゃんか。
「魔族?魔族ってあの魔族?」
「そうね、シン君の言う魔族がどれだか解らないけど、あの魔族。王様に直接聞いた訳じゃないから確証はないけど…。」
「それじゃタキはとりあえずリリーディアさん?に会って聞いてみれば?博士はその人知ってるんでしょ?」
「リリーディアは、今度会いに行くって言ってた私のおばあちゃんよ。」
「ミコ。俺、ミコのおばあちゃんになるべく早く会いたいんだけど。」
「ええ、私も気になるし、もう明日にでも行きましょ?」
「あれ?でも釣り船は?」
「そうね、聞いてみるわ。」
ミコはそう言ってささっと手紙を書いて、窓を開けて飛ばす。
「…ミコは本当に手紙飛ばすの上手くなかったの?」
「え?うん、まぁ…。」
「でも、そんなとこ見たことないじゃん。疑う訳じゃないけど。」
「……絶対に笑わないって約束出来る?」
「笑うようなことなの?」
「…多分。」
「わかった、笑わない。」
「……。」
「……。」
「……好きな人が出来たから。」
「へ?」
「リリーディアが昔から、ミコも好きな人が出来たらきっと魔法が使えるようになるよって言ってて…。」
「あれ?頑張ってたら、じゃなかった?」
手紙のやり取りしてた時にそう書いてあったよな?
「それは、あの時はまだ、ばれちゃ駄目だと思ってたから、書いてる途中で気付いて咄嗟に嘘を…。」
「ふふっ、そうだったんだ。」
「笑わないって約束でしょ!?」
「ごめんごめん。でも良かったね、魔法が上手くいくようになって。」
「…うん。タキ君のお陰…。」
「ミコ…。」
「おい。」
誰だい誰だい、今良いところなんだから…ん?
「あんた達は1時間も我慢出来ない訳?ん?あたし達は置物かなんかですか?」
「ご、ごめんマキ、そんなつもりじゃなくて…。」
「まったく、2人で話し始めるとすぐ雰囲気出ちゃうんだから。次やったら脱いでタッ君に襲い掛かるからね。」
「姉ちゃんの裸なんてごめんだぞ?」
「そうでもしないとこの2人止まらないわよ!」
「う、うん。気を付けます…あっ。」
「返事かな?」
「うん…もう帰ってきてるから明日で良いって。準備はしてある…って準備?」
「俺とミコの結婚式かな?」
「タッ君?私の裸が見たいならそう言えば良いのよ?」
「そ、そんな訳ないでしょ!もう!タキ君の魔法を調べる準備でしょ!…それともマキの裸、見たいの?」
「え?いやまぁ、見たくないかと言われたらアレですが…。」
「…すけべ。変態。」
「でも俺が見たい、って思うのはひとりだけだからね。誰だか解る?」
「……まだ、駄目だからね…。」
「駄目だこの人達…。」
「あんた達はピンク色の言葉でしか喋れない訳!?無理!タッ君どうこうより、この空間が無理!帰る!シン!今夜は飲むわよ!浴びるように、そして体中に付いたピンクを落とさないと!」
「しょうがないな。よし、俺達はここいらで帰るから、あとはゆっくりいちゃいちゃしてくれ。」
「しないから!」
「そんなに説得力の無い台詞、初めて聞いたわ!」
「すまんな、引越し手伝ってくれてありがとう。」
「いや良いってことよ。」
「あっ、王妃様から戴いたお菓子あるんだけど、いるか?」
「この上、更に甘いものを食えと?とんでもない話だ。明日の土産に良いんじゃないか?王妃様から戴いたお菓子持ってくるようなやつなら、娘さん下さいしても大丈夫だろ。」
「シン君!?変な事言わないで!タキ君も、ホントに絶対間違っても変な事言わないでよ!?大騒ぎになっちゃうんだから!」
「まぁまぁ、博士もあんまり帰ってないんだろ?偶にはウケのひとつも取らないと。」
「そんなのいらないから!あああ不安になってきた!」
「私も行こうか?」
「良いから!いよいよ面倒臭くなる気しかしないわ!」
「ま、とりあえずちゃんと魔法のこと聞いて来いよ?解らなかったらしょうがないけど。ほいじゃ、また店に来てくれな。」
「おう。近々また。マキちゃんも。」
「うん…良い知らせ期待しとく。」
「…解らないけどね。」
「ま、こればっかりはしょうがないわね。それじゃ、また。ミコも、またね。」
「…うん、またね。」
ぱたん。
「…マキは良い子ね。」
「そうだね。」
「私は…。」
「良いの。折角マキちゃんが納得してるって言ってくれてるんだから、ミコが迷ったら、その方がマキちゃんに怒られるよ?」
「…そうね。そうする。」
「ぎゅうする?」
「駄目です。」
「まぁまぁそう仰らずに。」
「…あのね。」
「うん。」
「今私は幸せだなって思ってる。抱き締められると嬉しい。だけど、ふと考えちゃうのよね。」
「何を?」
「この人はもうすぐ死んじゃうんだなって。」
「…なるほど。」
「そうなったらどうなっちゃうのかなって思うと、これ以上のめり込んだら駄目だって、やっぱり思っちゃうの。だから、もう少しだけ待ってくれる?」
「わかった…でも、それならさ。」
「うん。」
「2人でどうしたら良いか、考えない?別に待つのは構わないけど、折角2人で居るんだしさ…駄目?」
「……駄目じゃない。駄目じゃないけど…。」
「けど?」
「…そんなこと言われたら、もっとのめり込んじゃうね…。」
・・・・・。
ーーいようミコ!久しぶりだな!それが噂の彼氏かい?
ーーきゃー!ミコーッ!久しぶり!この人がミコの恋人?
ーー久しぶりねミコ。結婚するんだって?今夜はお祝いね。うふふ。
ーー久しぶり、ミコ!式はいつ?こっちでするんでしょ?
「…ミコさんや?」
「知らないわよ、私は何も…。」
「でも、この村に来てから会う度全員だよ?」
「なんでこんなことに…リリーディアだわ。」
「おばあちゃん?」
「余計な世話を焼いたんだわ…この様子じゃ、家もどうなってるのか解らないから気を付けて。」
「気を付けてって言われても。」
・・・。
「ここが私のお家。父が趣味で増築してるから、私が最後に見たのはこの辺までだけど。」
「ふぅん、楽しそうだなそういうの。」
「まぁ木は沢山あるし、それに暇なのよ。ごろごろ寝てるだけよりは良いけどね…よし。」
気合を入れて扉を開けるミコ。
ガチャリ。
「ただいまぁ。」
「あらミコ、おかえり。久しぶりね…そちらは?」
「初めまして。タキ・トルトと言います。以前、ミコーディアさんの研究室で研究生をやってました。今は学校を辞めてしまいましたが。あ、これ、頂き物なんですけど、もし良かったら食べて下さい。」
「あらアリガト。そう、タキ君ね。私はミコーディアの母で、フィーロです。フィーロって呼んで?」
ミコのお母さん、フィーロさんは柔らかい雰囲気のエルフで、キツいようで垂れてる目元なんかがミコにそっくりだ。ミコと違って完全な金髪で耳は長いが、目はミコと同じく青い。流石ミコのお母さんだと思える、大人びていて雰囲気がある美人だ。ミコが大人になったら…ってミコは大人か。
「普通過ぎるのが逆に気持ち悪いわね…。」
「さぁさぁ!お父さんも待ってるからタキ君はそこの部屋に行ってあげて?ミコはこっち、手伝って?」
「え?僕だけでですか?」
嫌過ぎるんですけど。
「ええ!頑張ってね!」
ウインクが飛んできた。
「ちょ、ちょっとお母さん!?なんでタキ君が…。」
「ほらほら、ミコはこっちこっち!」
「ちょっ、ええ!?」
ミコが連れて行かれてしまった。
…まぁ良いか。
コンコン。
「ど、どどどどうぞ!あ、いや、入ってくれ!」
「失礼します…。」
部屋に入ると、テーブルに椅子が2脚向かい合って置いてあり、奥にミコのお父さんが座っていた。
ミコのお父さんは黒髪に長い耳、青い目は鋭いが、どこか子どもっぽい愛嬌がある。ミコが超絶可愛いのはそういうお父さんの雰囲気を引いてるのだろう。
「……。」
「あの、初めまして。タキ・トルトと言います。ミコーディアさんの研究室で研究生をやってました。」
「こほん…うむ。座りたまえ。」
「失礼します。」
「……。」
「あの…僕、使ったら記憶が無くなる魔法について聞きたくて…。」
「えっ?」
「えっと、魔法で怪我や病気を治すと…。」
「それは解った…で?」
で?
「えっと、その魔法が何なのかリリーディアさんにお話を…。」
「いや、そうじゃなくて、そっちじゃない。だろ?」
だろ?
「……。」
「おいおい、ほら、アレ。やるんだろ?」
「アレ?」
ーーはぁっ!?違うから!今日はそういうんじゃないから!でもパパ、お隣のアッちゃんの時どうしたか聞きに行ったりしてこないだから練習してたんだから、練習?ほらアレよアレ、アレ?ほら娘さんを下さいってやつ、はぁっ!?何やってんのよお父さんは!?私ちょっと言ってくる!ミコ待って!パパの夢だったの、そんなの知らないわよ!くっ、離して!叶えさせてあげて欲しいの!ぐぬぬ……。
「…えっと。」
「…やります?」
「…良いの?」
「まぁ、早いか遅いかですし。」
「ならひとつ、ばばんと頼む。」
「では…お義父さん!」
「君にお義父さんと呼ばれる筋合いは無い!」
「ミックさん!」
「ごめん、そこはリアンさんで。」
「リアンさん!…最初から良いですか?」
「そうね。ごめんね、集中途切れさせちゃって。」
「いえ、では…お義父さん!」
「君にお義父さんと呼ばれる筋合いは無い!」
「何やってんのよ!」
「ミコ?今気分入ってるとこだから…。」
「タキ君も!別にこんなこと付き合わなくても良いから!」
「ミコーディア、今俺達は…。」
「お父さんとはしばらく口聞かないから。」
「え!?いや違うんだミコ、聞いてくれ!母さんがミコに好きな人がいるらしいって言って、今度連れてくるみたいって言うから、俺もうどうしたら良いか解らなくなっちゃって…。」
「大体、タキ君?そういうこと言わないって話だったでしょ?」
無視するミコ、反抗期。
「でもリアンさんが…。」
「お義父さんで良いよ。」
「でもお義父さんが…。」
「付き合わなくて良いって言ってるでしょ!?」
「…ミコ?」
「…何よ?」
「俺はさ、ミコがまだそういうつもりじゃないのは解ってる。そもそも付き合ってもないしね。でも俺は、本当に勝手だけど、いつかはこういう挨拶をしたいというか、するつもりだよ。だからリアンさんがやりたいって言うなら、やってあげたいというか、やりたいんだけど、駄目?」
「…あのさ、前から言おうと思ってたんだけど。」
「うん。」
「駄目?とか駄目かな?って言うの、ちょっとズルい。タキ君の、なんか断りにくい。」
「…では、お義父さん!」
「君におとうさ…。」
「今のはやらない流れでしょ!?」
「んもう、ミコったら…素敵な男の子じゃない、私は良いと思うわ…タキ君は今いくつ?」
「20歳です。」
「そっか…なら、50年くらいは大丈夫ね。付き合ってないなら、不束な娘ですがって出来ないのは残念だけど、ミコと仲良くしてあげてくれる?」
「勿論です。」
「うふふ、それじゃパパは本番まで我慢して貰いましょう!ね?」
フィーロさんがミコをちらりと見る。
「…知らない。」
「あら?リリーディアが言ってたけど、手紙の返事が早くなったんですって?タキ君じゃないの?」
「…もう、良い加減恥ずかしいからやめて…あと、そのリリーディアは?大事な話があるの。」
「リリーディアならお部屋に居るわ…と、噂をすれば。」
「ミコ!おかえり!」ぎゅー。
それは俺の特技!
「…ぷはっ!もう!私は子どもじゃないのよ?」
「うふふっ、私にとってはまだまだ可愛いミコよ?そちらが噂の?初めまして、リリーディア・ミック、ン百歳ですっ!」
どっかで聞いたことがある自己紹介をしたリリーディアさんは長い金髪長い耳。青い目はミコのお父さんとそっくりの、キリッとした美人。ミコとは似ていないけど、笑顔が魅力的なのは同じか。
「ちょっとリリーディア!噂の、って別に私達付き合ってないからね!」
「え?そっちじゃなくて魔法使うと記憶が無くなるって話だけど?」
「あっ!」
しまった、という顔をするミコ。
そういえば、そんな用事だったよな。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる