メクレロ!

ふしかのとう

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第二章 魔法使い

第8話

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 「あら?どちらさま?」

 そう言う博士は笑顔、可愛い笑顔なんだが、言ってる事がおかしい。よもや俺のことを忘れちゃった訳じゃないだろう。これは怒ってるに違いない。

 でも何故だろう?会ってない一昨日から今日までで博士に俺がやったことといえば、手紙を飛ばしたくらいしか思い当たらない。その手紙だってちゃんと届いたのか判らないし、届いたにしても内容は特に問題は無い筈だ。

 「えっと、俺はタ…。」

 「俺?」

 「…僕はミック博士の研究室の研究生のタキです。」

 「ふぅん、タキ君ですか。なんとなくだけど、そのタキ君は、私に何か言うべきことがあると思うんだけど。」

 「すみませんでした。」

 「すみませんでした?何が?あなた何か悪い事でもしたの?」

 難問…やっぱり手紙の件だろうか?いやでもあれは博士にとって照れこそするかもしれんが、今までだって色々言ってきたし、怒られるようなもんじゃない…はっ!?まさか、ブルゼットのことか?

 ブルゼットからの手紙だと円満な感じだったけど、実はやきもちを焼いていたのに相手が16歳だから強くも出れず、拳を握り締めながら笑顔で応対したのかもしれん。可愛いなぁ。

 「あははブルゼットのことですか?博士もかわ…。」

 「何がおかしいの?違います。」

 「すみません。」

 違うのかよ。もうネタ切れだ。諦めて、手紙飛ばせたことの報告して喜ばせて、ついでに照れさせてうやむや作戦に切り替えよう。

 「あ、そういえば!一昨日、手紙飛ばせたんですよ!ちゃんと届きました?いやぁちょっと恥ずかしかったんですけどね、まいっかって。」

 「えぇしっかりと受け取ったわあなたが家でもちゃんと真面目に頑張ってたという結果が私の元に届いたというのはそうね私とっても嬉しいわ。」

 こっちが当たりだったか。

 「あの、何か手紙の内容に問題でも…?」

 「いいえ?交際関係にある訳じゃないとはいえ、男の子からあんなお手紙を貰えたのはとっても嬉しいわ。」

 「なんだそれなら…。」



 「飛ばした時間さえ間違えなければね。」



 すげぇ!こんな低い声でも可愛く思えるなんて、恋ってすげぇ!

 「でも俺…僕も、もし寝てたら悪いなって思っておやすみなさ…。」

 「一昨日はね、前にも話した魔法を守る会の会合があってね。その後で、この前の懇親会の時に声掛けてきた子と、他に仲の良い2人の4人で、昔から知ってるお店で飲んでたの。」

 旦那さんに報告しようかって言ってた人か。

 「それで、あなたのことを聞かれたりして話してた時に、ママが、そのお店のおかみさんを皆ママって呼んでるんだけど、ママがミコーディア・ミックさーんって呼んだの。いつもはミコちゃんて言うのにおかしいなと思ったら、にこにこしながらあなたからの手紙を持ってたの。」

 「え?博士のとこじゃなく?」

 「お店の窓が全部閉まってたの。ママが窓に何か当たった音に気付いて外を見に行ったら落ちてたんですって。」

 「まぁでも、所詮はおやすみなさいだし…。」

 「あのね?普通わざわざ恋人でもなんでもない人におやすみなさいなんて、そんなの飛ばす?お陰で友達皆して、健気ねとか、可愛いわねとか、すっごくからかわれたんだから。」

 おうふ。おやすみなさい程度でそれってことは…。

 「そんな風に、20年くらい恋話から遠ざかってたような子達が久しぶりの甘酸っぱい話にキャーキャー盛り上がってた中に追加の2通をママが持ってきたの。あんな中身の。もうママはおろか他の常連さん達まで盛り上がっちゃって大騒ぎよ…。」

 おおう…。

 「ママなんて、今日は私も飲む!皆奢りよ!とか叫んでお店は完全にパーティー。私はもう飲むしかないと思ってひたすらに飲んで、飲みまくって、酔っ払って、気付いたら昼過ぎで家のトイレ抱いて寝てて、昨日は一日中酷い二日酔い。全部あなたのせいよ。」

 「いや、飲み過ぎたのは俺のせいじゃ…。」

 「元はと言えばあなたの手紙のせいでしょうが!1通目は飛ばす練習だと思えば、百歩譲って許しても良いけど、あとの2通はいらなかったでしょうが!」

 「いや、返事がなかなか来ないから届かなかったのかなとか、折角書いたから捨てるのも勿体無いなって…。」

 「あんな雰囲気の中、返事なんか書ける訳無いでしょうが!それに、あなたがその返事にどんな返ししてくるかわかったもんじゃなかったし!大体、1通目のあとすぐに飛ばしてきたじゃないの!」

 「いやそれが、待ってると時間が凄く長く感じちゃって…。」

 「ああぁぁもう!…もうしばらくあのお店行けないぃ…。」

 がっくり項垂れる博士。これは俺が悪かった。もう全面的に悪い。

 「すみませんでした。その、どうお詫びして良いやら…。」

 「…禁止よ。」

 「禁止?」

 「ええ。もう、好きとかそういうの、言うの禁止。元々言い過ぎだったところに今回の件よ?ちゃんと駄目って言わなかった私も悪いけど、また今回みたいなことがあっては困ります。よって、もう禁止です。」

 「そんな!海で泳いでる人間に息継ぎするなって言うようなもんですよ!?」

 「大丈夫。そんなことでは人間死なないわ。」

 「いや死ぬでしょうよ!?いや待って下さいよ!死んじゃいますよ!」

 「…別に最近は言わなくても大丈夫だったじゃない。」

 「いやそれは…ん?気付いてたんですか?」

 「え?あ、いや別にその、毎日あったものが無くなったら、そりゃまぁ普通気付くわよね?」

 「ふぅん…それじゃ、やっぱり毎日あった方が良いんじゃないですか?」

 「…禁止です。」

 「明日までですか?」

 「ずっとです。」

 「明日からですか?」

 「今からです。」

 「では、とりあえず来週からにしてあげます。」

 「なんで上から。しかも延びてるし。禁止ったら禁止、今からと言ったら今からです。」

 「…じゃあ言いません。」

 「書くのも禁止です。」

 「はぁ!?良い加減にして下さいよ!俺が何をしたっていうんですか!?」

 「良い加減にして欲しいのはこっち!こっちの気も知らずに好きです好きですって、私はもう色々ぐちゃぐちゃなの!とりあえず、一度落ち着くまで禁止です。」

 「なんだ、一生じゃないのか。なら良いや。」

 「あと、明日からテスト明けまでの10日間、ここに来るのも禁止します。」

 「いやいやいや…いやいやいや何を仰るのかと思えば!いやいやいや!そんなこと出来る訳無いでしょう!?俺、博士に会う為に生きてるんですよ?俺に死ねって言うんですか!?」

 「明日からテスト明けまでは午後の選択講義はお休み。タキ君の研究室入りは選択講義扱い。よってあなたはお休み、立ち入り禁止です。」

 「勉強聞きに来るのは?」

 「他の講師の方に聞いて下さい。」

 「顔見に来るのは?」

 「禁止です。」

 「ああぁぁぁ…。」

 なんということだ。たった3通の手紙がこんなことになってしまうなんて…。


 コンコン。


 ん?誰か来た。これはもしや博士を諫めに来た博士の友達じゃなかろうか?タキ君も悪気は無かったんだし、許してあげて?みたいなみたいな!お迎えにあがらねば!

 「俺、出ます!」

 「え?ああうん、お願い。」


 ガチャリ。

 「はーい、どちらさ…。」

 「あの、こちらはミック博士の研究室で…タッ君!」


 いやいやいや!今じゃねぇだろ!?

 なんで、マキちゃんが、ここに、今、来るとか、もう何から何までおかしいだろ。


 「マキちゃん?どうしてここに?帰ったんじゃないの?」

 「帰ったわよ?帰ったんだけどおばあちゃんに、惚れた男見付けたって言うから忙しい週末に休ませたのに捕まえもせずにおめおめ帰って来たのか!それでもフリジールの女か!って怒られちゃって、今すぐまた行ってこい!って…馬車に乗り過ぎてお尻が痛いわ。」

 もう何がなんだか…。

 「それでとりあえず前は叶わなかった博士に会おうと思って学校に来て、その辺に居たおじさんに声掛けたら学長さんで、事情を話してミック博士に会いたいって言ったらここの場所を教えてくれたの。」

 学長、ゆる過ぎだろ。

 「お店で酔っ払いのおじさん相手にするの慣れてるのがこんなとこで役に立つとは思わなかったわ。」

 学長は酔っ払いのおじさんじゃねーだろ!

 「…で、博士は?」

 「タキ君?どなた?」

 おーうふ。

 「あなたが博士…あのっ!私、こちらにいるタキ君の友達のシン・オズの姉で、マキ・オズと言います。」

 割とまともな挨拶出来るんだな。

 「それで、今日伺ったのは…。」

 「シン君の姉ってことは、オズの家の!?」

 「え?ええ、実家はオズの家ですけど、ご存知…。」

 「きゃーホントにまだあるんだ!懐かしい!私、学生時代に通ってたの!」

 「あ、いつもご贔屓していただ…。」

 「私あのお店のローストが大好きで!きゃー!私、学生の頃に皆でどれくらい食べれるか競争して、3人前食べたことがあるの!」

 「あの…ミック博士…。」

 「もう!マキちゃん?私のことはミコちゃんって呼んで!おかみさんにはいつもそう呼ばれてて…おかみさんは元気?」

 「相変わらず超元気ですけ…。」

 「超元気!良かったぁ!私のこと覚えてるかなぁ?もう20年以上前だから忘れちゃってるかなぁ?忘れちゃってるよね?」

 「はぁ、でもおばあちゃんの口癖は、うちのおみ…。」

 「うちのお店に来た子は皆私の子供達よ!よね?うわーっ、ホントに懐かしい!なんだか久しぶりにフリジールに帰りたくなっちゃった!」

 あのマキちゃんがたじたじ、押されに押されて困ってる。そりゃそうか。この泥棒猫!とかのつもりで来てこんな感じで感激されてたら、やり難いことこの上無いだろう。


 コンコン。ガチャリ。

 「すみません。シン・オズと言います。こちらに…タキ、すまん。」

 「いやまぁ、マキちゃんは今、博士に懐かれて困ってるとこだわ。」

 「ふぅん。修羅場じゃないのな。」

 「タイミングが最低かと思ったら救世主だったかも知れない。」

 「良いのよタッ君。今晩泊めてくれたら私何でもする。そんな覚悟で来てるの。おばあちゃんにも、胸にひっ付けてるのはキャベツかい!?って言われてるし。」

 「姉ちゃん…博士から逃げてきたの?」

 ひそひそ。

 「あの人、お父さんがお母さんと出会う前の話とかしてるのに、どうやって泥棒猫の話出来るって言うのよ!」

 小声で怒鳴る器用なマキちゃん。
 
 懐かしさで興奮してる博士。

 俺はどうしたら良いんだ?

 なぁシン…教えてくれよ…。



 こう言うと、シンが死んだみたいだな。





 
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