メクレロ!

ふしかのとう

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第一章 私立ロクラーン魔法学校

第4話

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 制服は、白の詰襟。俺を待っていたかのようにぴったりだった。

 当たり前だけど。



 受け取った後で一応、医者に行った。エルフだ、珍しい。長生きだから知識も豊富だろうと安心していた、のだが。

 何か強い衝撃を受けたりショッキングな出来事があったりしませんでしたか?という衝撃的なセリフに、俺は何を治して貰うつもりだったか忘れそうになった。

 もう一度強い衝撃を受ければ治るかもしれません、というので、まさか殴りはしないよなと不安になった。

 これといった治療法は見付かってませんので気長に見るしかないですね、というので、エルフの寿命と気長の関係性に絶望した。



 「てなことがあったのよ。ホント、殴られるかと思ったわ。」

 「すぐに治療して貰えるな。」

 「半永久的に商売を続けられる方法。」

 「エルフの老舗医者の闇だ。」

 「それ以上はいけない。」



 町の中心に近いがやがやした雰囲気の中に、突如現れる公園のようなところに、塀も何も無いくせにポツンと立つ門がある。入学式と書いてある看板が置いてあって、その横にはダンディとは言えないけど、ちゃんとした身なりをしたおじさんが立っている。
 近付くと「おはようございます、校門はこっちだよ。」とやけに親しげに話し掛けてくるので、不審に思ったが胸の名札を見て納得した。



 学長。



 学長、と書くのは実に気が利いていて、良い。チカン・スルデスという風に書いてあって「なんだこのやろう、触れるもんなら触ってみやがれ。」などといきなり怒鳴りつける心配が無い。


 「おはようございます。」
 「おはようございます。」


 俺達は挨拶を返して誘われるままに門をくぐると、不思議な気持ちになった。



 「今までくぐらなかったけど、なんかこう、良いね。」

 シンも思ったらしい。今まで何度か来た時は、適当に入って適当に出てきたのだけど、こうして門をくぐると、ちゃんと学校の一員として認められたような、今までとは違うんだと思い知らされるような、そんな気がしたのである。
 
 ポツンとある門にもこうした境界の意味があったのだろう。
 なんだか本当に良い場所だな。


 
 それにしても。



 「学長だったな。」

 「まぁ入学式の学長挨拶で別の人が出てくるんだけどね。」

 「なにそれこわい。」

 「役職が書いてあるだけだ、というタキの先入観に起因する間違いであって、あの人はガクチョウさんだ。」

 「ガクチョウさんはなぜ門に立っていたのか。」

 「散歩の途中で会っただけだ。」

 「名札を付けて散歩か。そんなおじいちゃんには見えなかったが。」

 「お前も付けといたら?忘れがちだから。」

 「忘れてるだけで、忘れがちではない。」

 「本当に名前はタキなんだろうか?」

 「本当だとも。パンツに書いてあった。」

 「防犯に余念がないな、昔のタキ。」

 「嘘だ。」

 「知ってた。」

 「ええっ、なんでぇ!?」



 掲示板の前に着いた。さてクラスは…。


 「あったぞ、俺もタキもGだ。」


 7クラスある中の7番目のクラス。これは一体何を表しているのか。
 あの2回目の試験で測定された何かを平均的に割り振ったのであれば問題は無いのだが、一番下を集められた問題児クラスとなれば問題だ。


 「なぁシン。俺、不安だよ。問題児ばっかりだったらどうしよう。」

 「仲良く出来るさ。お前のお陰で俺は慣れてるし。」

 「実は俺、お前に未だに慣れてないんだ。」

 「仕方ない、今夜は一緒に風呂に入って一緒に寝よう。」

 「俺はリズィちゃんに会ったら言うだろうな。この泥棒猫、ってね。」

 「泥棒猫はお前だ。」

 「なんだと、この尻泥棒。」

 
 教室に入ると、既に何人か居て、何やら自己紹介的なことをやっている。こちらも軽く挨拶をすると返してくれた。


 ーーやあ、君達もGクラスですか?はじめまして、僕はドコソコ出身のダレソレと言います、よろしくお願いします、なんてちょっと堅苦しいよね、これから付き合い長くなるんだし崩しちゃっても良いかな?だよね、一緒に楽しくやっていけたらと思ってるよ……。


 その後に来たやつとも挨拶を交わしたりしてみたけど、割と明るくて話し易い人が多い。20人位いる中には何人か大人しい人が居たけれど、別に話し難い訳ではないし、さっき掲示板を見て不安になってたのが馬鹿みたいだ。
 シンも向こうで誰かと話してるが、あいつも上手くやってそうだ。あいつは良いやつなんだけど、話してる最中に無関係なことを突然言いながらボケ始めて、引っ掻き回して、どや顔をするという悪い癖があるから心配だったのだけど、どうやら大丈夫そうだ。

 戸が開いたかと思ったらおや、受付勤勉イケメンだ。

 

 --はい、とりあえず座って下さい、座ったかな?私は、このクラスを担当する講師のグレン、グレン・パトニーです、よろしくお願いします、っと早速だけど色々説明をするべきことがあるけどちょっと量が多いもんでね、覚えろって言っても無理なことだし、こちらも大変だ、という訳でこの冊子に書いてあるから持って帰って読んでおいてくれ。以上で入学式を終わります、入学、おめでとう……。


 読んどけというだけなら受付イケメン改めイケメン講師も簡単なものだな、と思ってしまった。まぁあの人達は魔法紙作りの仕事もあるから何かと忙しいのだろう。
 
 今日はクラスのやつらとどこかで軽く懇親会的なものでもやろうとか提案してみるか。まあ後日でも良いけど、とりあえずシンと相談でも「タキ・トルト君。」


 ん?イケメンが呼んだ?


 「タキ君、タキ・トルト君。居ないのか?」

 「はい。すみません、僕です。」

 「申し訳無いが君は個別で話があるから、第一会議室まで来てくれないか?」

 「はい。ちょっと挨拶してからで良いですか?すぐ向かいますので。」

 「ああ、それは勿論。僕も一度講師室に行ってからだから、まぁ兎に角第一会議室で落ち合おう。」


 個別で、って何だろう?


 「何をやったの?悪いことしたならちゃんと償うべきだぞ。」

 「何もやってない。むしろ褒められるんだと思う。」

 「何もやってないやつを褒めるのか。」

 「まぁ記憶が無いことでなんか不備があるのかもしれん。」

 「ふうん、今日どうする?飲もうかと思ってたけど。」

 「ちょっと何の話か分からんから時間が読めないけど、飲もうぜ。ネタも出来た訳だし。」

 「それもそうだな。じゃ終わったらウチ来いよ準備しておく。」

 「おう。リズィちゃんのハンカチも準備頼むわ。」

 「それは片付けとくわ。」

 「ほいたら後程お邪魔しますんで。」

 「うい。」


  
 
 あれこれ悩む間もなく第一会議室に到着。さあ、存分に俺を褒めてくれ!ということで控えめにノックをしたが返事が無い。まだ居ないのかと思ったら二重扉だった。聞かれたくない会議もあるもんね、などと思いつつ2枚目の扉を開けるとグレンさんが居た。

 「あ、すみませんノックもせずに。お待たせしました。」

 「良いよ大丈夫。僕も今来たところだから。適当に座って。」

 デートで言うやつだ。グレンさんはイケメンだからモテるんだろうな。

 「早速だけど、個別に呼んだには訳があってね。タキ・トルト君、入学の際に2回試験があったのは覚えてる?」

 「はい。名前書いて出すだけでしたけど。」

 「実はあの用紙は学長の作った特殊な魔法紙なんだよ。」

 「なんとなくそうなんじゃないかと思ってました。」

 「そうか。で、1枚目は入学の合否を決めるもので、2枚目は成績?と言えば解りやすいかもしれないけど、それを出すものなんだ。」

 「どういう基準なんですか?」

 「それは詳しくは言えない。まあ学校の方針、みたいなものだよ。」

 「はぁ…。」

 ふむ、解らない。

 「で、タキ君。君は1枚目で無事合格した。ここまでは良かったんだけど。」

 「2枚目の成績が悪かったんですか?」

 「ああ、誤解をさせてしまったみたいだね。成績といっても、良い悪いで判断するようなものじゃなくて、何て言って良いかな。種別、でもないし、点数?ううん…。」

 「とりあえず、成績で良いです。問題があったんですか?」


 忘れていた記憶のせいとかじゃなければ良いんだけど…。


 「問題…だった。ただ、これは別に君自身がどうこうっていう訳じゃなくて、どちらかというと我々がクラス分けをする際に困ってしまったんだ。」

 「問題だからGクラスなんですか?」

 「それもあるような無いような。」

 はっきりしない、というよりも言えないんだろうな。
 そして、やっぱ問題児クラスなんだな…筆頭、俺。

 「そもそもGクラスも駄目な集まりって訳じゃないんだよ。Gクラスでも普通に卒業出来る、というか僕もずっとGクラスだったしね。去年卒業の今年新入講師。」

 「グレンさんも成績が悪かったんですか?」

 「いや、悪いのではなくて、低い、なんだな数値が。ああ、成績じゃなくて数値と言えば良かったね。低いから悪い訳じゃない。高いから良いのでもない。ただ、似ている数値の生徒をまとめた方がこちらが学科や方針を決め易いんだよ。本当にこちらの都合だね。」

 「で、僕の問題とは?」

 「低過ぎた。単刀直入に言えば、100点満点中0点だ。」

 「10000点満点中でも0点ですね。」

 「そう。君は数値が無い。結果我々は困ってしまったんだ。合格者を7で割って上位から振り分ければ良いだけだから、本来なら試験当日にクラスも発表してるんだけど、まさかの結果でね。」

 「2回目の後の休憩の謎はそういうことだったんですね。」

 「そう、だから急遽入学式の時に発表ってことにしたんだ。で、講師全員で緊急会議となったんだけど、なかなか決められないから学長を呼んで話をして、判断を仰いだ。その結果が、タキ君のGクラス入りで、今の呼び出しに繋がってる。前置きが長くなってしまったね。君は一般講義とは別に、ミック博士の研究室に入って貰います。」

 「選択講義はどうなるんです?」

 「ミック博士の研究生となることが選択講義の代わりとなるから、単位に困ることはない。君は選択講義を選択出来ない、というだけだ。勿論しかるべき状況になれば希望する講義を取れるようになる。最初から自由を奪ってしまうのは申し訳ないが、前例が無いことらしいから僕らもどうにも出来なくて。」

 やっぱ記憶のせいなのかな?だとしたら悪いのは俺だけど。悪い訳じゃないけど、俺が原因で色んな人を困らせているのだから、やっぱ悪いのか。

 「選択講義を悩む手間が省けたと思っておきますよ。」

 「そう言って貰えると助かる。ただね、学長の判断だし、悪いことではないと思うんだ。学校側としても、新しい仲間として等しく歓迎しているのだからね…。」



 ……ミック博士、か。



 明日からだから別に明日で良いんだけど、挨拶だけでもしておこうと思って研究室に向かっている。今晩の話のタネにもなるしね。
 
 しかし、どうせなら堅苦しいおじさんじゃなくて、美人のお姉さんみたいな人が良いよね。眼鏡かけてて、キリッとしてて、おっぱいが大きい、みたいなみたいな!
 美人教師の個別レッスン。勉強以外も教えてア・ゲ・ル。へいへーい!テンションが上がって来たぜ!すまんな、シン。遅くなるかもしれない。ううん、遅くなっちゃう!むむ、ここが禁断の園への扉か!シャワー浴びときゃ良かった!コンコン。


 「失礼します。」

 「はい?どうぞ。」

 ほんとに女性だ!まさか、まさかの展開が期待されます!




 ガチャリ。え?




 …超絶可愛い。



  

 彼女の姿を見た瞬間、景色が無くなって、この女の子しか見えなくて、世界に俺とこの子しか居ないような気がしてきて、その、なんと言っていいのか、なんと話し掛けようか、何を話せば良いのか、こんなに可愛いって、凄い。そうか、凄いんだ。いや、凄まじいだな、凄まじい可愛い。

 「ご用件は?」

 可愛いが喋ったけど、生憎こちらには何の用意もない。可愛いが突然過ぎちゃってね。頭がぐわんぐわんするし、口が乾いてしょうがない。

 「あの、えっと、明日からお世話になる…あの。」

 …舌が全然回らない。人と話すのってこんなに難しかったっけ?

 「あー…話は聞いてます。えっと、タキ・トルト君?」

 可愛い。

 可愛いが溢れる。溢れてる。

 長い金髪はまっすぐ長くて金色で。おや?毛先は黒い。可愛い。

 青い目は綺麗。ずっと見ていたいけど、こっちが負けて見ていられない程の美しさ可愛い。

 目はキツいようでタレ目で、なんか矛盾してるけど可愛い。

 鼻筋は通っていて、口は小さく、可愛い。綺麗可愛い。もう全部可愛い。

 背は女の子にしては高いような、低いような、普通かな可愛い。

 おっぱいは多分小さめで可愛い。絶対可愛い。

 本を持つ手は、すらりと白く可愛い。

 そしてなんといっても左手の、薬指。

 …薬指?



 「はい。タキ・トルトです。明日からよろしくお願いします。ところで、つかぬことをお聞きしますが、ミック博士はご結婚なさってますか?」

 「いきなりそういうこと聞く?良いけど…えぇ、してるわよ結婚。」

 ぐはぁ。心じゃなくて腹にぶっとい槍が刺さってぐりぐりされてる気分。


 「あ、もしかして。」


 何かに気付いたような顔から一転、いたずらっぽく笑って。


 「初めまして、私ここの学校の研究室を預かります、ミコーディア・ミック。」


 自己紹介まで可愛いかよ。人妻だけど。


 「43歳ですっ!」


 
 世界一可愛い自己紹介。








 それはただのとどめだった。
 




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