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自業自得な嫌われ者
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ラミ・レイドリッヒに大切な人はいない。
目が覚め、金を稼ぎ、眠り、目が覚め、金を稼ぎ、眠り、目が覚め、金を稼いで───それを繰り返して生きてきた。
朝目が覚めるのは自分以外の人がいない屋敷。人から恨まれる方法で金を稼ぐ。夜は冷たい屋敷の中で1人眠る。
ラミ・レイドリッヒは嫌われ者だ。
そしてそれは自業自得である。
貴族であるラミ・レイドリッヒは自分に擦り寄ってくる人間が大嫌いだ。
貶められる言葉を聞き、赤い顔で体をブルブル震わせるが貴族の矜恃とやらで拳を我慢する姿を見ることのみを楽しみに夜会に出ていたが、いつからか招待状は来なくなった。
人との繋がりは、もう消えた。
何を悲しむことがある?むしろせいせいすると嗤い、ラミ・レイドリッヒは日常を繰り返す。
ラミ・レイドリッヒは日常を繰り返している。
ラミ・レイドリッヒはそうやって生きてきた。
だから、それは完全に気まぐれで、非日常で、非合理的だった。しかしラミ・レイドリッヒはそれを選んだ。気まぐれだった。
───道路に落ちていた人間を拾った。
ーーーーー
その男の名はアラン。
拾ったところ名前が無いと言うから名付けた。
どろどろのぐしゃぐしゃを屋敷に入れさせるなんて、昨日の自分が見たら激しく詰られることは間違いない。自分でもなぜこんなことをしてるのか謎だが仕方ないのだ。
ラミ・レイドリッヒは運が良い。
こうするべきではないのかという考えが突発的に浮かぶ。その考えは馬鹿げている時が多い。けれどそれに従うと巡り巡って大金になる。
アランもそうだった。
拾った方がいい───馬鹿げている。なぜ貴族の自分が、こんな行き倒れているスラム出身であろう成人男性を拾わなくてはならない。
別にその浮かんだ考えを無視してもいい。今まで無視したことも何回かある。臨時の大収入が消えるだけだ、なんの支障もない。
だから気まぐれだ。
金になるかもしれない行き倒れを拾った。ただの気まぐれ。嫌になったら捨てればいい。
「なぜ、おれを拾ったんだ」
「金になるからだ」
「おれを売り飛ばすってことか?」
「知るか」
まずは体にこびりついた泥をなくさなくてはと、断腸の思いで風呂へと案内した。屋敷全体が汚くなるよりも風呂だけ汚くなるぐらいがマシだ。
シャワーなんて使ったことがないと言うのでイライラしながらアランの髪を洗う。こびりついたものが水によってどろどろになり、手にくっついてくるのが気持ち悪くて仕方がない。
さすがに1度見ればシャワーぐらい使えるだろう。体を洗うのなんてさすがに気持ちが悪すぎる。吐き気がする。汚いところを全てなくして、タオルで拭いて服を着て出るようにと伝えて、風呂の扉を閉めて俺は外に出た。
すでに元いた場所に戻したい。
野良猫や野良犬なら愛嬌がある分同じくらいどろどろでもまだ許せるが、相手は身長が同じくらいのガリガリの強面の成人男性だ。可愛げなどない。顔のパーツは洗ったら案外整っていることが分かったが、それぐらいだ。
資金面では何の問題もない。1人どころか10人いたって養えるだろう。そんな気持ちにはさらさらならないが。同じ屋根の下に他人がいるという状況が気持ち悪い。
「終わったぞ」
「そうか、じゃあついてこい」
あちこち怪我をしているのか、よたよたと後ろをついてくる。エリクサーぐらい使っても余裕があるが、あれは貴族のためのものだ。汚い庶民には釣り合わない。
「お前の部屋だ。まだ何も無いけどな」
「は?おれの…?」
「お前の使い道が分かるまではこの部屋にいるように。1歩も部屋の外に出るなよ」
「………分かった」
訝しげに眺めてくるアランを、何も言わずに部屋に押し込んだ。自分が1番分かっていない。
行き倒れの人間を拾って、洗って、部屋まで与えるだなんて、聖人か悪党しかやらないだろう。なら自分はどちらなのか。聖人でないことだけは確かだが、今のところ奴隷にする気もないので悪党でもない。
「何をしているんだ俺は」
本当に何をしているんだという話だ。
いつもの栄養になればそれでいい食事を2人分用意する。2人分とも持ってアランの部屋へと向かう。
面倒だ。1人ならいつ飯を食べてもいいのに。とはいえあの飢えた人間をそのままにしておいては餓死するだろう。屋敷で死人が出るなどごめんだ。死ぬなら外で死ね。
「おい、アラン入るぞ」
「な、なんだ」
「食事だ。見て分からないのか。……お前はなぜそこにいるんだ」
誰一人来たことがない客室は、最初に整えた時からそのままだ。自動で清浄する魔法が屋敷全体にかかっているから、ホコリやゴミはない。綺麗な状態なのだからベッドにでも座ればいいのに、アランは部屋の隅にいた。
「売り飛ばさないなら……武器の性能の確かめでもするのか」
「物騒だな、屋敷を汚すわけがないだろう」
「ならなんだ、人肉でも食べるのか」
「人聞きの悪い」
「じゃあ、………お前はおれに何をさせたいんだ」
「知るか」
ベッドの方に来るように指図し、浅く座ったのを見て飯を渡す。じゃあ、と言ってから言葉に詰まったのは、『性奴隷』か、と聞きかけたのだろう。それこそ1番ありえない話だ。人肉でも食べる方がマシだ。
恐る恐る渡したパンにかじりつき、目だけは警戒のこもった状態でじっと俺のことを見てくる。
面倒くさい、きっと金になる。いつもの自分なら面倒くさいをとるだろう。今の俺だってそうする。本当になぜ拾ってしまったんだ。
「昼は俺は出かけている。朝食と一緒に昼食も渡すからな。それと、絶対に部屋から出るな」
「わかった」
ほんの数分でアランは完食した。
次はもう少し増やしてもってくるとしよう。
アランがどのような形で金になるのかまだ分からない。これで大工なんぞの肉体労働系の才能なら肥えさせたほうがいいだろう。頭を使えるなら勉強させるべきか。
───面倒くさいな。
もう成り行きに任せることにした。思いついたことをやらせればいい。急いでもいないのだからいつでも構わない。
「ラミ………さん」
「様にしておけ」
「………ラミ様、おれは何をすればいいんだ」
「明日文字を覚えさせる。お前は寝てればいい」
訝しむ目は続く。俺がアランの立場ならこんな怪しいところからは逃げ出す。
ベッドに入らせる。せっかくの3人くらい乗っても広いベッドなのに、足をぎゅっと丸め込んでいる。
少し怯えが混ざった瞳が、ドアによって見えなくなった。
目が覚め、金を稼ぎ、眠り、目が覚め、金を稼ぎ、眠り、目が覚め、金を稼いで───それを繰り返して生きてきた。
朝目が覚めるのは自分以外の人がいない屋敷。人から恨まれる方法で金を稼ぐ。夜は冷たい屋敷の中で1人眠る。
ラミ・レイドリッヒは嫌われ者だ。
そしてそれは自業自得である。
貴族であるラミ・レイドリッヒは自分に擦り寄ってくる人間が大嫌いだ。
貶められる言葉を聞き、赤い顔で体をブルブル震わせるが貴族の矜恃とやらで拳を我慢する姿を見ることのみを楽しみに夜会に出ていたが、いつからか招待状は来なくなった。
人との繋がりは、もう消えた。
何を悲しむことがある?むしろせいせいすると嗤い、ラミ・レイドリッヒは日常を繰り返す。
ラミ・レイドリッヒは日常を繰り返している。
ラミ・レイドリッヒはそうやって生きてきた。
だから、それは完全に気まぐれで、非日常で、非合理的だった。しかしラミ・レイドリッヒはそれを選んだ。気まぐれだった。
───道路に落ちていた人間を拾った。
ーーーーー
その男の名はアラン。
拾ったところ名前が無いと言うから名付けた。
どろどろのぐしゃぐしゃを屋敷に入れさせるなんて、昨日の自分が見たら激しく詰られることは間違いない。自分でもなぜこんなことをしてるのか謎だが仕方ないのだ。
ラミ・レイドリッヒは運が良い。
こうするべきではないのかという考えが突発的に浮かぶ。その考えは馬鹿げている時が多い。けれどそれに従うと巡り巡って大金になる。
アランもそうだった。
拾った方がいい───馬鹿げている。なぜ貴族の自分が、こんな行き倒れているスラム出身であろう成人男性を拾わなくてはならない。
別にその浮かんだ考えを無視してもいい。今まで無視したことも何回かある。臨時の大収入が消えるだけだ、なんの支障もない。
だから気まぐれだ。
金になるかもしれない行き倒れを拾った。ただの気まぐれ。嫌になったら捨てればいい。
「なぜ、おれを拾ったんだ」
「金になるからだ」
「おれを売り飛ばすってことか?」
「知るか」
まずは体にこびりついた泥をなくさなくてはと、断腸の思いで風呂へと案内した。屋敷全体が汚くなるよりも風呂だけ汚くなるぐらいがマシだ。
シャワーなんて使ったことがないと言うのでイライラしながらアランの髪を洗う。こびりついたものが水によってどろどろになり、手にくっついてくるのが気持ち悪くて仕方がない。
さすがに1度見ればシャワーぐらい使えるだろう。体を洗うのなんてさすがに気持ちが悪すぎる。吐き気がする。汚いところを全てなくして、タオルで拭いて服を着て出るようにと伝えて、風呂の扉を閉めて俺は外に出た。
すでに元いた場所に戻したい。
野良猫や野良犬なら愛嬌がある分同じくらいどろどろでもまだ許せるが、相手は身長が同じくらいのガリガリの強面の成人男性だ。可愛げなどない。顔のパーツは洗ったら案外整っていることが分かったが、それぐらいだ。
資金面では何の問題もない。1人どころか10人いたって養えるだろう。そんな気持ちにはさらさらならないが。同じ屋根の下に他人がいるという状況が気持ち悪い。
「終わったぞ」
「そうか、じゃあついてこい」
あちこち怪我をしているのか、よたよたと後ろをついてくる。エリクサーぐらい使っても余裕があるが、あれは貴族のためのものだ。汚い庶民には釣り合わない。
「お前の部屋だ。まだ何も無いけどな」
「は?おれの…?」
「お前の使い道が分かるまではこの部屋にいるように。1歩も部屋の外に出るなよ」
「………分かった」
訝しげに眺めてくるアランを、何も言わずに部屋に押し込んだ。自分が1番分かっていない。
行き倒れの人間を拾って、洗って、部屋まで与えるだなんて、聖人か悪党しかやらないだろう。なら自分はどちらなのか。聖人でないことだけは確かだが、今のところ奴隷にする気もないので悪党でもない。
「何をしているんだ俺は」
本当に何をしているんだという話だ。
いつもの栄養になればそれでいい食事を2人分用意する。2人分とも持ってアランの部屋へと向かう。
面倒だ。1人ならいつ飯を食べてもいいのに。とはいえあの飢えた人間をそのままにしておいては餓死するだろう。屋敷で死人が出るなどごめんだ。死ぬなら外で死ね。
「おい、アラン入るぞ」
「な、なんだ」
「食事だ。見て分からないのか。……お前はなぜそこにいるんだ」
誰一人来たことがない客室は、最初に整えた時からそのままだ。自動で清浄する魔法が屋敷全体にかかっているから、ホコリやゴミはない。綺麗な状態なのだからベッドにでも座ればいいのに、アランは部屋の隅にいた。
「売り飛ばさないなら……武器の性能の確かめでもするのか」
「物騒だな、屋敷を汚すわけがないだろう」
「ならなんだ、人肉でも食べるのか」
「人聞きの悪い」
「じゃあ、………お前はおれに何をさせたいんだ」
「知るか」
ベッドの方に来るように指図し、浅く座ったのを見て飯を渡す。じゃあ、と言ってから言葉に詰まったのは、『性奴隷』か、と聞きかけたのだろう。それこそ1番ありえない話だ。人肉でも食べる方がマシだ。
恐る恐る渡したパンにかじりつき、目だけは警戒のこもった状態でじっと俺のことを見てくる。
面倒くさい、きっと金になる。いつもの自分なら面倒くさいをとるだろう。今の俺だってそうする。本当になぜ拾ってしまったんだ。
「昼は俺は出かけている。朝食と一緒に昼食も渡すからな。それと、絶対に部屋から出るな」
「わかった」
ほんの数分でアランは完食した。
次はもう少し増やしてもってくるとしよう。
アランがどのような形で金になるのかまだ分からない。これで大工なんぞの肉体労働系の才能なら肥えさせたほうがいいだろう。頭を使えるなら勉強させるべきか。
───面倒くさいな。
もう成り行きに任せることにした。思いついたことをやらせればいい。急いでもいないのだからいつでも構わない。
「ラミ………さん」
「様にしておけ」
「………ラミ様、おれは何をすればいいんだ」
「明日文字を覚えさせる。お前は寝てればいい」
訝しむ目は続く。俺がアランの立場ならこんな怪しいところからは逃げ出す。
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