俺のことが嫌いなお前に、好きって言ってほしいだけ

keye

文字の大きさ
上 下
5 / 5

5 異世界に咲く花

しおりを挟む
1時間が過ぎた。
谷川はもう、本当に帰ってこないのかもしれない。ただ花を取りにいくだけなのにこんなに時間がかかるわけがないから。


泣き止まない俺に、ランプは非常食を渡してくる。ボリボリと目の前でランプが食べ始めたから、俺ものそのそと齧った。空いた腹に入れる食べ物なのに、何の味もしなくて、非常食が涙で濡れていく。

「ランプ、あいつは、もう、帰ってこないと思うぞ」

『それはないでしょう』

「なあ何で俺らにこんなことさせてるの?もう達成出来ないんだから、言ってみろよ」

『我からの好感度が足りません』

「腹立つ」

ふざけたランプに聞いた俺がバカだった。
泣き止ませたいだの何だの書いていたから、教えてくれるかと思ったのに。

「俺はここで餓死するのか…」

『人間は食べながら餓死しません』

「谷川が帰ってこないんだからいつかそうなるだろ!」

寂しくてしょうがない。
ランプは俺が谷川への人質になっていると疑っていないのだろう。谷川は俺のこと好きじゃないのに。むしろ嫌いで、出会ってからずっと嫌われてて。


『天井に畑があります。肉が欲しいなら狩ればいいでしょう』

「お前ここから出すつもりないのに?」

『人質、御免』

「………俺は谷川への人質にはならないよ。だって、俺、嫌われて……」

止まりかけていた涙が再び溢れ出し、涙腺が崩壊してしまう。
異世界に来て、俺らは嫌われ者の異世界人で、だから俺は……俺は、喜んでしまった。お互いにお互いしか頼れないから。きっと一緒にいられるって。

でも谷川は異世界人だということを隠してうまくやれるだろう。
どの行いがここで忌み嫌われているのか谷川は知った。
それに接触しないように、人から好かれて生きていくことが出来る。だって谷川はそういう人だから。
みんなに好かれて、人の懐にすっと入り込んで、いつだって皆の中心にいた谷川だから。

「やだ………俺は」

「ふざけんなクソランプ!!何が花だクソッタレー!!」

爆音。

ドアを蹴破って谷川が飛び込んできた。思わず涙が引っ込む。その手には……その手には??

「なにそれ??」

「知るか!」

頭は薔薇のような全体的にどす黒い青色の花(?)、足と呼んでいいのか分からないものは8つあり関節という形を無視した動き(そもそも関節なのか?)、花の中央は突き出されており歯だけがあって口がない、花の頂点には人間の足であろうものが突き刺さっておりその指が伸びて散って!

「怖い怖い怖い!!谷川捨てろそれ!!」

「これしか花がなかったんだ!!というか骨みたいなものが磁石!みたいに!俺の腕にくっついて!」

「ランプ!ランプ!これどうにかしてくれ!助けて!」

『綺麗で活きの良い花、感謝しましょう』

「「嘘だろ!!??」」

ランプがペリっ、と正気度を削っていく花のようなおぞましいものを谷川の腕から引き剥がしてムシャムシャ食べた。花(?)と目が合うと目玉が床に落ち、パラパラ崩れていった。形が無くなるまで目が合っていた。

「俺もう異世界嫌…」

「俺も早く帰りたい…」

「谷川お願いだから異世界にいる間は俺と一緒にいてくれ!」

「当たり前だろ!こんな光景見た後に1人でなんていられるか!」

飛ばされた異世界は悪夢の体現のようだった。地獄だ。俺早く地球に戻って家に帰りたい。怖い。

谷川と身を寄せあってぶるぶると震える。なんかとんでもないことを谷川に言ったような気もするが、それより正気を保つので精一杯だった。
こんなとこ俺の思い描いていた異世界じゃない。もっと日本人に優しいはずなのに。



『次の願いは朝にお願いしましょう。もう暗いのでお前らも寝るべきです』

───ちなみに、あの後ランプはうんともすんとも言わなくなってしまった。
しばらくして鼻ちょうちんが出てきた。どうやら寝たらしい。




そして今、あたりが真っ暗になって、俺はある問題に直面している。

「た、谷川、トイレついてきて…」

どうしようもない緊急事態であった。


「ああ、喜んでついてくぞ!なんなら隣で手でも繋ぐか!?俺はそのほうがいい!怖い!」

「ごめん、頼んどいて本当にごめんなんだけど、ちょっとその発言気持ち悪いぞ谷川…ついてきてくれるのはありがとう」

怖さとは人を狂わせるらしい。というか谷川のこれはもしかして素なのか?
中々見せてくれない谷川の素への嬉しさと、暗闇に対する恐怖からの吊り橋効果でキュンキュンしてしまう。
本当に俺は谷川のことが好きだ。ぎゅう、とお腹らへんが甘い痛みを宿す。



でもトイレしてる時に手を繋いできてじっと俺の顔を見てくるのは嫌だった。好きな人でもそれはちょっとな…。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

は
2023.10.27

更新ありがとうございます…!
ゆっくり自分のペースで頑張って下さい!
魔法のランプ良い奴そう?
距離が近い度にドキドキしては悲しくなるのすごく共感できるんですよね〜。

2023.10.27 keye

コメントありがとうございます。
1年前から見ていてくださったということで凄く嬉しいです!

魔法のランプはどうでしょう。
更新頑張っていきますので、楽しんで貰えたら嬉しいです。励みになります、ありがとうございます。

解除
は
2023.10.21

1年前に良さげな作品だなと思って見てたら休載になりへこんでたのですが、
また更新されていたんですね!気づかなかったです…
もう新しく更新されてから7ヶ月経ってしまいましたが…作者様どうか続きをお願いします!

解除

あなたにおすすめの小説

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

6回殺された第二王子がさらにループして報われるための話

あめ
BL
何度も殺されては人生のやり直しをする第二王子がボロボロの状態で今までと大きく変わった7回目の人生を過ごす話 基本シリアス多めで第二王子(受け)が可哀想 からの周りに愛されまくってのハッピーエンド予定

使命を全うするために俺は死にます。

あぎ
BL
とあることで目覚めた主人公、「マリア」は悪役というスペックの人間だったことを思い出せ。そして悲しい過去を持っていた。 とあることで家族が殺され、とあることで婚約破棄をされ、その婚約破棄を言い出した男に殺された。 だが、この男が大好きだったこともしかり、その横にいた女も好きだった なら、昔からの使命である、彼らを幸せにするという使命を全うする。 それが、みなに忘れられても_

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺

るい
BL
 国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) 些細なお気持ちでも嬉しいので、感想沢山お待ちしてます。 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※溺愛までが長いです。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

耳の聞こえない僕があなたの声を聞くまでの物語

さばさん
BL
僕は生まれつき声が聞こえない。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。