俺のことが嫌いなお前に、好きって言ってほしいだけ

keye

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3 魔法のランプ(?)

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「やべえ、これどう見ても魔物だよ…谷川?おい、離せ。ここから離れたほうがいいだろ」


小屋で見つけたランプがどう見ても魔物だと気づいた。
そりゃあ普通のランプはあんなに禍々しくないしお札がベタベタ貼ってあったり目がギョロギョロ動いたり舌が左右に揺れたりしないもんな。

俺はとっとと離れたほうがいいと思ったけど…少し思い返してみてほしい。今の俺の状況を。



そう。
谷川が後ろから手を伸ばしているせいで、俺の腰に触れるギリギリにあり、また机に手を置いている状態だ。
つまり、抱き込まれている…覆いかぶさってこられている…なんて言えばいいんだ、これ。


とりあえず俺は今、谷川の腕の中にいる。
そして俺は谷川のことが好きだ。どうしようもなく。つまり、俺は谷川の体に触れた瞬間に脳みそが沸騰してぶっ倒れること間違いなしだ。

はやく小屋から出ていきたいけど、谷川には触ることは出来ず、身動ぎ一つでも触れる至近距離。
俺はその場に静止しか出来ない。


「なぁ杉原くん、考えて欲しいんだけどよ、俺ら所持金いくつだ?」


さり気ない「杉原くん」呼びに心臓がぐわっときて死にそうになった。
瀕死状態だよ。俺のライフはもうゼロだ。
目の前には魔物、後ろには嫌われたくない好きな人。


「…は?今そんなこと言ってる場合か?…6エアだろ。スライム6体分」

「ああ。で、あのフランスパンが5エア、宿屋が15エア。…なあ、このランプ倒せば稼いで生き延びられるが、ここで逃げればどんどん疲労が溜まってくだけだ。
ここまで言えば分かるよな杉原?
…あれ?臆病で弱虫杉原くんは逃げることしか考えてなかったのか?」

「は!?そんなわけあるか!やってやるよ!」


馬鹿野郎!!!

俺はバカだ!売り言葉に買い言葉だろ!
いくら好きな人に抱き込まれ脳からアドレナリンドバーでパニック興奮状態だからって、脳を通さず反射で返してた。俺はバカだ。大バカだ。


「だよな?ちょうど木刀があるし、一夜ここで寝てたけど何も無かったんだ。大丈夫だろ」

「はあ…?まあ、ああ言ったからやるけどさ…」


谷川の匂いがふわっと遠ざかり、後ろに感じていた温かさも心無しか離れたような感じがした。
ホッとしたような、悲しいような、もうちょっとああしてほしかったっていうか…違う!今はランプに集中だ!



「ほらよ」

渡された木刀を持ってランプに二人して向き合う。
この小屋は狭いから暴れるのも暴れられるのも大変だ。身動きが取りづらい。少し不安だ。

「…なあ、俺木刀の持ち方に自信が無い」

「奇遇だな、杉原。俺もだ」

前言撤回。少しではなくウルトラスーパー不安だ。



「おらあああ!!」

谷川が木刀を上から構えてランプに叩きつける。谷川の手から木刀がすっぽ抜けて飛んでったのを片目に、俺も木刀を振り落とす。
びりびり手に電流が走ったのかと思うほど固く、カランと木刀が手から落ちた。

そしてランプはというと…目が赤く血走りなんか黒い湯気が出てる。怖すぎる。


「な、なあ、谷川…俺はさ、戦略的撤退も大事だと考えていて」

「そ、そうだよな、俺もそう思ったところだ」

杉原とともにそろりそろりと後ろへと下がっていく。が…ドアが開かない。


「谷川、俺こういうの本で読んだことあるぞ…これ、あれじゃね?家全体が魔物で閉じ込められた、とかそういうやつ」


ははは、と乾いた笑みを零し合う。と、突然。




『ピーギョログラアアシアシアハマヤマラァァ!!』

「「うわああああっ!!!」」


突如ランプが叫び声を上げたものだから、お互いの肩やら手やらをバンバン叩いたり抱きついたりとパニックになった。
いつもなら谷川との近さに死にかけるものの、今はそれすら言ってられない。

精神の死より先に身体の死がやってくると思われる。あーおれ食われるのかな。どうせ食われるなら違う意味で谷川に…最後まで煩悩まるだしで死ぬことになるとは。




『……ビョロロエ』

「…あれ、ランプが落ち着いた、のか…?」

「た、助かったの、か?」

ギュッと目を瞑って耐えていたものの、ランプが先程の叫び声とは違った、落ち着いた声を出したから目を開ける。
そこにはランプに手足がにょきっと生えた姿が…


「き、キモイな」

「なんかこう、どこともなくキモイ」

『ピー!!??』


抗議するかのような声が響く。
そして、ようやく俺はお互いの状況を見て…ピシリと固まった。

谷川が俺のことを庇うかのようにギュッと抱きしめており、手加減なしかよってぐらい痛いんだけど、俺は谷川に縋り付くかのような、っていうか首を絞めている状況になっていた。
慌てて俺は首から手を離したものの、谷川はそのままでいる。つまり超絶近い。


「…」

あまりの状況にパニックになり思考が銀河の果てへと飛んだ俺を置き去りに、谷川はランプとの会話を試みようとしている。このままで。

───いや何で!?俺にとってはご褒美だけど!



「お前は俺らと戦うのか?」

『ピョロロン。ピヨヨロエシャー』

「この小屋から出させてくれるか?」

『シャラララァァ!ピヒャロロロエェ…』

「…ごめん杉原。俺、これが何言ってんのかさっぱりだ」

「ここで会話が出来てたら俺明日からお前のこと同じ人間として見れなかった」


にょきっと生えた手足でのそりのそりとランプが移動し始めた。
お互いランプの行動に目を向ける。
谷川はいまだに俺を抱きしめる手を緩めない。今すぐ土下座してこの世の全てに感謝したい気持ちになっている。

同じ身長なのに俺が全身を包み込まれてると感じるぐらい抱きしめられるのは、俺が筋肉ゼロでひょろっとしてるからかな。



…ああ、でも、あれか。誰かと間違えてんのかな。彼女がいるっていう噂は聞かないけど、少なくとも大っ嫌いな俺の事を抱きしめようとは思わないだろうし、体格だけで言えば俺は女の子と同じ感じだし…


『ショリョョッチャラーチャラリラチャラリラ』

「何か手に持ってるぞ」

「何だこれ…?ていうか、谷川、いい加減離せ。誰かと間違えてんのか?」

「…あ?俺が間違えるわけないだろ」


誰かと間違えながら抱きしめられている状態でそれはなんとも説得力がない。間違えたことを認めたくないのか。
ぱっと手が離されて、俺はなんとも言えない喪失感に包まれたけど…こんなことで悲しんでたら、この先ずっと勘違いしては悲しむのループだ。

でも、そっか。谷川にはきっと好きな人がいるんだな。じゃあ、俺なんかと異世界に来て気分は最悪だろうな。────自分で考えて落ち込むな、これ。


「……」

「…あれ?谷川、ランプが板?に何かを書き始めたぞ」

「……ああ、そうかよ」

この感じは、谷川がすごく不機嫌になっている様子だ。イライラムシャクシャ状態で俺に八つ当たりしてくる。それすらも嬉しいんだよな、俺…八つ当たりの時の発散でも俺を見てくれてるのが…


「…?我は…えてくだ…?んん?なんて書いてあんだこれ」

「……」

谷川はずっと無言だ。…少し怖い。


『ピョリリー』

ぴょんぴょん飛び跳ねたランプが今度は時間をかけてゆっくりと文字を書いていく。

そして、読めるようになったそれは────



『我は魔法のランプです。我の願いを3つ叶えてください』


「いや普通逆だろ!」
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