俺のことが嫌いなお前に、好きって言ってほしいだけ

keye

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2 寝床探し

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結局、俺らはあれからスライム六体を何とか仕留めて、スライムの核をギルドに売った。

自分専用のギルドカードがあって、俺と谷川はパーティを組んでいる状態にしている。
そのパーティの共同として、どちらからも引き出せるようになっているお金は、合計スライム六体分だ。


ギルドは世界のあちこちにあって、ギルドカードはいわゆる銀行みたいな感じだ。

銅貨とかそういうのはないみたいだった。鉱物は武器とかに使った方がいいっていう理由。

他の国では実際のお金が使われてるところや、物々交換のところもあるみたいだけど、ここでは仮想通貨のみ。


この国の名前はアクエア王国。エクレアみたいな名前だなあって思ったらお腹が鳴った。

ここでは、今はスライム一体で1エア。5エアで、この街で一番安いフランスパンを買える。
値段は変動していくらしいから、円に直して考えるのは難しくて俺らにはできなかった。


武器はあまりにも高すぎて手が出せなかった。
そして、同時に。宿屋に泊まれない。

20人でひとつの部屋(小学校の教室一つぐらいのサイズ)に泊まる一番安い宿屋の部屋でも、15エアもする。


日本では冬で、異世界でも冬だったのが最悪だ。
時間は多分5時くらい。時計とかはまだ貴族とかしか持ってなくて、詳しい時間は分からない。

冬だから、もう辺りが暗くなってきている。
しかも寒い。雪は降らないらしいけど体感温度は1℃くらいまで下がっている。


「おい、杉原。どこに泊まんだよ」

「俺に聞くなよ。知るか」

「真面目な話、このままいくと俺ら凍死するんじゃねえの」

「…分かってる」


着ているのは学校の制服のみ。しかもスライムを追いかけ回したせいでところどころ破けている。クソ寒い。

普段は体力が有り余っている高校生だけど、もはや体力は限界だ。慣れない動きや場所で疲れすぎている。



疲れの溜まった目を凝らすと、小屋が見えた。
ボロボロで数年誰も住んでいなかったみたいな感じだけど、屋根もしっかりしているし寒さも防げそうだ。


「…谷川!!あれ、あれは!?」

「お前にも見えてんだな!?幻覚じゃねえよな!?」

「見えてる!!見えてる!!」


疲れの溜まった体をあわてて引きずって、俺らは小屋の方へと向かっていく。
誰もいなくて、ホコリだらけでかなり狭いけれど、寒い風はドアを閉めてしまえば入ってこない。

「「っしゃあ!!」」

お互いに飛び上がって、満面の笑みで肩を叩き合う。
そして、あわてて「犬猿の仲」だってことを思い出して離れた。

距離が近かった。
ラッキーにさらに嬉しいことが重なって、俺の心臓はどくどくと鳴っている。体もポカポカとしてきた。

安心したら、同じようにホッとしている谷川の顔を見る余裕が出てきた。顔が良くてドキッとする。今見るんじゃなかったな。


「杉原、ほらよ」

谷川がどこからか見つけてきたのか、毛布を投げてきた。この小屋には物が沢山あって、使えそうなのもありそうだ。

ソファは一つしかなくって、じゃんけんをしようとした瞬間に谷川は疲れの限界がきたのか、ソファに倒れ込んでぱたりと眠ってしまった。
俺も眠さと疲れがもう限界で、ソファに倒れ込む自分自身をあわてて起こそうとする。

このまま眠っちまったら、つまり、谷川の上に乗って寝るわけで。
起きたら谷川にギョッとされるだろうし、もっと嫌われるのは確実だ。嫌だ。今の欲をとってこれから先嫌われるのは嫌だ。

根性だけで床に落ちると、そのまま俺も眠ってしまった。

ーーー

ヂュンヂュン、というスズメよりも凶悪な鳴き声をした何かの鳥の声で目覚めた。
冷たい床で寝たせいか、体が強ばっている。

疲れは思ったより無くなっていて、さすがは男子高校生と言うべきか。

けど、それがまだ異世界にいるってことを思い知らせてきた。


「…」

じとっとこちらを見ていた谷川と目が合って、一気に眠気が吹き飛んだ。

寝起きで、好きな人が一番に目に入るなんて。なんて嬉しいんだ。
ボサボサになった髪も、起きたばっかりなのかぼうっとしている顔も、本当にかっこいい。


「…谷川?」

「……お前、なんで床で寝てんの」

「?」

「俺、じゃんけんで勝ったか?」

「勝ってねえ、けどお前が先に寝ちまったから」

「…あっそ」


不機嫌そうに俺の方を見たあと、ソファに座ってぼうっとしている谷川。

谷川は朝に弱い?
好きな人の新たな一面を知れて、嬉しくなる。こんな時だってのに俺ってもしかして楽観思考なのか。


「俺ここらへんの物調べるけどお前は?」

「俺も調べる。あと、お前頭やべえことになってんぞ」

「マジかよ!?」


大慌てで頭を触ると、あっちこっちにぴょんぴょんと跳ねていた。
床で、しかも汗で濡れたまま寝てしまったせいだろう。

最悪だ。まあ、あまり髪にこだわりは無いけど、谷川にこの跳ね具合を見られたって言うのが恥ずかしい。…気にしすぎか?


「谷川!ほら、見ろよこれ!」

木刀を2本見つけて、俺は上機嫌で後ろにいるであろう谷川に向かって言った。
他にも何かないかとあたりを探す。

後ろから抱えこむように覗き込まれて、おお!と言った谷川の吐息が耳にあたった。


後ろから、抱え込むよう、に?
動けない状態じゃなきゃ、頭を抱え込んでうわあああって叫びたいぐらいだ。


距離が近い近い近い!!
俺は割と華奢な方で、谷川の方が背が高くて体格もいいし…に、匂いがやばい。谷川の匂いに包まれてる。ここは天国か?
後ろから抱きつかれている錯覚に陥って、慌てて目を覚まそうとする。


違う。こいつはただ、俺が何を見つけたのか気になっただけだ。勘違いすんな。
あとで、悲しくなるだけだ。



「他にはねえの?あっちよりもこっちの方が物が多いな」

「もう終わったのか?何があった?」

「よく分からんものと壊れてるのがたくさん。あと、食べれそうな保存食があった」

「保存食!よっしゃあ!」

「三日分ぐらいはあった。お、ランプ」


後ろから覗き込んだ状態のまま、手を伸ばしてランプらしきものを掴む。
腰に腕が触れていて、ゾワゾワっとする。

ああもう、そういう思わせぶりなのやめてくれ。
期待なんてしたくないのに。


「杉原、聞いてんのか?」

「あ?…わりぃ、聞いてなかった」

「このランプ、使い方がさっぱりなんだけど…分かるか?」


そう聞かれて改めてじっくりとランプを見てみると、目がギョロギョロと動いていて、これはまるで───

谷川との距離の近さのことやら何やらも、一瞬で吹き飛ぶ。ひゅっと息を飲んで、思わず俺は叫んだ。
これって、魔物じゃね?と。
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