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1 異世界召喚
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異世界召喚とか、もはや書き尽くされたジャンルだ。
その中で、主人公のチートは必要不可欠。ついでに可愛いヒロインもいるはずである。
なのに、これは一体どういうことだろうか。
チートも無く、現地の人には異世界人ってだけで嫌われる、おまけに隣にいるのはいわゆる「犬猿の仲」の谷川鈴晴、男だ。
この谷川という男は、俺のことをものすごく嫌っている。なんてったって俺らは顔を見合わせる度に喧嘩しているのだから。
谷川と杉原(俺のこと)は「犬猿の仲」である、と通っていた高校で知らない人はいないぐらいに。
けれど、本人には絶対には言えないし、言うつもりもないのだが───
俺は、何ともまあ自分でもバカだとは思うけど、この谷川のことが好きなのだ。
だからこの異世界召喚はテンプレから外れに外れているけども、俺にとっては嬉しい。
でも、谷川は俺のことなんて大嫌いだから。
本人は嫌がりまくっていて、…高校でもこうだったから、今更傷ついても顔には出さないぐらいには、何度も叶いやしないと思い知らされているんだけど。
「おいクソ杉原、何ぼんやりしてんだ」
「あ?何だっていいだろ、お前には関係ねえ」
「チッ…とっととパンよこせ」
苛立ちを滲ませて俺が持っていたパンを、横からガッと掴んで奪う。
口を大きく開けてガブリとかぶりつくところさえカッコイイと思ってしまうのは、惚れたせいか。
俺らは異世界に召喚された。召喚、が正しい言い方なのかは分からない。呼び出した人なんていなかったのだ。
ちょうど喧嘩していた俺たちは、景色が変わっていくことに気づくのが遅れた。
それから数十分かけて、不本意ながらという形で(俺は嬉しかったんだが)状況を互いに整理して、ここは異世界だと結論づけた。
俺たちはつまり異世界人、というやつだ。普通に考えれば歓迎されると思うだろ?
なのに、最初に見つけて声をかけた商人のような人には、「異世界人だと!?ふざけるな!!」と叫ばれ。
その人が特殊だったのではと他の人に話しかけてみても同じような反応をされた。
なので仕方なく、仕方なくという風に。
俺と谷川は一緒に行動している。
ちなみに、唯一門前払いされなかったのが冒険者ギルドだけだった。とはいえ嫌そうな顔はされたけれど。
ステータス確認で、この世界の五歳児と同じくらいのスキルだと笑われ、その後二人でなんとかスライムを倒し…
ようやく、パンを一つ買えた。
パン一つだ。フランスパンみたいな長さの、硬いパサパサとした一番安いパン、たった一つ。
つまり間接キスとなる…というのは置いといて。すごく嬉しいけど。
俺ら二人は協力しないといけないってわけだ。ただでさえ異世界人には手を貸す人はいない。一人じゃスライムすら倒せない。
俺らは一緒に行動するってことになるわけだ。
ああ、クソっ、喜んじゃいけないんだろうけど、どうしても嬉しい。
「さっきから何ぼさっとしてんだ。とっとと立てクソ野郎!」
「いっ!?てめえ、谷川!蹴りやがったな!」
「誰のこと思い出してんのかは知らねえけどな。いやあ三歳児杉原くんに色恋沙汰は早いんじゃねえの?」
「ああ?だったら何が悪い!」
「…チッ、んなもんより早く働け!」
いつもより苛立ちを滲ませてるのは腹が空いているからか。
苛立ち任せに足が出るのは谷川のクセだ。なのに、こいつに惚れてる俺はそんなことさえも嬉しく思ってしまう。
なんで俺はこうも兆しが見えない恋なんかに溺れてしまってるのか。いっそ諦められたらいいのに、なんて心の底からは思えない。
どうしようもなく谷川のことが好きなのだ。
谷川から向けられるのは怒りぐらいだ。でも、その感情は俺が独占してるって考えたら、それだけで嬉しくなってしまう。
生き辛い道を選んでるってのは分かってるのに。
分かってるけど。
そう簡単に諦められるような恋じゃないんだ。
「杉原てめえクソ野郎、ちゃんと道塞いどけってあれほど!」
「はあ?今のはお前の戦い方が悪い!木の棒を振り回すなバカ!俺にあたる!」
「それぐらい避けれるだろ!」
「お前と一緒にすんな!クソ野郎しか罵倒の言葉知らねえバカ!避けるのか道塞ぐのかどっちをすればいいんだ矛盾してるだろ三歳児!」
「ふざけんな杉原ァ!!」
「こっちのセリフだ谷川ァ!!」
高校にもなって掴み合いなんて俺らはどっちもアホだ。言葉の殴り掛かりは日常茶飯事。胸ぐらを掴みあって罵倒しまくっている。
けど手を出すとかは絶対に無理だ。この顔に惚れてるってのもあるし。
それに、何故か殴ることだけはしないんだよな、谷川って。
もうとっくの昔に、倒すべきスライムは逃げてしまった。喧嘩したって体力の無駄遣いだ。
分かってる。分かってるけど。
顔が近くて俺から手を離すことが出来ないんだ。
バカだろ。バカは俺だ。知ってる。
おいおいおいおい顔が近い…鼻なんか触りそうで触らない。身長差ほぼゼロだしな。
これ、お互いにいっせーので手離さなきゃ、力入れてるせいで手を離した方に離さなかった方が倒れ込む。
やばい場合は…あの、その…キス、とかが起こる気がする。
無理だろ無理無理。この距離でも俺の心臓は爆発しそうなのに。
谷川の方に倒れ込んだ時には俺は気絶する。倒れ込んでこられても俺は気絶する。きききき、キスでもしようものなら、俺の心臓は絶対に止まる。
「はっ!!??」
谷川が俺の腕を掴んで背負い投げをした。
なるほどそれなら心配はねえな。いやいやいや、期待なんてしてなかったし。…やっぱ少しだけ期待してたかもしんねえ。
「いい加減にしろよ杉原ァ…お前が俺に力で勝てるわけないだろ!」
「ふざけんなクソ筋肉ゴリラ!これ背中痛いんだぞ!」
「お前にはその姿がお似合いなんじゃねえの?」
にやにや笑いながら谷川がからかってくる。
谷川には力では勝てない。そういうところにすらキュンって来ちまって、本当に俺ってばなんでこうなんだろう。
下から見上げた谷川は、やっぱりかっこよかった。
地毛だって言う茶髪が太陽の光でキラキラ光ってて、ギラギラとしてる黒目は吸い込まれそうな程に冷たい。
スライムを追いかけてる時に木の棒で引っかいたのか。服がところどころ破れているのにクラっとくる。
いや、服が破れてるのは俺も同じか。でも、谷川はそんな俺の姿を見てもざまあみろとしか思ってないだろう。
俺がおかしいんだろうな。
片思いってのはなんて辛いんだろう。
でも、男同士だ。叶わないのはとっくに分かってる。自分が傷つくだけだ。
だから、一言でいいのに。それで俺は、諦めるから。
俺のことが嫌いなお前に、好きって言ってほしいだけなんだよ。
その中で、主人公のチートは必要不可欠。ついでに可愛いヒロインもいるはずである。
なのに、これは一体どういうことだろうか。
チートも無く、現地の人には異世界人ってだけで嫌われる、おまけに隣にいるのはいわゆる「犬猿の仲」の谷川鈴晴、男だ。
この谷川という男は、俺のことをものすごく嫌っている。なんてったって俺らは顔を見合わせる度に喧嘩しているのだから。
谷川と杉原(俺のこと)は「犬猿の仲」である、と通っていた高校で知らない人はいないぐらいに。
けれど、本人には絶対には言えないし、言うつもりもないのだが───
俺は、何ともまあ自分でもバカだとは思うけど、この谷川のことが好きなのだ。
だからこの異世界召喚はテンプレから外れに外れているけども、俺にとっては嬉しい。
でも、谷川は俺のことなんて大嫌いだから。
本人は嫌がりまくっていて、…高校でもこうだったから、今更傷ついても顔には出さないぐらいには、何度も叶いやしないと思い知らされているんだけど。
「おいクソ杉原、何ぼんやりしてんだ」
「あ?何だっていいだろ、お前には関係ねえ」
「チッ…とっととパンよこせ」
苛立ちを滲ませて俺が持っていたパンを、横からガッと掴んで奪う。
口を大きく開けてガブリとかぶりつくところさえカッコイイと思ってしまうのは、惚れたせいか。
俺らは異世界に召喚された。召喚、が正しい言い方なのかは分からない。呼び出した人なんていなかったのだ。
ちょうど喧嘩していた俺たちは、景色が変わっていくことに気づくのが遅れた。
それから数十分かけて、不本意ながらという形で(俺は嬉しかったんだが)状況を互いに整理して、ここは異世界だと結論づけた。
俺たちはつまり異世界人、というやつだ。普通に考えれば歓迎されると思うだろ?
なのに、最初に見つけて声をかけた商人のような人には、「異世界人だと!?ふざけるな!!」と叫ばれ。
その人が特殊だったのではと他の人に話しかけてみても同じような反応をされた。
なので仕方なく、仕方なくという風に。
俺と谷川は一緒に行動している。
ちなみに、唯一門前払いされなかったのが冒険者ギルドだけだった。とはいえ嫌そうな顔はされたけれど。
ステータス確認で、この世界の五歳児と同じくらいのスキルだと笑われ、その後二人でなんとかスライムを倒し…
ようやく、パンを一つ買えた。
パン一つだ。フランスパンみたいな長さの、硬いパサパサとした一番安いパン、たった一つ。
つまり間接キスとなる…というのは置いといて。すごく嬉しいけど。
俺ら二人は協力しないといけないってわけだ。ただでさえ異世界人には手を貸す人はいない。一人じゃスライムすら倒せない。
俺らは一緒に行動するってことになるわけだ。
ああ、クソっ、喜んじゃいけないんだろうけど、どうしても嬉しい。
「さっきから何ぼさっとしてんだ。とっとと立てクソ野郎!」
「いっ!?てめえ、谷川!蹴りやがったな!」
「誰のこと思い出してんのかは知らねえけどな。いやあ三歳児杉原くんに色恋沙汰は早いんじゃねえの?」
「ああ?だったら何が悪い!」
「…チッ、んなもんより早く働け!」
いつもより苛立ちを滲ませてるのは腹が空いているからか。
苛立ち任せに足が出るのは谷川のクセだ。なのに、こいつに惚れてる俺はそんなことさえも嬉しく思ってしまう。
なんで俺はこうも兆しが見えない恋なんかに溺れてしまってるのか。いっそ諦められたらいいのに、なんて心の底からは思えない。
どうしようもなく谷川のことが好きなのだ。
谷川から向けられるのは怒りぐらいだ。でも、その感情は俺が独占してるって考えたら、それだけで嬉しくなってしまう。
生き辛い道を選んでるってのは分かってるのに。
分かってるけど。
そう簡単に諦められるような恋じゃないんだ。
「杉原てめえクソ野郎、ちゃんと道塞いどけってあれほど!」
「はあ?今のはお前の戦い方が悪い!木の棒を振り回すなバカ!俺にあたる!」
「それぐらい避けれるだろ!」
「お前と一緒にすんな!クソ野郎しか罵倒の言葉知らねえバカ!避けるのか道塞ぐのかどっちをすればいいんだ矛盾してるだろ三歳児!」
「ふざけんな杉原ァ!!」
「こっちのセリフだ谷川ァ!!」
高校にもなって掴み合いなんて俺らはどっちもアホだ。言葉の殴り掛かりは日常茶飯事。胸ぐらを掴みあって罵倒しまくっている。
けど手を出すとかは絶対に無理だ。この顔に惚れてるってのもあるし。
それに、何故か殴ることだけはしないんだよな、谷川って。
もうとっくの昔に、倒すべきスライムは逃げてしまった。喧嘩したって体力の無駄遣いだ。
分かってる。分かってるけど。
顔が近くて俺から手を離すことが出来ないんだ。
バカだろ。バカは俺だ。知ってる。
おいおいおいおい顔が近い…鼻なんか触りそうで触らない。身長差ほぼゼロだしな。
これ、お互いにいっせーので手離さなきゃ、力入れてるせいで手を離した方に離さなかった方が倒れ込む。
やばい場合は…あの、その…キス、とかが起こる気がする。
無理だろ無理無理。この距離でも俺の心臓は爆発しそうなのに。
谷川の方に倒れ込んだ時には俺は気絶する。倒れ込んでこられても俺は気絶する。きききき、キスでもしようものなら、俺の心臓は絶対に止まる。
「はっ!!??」
谷川が俺の腕を掴んで背負い投げをした。
なるほどそれなら心配はねえな。いやいやいや、期待なんてしてなかったし。…やっぱ少しだけ期待してたかもしんねえ。
「いい加減にしろよ杉原ァ…お前が俺に力で勝てるわけないだろ!」
「ふざけんなクソ筋肉ゴリラ!これ背中痛いんだぞ!」
「お前にはその姿がお似合いなんじゃねえの?」
にやにや笑いながら谷川がからかってくる。
谷川には力では勝てない。そういうところにすらキュンって来ちまって、本当に俺ってばなんでこうなんだろう。
下から見上げた谷川は、やっぱりかっこよかった。
地毛だって言う茶髪が太陽の光でキラキラ光ってて、ギラギラとしてる黒目は吸い込まれそうな程に冷たい。
スライムを追いかけてる時に木の棒で引っかいたのか。服がところどころ破れているのにクラっとくる。
いや、服が破れてるのは俺も同じか。でも、谷川はそんな俺の姿を見てもざまあみろとしか思ってないだろう。
俺がおかしいんだろうな。
片思いってのはなんて辛いんだろう。
でも、男同士だ。叶わないのはとっくに分かってる。自分が傷つくだけだ。
だから、一言でいいのに。それで俺は、諦めるから。
俺のことが嫌いなお前に、好きって言ってほしいだけなんだよ。
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