とある侯爵家が滅亡するまでの物語

レイちゃん

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隠し章

昔語り

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「…ふぅ。」

雨はもう3日も降り続いている。
王立学院とお屋敷を行き来する生活にも慣れた。
お嬢様のお世話をずっと出来ないのは不満だが、まぁそのお嬢様のご命令とあらば仕方ない。

その貴重な週末、お嬢様の添い寝を仰せつかり、古い夢を見た。
起こさないように注意しながらベッドを滑り降り、部屋の隅にあるテーブルで静かに杯を傾ける。


ブランデー。


ワインよりもアルコールが強く、お嬢様は召し上がらない。
パティも以前たった一杯で酔いつぶれたことがあり、このお屋敷で飲むのは私だけだ。
時々、こうして一人で嗜む。

思えばお嬢様に従い、まで来た。
娼館にいた人たち、都の下町にいた人たち、私を抱いた人たち。
もう誰も彼もが墓の下…いや、もう墓すら残っていない。
永遠の若さなど誰もが一度は夢見る、権力を持つ者ほど憧れる。

しかし、だ。

お嬢様の見せた幻、可能性の一つの結末。
で私は永遠の若さというものに絶望してしまった。
静かにボトルを傾けると、トクトクトクという音と共に琥珀色の液体が小さなグラスを満たす。

(…そういえば。)

お嬢様と出会った何年か後、その幻の話題になった時。

『種明かしなのじゃがな。
 あの幻でその方が身籠った相手な、あれはその方の初めてロストバージンの相手じゃ。
 もし同一人物と気づけば、あの幻は一瞬で覚めていたよ。』

気づくわけがない。
私にとってはお相手した何百人、もしかしたら千人を超えるかもしれないうちの一人だ。
いちいち顔も声も覚えていない。
全く、お人が悪い。




「んぅ…」

その声に振り向くと、ベッドの上のお嬢様が手をパタパタさせていた。
あるべき所にあるはずの体が見当たらず、シーツの上を彷徨う。
グラスを一気に呷ると、小さく指を鳴らす。
ボトルとグラスは私の部屋へと消え、そして鼻や喉に残る余韻も消えうせる。
お嬢様が飲んでもいないのに従者が酒の臭いをさせるなど言語道断。
静かにベッドへと滑り込み体を寄せると、お嬢様が満足そうに額を胸へと押し付けてきた。
そして足を絡ませると、再び小さな寝息が安定する。

雨の音は止みそうにない。
普段は夜更かしして本を読んでいるパティも、さすがにこの時間ともなると眠っているだろう。
夜明けまでまだ時間はある。
私も朝食の準備まで、もうひと眠りすることにする。
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