44 / 48
隠し章
いつかの世界
しおりを挟む
1か月、かつて繁栄を極めた王国が消えるまで、僅か1か月。
彼らの強いた常識が、その彼らに襲い掛かっていた。
国王の像が引き倒され、国王自身は他の王族ともども首を刎ねられた。
国民を弾圧していた軍は、指揮官が広場で高く吊るされた。
暴利を貪った商店は、暴動によって破壊されつくしていた。
奴隷を虐げた貴族の娘が路地裏で散々凌辱され、翌週には心まで壊されて捨て値で奴隷市場に並んでいた。
一方、その王国において市民や奴隷に比較的寛容だった人たちは、かろうじて生き延びていた。
売れ残りを奴隷街の炊き出しに供出していたパン屋が暴徒に襲われた時、それを庇ったのもまた奴隷たちであった。
孤児院を作り何人もの奴隷を餓死から救った貴族は、その育てた奴隷によって炎上する館から救い出された。
彼らは罵声を浴びせるべき人間と、労わるべき人間をよく分かっていた。
結局のところ地位や名誉や財力ではなく、ただ考え方と運が生死を分けた。
「あいつらは道理を全く弁えていない」と、売春婦のお姉さんは吐き捨てた。
お姉さんとは娼館にいた頃からの付き合いで、命からがら逃げて来た私を匿ってくれた。
その街角、お姉さんのテリトリーに動乱で身を持ち崩した者たちが入ってきていた。
しかし彼ら彼女らは街角のルールを無視し、客を横取りしようとし、お姉さんたち元の住人を常に奴隷だと見下していた。
「だから、こちらも助ける義理は無い」と答えた。
話している最中も、私よりも年下であろう少女が路地裏に連れ込まれていたが、周りの人たちは無視した。
これがお姉さんの友人なら、そんなことをすれば自警団に袋叩きにされる。
でも、あの少女は友人では無かった。
だからノウハウも無い少女が騙され犯され捨てられたとしても、それはお姉さんには関係のない話だった。
「領館でトップを張ったあんたなら、ここでも人気出るよ」と誘われたが、それは断った。
正直なところ都には未練もなかった。
通りを行く人々は疲れ切り、路地裏からは絶えず悲鳴が聞こえ、うつ伏せで運河を流れる人を毎日見かけた。
今までの常識が否定され、混乱を極めた都で、人々からは希望が消えうせていた。
王国を侵略した連中が奴隷階級を開放するとかで、無料であちこちに馬車を出していた。
お姉さんたちに別れを告げ、私は適当に選んだ馬車の一つに乗った。
彼らの強いた常識が、その彼らに襲い掛かっていた。
国王の像が引き倒され、国王自身は他の王族ともども首を刎ねられた。
国民を弾圧していた軍は、指揮官が広場で高く吊るされた。
暴利を貪った商店は、暴動によって破壊されつくしていた。
奴隷を虐げた貴族の娘が路地裏で散々凌辱され、翌週には心まで壊されて捨て値で奴隷市場に並んでいた。
一方、その王国において市民や奴隷に比較的寛容だった人たちは、かろうじて生き延びていた。
売れ残りを奴隷街の炊き出しに供出していたパン屋が暴徒に襲われた時、それを庇ったのもまた奴隷たちであった。
孤児院を作り何人もの奴隷を餓死から救った貴族は、その育てた奴隷によって炎上する館から救い出された。
彼らは罵声を浴びせるべき人間と、労わるべき人間をよく分かっていた。
結局のところ地位や名誉や財力ではなく、ただ考え方と運が生死を分けた。
「あいつらは道理を全く弁えていない」と、売春婦のお姉さんは吐き捨てた。
お姉さんとは娼館にいた頃からの付き合いで、命からがら逃げて来た私を匿ってくれた。
その街角、お姉さんのテリトリーに動乱で身を持ち崩した者たちが入ってきていた。
しかし彼ら彼女らは街角のルールを無視し、客を横取りしようとし、お姉さんたち元の住人を常に奴隷だと見下していた。
「だから、こちらも助ける義理は無い」と答えた。
話している最中も、私よりも年下であろう少女が路地裏に連れ込まれていたが、周りの人たちは無視した。
これがお姉さんの友人なら、そんなことをすれば自警団に袋叩きにされる。
でも、あの少女は友人では無かった。
だからノウハウも無い少女が騙され犯され捨てられたとしても、それはお姉さんには関係のない話だった。
「領館でトップを張ったあんたなら、ここでも人気出るよ」と誘われたが、それは断った。
正直なところ都には未練もなかった。
通りを行く人々は疲れ切り、路地裏からは絶えず悲鳴が聞こえ、うつ伏せで運河を流れる人を毎日見かけた。
今までの常識が否定され、混乱を極めた都で、人々からは希望が消えうせていた。
王国を侵略した連中が奴隷階級を開放するとかで、無料であちこちに馬車を出していた。
お姉さんたちに別れを告げ、私は適当に選んだ馬車の一つに乗った。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
完全無欠な学園の貴公子は、夢追い令嬢を絡め取る
小桜
恋愛
伯爵令嬢フランシーナ・アントンは、真面目だけが取り柄の才女。
将来の夢である、城勤めの事務官を目指して勉強漬けの日々を送っていた。
その甲斐あって試験の順位は毎回一位を死守しているのだが、二位にも毎回、同じ男の名前が並ぶ。
侯爵令息エドゥアルド・ロブレスーー学園の代表、文武両道、容姿端麗。
学園の貴公子と呼ばれ、なにごとにも完璧な男だ。
地味なフランシーナと、完全無欠なエドゥアルド。
接点といえば試験の後の会話だけ。
まさか自分が、そんな彼と取引をしてしまうなんて。
夢に向かって突き進む鈍感令嬢フランシーナと、不器用なツンデレ優等生エドゥアルドのお話。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。
❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。
それは、婚約破棄&女の戦い?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
いつの間にかの王太子妃候補
しろねこ。
恋愛
婚約者のいる王太子に恋をしてしまった。
遠くから見つめるだけ――それだけで良かったのに。
王太子の従者から渡されたのは、彼とのやり取りを行うための通信石。
「エリック様があなたとの意見交換をしたいそうです。誤解なさらずに、これは成績上位者だけと渡されるものです。ですがこの事は内密に……」
話す内容は他国の情勢や文化についてなど勉強についてだ。
話せるだけで十分幸せだった。
それなのに、いつの間にか王太子妃候補に上がってる。
あれ?
わたくしが王太子妃候補?
婚約者は?
こちらで書かれているキャラは他作品でも出ています(*´ω`*)
アナザーワールド的に見てもらえれば嬉しいです。
短編です、ハピエンです(強調)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる