とある侯爵家が滅亡するまでの物語

レイちゃん

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隠し章

いつかの世界

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1か月、かつて繁栄を極めた王国が消えるまで、僅か1か月。
彼らの強いた常識が、その彼らに襲い掛かっていた。

国王の像が引き倒され、国王自身は他の王族ともども首を刎ねられた。
国民を弾圧していた軍は、指揮官が広場で高く吊るされた。
暴利を貪った商店は、暴動によって破壊されつくしていた。
奴隷を虐げた貴族の娘が路地裏で散々凌辱され、翌週には心まで壊されて捨て値で奴隷市場に並んでいた。

一方、その王国において市民や奴隷に比較的寛容だった人たちは、かろうじて生き延びていた。

売れ残りを奴隷街の炊き出しに供出していたパン屋が暴徒に襲われた時、それをかばったのもまた奴隷たちであった。
孤児院を作り何人もの奴隷を餓死から救った貴族は、その育てた奴隷によって炎上する館から救い出された。
彼らは罵声を浴びせるべき人間と、労わるべき人間をよく分かっていた。
結局のところ地位や名誉や財力ではなく、ただ考え方と運が生死を分けた。




「あいつらは道理を全く弁えていない」と、売春婦のお姉さんは吐き捨てた。

お姉さんとは娼館にいた頃からの付き合いで、命からがら逃げて来た私を匿ってくれた。
その街角、お姉さんのテリトリーに動乱で身を持ち崩した者たちが入ってきていた。

しかし彼ら彼女らは街角のルールを無視し、客を横取りしようとし、お姉さんたち元の住人を常に奴隷だと見下していた。

「だから、こちらも助ける義理は無い」と答えた。
話している最中も、私よりも年下であろう少女が路地裏に連れ込まれていたが、周りの人たちは無視した。
これがお姉さんのなら、そんなことをすれば自警団に袋叩きにされる。
でも、あの少女は友人では無かった。
だからノウハウも無い少女が騙され犯され捨てられたとしても、それはお姉さんには関係のない話だった。




領館あそこでトップを張ったあんたなら、ここでも人気出るよ」と誘われたが、それは断った。
正直なところ都には未練もなかった。
通りを行く人々は疲れ切り、路地裏からは絶えず悲鳴が聞こえ、うつ伏せで運河を流れる人を毎日見かけた。
今までの常識が否定され、混乱を極めた都で、人々からは希望が消えうせていた。

王国を侵略した連中が奴隷階級を開放するとかで、無料であちこちに馬車を出していた。
お姉さんたちに別れを告げ、私は適当に選んだ馬車の一つに乗った。
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